リサシテイション

根田カンダ

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第38話 戦争開始

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 予定より早く日本に到着した《シマー》軍は、九州北部で700、山陰地方で400、関西日本海側で100程と、兵力では嶋達が圧倒的有利だったが、実際に人を虐殺した軍団の異常性に、昨日までごく普通の生活をして来た日本の協力者達は、完全に萎縮してしまっていた。
 実際の肉体はナノマシンに守られ、『アバダー』である戦闘用の身体は撃たれても斬られても痛みは無かったが、潜在意識にある感覚によっての恐怖の為に萎縮し、逃げる事すら出来ない者達が大勢いた。
 やはり互角に戦えているのは自衛隊員達と、一部のeスポーツプレイヤー達だけだった。
 嶋がいる博多は、自衛隊ナノマシン部隊が集結しており、戦況は自衛隊側が完全に主導権を握り、博多の《シマー》軍は再生も追い付かず、次々と倒れ消滅させられて行った。
 嶋はその戦況を見て、長崎へ向かった。
 途中佐賀で数百名の日本部隊が、《シマー》軍80を完全に包囲していた。
 だが日本側は攻めあぐねている様だった為、嶋は《シマー》軍に突っ込んで行った。


[人を殺した連中の異常性に、完全に呑まれている…。]


 人間は精神に支配されている生き物だ。
 肉体的な筋肉量がどれ程あっても、相手の気迫に呑み込まれてしまえば、指一本動かせなくなってしまう事もある。
 それに数で有利に立っていれば、油断や驕り、誰かが戦うだろうと気を抜く者も出てくる。



 嶋は敢えて無言で地上に降り立ち、背中の2本の刀を抜き《シマー》軍に正面から突入。
 《シマー》兵の首だけを斬り飛ばしながら、でたらめに激しく襲い掛かった。


「わははははっ!悪魔の軍団は、こんなモンかっ!」


 笑いながら『殺戮』を繰り返す嶋に、
ナノマシンの身体と言えど首が飛ばされて行く姿に、《シマー》軍は恐怖した。
 更に嶋の刀には雷属性が付与されており、斬撃と共に雷撃も襲い掛かっていた。
 斬撃よりも雷撃によるダメージは深刻で、間近で喰らった《シマー》兵は、一瞬で消滅させられていた。
 たった1人で飛び込んできて、強烈な勢いで闇雲に暴れる嶋に、《シマー》軍は完全に戦意を削がれていた。
 嶋から逃れ様とする兵達は、取り囲む日本部隊の餌食となり、程なく《シマー》部隊は消滅し、日本部隊から歓声が上がったが


「次が来る!防衛体制を!」


 嶋はそれだけ叫んで、西の空へジャンプした。
 2度のジャンプで、崩れ去った平戸大橋と戦闘音が聞こえた。
 嶋は両脚からエネルギーを噴射し、音速に近い速度で戦場に突っ込んだ。
 地面を抉り滑りながら射線上の《シマー》兵をすれ違い様に切り倒し、一撃で20体程の《シマー》兵を消滅させた。
 残りはまだ50体程の《シマー》軍がいたが、平戸市のシンボルとも言える平戸大橋を堕とされた事で、怒りが頂点に達していた平戸出身協力者達によって、瞬く間に消滅させれられた。


[ナノマシンと人数では分があっても、やはり士気の問題か…。
 『アリサ』、民間への被害はどうだ?]


ーーー平戸大橋はもとより、博多西大橋、博多繁華街ではビル倒壊多数。
 敵出現地域での死者35名、負傷者500を超えています。ーーー


[敵1200に死者35名は、多いな…。]


ーーー想定内では御座います。協力者の皆様は、敵殲滅攻撃には消極的ではありますが、守備や一般人の救助に関しては優秀で御座います。ーーー


 ロシアとインドでは、ドム・ボロス1体に国が滅ぼされ、朝鮮半島と中国は数百万の軍勢によって、20億近い人類が滅ぼされた。
 それを考えれば、35名の犠牲ならば少ないとは言えたが、嶋は違った。


[街は破壊されても、復興出来る。でも命は失われれば、取り戻す事は出来ない。]


 嶋自身がナノマシンの身体と記憶のデータ化で、永遠の『命』を持ってはいても、現在の自分が『生きて』いるのかどうか?
 嶋自身、わからなくなっていた。


[俺の命は、もう消えてなくなっている。
 その俺のせいで、30億を超える人の命が失われた…。]


 嶋が答えの出ない思考に囚われていた時、『アリサ』がアラートを発した。


ーーー敵先陣大部隊到着します。約60000の兵が、到達地域でそれぞれ実体化すると思われ、ゲリラ攻撃を繰り返し神戸へのルートを取ると思われます。
 各員、眼前に敵が現れた場合は、躊躇なく撃破願います。ーーー



 『アリサ』は人的被害の予測を立てていたが、それは嶋に伝えなかった。
 都会程避難状況は悪く、死者50万人、負傷者に至っては1000万人を超すと予測していた。
 

[人的被害の予測は!?]


 嶋は『アリサ』が、敢えて伝えなかった事に気付きながらも尋ねた。


ーーー都会程若者の方達の避難が進んでおりません。
 その様な状況下での予測となりますと、死者50万人オーバー、負傷者に至っては1000万人と予測されます。
 避難勧告に従わなかった人達には、犠牲も已むなし、と協力者の皆様には戦って頂く事となります。ーーー


 九州北部及び山陰地方での、圧倒的数での有利に立ちながら、犠牲者が出た。
 それも人口密集地の博多に出現した敵は、繁華街から離れた海岸地区がほとんどだった。
 しかも自衛隊も集結していながら、死者や負傷者が出た。


[60000VS75000、数ではこっちが有利でも、殺人者と一般人の差は埋められないか…。]


 事実九州北部に限定しても、700VS10000の兵力差においても死者は出ており、自衛隊協力部隊の少ない地域では精神的#____#に呑み込まれ、嶋がいなければ敗北していたかもしれなかった。
 

[『昇陽』を放棄して、ポーアイの皆さんに、各地に向かってもらう事も考えてくれ。
 『昇陽』にも俺のセキュリティーは入ってる。簡単には利用出来ねぇよ。]


 神戸、大阪には自衛隊協力部隊が集結し、広島は


「ワシらは、広島じゃけえ!広島を焼け野原に、2度としたらいけんのじゃ!
 広島は、広島の人間が守るんじゃけ!」


 世界で唯一の被爆国日本。
 日本に落とされた2発の原子爆弾の1つが落とされたのが広島市。
 人が虐殺され街を破壊される事に、極端に嫌悪を感じる『広島遺伝子』は、大戦を知らない世代にも受け継がれていた。
 もう1つの被爆地長崎も、平戸大橋が堕とされた事もあり士気が高かった。


[広島、長崎は大丈夫だな。]


 その時、嶋のいる博多にレオ・テスカポリが降り立った。
 博多防衛部隊はレオの神々しい姿に後退りしてしまったが、レオが嶋の頭に顎を乗せた姿を見て笑いが起こった。


「お…俺の頭…。」


 嶋は反応に困ったが


ーーー異形の敵の気配を感じとったのか、飛び出して行かれました。
 もう一頭のパートナーは、鳥取砂丘に降り立ちました。ただ…。ーーー


 その時、博多の防衛隊から歓声が上がった。


「お~いっ!」


 嶋の頭上、レオの立て髪付近から、幼い可愛い声が聞こえた。



「アリサ!」


 嶋は横にズレてレオを見上げると、レオの立て髪の間から、アリサが博多の防衛隊に向け、小さな両手を振っていた。
 アリサは嶋に気付き


「やぁ~っ!」


 ぴょん!と跳ねて、嶋に向けて飛び降りた。
 嶋は慌てて両手で受け止め


「なぜ、来たんだ?危ないぞ!」


「にゃんにゃんが、行くって言った!」


 アリサは嶋に喜んでもらえると思っていた様で、頬を膨らませて拗ねた。
 レオは少し喉を鳴らし、地面に伏せた。
 嶋はレオの立て髪にアリサを戻し頭を撫でて


「にゃんにゃんから離れたらダメだよ?」


 レオの背にいる事が、1番安全だと判断したのだ。


「レオ、頼みます。」


 嶋はそう言って、北の空を見た。レオを立ち上がり、四肢を踏ん張り唸り声をあげた。


ーーー敵襲来です。ーーー


 同時に至る所でサイレンが鳴り出した。
 博多港上空で実体化した《シマー》軍が続々と地上に降り立ち、大軍となって雪崩込んできた。
 博多だけでなく、各地で始まった。
 ただ《シマー》軍に統率はなく、破壊と殺戮に快楽を求めるだけで、闇雲にあたり構わず破壊や攻撃を仕掛けて来た。
 日本防衛隊は自衛隊が主導し防衛線を敷き、点ではなく面での迎撃を開始した。



「日本の猿が!お前らもぶっ殺してやるよ!」


「いぃ~やっはぁーっ!死ねぇ!」


「俺らに銃なんか、効かねぇよ!」


 《シマー》軍は、先入りした筈の仲間達の事も気にせず、嶋達を人間の兵士と思っていた。
 ナノマシンの雷属性が付加された銃弾に、最前線に突っ込んで行く連中が消滅しても、気にも留めていなかった。

 日本側の銃撃が続く中、嶋はジャンプし《シマー》軍のど真ん中に飛び降り、手当たり次第に斬りかかった。


「突っ込んで来やがった!(笑)日本にもイカれた奴いるんだな!(笑)」


 すぐに嶋は包囲され囲いができ、見下した様な視線を向けられた。


「オメェ、もしか俺らと同じか?
 なら裏切りモンだな。裏切りモンは、八裂きだ!かかれ!」


 巨大な剣、魔法、肉弾攻撃、弓矢等、四方八方から攻撃を受けたが、嶋にはまったく効果がなかった。
 嶋は落ちついて周りを見渡し、防衛隊が踏ん張っているのを見届けて


「死ぬってどんな感じか、あとで教えてくれよ?」


 そう言って少し笑い、両手を広げて刀を空に向け少し腰を落とした。
 その一瞬後、両手の刀を振り回しながらダッシュした。
 10メートル程のダッシュで、数十人の《シマー》兵を消滅させた。
 足を止め戦果を確認した時、嶋を雷撃が襲った。


「舐めてんじゃねぇぞ、JAP!」


 ファンタジー世界の魔法剣士の様な《シマー》兵が叫んでいたが、その声を遠くに聞きながら、嶋は驚いて自分の握る刀を見ていた。
 その間も《シマー》軍は襲い掛かって来ていたが、その全てを救出していた。


[今の、雷撃だよな…。]


 その証拠に、落雷の瞬間に嶋の側にいた《シマー》兵は消滅し、今嶋に襲い掛かって来ている兵達は、別の兵達だった。
 嶋が空を見上げると、視界が眩い光に包まれ、その瞬間再度雷撃が落とされた。
 嶋を中心に半径2メートル程の兵達は消滅し、やはり嶋だけは立っていた。



[『アリサ』、俺に雷撃が効かない。]


ーーー敵雷撃エネルギーをマスターは吸収されました。
 こちらのストックで調査します。ーーー


 それだけ聞いて嶋は、魔法剣士へ刀の雷撃を飛ばし、直撃を喰らった魔法剣士は声もなく消滅していた。
 それだけ確認し嶋は考える事をやめ、迫り来る《シマー》兵達に斬り戦闘に没頭した。

 一方その頃真一達のチームは、京都に向かっていた。
 手薄な舞鶴山中に《シマー》軍数千が現れたからだった。


「僕達4人が応援行くだけで、守れるのかな?」


 真一が不安気に行って、スナイプが答えた。


「大丈夫だから、『アリサ』は俺達に言ったんだろ?」


「そうだよ。それに山中のゲリラ戦なら、『コザショ』で何回もシュミレートしたじゃん。」


 ケンが続けた。


「空も飛べますし、私達ならヤレます!」


 実際にはジャンプしてるだけだが、嶋がシリコン・バレーで行ったやり方を、『アリサ』を通じて教わっていた。
 真一達は同時に舞鶴の地形をインストールしていた。


「五老スカイタワーか。俺はここで狙撃バックアップだな。
 舞鶴湾と周辺の山も一望出来る。」


「でも…スカイタワーから金ヶ崎まで最長で6キロあるよ?」


 真一がマップを確認しながら言った。


「敵はもう上陸してるんだろ?
 じゃあもう金ヶ崎にはいねぇ。南に下って来てる筈だ。
 現地チームは湾向かいのマリーナで防衛線張って、東では自衛隊の基地が攻勢しかけてんじゃん。
 ナノマシンのライフルなら、4キロまでなら成功出来る。」


 実際ナノマシンのライフルと弾丸であれば、その射程は10キロにも及ぶ。
 どれ程精密に、精巧に造られたライフルでも、やはりコンマ2桁程度の誤差は出る。
 だがナノマシンのライフルならば、薬莢内での爆発エネルギーも、それによる熱による一瞬の薬莢の膨張も抑えられ、爆発エネルギーが100%弾丸に伝えられる。
 銃身内を走る時に加えられる回転エネルギーも、空気を切り裂き進むスピードも、弾丸が完全な円形と完全左右対称な為に、風など他の作用が働かない限り一直線に進む。
 
 スナイプならば、トレーニングを積めば10キロの狙撃も可能になる筈だ。


「スナイプが狙撃援護してる間に、俺達は山中を北西へ向かう。
 防衛線をすり抜けた敵を、俺らが索敵し撃破する。」


「「「了解!」」」


 真一は『影虎』になっていた。


 やがて五老スカイタワーが視界に入ると、真一達は視力を戦闘モードにチェンジした。
 視力をチェンジした途端、目指す山中に敵が赤い点で映し出された。
 

「山中を南下中のエネミー約100!
 各個撃破していく!」


 真一がそう叫んだ瞬間、西の後方下から銃弾が無数に襲って来た。


 防衛線をすり抜け山中を進んだ《シマー》兵数十が、既に千石山まで南下し、真一達は気付かず飛び越していたのだ。


「敵!後方千石山中に150!
 スナイプ、俺らはここで下りる!
 千石山殲滅したら、そのまま北上する!」


 そう言って真一達3人は、千石山へと降下した。




 
 



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