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7 叔父さんの天麩羅
7 叔父さんの天麩羅(3)
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一週間分の洗濯物をして、軽く掃除をすると腹が減ってきた。
朝からコーヒーしか飲んでいない。
作るのも面倒だったので、外に食べに行くことにした。
中途半端な午前中に空いてるのはファミレスぐらいだ。
近所のファミレスに行くと、モーニングを頼んだ。ベーコンエッグとパンケーキ。
先にドリンクコーナーからコーヒーを取ってきて、飲みながら叔父さんにメールした。
(神楽坂の店の話は断りました。これからもよろしくお願いします。)
数分後、叔父さんから返信が来た。
(ばかか(笑))
朝のファミリーレストランはとてものんびりした空気が流れている。年配の夫婦の姿が多い。
年をとったらこうした場所で気軽に食事をすますのもいいかもしれない。
令子さんはいま、仕事中だろう。
お昼はいつも何を食べるんだろう?
今夜はなにを話そう。
ぼんやり考えていると、しばらくして笑顔の店員が料理を運んできてくれた。
ベーコンエッグに醤油をたらしながら、これからの生活について考えをめぐらす。
居酒屋の給料だけでは生活は苦しいだろう。
もっと家賃の安いところに引っ越すか、昼間、別のところで働くか。
二つの卵はちょうどいい感じの半熟だ。
それをフォークの先でつぶして、ベーコンにからめて食べる。
おいしい。
次に二段重ねのパンケーキにとりかかる。バターとメープルシロップをたっぷりつけて頬張る。甘いけどおいしい。
パンケーキなんか久しぶりだ。それほど大きくはないので朝食にちょうどいい。
一時間ぐらいゆっくりファミレスで過ごしてから、叔父さんの家に向かった。
叔父さんはこの土地の生まれだ。
昔からあまり変わらない東京の下町。
少し歩けば、自分と似たような服装、似たような顔つきをしている住人たちとすれ違う。
それがいまは心地いいらしい。
駅から歩いて十分ほどの好立地に、叔父さんの家はある。
もともと平屋だったのを、叔父さんが高校生の頃に二階建てに建て替えた。
小さな庭もあり、小ぶりの紅葉と沈丁花が植えてある。少し雑草が茂ってきているが、荒れ果てた印象はない。
僕は門扉を開けて玄関まで歩いて行くと、呼び鈴を鳴らした。
『はい』
すぐに叔父さんらしき声が応答した。
「新です」
はいよー、という声が聞こえて、ドアが開いた。
叔父さんはスウェットの上下で、髪には寝ぐせがついている。
寝ていたのか、それとも起きてそのまま何かしていたのかはわからない。
「どうした?」
驚いた顔で叔父さんはたずねた。
「ちょっと近くまで来たんで寄ってみました」
「さっきのメール、驚いたぞ。いいのか?」
「もう返事しちゃったんで。取り消せません」
あーあと叔父さんは苦笑した。
「誰なの、こうちゃん」
声と共に廊下の向こうから年配の女性がゆっくり歩いてくる。
怪訝そうな表情でこちらを見ている白髪の女性は、叔父さんの母親であり、僕の祖母である恵子おばあちゃんだろう。
「新だよ」
「新?」
「姉さんの息子」
「ああ、新君なの? 久しぶりねえ……すっかり大人になっちゃって」
おばあちゃんは以前会った時よりだいぶ皺が増えて、体も二回りぐらい小さくなっている。
でもやさしい笑顔は昔と変わらない。
「お久しぶりです。突然お邪魔してすみません」
「来てくれて嬉しいわ」
「あがってあがって」と叔父さんが手招きする。
「お邪魔じゃないですか?」
「他人じゃないんだから遠慮すんな」
お茶いれるわね、とおばあちゃんは慌てたように奥に歩いていく。
「俺があとで用意するからいいよ。母さんは休んでて」
叔父さんは奥に向かってそう言うと、頭をかきながら客用のスリッパを出した。二階に上がる階段を指さす。
「俺の部屋、二階だから」
叔父さんのあとについて、階段を上がっていく。
二階は二部屋あり、どちらの部屋もドアを開け放してあった。
明るい陽射しが差し込んでいる奥の部屋に叔父さんは入っていく。
テレビがつけっぱなしで、畳の上には布団が敷いたままだ。
叔父さんは布団をぐるんと二つ折りにすると、足でぐいと壁際に寄せた。
八畳ほどの部屋は思ったより片付いている。というか、物がほとんどない。
大きな箪笥と小ぶりのテーブル、テレビと小さなCDラジカセしかない。
テーブルの上には未開封のカップラーメンと電気ポットと湯呑がある。
「朝食まだでした?」
「ん? ああ……カップラーメンでも食べようかと思ってたとこ」
叔父さんはリモコンでテレビのボリュームを下げた。ニュース番組がついている。
窓が開け放してあるので、心地いい風を感じた。
「ちょっと待っててな」
叔父さんはそう言って部屋を出ていくと、しばらくして烏龍茶の大きなペットボトルと紙コップを持ってきた。
「新がうちに来るなんて珍しいこともあるもんだ」
叔父さんは笑いながら烏龍茶を注いでくれる。
「足、崩しなよ」
僕は正座していたが、そう言われてあぐらをかいた。
「なんで神楽坂の店断ったんだよ」
「なんででしょうね」
叔父さんはあきれ顔で笑う。
朝からコーヒーしか飲んでいない。
作るのも面倒だったので、外に食べに行くことにした。
中途半端な午前中に空いてるのはファミレスぐらいだ。
近所のファミレスに行くと、モーニングを頼んだ。ベーコンエッグとパンケーキ。
先にドリンクコーナーからコーヒーを取ってきて、飲みながら叔父さんにメールした。
(神楽坂の店の話は断りました。これからもよろしくお願いします。)
数分後、叔父さんから返信が来た。
(ばかか(笑))
朝のファミリーレストランはとてものんびりした空気が流れている。年配の夫婦の姿が多い。
年をとったらこうした場所で気軽に食事をすますのもいいかもしれない。
令子さんはいま、仕事中だろう。
お昼はいつも何を食べるんだろう?
今夜はなにを話そう。
ぼんやり考えていると、しばらくして笑顔の店員が料理を運んできてくれた。
ベーコンエッグに醤油をたらしながら、これからの生活について考えをめぐらす。
居酒屋の給料だけでは生活は苦しいだろう。
もっと家賃の安いところに引っ越すか、昼間、別のところで働くか。
二つの卵はちょうどいい感じの半熟だ。
それをフォークの先でつぶして、ベーコンにからめて食べる。
おいしい。
次に二段重ねのパンケーキにとりかかる。バターとメープルシロップをたっぷりつけて頬張る。甘いけどおいしい。
パンケーキなんか久しぶりだ。それほど大きくはないので朝食にちょうどいい。
一時間ぐらいゆっくりファミレスで過ごしてから、叔父さんの家に向かった。
叔父さんはこの土地の生まれだ。
昔からあまり変わらない東京の下町。
少し歩けば、自分と似たような服装、似たような顔つきをしている住人たちとすれ違う。
それがいまは心地いいらしい。
駅から歩いて十分ほどの好立地に、叔父さんの家はある。
もともと平屋だったのを、叔父さんが高校生の頃に二階建てに建て替えた。
小さな庭もあり、小ぶりの紅葉と沈丁花が植えてある。少し雑草が茂ってきているが、荒れ果てた印象はない。
僕は門扉を開けて玄関まで歩いて行くと、呼び鈴を鳴らした。
『はい』
すぐに叔父さんらしき声が応答した。
「新です」
はいよー、という声が聞こえて、ドアが開いた。
叔父さんはスウェットの上下で、髪には寝ぐせがついている。
寝ていたのか、それとも起きてそのまま何かしていたのかはわからない。
「どうした?」
驚いた顔で叔父さんはたずねた。
「ちょっと近くまで来たんで寄ってみました」
「さっきのメール、驚いたぞ。いいのか?」
「もう返事しちゃったんで。取り消せません」
あーあと叔父さんは苦笑した。
「誰なの、こうちゃん」
声と共に廊下の向こうから年配の女性がゆっくり歩いてくる。
怪訝そうな表情でこちらを見ている白髪の女性は、叔父さんの母親であり、僕の祖母である恵子おばあちゃんだろう。
「新だよ」
「新?」
「姉さんの息子」
「ああ、新君なの? 久しぶりねえ……すっかり大人になっちゃって」
おばあちゃんは以前会った時よりだいぶ皺が増えて、体も二回りぐらい小さくなっている。
でもやさしい笑顔は昔と変わらない。
「お久しぶりです。突然お邪魔してすみません」
「来てくれて嬉しいわ」
「あがってあがって」と叔父さんが手招きする。
「お邪魔じゃないですか?」
「他人じゃないんだから遠慮すんな」
お茶いれるわね、とおばあちゃんは慌てたように奥に歩いていく。
「俺があとで用意するからいいよ。母さんは休んでて」
叔父さんは奥に向かってそう言うと、頭をかきながら客用のスリッパを出した。二階に上がる階段を指さす。
「俺の部屋、二階だから」
叔父さんのあとについて、階段を上がっていく。
二階は二部屋あり、どちらの部屋もドアを開け放してあった。
明るい陽射しが差し込んでいる奥の部屋に叔父さんは入っていく。
テレビがつけっぱなしで、畳の上には布団が敷いたままだ。
叔父さんは布団をぐるんと二つ折りにすると、足でぐいと壁際に寄せた。
八畳ほどの部屋は思ったより片付いている。というか、物がほとんどない。
大きな箪笥と小ぶりのテーブル、テレビと小さなCDラジカセしかない。
テーブルの上には未開封のカップラーメンと電気ポットと湯呑がある。
「朝食まだでした?」
「ん? ああ……カップラーメンでも食べようかと思ってたとこ」
叔父さんはリモコンでテレビのボリュームを下げた。ニュース番組がついている。
窓が開け放してあるので、心地いい風を感じた。
「ちょっと待っててな」
叔父さんはそう言って部屋を出ていくと、しばらくして烏龍茶の大きなペットボトルと紙コップを持ってきた。
「新がうちに来るなんて珍しいこともあるもんだ」
叔父さんは笑いながら烏龍茶を注いでくれる。
「足、崩しなよ」
僕は正座していたが、そう言われてあぐらをかいた。
「なんで神楽坂の店断ったんだよ」
「なんででしょうね」
叔父さんはあきれ顔で笑う。
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