荒廃

荒野羊仔

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第四章「咬合」

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 それから小山内と久保田は連絡先を交換し、一週間に二、三日会うことになった。久保田から一方的に連絡が来て、指定された場所まで迎えにいく。必ず学外の離れた場所であり、目的地は毎回違った。ただ一点共通していたのは、必ず女装姿だったことである。女装の衣装を家で洗うことはできない。小山内の衣装は久保田が持ち帰り、洗濯をすることになった。親には撮影で使っていると説明している。
 久保田は小山内にカメラの使い方を教え、小山内は撮影もすることになった。車での送迎、撮影を担当してもらえば、加工に時間が割けるようになり、アップロードする機会とともに撮影日も増えていった。廃墟とカメラ女子の組み合わせが珍しいのか、SNSのフォロワーも徐々に増えつつあった。小山内のカメラの腕も上がっていきしばらく経ったが、その間、一度も魚住とは会っていない。
 女装するのに慣れたとは言え、化粧に関しては素人である。初めこそコスメカウンターで完璧に仕上げてもらった小山内ではあったが、二回目以降は久保田が化粧を担当した。普段使いのコスメを他人に使われることには抵抗がある。そのうち久保田は小山内専用の化粧品を集め、持ち歩くように指示した。
 小山内は不本意ながらその現状を受け入れている。化粧をされている間は、無表情であらぬところを見つめるのが最も良い現実逃避である。そのうち重力に負けて視線を落とすと、化粧をされる時は顔を上げて、と顎を掴まれ引き戻されるのを繰り返した。
 久保田は気まぐれに自撮りの中に小山内を引きずり込んだ。
「投稿してみちゃおうかな。『今日は友達と一緒に撮影に来ています♡廃墟とゴスロリ♡私も今度着てみようかな?』どう思います? 投稿しても?」
「……勝手にすればいい」
「じゃあお言葉に甘えて。全国に女装写真アップロードしちゃいましょう。アカウントとかないんです?」
「あったとして教えるとでも?」
 それもそうですね、と呟いて久保田はその写真を投稿した。
 それが一つのターニングポイントだった。



 小山内と久保田の関係性が変わるまで、そう長くは掛からなかった。残暑の頃である。
 その日もいつものように廃墟で撮影を行なっていた。訪れた廃墟はすでに十を数えていたが、奇しくも一番始めに訪れた廃墟での撮影だった。小山内は慣れた手付きでカメラやレフ板の設営を行なっている。
 その日の久保田はかなり不機嫌だった。普段であれば早く撮影を終えようとどちらかの準備に取り掛かっていたが、その日は椅子に腰掛け、テーブルに頬杖を付き小山内の様子を見ていた。登山で疲れている様子ではなく、奇妙なものを見るような目で見つめていた。小山内は黙々と作業を続けていたが、連日の撮影で少し疲れているように見えた。
「椅子がありますね。休憩したらどうです?」
 そこには前回来た時にはなかったもう一つの椅子が置かれていた。小山内は怪訝に思いながらも、言われるがまま椅子に腰掛けた。
 久保田は赤い鞄から荒縄のようなものを取り出し、小山内の腕を椅子に縛り付けた。小山内は視線を向けたものの、抵抗をするでもなくその様子を眺めている。その瞳には諦観が滲んでいた。
「……これは」
「ふふ、動かないでください」
 久保田は笑みを浮かべながら小山内ににじり寄った。腕を固定し終えると、久保田は立ち上がり、小山内の正面からその内腿の隙間に膝をねじ込んだ。
 小山内は眉を顰めた。久保田はそれを意に介す様子ではない。
「触るな」
 小山内の言葉を遮り、一方的に言葉を吐き出す。
「こんなコメントがついてるんですよ。『お友達の方が可愛くない?』って。おかしくないですか? あなたが私より可愛いなんて、あるわけないですよね」
 久保田は小山内の肩を掴み、爪を食い込ませた。ぷつん、と皮の破ける感触がして、小山内は呻いた。
久保田はその様子をつまらなさそうに見下ろしている。小山内の太腿の上にもう片方の足を乗せ、半ば馬乗りのような状態になる。椅子が軋む音がした。
「……男のくせに、何とも思わないんですか? 可愛い後輩がこんなに近くにいるのに」
「女の人と関わったこと、ほとんどないでしょう? 恵美先輩があれなら童貞だろうし。もの寂しくならないんですか? 据え膳食べてみたいと思わないんですか?」
「……興味がない」
 久保田は小山内に膝を押し付けた。それを何度か繰り返すうちに小山内の身体は跳ね、椅子が不安定に揺れた。 
「本当ですか? 身体は正直なのでは?」
「……単なる反応に過ぎない」
 久保田は小山内のドレスの裾をたくし上げ、その下半身を露わにした。仄青い足が空気に触れた。初めは暗いからそう見えるのかと思ったが、よくよく見ると、小山内の足には地肌のままの部分がほとんどなかった。足のいたるところに治りかけた黄色い部分があり、青痣があり、その一部はどす黒く変色していて、マダラ模様を描いていた。
「……ずるい」
 久保田は囁くように呟いた。
「どうして!? 恵美先輩まで盗っておいて!! !!」
 久保田は叫ぶと小山内の襟ぐりを掴み、強く揺さぶった。眼前で女の金切り声が響き渡る。耳を塞げないことが忌々しいほどの声量だった。
「恵美先輩は私にとって一番大切な人なの。白馬の王子様なの。この傷のせいで孤立してた私に優しく接してくれた人なの。歯に衣着せぬ物言いだけど、そのお陰で救われてるの。他の誰も私に本心なんかぶつけてくれないんだから! 唯一無二なの!」
 金切り声は次第に慟哭へと変わり、滂沱の涙となり小山内に降り注いだ。
「恵美先輩は可哀想な人を見たらほっとけない人なの。良くも悪くも。だから私より可哀想だなんて許さない。許せない」
 久保田は袖で涙を拭うと、顔を近付け小山内の目を見据えた。
「だから、奪ってやるの。恵美先輩に関わろうと思わないように。汚してあげる」
 ……汚れているから大切なものには関わらない。その感覚が小山内にはよくわからない。ただ久保田が小山内を蹂躙し、自尊心をへし折ろうとしていることだけは確かだった。
 久保田は腰を上げ、下着を脱ぎ捨てた。そして小山内の下着を強引に引きずりおろした。
「やめろ」
「うるさい! 黙って」
 まだ硬くなりきらない小山内のそれに、久保田は自身の下半身を押し付ける。久保田が動く度、小山内の身体は跳ね上がった。身体中の傷痕からの痛みからか快楽からかは、最早わからない。どうでも良いことだと思った。小山内にとっては痛めつけられているのと同じことだった。
 やがて久保田は小山内の腰の辺りを押さえ、自身の腰を沈めた。これまでに体感したことのない生温かい感触に、視界が明滅する。思わず息が荒くなる。
「ふふ、大事なもの奪っちゃった」
「もう気持ちよくなっちゃったんですか? まだ奥まで入ってないのに。あんなに大口叩いておいて。やっぱり快楽には抗えないんじゃないですか?」
 小山内は最早無言で歯を食いしばっている。その反応に思わず口角が上がった。久保田は徐々に腰を落とし、やがて終着へと行きついた。肌が密着した状態で久保田は腰を揺らし続ける。やがて何かが迫り上がってくる感覚があり、小山内の身体は大きく打ち震え、果てた。身体は小刻みに震え、息が上がっていた。虚脱感が体を支配し、指一本動かすことができずにいる。
 久保田はゆっくりと腰を上げ、それを引き抜いた。結合部から体液が零れ落ち、椅子と床に染みを作った。久保田は椅子から降り、小山内を縛る縄を解いた。小山内の手には擦れて血が滲んだ痕が残されている。久保田は着衣を整えると、小山内に向き直った。先程まで浮かべていた笑みは既に消えていた。
「どうでしたか? 初体験。経験できてよかったですね。こんなことでもないと一生経験できなかったんじゃないですか?
「したいのならさせてあげますよ。恵美先輩に近づかないでくれるなら」
「……誰が、お前なんかと」
 言葉を重ねるほどの余裕はなく、小山内は久保田を睨みつけた。久保田は小山内の態度に苛立ちを隠さず、自分の鞄だけを持つと小山内の傍に歩み寄った。
「……そう、ですか。車のキーだけもらえます? 先に戻りますから」
 小山内の服の入った紙袋を漁り車のキーを取り出すと、カメラもそのままに部屋から飛び出した。



「……イライラする。させてやったのに、何なのあいつ」
 久保田は爪を噛みながら登山道を降りていた。歩を進める度、小山内の精液が滴り落ちる感触がして、胸が上下するほど息が上がった。内腿はおろか、全身が汗でドロドロになっている。身体の奥にはまだ感触が残っており、自身の熱はまだ収まりきらずにいる。まるで自身の方が男を求めているようだと、自己嫌悪に陥る。
 これまで久保田が付き合ってきた男は身体目当ての男しかいなかった。求められればいくらでも身体を差し出した。愛されているから求められるのだと思いたかった。求められることで満たされるプライドのために、そこに愛がないことを見て見ぬ振りをし続けてきた。例え相手が心底嫌いな男であれ、求められないことをプライドが許さなかった。
「……絶対に、欲しいって言わせてやるんだから」
 久保田の自尊心を傷付けたものは何だったのか。小山内本人に告げなかった理由こそがその最たるものだと言えた。
 何も久保田は魚住のことを本気で好きだと言っている訳ではない。さりとて、周りの人間と違い金目当てでないことも確かだった。
 きっかけは一枚の写真である。オープンキャンパスで開催されていた、写真サークルの展示。その中の一枚であり、久保田が目を奪われた写真こそ、魚住の作品だった。当時魚住はまだモノクロ写真のような作風には至っておらず、ごくごく普通の写真の中に埋もれていた。
 それは河原の対岸から撮られた写真だった。しかし遠景ではなく、桜の木の下、ベンチに寄り添う恋人に焦点が当てられていた。風になびく長い髪で表情は見えない。突如として吹き抜ける風。舞い散る桜。舞い上がる帽子。手を伸ばしても掴めない。一枚の写真なのに、幾つもの物語が見えるような気がした。
 久保田は高校三年生になる歳だったが、不登校だった。大学は遠くに行こうと決め、自宅から二時間掛かる大学のオープンキャンパスに保護者同伴で来ていた。染めたことのない黒髪は日の光を浴びないために傷み、軋んでいた。日がな一日画面を見つめる生活のために視力は落ち、度の合わない眼鏡を掛けていた。当時から久保田は長袖のカーディガンを愛用しており、炎天下の中でもそれを貫いた。ためらい傷が今よりはるかに多かったからだ。落ち切った体力と体温調節のできない服装が、熱中症を招かないはずがなかった。
 不意に、右頬に冷たい感触が伝わって思わず飛び上がった。振り向くと見知らぬ女性がペットボトルを押しつけており、警戒心もあらわに後ずさった。知らない人と会話をするのが久しぶりすぎて、とっさに言葉が出てこない。
「あなた、熱中症になりかけてるよ。これ向こうで無料で配ってる水だからあげる」
 人違いだと言いかけた久保田だったが、魚住の善意からの行動だと知り安堵したのもつかの間、続いた言葉に絶句した。更に続く言葉に驚きを隠せない。
「オープンキャンパスで倒れられても迷惑だから、体調管理くらい自分でしなさいね。あ、これ私の写真じゃない、見る目あるね」
 まさか心奪われた写真の撮影者が性格破綻者だなんて誰が思うだろう。本人に会えた嬉しさ、その人間性が最悪だったことの悲しさ、両極端すぎて感情が追い付かない。
 ただ、久保田にそう言った物言いをする人間は今や皆無だった。学校では遠巻きに見られ、陰湿ないじめを繰り広げる人間ばかりで、家族は腫物を触るかのような扱いをする。本音を隠さずに接してくる相手と出会ったのは久しぶりのことだった。その後久保田は自分でも思っても見ない行動に出た。
「あの、私のことも撮ってもらえませんか。今じゃなくていいので、いつか」
 口をついて出た言葉に、自身も驚きを隠せないでいる。魚住も一瞬固まったが、返答をした。
「私、物語の主人公! って感じの人が好きなの。そういう人しか撮りたいと思わない。今のあなたは……何かビビッとこないのよね……。いつか主人公になったらね」
 そう言って魚住は踵を返した。久保田はいつまでもその背中を見つめていた。
 それが久保田と魚住の出会いだった。もっとも、魚住はこのことを覚えてはいない。正確に言えば、久保田とオープンキャンパスで出会った少女が同一人物だと気づいていない。久保田はいつか魚住に撮ってもらえるよう、物語の主人公のような人間を志した。物語の主人公とは何だろう? 友達が多いこと? モテること? 違う、唯一無二になることだ、と久保田は考えた。大人数に好かれなくても、誰か一人の特別になればいい。誰の替えにもならない人間になる。その第一歩として、誰からも親しみやすい人間になる。髪を染めヘアアレンジを研究し始めた。SNSを始めたのはその頃だった。初めは拙い自撮りを公開しているだけだった。自撮りをするうちに化粧を覚え、コスメの紹介を始めるとフォロワーの数は徐々に増えていった。SNSは自己承認欲求を満たすのには手っ取り早く、麻薬のような中毒性を持った。そして大学デビューを果たすことになる。
 サークルはもちろん魚住の所属する写真サークルを選んだ。肝心の魚住はサークルに顔を出していなかったが、どこにも属さないよりも会える可能性が高いだろう、と入部を決めた。外見が整った新入生は格好の餌である。中身を見ずに外見だけで判断した男が多数寄ってきた。少し無防備に見せれば被写体としてちやほやされ、SNSのフォロワーも増えていった。フォロワーは自分の価値を示す、大事な指針だった。久保田の周囲には常に男が絶えなかった。その中からただ一人を選びいざ付き合うという段になっても、久保田の腕のためらい傷を見ると連絡がつかなくなり、後日別の新入生と仲睦まじげに歩く姿を目撃することになった。噂が広まるのは早いもので、一か月もすると声を掛けるものはいなくなった。それでも声を掛けてくるのは、体目当ての男だけだった。
 たとえ始まりが肉体関係だとしても、いつかたった一人の恋人になれる。そういう物語は世界に溢れていたし、そう信じていた。求められればいついかなる時も、……誰にでも身体を捧げた。求められることは快感だった。愛されているような錯覚に陥ったし、実際肉体的な快楽にも溺れていった。発情した身体はいつでも誰かを受け入れる準備ができていたし、求められればすぐに応じた。そうしているうちに「誰にでも体を許す女」「消費してもいい女」に成り下がり、周囲にまともな人間は残らなかった。
 数ヵ月が経つ頃、ようやく魚住がサークルに顔を出した。家族の都合で海外に住んでいたらしい。
私が求めていたものは何だったのだろう? ふと我に返る。この人に写真を撮ってもらうことではなかったか? こんなことをして、本当に物語の主人公になれたのか? ……いいや、なれていない。結局ただ消費され、自身の価値を貶めていただけだ。魚住を観察していると、周囲には金に群がる亡者のような人間しかいなかった。お金が目当てでなければ、魚住の唯一無二になれるのではないか。そう思った久保田はすぐに魚住に近づいた。男好きの女がまとわりつく女、はとうてい理解の及ばないものと化し、周囲の人間を遠ざけた。あくまで久保田がつきまとっている間のことだけである。毎晩取り巻きによる飲み会は行われていたのだが。
「久保田のせいで全然取り巻きいなくなっちゃったじゃん」
「その程度の人間だったってことじゃないですか? 私の方が恵美先輩のこと好きですしぃ」
「まぁ、その通りなんだけどさ。あんた重いし、ああいうやつらの方が扱いやすかったんだけどね」
 その態度に久保田は身震いする。物語の主人公とはこういうものではなかったか? 傍若無人で身勝手な女。自分こそが世界の中心だと信じて疑わない女。私が目指すべきは、この人なのではないか? であれば少しくらいわがままに振る舞ってもいいのではないか? 久保田の中でわずかな心境の変化が生まれた。
「恵美先輩、私最近、廃墟でセルフポートレートを撮ってるんですよ」
「廃墟? なんたってそんな場所に」
「SNSはブランディングが大事なんですよ。最近は廃墟とか昭和ラブホとか、レトロ可愛いのがトレンドなんですよ」
「ふーん、全然興味ないわぁ……」
 興味なさげに、魚住はあくびをした。久保田は震える声で魚住に切り出した。
「ねぇ先輩、私のこと撮ってくださいよ」
「久保田のことはピンとこないのよね」
 断られることは重々承知の上だった。それでも、言わずにはいられなかった。
「どうしても、一回だけでいいですから」
 一瞬の沈黙の後、魚住の口から予想外の言葉が出た。
「そんなに言うならさ、紹介したいやつがいるんだけど」



 そうして時は流れ、現在。魚住と久保田は会いこそしていないが、魚住からは律儀に先日の廃墟での写真が送られてきていた。そのほとんどは久保田からリクエストされて撮ったポートレートがほとんどだった。いつも通りのロケーション。いつもと代わり映えしないポージング。違うのは自身で撮ったか他者が撮ったか、つまり構図でしかなく、いつもと変わらない自分がそこに在るだけである。
 その中に一枚だけ、小山内の姿が入った写真が紛れ込んでいた。小山内はその片隅に写り込んでいるにすぎない。しかしそれを見た瞬間、圧倒的なまでの美しさに息を呑んだ。
 写真の画面中央を久保田が陣取っており、小山内は少し離れたところに写っていた。画面の大半は暗がりが占めているが、廃墟の窓から覗く陽光と舞い上がる埃が被写体の輪郭を捉えた。照り返しが映し出す相貌からは何の表情も窺えない。その様子が作り物のような、日常との乖離を感じさせた。
 これが、これこそが。久保田の望んだ一枚。被写体の持つ空気感を写真に閉じ込め、絵画のような美しさを映し出した一枚。
 小山内の被写体としての素材が良かったのか、それを切り取る魚住の視線が違うのか。魚住が撮った写真だからと言って自分の魅力が百パーセント引き出される訳ではないし、自分が引き立つ訳ではない。久保田はこの一枚の写真を見ただけで、自分が主人公ではないということを自覚してしまった。
 早くこいつを恵美先輩から引き離さないと。私は確かにまだ主人公じゃないかもしれないけど、先輩の唯一無二ではないかもしれないけど、こいつだって主人公だなんて柄じゃないはずだ。こいつに負けるのは死んでもごめんだ。そんな競争心が、久保田を今回の行動へと駆り立てた。
 その後も闘争心は消えることはなく、久保田は廃墟で小山内に繰り返し、行為を迫った。人目につかない山奥の廃墟は都合がよかった。決まって久保田は小山内の腕を椅子に縛りつけ、身動きを取れない状態にさせた。はじめこそぎこちない動きだった久保田だが、次第に自身の欲望のまま、能動的に腰を擦りつけるようになった。小山内の抵抗と言えばせいぜい声を上げないようにするくらいで、一方的に嬲られ、搾り取られるのが常だった。小山内と関係を持ち始めてから、久保田の自傷行為は収まっていた。行為が終わった後に零れ落ちる体液を見つめながら、久保田は恍惚の表情を浮かべる。リストカットをして血液を流すことと、セックスをして体液を垂れ流すことは、自分がいた痕跡を残したいだけの久保田にとって変わらないことだった。その床にはいくつもの染みがこびり付き、跡を残していた。
 何日もそれを繰り返すうち、コトに及んでいる最中に椅子が壊れた。久保田は小山内の身体がクッションになり傷一つ追わなかったが、小山内は後頭部から床に倒れ、背中を強く打ち付けた。呻き声が上がる。
「あは、壊れちゃいましたね」
 久保田はそれでも行為を止めるでもなく、強く腰を打ち続けた。その度に小山内の身体には椅子の破片が刺さり、口から声が漏れ続けた。久保田は胸の内から湧き上がる加虐心のままに叫んだ。
「声、我慢しないで、もっと出していいんですよ? 我慢しないで、もっと欲しいって言いなさいよ!」
「……お前が、勝手にしているだけだ。お前なんて、願い下げだ」
 行為の最中に初めて見せた抵抗だった。久保田は望む答えが得られず、ますます激しさを増した。
「どの口で言うんだか! 最近なんてもう縛られる時から期待で反応してるくせに。変態」
 単なる条件反射だった。パブロフの犬のようなものだ。自分の意思ではない。
 小山内の言葉を待たず、久保田は行為を続けた。それは小山内の声が出なくなるまで、続けられた。
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