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2 キャラメルパンケーキ am0:35
2 キャラメルパンケーキ am0:35(4)
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「してますよ。このままずっと一人じゃ寂しいですからね……。でも全然だめなんです。四十過ぎて女性と付き合ったこともない男なんか、誰も相手にしてくれない。今日は二人の女性にふられちゃって、落ち込んで眠れなかったんです」
「二人も? それはショックですね」
たぁも入れれば三人だ。
返事がこないところを見ると、彼女とも終わりなんだろう。
また振り出しに戻ってしまった。いや、誰とも会ってもいないんだから、スタートラインにもたてなかった。
いつまでこれを繰り返せばいいんだろう。悪いことをしているわけじゃないのに、劣等感と失望感に苛まれ続ける婚活はもはや苦行だ。
諦めて期待しなければ楽にはなれる。一人の生活、老後について、一度しっかり考えてみるのもいいかもしれない。これ以上自分をみじめにしないためにも。
「結婚は無理なのかも。猫でも飼おうかな」
ぽつりと浩平は呟いた。小さい頃に家族で飼っていた猫たちはいつも浩平と一緒に寝てくれた。猫との穏やかな暮らし。それもいいかもしれない。
「諦めちゃうんですか?」
祭の問いに浩平は首を傾ける。
「どうせもう開店休業状態ですしね。とりあえずアプリは少し休もうかな」
紅はボウルを軽くかきまぜ、そこにふるいを重ねた。ベーキングパウダーを混ぜた小麦粉を落とし、ふるいをかける。
その横で祭がフライパンを火にかけて温めはじめた。
「二人は付き合っている人とかはいるんですか?」
ふと気になって浩平は訊ねた。
二十歳の若くて見た目も性格もいい彼らなら、きっと好意を寄せられることも多いんだろう。
祭は笑いながら「全然です」と手を横に振った。そして隣の紅を見る。
「妹にはいますけど」
じろっと紅は祭を睨んだが、手は止めない。
「すみません。このひと、幼なじみのことを彼氏っていつもからかうんです」
「幼なじみがいるんですか。いいですね、そういうの。憧れます」浩平は羨ましそうに目を瞬く。「どんな人なんですか?」
どんな……と紅は呟くように言って、小さく息を吐いた。
「よくわからないです。もう一年も会ってないので」
「そうなんですか?」
浩平は驚きながら、地雷を踏んでしまったか、と一瞬焦った。
「なにも言わずにいなくなっちゃったんです。仕事も辞めて。いまどこでなにをしてることやら」
失踪したということか。
「それは心配ですね。連絡はまったくないんですか?」
双子は頷く。
「なに考えてるかわかんないところのある奴だったんで、ふらっと出てったみたいに、ふらっと戻ってくると思うんですけどね」
そう言って笑いながら、祭は濡れ布巾の上にフライパンを置く。じゅっと弾けるような音がした。
紅は粉を入れ終わり、さっくりと混ぜあわせはじめる。
「私たち、小さい頃からいつも一緒にいたんです。三人兄妹みたいに。こんなふうにいなくなるなんて、思いもしなかった。連絡がないから生死もわからない。帰りを待ちたいけど、それも段々辛くなってくような気がします」
ぽん、とやさしく祭が双子の妹の背中を叩く。
紅は我にかえったように目を丸くした。
「すみません、料理しながらこんな話」
「いえ、僕が訊いちゃったから……なんか、ごめんなさい」
紅は首を横に振って微笑む。
「焼いていきますね」
そう言って、おたまでどろっとした生地をすくうと、フライパンに流し入れていく。器用に二つの丸い円をきれいに描いた。
しばらくして、浩平はふんわりと甘い匂いを嗅いだ。少し沈んでいた部屋の雰囲気が、軽くなったような気がする。
「パンケーキっていろんなトッピングを楽しめるのがいいですよね。大沢さんはいつもキャラメル味なんですか?」
もう一つのコンロに小鍋を置きながら祭が何気なく訊いた。砂糖とお水を入れて混ぜ合わせ、火にかける。
「えっと……」
浩平は言葉に詰まった。
キャラメルパンケーキにはほろ苦い思い出が詰まっている。
大昔、浩平は女性に誘われてデートをして、それを食べることになったのだ。
*
「二人も? それはショックですね」
たぁも入れれば三人だ。
返事がこないところを見ると、彼女とも終わりなんだろう。
また振り出しに戻ってしまった。いや、誰とも会ってもいないんだから、スタートラインにもたてなかった。
いつまでこれを繰り返せばいいんだろう。悪いことをしているわけじゃないのに、劣等感と失望感に苛まれ続ける婚活はもはや苦行だ。
諦めて期待しなければ楽にはなれる。一人の生活、老後について、一度しっかり考えてみるのもいいかもしれない。これ以上自分をみじめにしないためにも。
「結婚は無理なのかも。猫でも飼おうかな」
ぽつりと浩平は呟いた。小さい頃に家族で飼っていた猫たちはいつも浩平と一緒に寝てくれた。猫との穏やかな暮らし。それもいいかもしれない。
「諦めちゃうんですか?」
祭の問いに浩平は首を傾ける。
「どうせもう開店休業状態ですしね。とりあえずアプリは少し休もうかな」
紅はボウルを軽くかきまぜ、そこにふるいを重ねた。ベーキングパウダーを混ぜた小麦粉を落とし、ふるいをかける。
その横で祭がフライパンを火にかけて温めはじめた。
「二人は付き合っている人とかはいるんですか?」
ふと気になって浩平は訊ねた。
二十歳の若くて見た目も性格もいい彼らなら、きっと好意を寄せられることも多いんだろう。
祭は笑いながら「全然です」と手を横に振った。そして隣の紅を見る。
「妹にはいますけど」
じろっと紅は祭を睨んだが、手は止めない。
「すみません。このひと、幼なじみのことを彼氏っていつもからかうんです」
「幼なじみがいるんですか。いいですね、そういうの。憧れます」浩平は羨ましそうに目を瞬く。「どんな人なんですか?」
どんな……と紅は呟くように言って、小さく息を吐いた。
「よくわからないです。もう一年も会ってないので」
「そうなんですか?」
浩平は驚きながら、地雷を踏んでしまったか、と一瞬焦った。
「なにも言わずにいなくなっちゃったんです。仕事も辞めて。いまどこでなにをしてることやら」
失踪したということか。
「それは心配ですね。連絡はまったくないんですか?」
双子は頷く。
「なに考えてるかわかんないところのある奴だったんで、ふらっと出てったみたいに、ふらっと戻ってくると思うんですけどね」
そう言って笑いながら、祭は濡れ布巾の上にフライパンを置く。じゅっと弾けるような音がした。
紅は粉を入れ終わり、さっくりと混ぜあわせはじめる。
「私たち、小さい頃からいつも一緒にいたんです。三人兄妹みたいに。こんなふうにいなくなるなんて、思いもしなかった。連絡がないから生死もわからない。帰りを待ちたいけど、それも段々辛くなってくような気がします」
ぽん、とやさしく祭が双子の妹の背中を叩く。
紅は我にかえったように目を丸くした。
「すみません、料理しながらこんな話」
「いえ、僕が訊いちゃったから……なんか、ごめんなさい」
紅は首を横に振って微笑む。
「焼いていきますね」
そう言って、おたまでどろっとした生地をすくうと、フライパンに流し入れていく。器用に二つの丸い円をきれいに描いた。
しばらくして、浩平はふんわりと甘い匂いを嗅いだ。少し沈んでいた部屋の雰囲気が、軽くなったような気がする。
「パンケーキっていろんなトッピングを楽しめるのがいいですよね。大沢さんはいつもキャラメル味なんですか?」
もう一つのコンロに小鍋を置きながら祭が何気なく訊いた。砂糖とお水を入れて混ぜ合わせ、火にかける。
「えっと……」
浩平は言葉に詰まった。
キャラメルパンケーキにはほろ苦い思い出が詰まっている。
大昔、浩平は女性に誘われてデートをして、それを食べることになったのだ。
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