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5 ロールキャベツ am0:20
5 ロールキャベツ am0:20(6)
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彼は四十歳で若い女性と結婚したが、彼の浮気とギャンブルが原因で離婚したとのことだった。
ギャンブルは付き合っていた頃には気づかなかったけれど、女性の影はたまに感じたことがあった。
携帯電話をトイレに行く時も持っていっていたし、約束した日以外に家に行くと露骨に嫌な顔をされることがあったから。
その噂を聞いて、舞衣子は複雑な気持ちになった。
自分の判断は間違っていなかった。
ただ、たとえ正解の道を歩んでいるとしても、不満や絶望に襲われることはあるようだ。
生きている以上、それらを避けることはできないのかもしれない。
*
「じゃあ、ロールキャベツを誰かに作ってあげたんですか?」
豚の挽き肉に玉ねぎを混ぜてこねながら祭が訊ねる。
「ううん。誰かに食べさせたのは結婚してから」
家族の中でも里桜が一番ロールキャベツが好きだ。いつも四つは食べる。作り方を教えて、と中学生の頃に頼まれたこともあった。
茹でたキャベツで肉だねをきれいに包んでいく二人の姿が、自分と娘に重なる。
今度また作ってあげようか。少し体調が落ち着いたら。
二人は鍋にベーコンを敷いて、その上にロールキャベツを並べていった。最後にコンソメとローリエ入れると蓋をして火にかける。
「さっき更年期で体がきついっておっしゃってましたけど、いまは大丈夫ですか?」
ふと紅は訊ねた。数年前に昴流の母親から、更年期の症状に悩まされていると聞いたことを思い出したのだ。
「それが昨夜、すごいめまいに襲われたの。本当に怖かった。それも更年期の症状なんだと思うんだけど」
「それは大変でしたね。もう大丈夫なんですか?」
祭も心配そうに顔をしかめた。
「いまのところは。でもこうして心配してくれると嬉しい。家族は無関心だから」
「そうなんですか? 症状のこと、よくわかってないのかもしれませんね」
「まあ、それはあるのかも。なったことのない人にはわからない苦しさだから」
今度、ちゃんと話してみようか。別に恥ずかしいことじゃないんだから。心配させないように子供たちには話してこなかった。でも、みんなに理解して手伝ってもらえたら、気持ちも体も少しは楽になるかもしれない。
ロールキャベツを煮込んでいる間、彼らが双子であることや、森のはずれにあるお店の話を聞いた。今度玲と一緒に行くと約束した頃、料理が出来上がった。
紅が鍋の蓋を開けると、いい匂いが魔法みたいに広がる。
舞衣子はテーブルについて、ロールキャベツの皿が自分の前に差し出されるのを笑顔で見守った。
「お待たせしました。ロールキャベツです」
これはお友達にどうぞ、とロールキャベツが二つ入ったタッパーウェアも、端っこにそっと置かれる。
「わぁ、ありがとう。いただきますね」
舞衣子はフォークでやわらかなロールキャベツを切り、口に運んだ。
これだ。手間をかけないと出会えない、やわらかい、やさしい味わい。ベーコンでこくがでたコンソメスープも舞衣子好みだ。
「ほんとにおいしいです。やっぱり人に作ってもらうのっていいですね」
「おうちでも作ってもらってください」
双子はそっくりな笑顔でにっこり笑う。
「そうします。絶対」
舞衣子はそう約束して、大事そうにお皿を手で包み込んだ。
*
翌朝、玲が帰ってくるより早くに家族が迎えに来た。
「昨日は悪かった」
隆は舞衣子の顔を見るなり謝ってきた。
夫はともかく、里桜と涼太まで来てくれたのに驚いた。
「おいしいもの食べに行こうって言うから」
里桜は言い訳するように呟いてから、舞衣子の表情を窺うように見た。涼太は照れくさそうに俯いている。
車に乗るとすぐに里桜が口を開いた。
「お母さんも家出とかするんだね」
助手席で前を見つめたまま舞衣子は頷く。
「そうよ。辛くなったら、また家出するかも」
車内は一瞬しんとした。
慌てたように隆がミラー越しに子供たちを睨む。
「二人とも、これからはお母さんのお手伝いしろよ」
里桜が呆れたように笑う。
「お父さんがそれ言う? 昨夜なんか、お風呂の沸かし方も知らなかったじゃん」
「それは……いつもお母さんがやってくれてるから……」
「じゃあこれからは家のこと四等分しようよ。お母さんがまた出てかないように」
「……そうだな」
隆がそっとため息を吐くのを横目で見ながら、舞衣子は口元をゆるめた。
「じゃ、まずはおしゃれなカフェでモーニングといきましょ」
舞衣子はそう言うと、満足気にシートに身を預けた。
ギャンブルは付き合っていた頃には気づかなかったけれど、女性の影はたまに感じたことがあった。
携帯電話をトイレに行く時も持っていっていたし、約束した日以外に家に行くと露骨に嫌な顔をされることがあったから。
その噂を聞いて、舞衣子は複雑な気持ちになった。
自分の判断は間違っていなかった。
ただ、たとえ正解の道を歩んでいるとしても、不満や絶望に襲われることはあるようだ。
生きている以上、それらを避けることはできないのかもしれない。
*
「じゃあ、ロールキャベツを誰かに作ってあげたんですか?」
豚の挽き肉に玉ねぎを混ぜてこねながら祭が訊ねる。
「ううん。誰かに食べさせたのは結婚してから」
家族の中でも里桜が一番ロールキャベツが好きだ。いつも四つは食べる。作り方を教えて、と中学生の頃に頼まれたこともあった。
茹でたキャベツで肉だねをきれいに包んでいく二人の姿が、自分と娘に重なる。
今度また作ってあげようか。少し体調が落ち着いたら。
二人は鍋にベーコンを敷いて、その上にロールキャベツを並べていった。最後にコンソメとローリエ入れると蓋をして火にかける。
「さっき更年期で体がきついっておっしゃってましたけど、いまは大丈夫ですか?」
ふと紅は訊ねた。数年前に昴流の母親から、更年期の症状に悩まされていると聞いたことを思い出したのだ。
「それが昨夜、すごいめまいに襲われたの。本当に怖かった。それも更年期の症状なんだと思うんだけど」
「それは大変でしたね。もう大丈夫なんですか?」
祭も心配そうに顔をしかめた。
「いまのところは。でもこうして心配してくれると嬉しい。家族は無関心だから」
「そうなんですか? 症状のこと、よくわかってないのかもしれませんね」
「まあ、それはあるのかも。なったことのない人にはわからない苦しさだから」
今度、ちゃんと話してみようか。別に恥ずかしいことじゃないんだから。心配させないように子供たちには話してこなかった。でも、みんなに理解して手伝ってもらえたら、気持ちも体も少しは楽になるかもしれない。
ロールキャベツを煮込んでいる間、彼らが双子であることや、森のはずれにあるお店の話を聞いた。今度玲と一緒に行くと約束した頃、料理が出来上がった。
紅が鍋の蓋を開けると、いい匂いが魔法みたいに広がる。
舞衣子はテーブルについて、ロールキャベツの皿が自分の前に差し出されるのを笑顔で見守った。
「お待たせしました。ロールキャベツです」
これはお友達にどうぞ、とロールキャベツが二つ入ったタッパーウェアも、端っこにそっと置かれる。
「わぁ、ありがとう。いただきますね」
舞衣子はフォークでやわらかなロールキャベツを切り、口に運んだ。
これだ。手間をかけないと出会えない、やわらかい、やさしい味わい。ベーコンでこくがでたコンソメスープも舞衣子好みだ。
「ほんとにおいしいです。やっぱり人に作ってもらうのっていいですね」
「おうちでも作ってもらってください」
双子はそっくりな笑顔でにっこり笑う。
「そうします。絶対」
舞衣子はそう約束して、大事そうにお皿を手で包み込んだ。
*
翌朝、玲が帰ってくるより早くに家族が迎えに来た。
「昨日は悪かった」
隆は舞衣子の顔を見るなり謝ってきた。
夫はともかく、里桜と涼太まで来てくれたのに驚いた。
「おいしいもの食べに行こうって言うから」
里桜は言い訳するように呟いてから、舞衣子の表情を窺うように見た。涼太は照れくさそうに俯いている。
車に乗るとすぐに里桜が口を開いた。
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「そうよ。辛くなったら、また家出するかも」
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「二人とも、これからはお母さんのお手伝いしろよ」
里桜が呆れたように笑う。
「お父さんがそれ言う? 昨夜なんか、お風呂の沸かし方も知らなかったじゃん」
「それは……いつもお母さんがやってくれてるから……」
「じゃあこれからは家のこと四等分しようよ。お母さんがまた出てかないように」
「……そうだな」
隆がそっとため息を吐くのを横目で見ながら、舞衣子は口元をゆるめた。
「じゃ、まずはおしゃれなカフェでモーニングといきましょ」
舞衣子はそう言うと、満足気にシートに身を預けた。
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