上 下
29 / 48
5

とっておきのを見せてやるよ

しおりを挟む
 魔法合宿二日目。今日の課題は各班で地図を元に森の中のチェックポイントを回って戻ってくるというものだ。チェックポイントは5か所あり、そこには魔法がかけられた石が置かれている。その石に指定された属性の魔法を打ち込み、既定の値に達したらチェックポイントクリアとなる。まさか石が攻撃してくるわけじゃないだろうし、昨日の課題に比べたら大変じゃなさそうだ。
 もちろん、課題は頑張るんだけど、今日の私の目標は別にある。昨日言いそびれてしまった告白の返事を今日こそはしたい。この合宿が終わるまでには、必ず。
「みんな、俺について来いよ」
 地図を手にしたジキウスはそう言って歩き出す。私達も後に続いた。

 両脇には青々とした草木が生い茂る道を進んでいく。ジキウスは分かれ道があっても迷わずに先頭を歩いていくから、地図を読むのは得意なんだろう。正直、自分にその役目が回ってこなくてよかった。
「そう言えばエマ、昨日の夜はどこに行ってたの?」
 隣を歩くリアナが言った。
「えっ?」
「昨日気づいたら寝てて、目が覚めたらエマが部屋にいなかったから。しばらく待ってたけど、眠気には勝てなかった」
「そっか。昨日の夜はね……」
「俺と一緒にいたんだよ!」
 そう言ってレイが私達の話に割り込んできた。
「レイと……?」
 リアナが首を傾げる。
「うん! 俺達の将来の話をしたり、楽しかったよね、エマ!」
「レイ君、その話、僕も興味あるなぁ」
 そう言ってルイスまで話に入ってきた。
「そもそも僕がエマをあの場所に呼んだのに、どうして君が先にエマと話してたのかな?」
「偶然、エマがあの時間にあの場所に来ることを知ったから、先に来て待ってたんだよ」
「へぇ……」
 あれ、なんか不穏な空気……? 二人の間に割って入る。
「ルイスも昨日のことはその辺にして……」
「よくない」
 声を上げたのはリアナだった。
「私の知らないところで3人楽しく会ってたってことでしょ。私のことも起こしてくれればよかったのに」
 そう言ってむくれてしまった。
「違う、そういうわけじゃ……」
 リアナは先頭を歩くジキウスの腕をつかんだ。
「リリリ、リアナ!?」
 ジキウスが情けない声を上げる。
「私とジキウスだけ、仲間外れ。寂しい」
「ごめんね! 今度はみんなで出かけたりしようね」
「うん、分かった」
 リアナはジキウスの腕をぱっと離して、私の隣に戻ってきた。

「着いたぞ。ここが最初のチェックポイントだ」
 ジキウスはそう言って立ち止まった。開けた場所に2mくらいの大きな石が置かれている。
 石に近づくと、円の中に星のような模様が入ったマークが刻まれていた。
「これは光属性の印だね」
 ルイスが言う。その言葉にジキウスが二ッと笑った。
「それなら俺の出番だな。昨日はあまり見せ場が無かったから、とっておきのを見せてやるよ」
 そう言ってジキウスは懐から出した杖を構える。
「いいか、これは王家伝統の光魔法。間近で見られるなんて特別だからな」
 そして大きく息を吸い込む。
「ロイヤルサンダーボルト!」
 ジキウスの杖の先から出た光は空に伸び、標的の石に目がけて大きな雷が落ちた。あまりの明るさに視界がチカチカする。
「ふぅ……どうだ、見事だろ。なんせあのロイヤルサンダーボルトを生で見られるなんて、まずないからな」
 そう言ってジキウスは胸を張った。
「ねえ、ジキウス」
 リアナが口を開く。
「どうしたリアナ。お礼の言葉なんて必要ないさ。今の光景を存分に焼き付けるといい」
「ロイヤルサンダルなんとかって初めて聞いたけど有名なの?」
「はぁっ!?」
 ジキウスは目を丸くした。
「僕も知らないんだ」
「私も」
 私とルイスはリアナに同意する。
「お前達、ロイヤルサンダーボルトを知らないなんて正気か!? 王位継承権のある者しか習得を許可されない、全国民が一生に一度は生で拝みたいと渇望するあのロイヤルサンダーボルトを!? 逆によく今まで知らずに生きてこられたな!」
「なんか、ごめんね」
 ルイスは申し訳なさそうに言った。
 私とリアナは知らないとして、そこまで有名ならルイスが知らないのは珍しいことなのかな。まあ、ルイスは初めて会った時、第一王子ジキウスの元許嫁かつ学園でひと騒ぎを起こした私のことを知らないくらいだから、王家とかあまり興味がないんだろう。
「あのロイヤルサンダーボルトが生で見られるなんて……!」
「レイ、お前だけか……」
 ジキウスは寂しそうにレイの肩を抱いた。

 その後、火・土のチェックポイントもクリアして、私達は先へと進んでいた。道はジキウスに任せていれば問題ないし、チェックポイントもただ魔法を打ち込めばいいだけ。簡単な課題、なんだけど……
「魔法合宿というか、もう登山だよね……」
 平坦な道は終わり、気が付けばどこまでも続く様な坂道になっていた。地面に飛び出した木の根に足を掛けながら進んでいく。
「ハァ……ハァ……」
 最後尾のリアナは息を切らしながらよろよろと歩いている。私もきついけど、リアナはそれ以上に辛そうだ。前を歩くルイス達は私とリアナを気にして振り返ったりしつつも、しっかりとした足取りで進んでいる。
 先頭のジキウスがこっちを振り向いた。
「リアナ、休憩にしようか」
「いや……さっきも休んだから……がんばりゅ……」
 まさかこんな試練があるなんて……もっと普段から体力をつけておけばよかった。
 その時、ドドドと土を蹴るような音が聞こえ、地面が揺れ出した。
「誰かの土魔法かな?」
 レイが言った。その音は段々と近づいてくる。私は後ろを振り返った。
「……え?」
 そこには鹿の群れがすごい勢いで坂道を登ってくるのが見えた。一番後ろを歩くリアナは疲れからか、この事態に気づいていない。
「危ない!」
 私はリアナを道の端へ押しのけた。踏み出した勢いで足元が滑ってバランスが崩れる。体は登山道を外れて谷側の斜面へ投げ出された。
 あ……これはマズいかも……
「エマ!」
 リアナの叫び声がする。落ちる、と思った体は誰かに抱えられて斜面を滑り降りた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。 「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」 ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。 ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。 ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。 「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」 闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ
恋愛
正式名称「乙女ゲームの悪役令嬢(噛ませ犬系)に転生して、サド心満たしてエンジョイしていたら、ゲームのヒロインが鬼畜女装野郎だったので、助けて下さい」 乙女ゲームの世界に転生して、ヒロインへした虐めがそのまま攻略キャラのイベントフラグになる噛ませ犬系悪役令嬢に転生いたしました。 ヒロインに乙女ゲームライフをエンジョイさせてあげる為(タテマエ)、自身のドエス願望を満たすため(本音)、悪役令嬢キャラを全うしていたら、実はヒロインが身代わりでやってきた、本当のヒロインの双子の弟だったと判明しました。 申し訳ありません、フラグを折る協力を…え、フラグを立てて逆ハーエンド成立させろ?女の振りをして攻略キャラ誑かして、最終的に契約魔法で下僕化して国を乗っ取る? …サディストになりたいとか調子に乗ったことはとても反省しているので、誰か私をこの悪魔から解放してください ※小説家になろうより、改稿して転載してます

【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!

夕立悠理
恋愛
シアノ・メルシャン公爵令嬢には、前世の記憶がある。前世の記憶によると、この世界はロマンス小説の世界で、シアノは悪役令嬢だった。 そんなシアノは、婚約者兼、最推しの負けヒーローであるイグニス殿下を勝ちヒーローにするべく、奮闘するが……。 ※心の声がうるさい転生悪役令嬢×彼女に恋した王子様 ※小説家になろう様にも掲載しています

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~

ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】 転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。 侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。 婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。 目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。 卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。 ○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。 ○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

悪役令嬢の庶民準備は整いました!…けど、聖女が許さない!?

リオール
恋愛
公爵令嬢レイラーシュは自分が庶民になる事を知っていた。 だってここは前世でプレイした乙女ゲームの世界だから。 さあ準備は万端整いました! 王太子殿下、いつでも婚約破棄オッケーですよ、さあこい! と待ちに待った婚約破棄イベントが訪れた! が 「待ってください!!!」 あれ?聖女様? ん? 何この展開??? ※小説家になろうさんにも投稿してます

処理中です...