夜食屋ふくろう

森園ことり

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KOHEY(REMIさん、何度もメッセージを送ってすみません。アプリの不具合で届いていないのかな、と思いまして……。もし届いておりましたら、返信くださると嬉しいです。am7:00)


REMI(返信が遅れて申し訳ありません。現在、別の方と進展がありまして、KOHEYさんとはここでやりとりを終わらせていただきたいと思います。短い間でしたがありがとうございました。pm9:58)


「そっか……」

 大沢浩平(おおさわこうへい)は今日一日、彼女からのメッセージをずっと待っていた。

 いま婚活アプリでやりとりしているのは、彼女をいれて三人。その中でもREMIは一番気になる存在だった。
 三十二歳で四十代の浩平には若いが、可愛らしい容姿と飾り気がなくて明るいプロフィールに惹かれた。
 趣味はヨガとお菓子作り。都内で広告関係の仕事をしている。

 こんなひととマッチングしたことが嬉しくて、絶対にデートまでこぎつけるぞ、と浩平は意気込んでいた。でも、やっぱりだめだった。

「まあ、そうだよな。若くて可愛いんだから、いくらでもいい男が寄ってくるよな」

 四十三歳の低身長で肥満気味、頭髪も薄くなりはじめた自分みたいな男を、彼女みたいな人が相手にするはずがない。
 わかってはいた。でも、もしかしたら、と夢を見たのだ。呆気なく破れたけれど。
 せめて女性に憧れられる仕事をしていたら、違った結果になってたのかもしれない。自分としてはいまのホームセンターの仕事が気に入ってる。職場の人間関係もいいし、家から近いし。でも、女性がときめくような職業じゃないことは自覚している。

 お給料が特別いいわけでもないし、貯金だってあんまりない。住んでるのもアパートの狭いワンルーム。掃除はきちんとするようにしてるけど、決しておしゃれではない。
 婚活アプリにはもっと高給取りで人に憧れられるような仕事、見た目がいい男性がいるはずだ。そういう彼らとくらべられたら勝ち目はない。
 いままで女性と一度も付き合ったこともないから、普通の会話やメッセージのやりとりだけでも苦労する。

「浩平は真面目なのだけが取り柄だね」

 親にも友達にもずっとそう言われてきたし、自分でもそう思う。
 でも、そんなところをいいと思ってくれる女性がどこかにいるんじゃないか?
 そんな期待を抱いて、三十代後半から婚活アプリをはじめた。

 でも、会うことができたのはわずかに数回だけ。
 なんとか会うことができても会話が続かない。相手が退屈そうにしているのに気づくと、余計に焦って空回りをする。お茶や食事が終わると、相手は逃げるように帰ってしまう。全部そう。
 せめて会話が上手なら、女性も少しは楽しんでくれるだろうに。

 女性以外となら普通に話せるし、相手を笑わせることもできる。職場ではお客さんに声をかけてもらうことも多い。
 でも相手が女性となると途端にうまく話せなくなる。嫌がられてないか、変なことを言ってないかと気になって言葉が出てこない。

 婚活アプリの相手にはさらに(好意を持ってもらいたい)という欲が加わるので、余計になにをどう言ったらいいかわからなくなる。
 でも苦手だから怖いからと逃げていたら、死ぬまで女性には縁がないまま人生を終えることになるだろう。
 諦めたらなにも変わらないまま。諦めない限り、チャンスだけはもらえる。

「落ち込むなって。次だよ次。がんばれ」

 自分で自分を元気づけるのも慣れっこになった。
 でも気持ちを切り替えるためには、少しだけお酒の力が必要な気がした。


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