夜食屋ふくろう

森園ことり

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5 ロールキャベツ am0:20

5 ロールキャベツ am0:20(4)

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 うるさい電話の音で目が覚めた時、隣で玲がスマホで誰かと話していた。腕時計を見ると九時を過ぎている。

「……うん、いま友達が来てるの」

 どうやら相手は彼氏の武雄のようだ。玲の表情と声が途中から変わって、舞衣子はソファに座りなおした。

「大丈夫なの? なんですぐ連絡くれなかったのよ。歩けるの?」

 不安になった舞衣子は、「どうしたの?」と小声で訊ねた。
 玲は怒ったような顔を舞衣子に向ける。

「ゴルフで足ひねって病院行ってたんだって。ひびが入ってたらしい」

 それは大変だ。
 舞衣子は一気に目が覚めてしまった。

「うん、うん……ミルキー、預けたまま? かわいそうじゃない」

 ミルキーというのは武雄が飼っているトイプードルだ。

「私が迎えにいくよ。うん……じゃあ、あとでね」

 え、と舞衣子は戸惑った。行っちゃうの?
 電話を切った玲は慌ただしく身支度を整え始める。

「ごめんね、舞衣子。ミルキーを知り合いに預けたままらしいから、引き取りにいってくる。彼の家に届けるから、帰りは少し遅くなるかも。お風呂とか適当に入って先に寝ててくれる?」
「うん、わかった……夜だから気をつけてね。武雄さんにお大事にって伝えて」
「ありがと。じゃ、ごめんね。せっかく来てくれたのにばたばたして」
「ううん、いいよ。早く行ってあげて」
「ごめん!」

 玲は慌ただしく出ていった。
 取り残された舞衣子はしばらく呆然と立ち尽くした。
 どうしよう。
 ここでもまたひとりぼっちになってしまった。





 それから数時間、お風呂に入った舞衣子は別の映画を観ていた。
 でも全然楽しくない。
 すっかり目が冴えてしまって、当分寝られそうになかった。

 何度もメッセージをチェックするが、家族の誰からも返信がない。
 隆にきつい言い方をしたことを少し後悔した。
 でももうちょっと私の気持ちを考えて欲しかった。

 涼太はまだ起きてるだろうか。それともデートで疲れて寝てしまったんだろうか……。
 里桜はきっとまだ怒っているだろう。もしかしたら涼太と喧嘩したかもしれない。

 起きていても仕方がない、と舞衣子は寝室に行った。玲のベッドに横になるが、睡魔は訪れない。
 なじみのない寝具の肌触り、匂いが気になる。時計の音もやけに耳につく。カチ、カチ、カチ。秒針が鳴るタイプだ。
 舞衣子は目を閉じて眠ろうと努めたが、しばらくして諦め、ため息をついた。

「ワイン、まだ残ってたよね」

 またアルコールを摂取すれば眠くなるかもしれない。
 冷蔵庫からワインを取り出すと、リビングに持っていって飲んだ。
 テレビをつけてぼんやりと眺める。
 寝酒は効いてくれるだろうか。
 壁の時計を見ると十二時を過ぎている。
 まだ玲は帰ってこない。この分だと泊まってくるんだろう。

 ふと空腹を感じた。
 もしかすると、お腹が空いているから眠れないのかもしれない。
 冷蔵庫の中にあるものを勝手に食べて大丈夫だろうか。それともコンビニを探すか。このあたりに詳しくないから面倒だ……。
 部屋を見まわした時に、電話の脇の壁に貼ってある黄色い紙が目に留まった。
 近づいていって確認すると、お店のチラシのようだった。夜食屋ふくろう、とある。


眠れない夜、心を温めるお夜食をお届け。
なんでもお作りいたします。
(深夜十二時から四時まで営業中)


 夜食のデリバリーか。
 これを頼んで食べて寝ようか。
 その前に、玲に泊まってくるのか確認だけしておこう。
 眠っていたら悪いので、メッセージを送る。
 すると、すぐに彼女から電話がかかってきた。

『ごめんね、連絡遅れて。今夜は遅くなっちゃったし泊まってくことにした』
「それがいいよ。武雄さんの具合はどう?」
『本人はそんなに痛がってないから大丈夫』
「それならよかった。お大事にね。あと、お腹空いちゃったんだけど、デリバリー頼んでもいい?」
『もちろん。うちの冷蔵庫ろくなもんなくてごめんね』
「そんなことないよ。でも、ちょっとがっつりめに食べたい気分で」

 笑いながら舞衣子はもう一度壁のチラシを覗き込む。

「それで、(夜食屋ふくろう)ってチラシを見つけたんだけど、玲、利用してみたことあるの?」
『あぁ、ふくろうさんね。そこ、面白いお店だよ。自分んちのキッチンで料理してくれるの』
「客の家でってこと?」
『そう。それになんでも作ってくれるんだよ。頼んでみたら?』

 ここに来て作るのか。ちょっと不安だけど、玲が利用したことがあるのなら大丈夫かな。

「そうしてみる。じゃあ、武雄さんによろしくね。おやすみなさい」
『おやすみ』

 電話を切ると、舞衣子は早速チラシにある(夜食屋ふくろう)のサイトにアクセスした。
 なんでも作ってくれる。
 じゃあ、ロールキャベツにしてみよう。
 好きな料理だけど最近は全然作ってない。
 キャベツを下茹でしたり、肉だねを作って包んだりという手間が億劫だし、煮込まないといけないのが面倒だから。

 でも、ロールキャベツは舞衣子にとって思い出の味だった。
 隆と付き合う前の彼氏がよく作ってくれたのだ。

 料理が得意でやさしい人だった。
 あの人と結婚したらどうなってたんだろう。
 舞衣子はまたそんなことを考えた。



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