夜食屋ふくろう

森園ことり

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4 ルーローハン am0:03

4 ルーローハン am0:03(2)

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「私たちはこれからご飯」

 ミカリがいつもどおりに楽しそうに話しかけてくる。
 将は会社帰りにチェーン店の牛丼や蕎麦で夕飯をすませてくるが、みんなは自宅で食べる。
 Qは八時頃に家族と食べるが、ミカリとおたまはこの時間に夕飯を食べるのが常だった。

「俺、今日は生姜焼き」

 おたまはきちんと自炊をしている。肉を焼いて生姜焼きのタレをかけるだけだが、自分にはマネできないと将は尊敬していた。

「私はいつものタイのお弁当。今日も300円に値下げしてたんだ~」

 ミカリのマイブームは、帰る途中にあるタイレストランのお弁当だ。普通は600円だが、夜になると半額になるらしい。
 こういう節約家のところもいいな、なんて将は思っていたのだが。

「あ、ラム~、この前教えてくれた台湾のルーローハン、めっちゃおいしかったよ」

 ラムとは将のゲーム内のニックネームだ。本当はラムネなのだが、みんなはラムと呼ぶ。

「あ、うん……よかった」

 タイ料理にはまっているミカリの興味をひけるかと、台湾料理屋のルーローハンをおすすめしたのだ。「なんなら俺が連れていこうか?」なんてアピールも入っていたのだが、無意味だった。
 気づくとミカリだけが喋っている。
 将に向けて話してはいるが、彼は気分が落ち込んでいるので相槌しかうてない。

「私、お風呂入ってくる」

 そう言ってQは一度落ちていった。
 おたまは食事で忙しいのか、会話に全然入ってこない。
 将はやけくそになって、ミカリの話を不自然にぶった切った。

「あのさ、ミカリの彼氏ってどんな人なの? 仕事とか年齢とかさ」

 え~、と照れた声を出すミカリ。

「普通の会社員だよ」

(なんだよ、俺やおたまと一緒じゃん)

「でも実家がお金持ちらしくて、港区に自分のマンションもってるんだって。年は二十六で私の二個上なんだけど、甘えたなんだよね~」

(それ普通の会社員じゃねえだろ。甘えた情報とかいらんし)

「……かっこいいの?」 
「どうだろ。顔は犬系っていうの? 可愛い系かなぁ。学生時代はモデルもちょっとしてたらしい」

 将は胃がむかむかしてきた。せめてどこか、自分より劣る部分があれば慰められるのに。

「へぇ……いい感じの彼氏捕まえたね。さすがミカリ」

 将はなんとかミカリに話を合わせる。

「どこで知り合ったの?」
「友達の紹介だよ~」

 ほんとに? アプリとかじゃなくて?

「ラムはどうなの? 最近気になる子いる?」

 にやにや笑ってるような声。

「いないよ」
「そうなんだぁ。気になる子できたら絶対教えてよね」
「うん……」

(やっぱり今夜はだめだ。早く落ちたい……)

 将が白目を出して天を仰いでいると、Qが戻ってきた。

「お風呂から無事帰還いたしました」
「おかえり~」

 おかえり、とかすれた声を出す将。

「じゃあ、私もお風呂入ってこよっと。みんな落ちないで待っててよ~」

 ミカリの言葉に他の三人ははーいと返事をした。

「ミカリ、感じ悪くない?」

 突然Qがそう言ったので、将は椅子から転げ落ちかけた。

「な……」

(なに急に暴言吐いてんだよ。まだミカリ落ちてなかったら……)

 将の焦りが伝わったかのようにQは苦笑した。

「落ちたから平気だって。聞かれても別にいいし」

 クールな女子高生ってまじで怖い。
 冷や汗をかきながらも、将はなんだかおかしくなって笑いはじめた。するとQとおたまも笑いだす。

「感じ悪いって、彼氏できた自慢にカチンときた?」

 将の質問にQは呆れた声を漏らす。

「はぁ? ……だって、おたまもむかついてるよね?」

(は? なんでおたまが? まさかおたまもミカリ狙いだったとか?)

 どきっとして将は沈黙した。

「Q、やめとけ」

 たしなめるような鋭い声を出すおたま。

「おたまってミカリのこと好きだったの?」

 我慢できずに将が訊ねると、おたまはため息を吐いた。

「ラムと違って、僕はミカリみたいな子は好きじゃないから」
「お、俺と違って?」

 おたまとQは同時に息を吐く。

「ばればれだから、ラムさん。毎晩一緒にゲームしてて気づかずにいる方が無理」

 Qの言葉に将は青ざめて絶句した。
 ばれてた。みんなに。

「ミカリも知ってたよ」
「え?」
「だから、ミカリも最初から知ってたよって。ラムが自分に気があるって」

 Q、とおたまが制しようとするが、彼女は止まらない。

「ミカリ、裏で笑ってたからね、ラムのこと。こんなことラムに言われたぁ、とか事細かに私やおたまにばらしてさ。それ聞かされるの、もううんざり」

 おそろしい沈黙。

「ラム、違うから」

 おたまの言葉に、Qは苛立った声をあげた。

「違わないって。二人がそんな感じなら、私、もう抜けるよ?」
「落ち着けって、Q」

(ミカリが俺をからかってた? あのミカリが……)

「ラム、大丈夫か?」

 二人の言葉が遠ざかっていく。
 将はゲームからログアウトして、椅子から崩れ落ちた。




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