世界防衛クラブ

亜瑠真白

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一年前の私へ

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 本部へ戻ると事後処理が始まった。DAMに協力的な弁護士を中心に、犯人の智春やDAMメンバーへの聞き取りが行われた。私は足首を捻ったところが新潟に戻る頃には赤く腫れていて、蘭さんの配慮により自宅から聞き取りに参加した。その時に聞いた話だが、先生のアトリエだった小屋は中が作り替えられ、マナン製造に使用していた道具が多数発見されたという。小屋自体に智春の能力で「マナンが周囲から検知できないようにする力」を与えていた。智春の能力は蘭さんとは違って、どんな力を与えるかを決めることが出来たようだ。そして初めてマナンが発見されたあの場所は現在も私有地でないとわかり、そこに建てられていた小屋の中には蘭さんをモデルにした絵が多数飾られていたという。そこで絵を描いていたというのは本当らしい。

 しばらくするとニュースでマナンのことが報道されるようになり、蘭さんや杏奈さんはテレビに引っ張りだこだった。蘭さんはマナンの危険性を訴え、「マナン事件の加害者は被害者でもあります。被害者を傷つけてしまったという事実は変わりませんが、少しでも皆さんに理解していただけると幸いです」と話していた。

 そしてDAMメンバーの努力の甲斐もあり、マナン事件の再審が決定した。朔とつるぎのお父さんが起こした事件は再審の結果、無罪になったとニュースで知った。マナンとの戦いが終わったあの日から四ヶ月が経った。もうDAMからの連絡はない。
 本当は朔やつるぎやみんなに会いたかった。でも私はみんなの連絡先を知らない。みんなと繋がっていられたのはDAMに行けばみんなに会えたから。こんなに突然終わりが来るなんて思ってもいなかった。DAM本部に行けば何かが分かるかもしれないと思ったが、みんなとの思い出が何も無くなっていたらと思うと足がすくんで行けなかった。

 私はもうすぐ高校三年生になる。

 終業式も終わり、特にやることのない春休みが始まった。朝何となく目が覚めて、ベッドでゴロゴロしていると、壁に掛けた白いワンピースが目に入った。……あのワンピースを着て、朔と遊園地に行ったな。なんだかもうずっと昔のことみたいだ。
 その時、部屋の扉がバァンと開いた。入ってきたのは尚樹だった。
「お姉ちゃん! 電話だよ! なんか、かみやっていう人から……」
 蘭さん!? 私は急いで起き上がった。
「尚樹、ありがとう! すぐ行く!」
 私は急いでリビングにある電話を取った。
「もしもし! 真希です!」
「おお、真希。元気にしていたか」
 数カ月ぶりに名前を呼ばれて、あの頃に戻ったような気持ちがした。
「はい。テレビに映る蘭さんの姿、よく見ていました」
「それはなんか照れるな。……ところで今日はこの後、時間あるか?」
「ええ、ありますけど……」
「よかった。じゃあ、一時間後に原新駅前に集合だ。よろしくな」
 そう言ってぶつっと電話が切れた。……1時間後? あと20分で家を出ないと!
「やばい! 時間ない!」
 急いで自分の部屋に戻ると尚樹がいた。
「お姉ちゃん、急いで着替えて家出ないとだから、リビングに行ってて!」
「お姉ちゃん、嬉しそうだね」
「え?」
「楽しんできてね」
 尚樹はそう言って部屋を出て行った。
 急いで最近マネキン買いした服に着替え、寝癖を直したが、朝ごはんを食べる時間はなかった。何とか集合時間の五分前にたどり着くと、そこには朔とつるぎがいた。
「真希、久しぶりです」
「…よう」
 二人が今、目の前にいる。やっと会えた!
「久しぶり……! ずっと、会いたかった!」
「私達もずっと真希に会いたいと思っていました。でも色々とバタバタしていて、やっと落ち着いたところで蘭さんから声をかけられたんです。詳しい話はあとでゆっくりしますね」
 その時、朔の携帯が鳴った。
「もしもし、蘭さん。もう真希と合流しましたよ。……え!? まだ時間がかかる? いや、そんなこと言われても……はい……はい……分かりました。じゃあ二時間後に行きますね。よろしく頼みますよ」
 朔は電話を切った。
「なんか蘭さんの準備が終わらないから二時間後に来てくれって。真希、何かしたいことはあるか?」
 蘭さん……自由な人だ。
「そうだなぁ……」
 そう言えば朝ごはん食べそびれたんだ。
「何か食べたいな」
「分かった。じゃあ、とりあえず歩くから入りたい店があったら言ってくれ」
「りょうかーい」
 三人で街を歩いていると懐かしい感じがした。……そうだ、紅麗ちゃんの護衛をしていた時もこの場所だった。
 すると、あのゲームセンターが視界に入った。ゲームセンターといえば一つ思い出した。
「ねぇ! ここ入ろうよ!」
「この場所……懐かしいですね」
 つるぎが言う。つるぎも覚えていたんだ。
「何か食べるんじゃなかったのか?」
 朔が呆れたように言う。
「いいじゃん。すぐに済むから」
「はぁ……」
 真希はあるコーナーに二人を連れて行った。
「ここでーす!」
「ここは何ですか? 個室みたいなものがたくさんありますけど……」
 そうか、つるぎはゲームセンターとかあんまり来ないんだっけ。
「ここはプリントシールが撮れるんだよ。朔、前に来た時、興味ありそうだったでしょ。三人で撮ろう!」
「ええ!? いや、僕は別に……」
 朔がゴニョニョと何か言っている。
「私が二人と撮りたいの! 行くよ!」
 強引に二人を連れ込み、お金を入れた。
『撮るよー! 3、2、1!』
 機械音声のもと、次々とシャッターが切られていく。
「なんかモデルさんになったみたいで楽しいです!」
 つるぎは楽しそうにポーズを決めている。一方で朔は……
「おい真希! どうすればいいんだよ!」
 この独特なペースについていけないみたいだ。
『忘れ物がないように気を付けて帰ってね!』
「お、終わったのか……?」
 すべての工程が終わって朔はげっそりとしていた。
「朔、撮った写真見てごらん」
「あ、ああ……」
 真希が朔に促す。
「うわっ! 何だこれ!」
 朔はほとんどの写真がブレていたり、おかしなところを向いていたりと散々だった。
「この朔、すごいブレブレで……ふふっ」
 つるぎが楽しそうに笑う。
「笑うな! ……よし、もう一回撮ろう。次は一番きれいに写ってやる!」
 朔が変に対抗心を燃やして、もう一度撮ることになった。次は三人でポーズを決めたりとなかなかいい出来栄えになった。
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