22 / 51
4 ルーローハン am0:03
4 ルーローハン am0:03(2)
しおりを挟む
「私たちはこれからご飯」
ミカリがいつもどおりに楽しそうに話しかけてくる。
将は会社帰りにチェーン店の牛丼や蕎麦で夕飯をすませてくるが、みんなは自宅で食べる。
Qは八時頃に家族と食べるが、ミカリとおたまはこの時間に夕飯を食べるのが常だった。
「俺、今日は生姜焼き」
おたまはきちんと自炊をしている。肉を焼いて生姜焼きのタレをかけるだけだが、自分にはマネできないと将は尊敬していた。
「私はいつものタイのお弁当。今日も300円に値下げしてたんだ~」
ミカリのマイブームは、帰る途中にあるタイレストランのお弁当だ。普通は600円だが、夜になると半額になるらしい。
こういう節約家のところもいいな、なんて将は思っていたのだが。
「あ、ラム~、この前教えてくれた台湾のルーローハン、めっちゃおいしかったよ」
ラムとは将のゲーム内のニックネームだ。本当はラムネなのだが、みんなはラムと呼ぶ。
「あ、うん……よかった」
タイ料理にはまっているミカリの興味をひけるかと、台湾料理屋のルーローハンをおすすめしたのだ。「なんなら俺が連れていこうか?」なんてアピールも入っていたのだが、無意味だった。
気づくとミカリだけが喋っている。
将に向けて話してはいるが、彼は気分が落ち込んでいるので相槌しかうてない。
「私、お風呂入ってくる」
そう言ってQは一度落ちていった。
おたまは食事で忙しいのか、会話に全然入ってこない。
将はやけくそになって、ミカリの話を不自然にぶった切った。
「あのさ、ミカリの彼氏ってどんな人なの? 仕事とか年齢とかさ」
え~、と照れた声を出すミカリ。
「普通の会社員だよ」
(なんだよ、俺やおたまと一緒じゃん)
「でも実家がお金持ちらしくて、港区に自分のマンションもってるんだって。年は二十六で私の二個上なんだけど、甘えたなんだよね~」
(それ普通の会社員じゃねえだろ。甘えた情報とかいらんし)
「……かっこいいの?」
「どうだろ。顔は犬系っていうの? 可愛い系かなぁ。学生時代はモデルもちょっとしてたらしい」
将は胃がむかむかしてきた。せめてどこか、自分より劣る部分があれば慰められるのに。
「へぇ……いい感じの彼氏捕まえたね。さすがミカリ」
将はなんとかミカリに話を合わせる。
「どこで知り合ったの?」
「友達の紹介だよ~」
ほんとに? アプリとかじゃなくて?
「ラムはどうなの? 最近気になる子いる?」
にやにや笑ってるような声。
「いないよ」
「そうなんだぁ。気になる子できたら絶対教えてよね」
「うん……」
(やっぱり今夜はだめだ。早く落ちたい……)
将が白目を出して天を仰いでいると、Qが戻ってきた。
「お風呂から無事帰還いたしました」
「おかえり~」
おかえり、とかすれた声を出す将。
「じゃあ、私もお風呂入ってこよっと。みんな落ちないで待っててよ~」
ミカリの言葉に他の三人ははーいと返事をした。
「ミカリ、感じ悪くない?」
突然Qがそう言ったので、将は椅子から転げ落ちかけた。
「な……」
(なに急に暴言吐いてんだよ。まだミカリ落ちてなかったら……)
将の焦りが伝わったかのようにQは苦笑した。
「落ちたから平気だって。聞かれても別にいいし」
クールな女子高生ってまじで怖い。
冷や汗をかきながらも、将はなんだかおかしくなって笑いはじめた。するとQとおたまも笑いだす。
「感じ悪いって、彼氏できた自慢にカチンときた?」
将の質問にQは呆れた声を漏らす。
「はぁ? ……だって、おたまもむかついてるよね?」
(は? なんでおたまが? まさかおたまもミカリ狙いだったとか?)
どきっとして将は沈黙した。
「Q、やめとけ」
たしなめるような鋭い声を出すおたま。
「おたまってミカリのこと好きだったの?」
我慢できずに将が訊ねると、おたまはため息を吐いた。
「ラムと違って、僕はミカリみたいな子は好きじゃないから」
「お、俺と違って?」
おたまとQは同時に息を吐く。
「ばればれだから、ラムさん。毎晩一緒にゲームしてて気づかずにいる方が無理」
Qの言葉に将は青ざめて絶句した。
ばれてた。みんなに。
「ミカリも知ってたよ」
「え?」
「だから、ミカリも最初から知ってたよって。ラムが自分に気があるって」
Q、とおたまが制しようとするが、彼女は止まらない。
「ミカリ、裏で笑ってたからね、ラムのこと。こんなことラムに言われたぁ、とか事細かに私やおたまにばらしてさ。それ聞かされるの、もううんざり」
おそろしい沈黙。
「ラム、違うから」
おたまの言葉に、Qは苛立った声をあげた。
「違わないって。二人がそんな感じなら、私、もう抜けるよ?」
「落ち着けって、Q」
(ミカリが俺をからかってた? あのミカリが……)
「ラム、大丈夫か?」
二人の言葉が遠ざかっていく。
将はゲームからログアウトして、椅子から崩れ落ちた。
*
ミカリがいつもどおりに楽しそうに話しかけてくる。
将は会社帰りにチェーン店の牛丼や蕎麦で夕飯をすませてくるが、みんなは自宅で食べる。
Qは八時頃に家族と食べるが、ミカリとおたまはこの時間に夕飯を食べるのが常だった。
「俺、今日は生姜焼き」
おたまはきちんと自炊をしている。肉を焼いて生姜焼きのタレをかけるだけだが、自分にはマネできないと将は尊敬していた。
「私はいつものタイのお弁当。今日も300円に値下げしてたんだ~」
ミカリのマイブームは、帰る途中にあるタイレストランのお弁当だ。普通は600円だが、夜になると半額になるらしい。
こういう節約家のところもいいな、なんて将は思っていたのだが。
「あ、ラム~、この前教えてくれた台湾のルーローハン、めっちゃおいしかったよ」
ラムとは将のゲーム内のニックネームだ。本当はラムネなのだが、みんなはラムと呼ぶ。
「あ、うん……よかった」
タイ料理にはまっているミカリの興味をひけるかと、台湾料理屋のルーローハンをおすすめしたのだ。「なんなら俺が連れていこうか?」なんてアピールも入っていたのだが、無意味だった。
気づくとミカリだけが喋っている。
将に向けて話してはいるが、彼は気分が落ち込んでいるので相槌しかうてない。
「私、お風呂入ってくる」
そう言ってQは一度落ちていった。
おたまは食事で忙しいのか、会話に全然入ってこない。
将はやけくそになって、ミカリの話を不自然にぶった切った。
「あのさ、ミカリの彼氏ってどんな人なの? 仕事とか年齢とかさ」
え~、と照れた声を出すミカリ。
「普通の会社員だよ」
(なんだよ、俺やおたまと一緒じゃん)
「でも実家がお金持ちらしくて、港区に自分のマンションもってるんだって。年は二十六で私の二個上なんだけど、甘えたなんだよね~」
(それ普通の会社員じゃねえだろ。甘えた情報とかいらんし)
「……かっこいいの?」
「どうだろ。顔は犬系っていうの? 可愛い系かなぁ。学生時代はモデルもちょっとしてたらしい」
将は胃がむかむかしてきた。せめてどこか、自分より劣る部分があれば慰められるのに。
「へぇ……いい感じの彼氏捕まえたね。さすがミカリ」
将はなんとかミカリに話を合わせる。
「どこで知り合ったの?」
「友達の紹介だよ~」
ほんとに? アプリとかじゃなくて?
「ラムはどうなの? 最近気になる子いる?」
にやにや笑ってるような声。
「いないよ」
「そうなんだぁ。気になる子できたら絶対教えてよね」
「うん……」
(やっぱり今夜はだめだ。早く落ちたい……)
将が白目を出して天を仰いでいると、Qが戻ってきた。
「お風呂から無事帰還いたしました」
「おかえり~」
おかえり、とかすれた声を出す将。
「じゃあ、私もお風呂入ってこよっと。みんな落ちないで待っててよ~」
ミカリの言葉に他の三人ははーいと返事をした。
「ミカリ、感じ悪くない?」
突然Qがそう言ったので、将は椅子から転げ落ちかけた。
「な……」
(なに急に暴言吐いてんだよ。まだミカリ落ちてなかったら……)
将の焦りが伝わったかのようにQは苦笑した。
「落ちたから平気だって。聞かれても別にいいし」
クールな女子高生ってまじで怖い。
冷や汗をかきながらも、将はなんだかおかしくなって笑いはじめた。するとQとおたまも笑いだす。
「感じ悪いって、彼氏できた自慢にカチンときた?」
将の質問にQは呆れた声を漏らす。
「はぁ? ……だって、おたまもむかついてるよね?」
(は? なんでおたまが? まさかおたまもミカリ狙いだったとか?)
どきっとして将は沈黙した。
「Q、やめとけ」
たしなめるような鋭い声を出すおたま。
「おたまってミカリのこと好きだったの?」
我慢できずに将が訊ねると、おたまはため息を吐いた。
「ラムと違って、僕はミカリみたいな子は好きじゃないから」
「お、俺と違って?」
おたまとQは同時に息を吐く。
「ばればれだから、ラムさん。毎晩一緒にゲームしてて気づかずにいる方が無理」
Qの言葉に将は青ざめて絶句した。
ばれてた。みんなに。
「ミカリも知ってたよ」
「え?」
「だから、ミカリも最初から知ってたよって。ラムが自分に気があるって」
Q、とおたまが制しようとするが、彼女は止まらない。
「ミカリ、裏で笑ってたからね、ラムのこと。こんなことラムに言われたぁ、とか事細かに私やおたまにばらしてさ。それ聞かされるの、もううんざり」
おそろしい沈黙。
「ラム、違うから」
おたまの言葉に、Qは苛立った声をあげた。
「違わないって。二人がそんな感じなら、私、もう抜けるよ?」
「落ち着けって、Q」
(ミカリが俺をからかってた? あのミカリが……)
「ラム、大丈夫か?」
二人の言葉が遠ざかっていく。
将はゲームからログアウトして、椅子から崩れ落ちた。
*
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
水曜日のパン屋さん
水瀬さら
ライト文芸
些細なことから不登校になってしまった中学三年生の芽衣。偶然立ち寄った店は水曜日だけ営業しているパン屋さんだった。一人でパンを焼くさくらという女性。その息子で高校生の音羽。それぞれの事情を抱えパンを買いにくるお客さんたち。あたたかな人たちと触れ合い、悩み、励まされ、芽衣は少しずつ前を向いていく。
第2回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
伊緒さんの食べものがたり
三條すずしろ
ライト文芸
いっしょだと、なんだっておいしいーー。
伊緒さんだって、たまにはインスタントで済ませたり、旅先の名物に舌鼓を打ったりもするのです……。
そんな「手作らず」な料理の数々も、今度のご飯の大事なヒント。
いっしょに食べると、なんだっておいしい!
『伊緒さんのお嫁ご飯』からほんの少し未来の、異なる時間軸のお話です。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にても公開中です。
『伊緒さんのお嫁ご飯〜番外・手作らず編〜』改題。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
からだにおいしい料理店・しんどふじ ~雨のち晴れときどき猫が降るでしょう~
景綱
ライト文芸
人生を揺るがす事件というか事故が起こり死の淵を彷徨い奇跡的に回復し地元の町へ戻って来た淵沢裕。
そこで懐かしい人との再会が。
からだにおいしい料理店『しんどふじ』の店主の箕田安祐美だ。
童顔で中学生みたいだけど大人女子の安祐美と老け顔の裕。
この再会は意味があるのか。
裕の転換期となるのか。
食とはなんなのか。食べるって生きることに繋がる。
『雨のち晴れときどき猫が降るでしょう』
裕の人生はそんな人生に。
ライト文芸大賞エントリーしていますので、気に入ってくれたら投票お願いします。
(=^・^=)
独り日和 ―春夏秋冬―
八雲翔
ライト文芸
主人公は櫻野冬という老女。
彼を取り巻く人と犬と猫の日常を書いたストーリーです。
仕事を探す四十代女性。
子供を一人で育てている未亡人。
元ヤクザ。
冬とひょんなことでの出会いから、
繋がる物語です。
春夏秋冬。
数ヶ月の出会いが一生の家族になる。
そんな冬と彼女を取り巻く人たちを見守ってください。
*この物語はフィクションです。
実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。
八雲翔
三度目の庄司
西原衣都
ライト文芸
庄司有希の家族は複雑だ。
小学校に入学する前、両親が離婚した。
中学校に入学する前、両親が再婚した。
両親は別れたりくっついたりしている。同じ相手と再婚したのだ。
名字が大西から庄司に変わるのは二回目だ。
有希が高校三年生時、両親の関係が再びあやしくなってきた。もしかしたら、また大西になって、また庄司になるかもしれない。うんざりした有希はそんな両親に抗議すべく家出を決行した。
健全な家出だ。そこでよく知ってるのに、知らない男の子と一夏を過ごすことになった。有希はその子と話すうち、この境遇をどうでもよくなってしまった。彼も同じ境遇を引き受けた子供だったから。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる