リサシテイション

根田カンダ

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第31話 東方覇権

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 嶋は古田と共に横須賀へと向かっていた。
 RPGでの攻撃の後、秋葉原のオフィスに一度戻った嶋達は、真一や夏菜、飯塚達に休息をとらせ、ボディーガード達を全国にある内の6ヶ所の在日米軍基地へ向かわせた。
 実際は在日米軍基地は施設で言えば80もの基地があるが、弾薬庫や物資等の後方支援基地や、通信基地、有事一時利用の施設がほとんどであり、大規模戦闘部隊を要する基地は6つの基地に集中していた。
 戦時下で実際に作戦行動に移って出撃する6つの施設に向かった嶋達は、全員が戦時下における陸上自衛隊の重装備だ。
 だが見た目は同じ装備でもナノマシンで組み上げられた装備であり、自動小銃ですら対戦車ライフル程の威力があった。


「柴田、社長は本気なんだな。
死なせるな!とは言わなかった。」


 柴田のチームの安藤が、少し緊張した声で言った。
 安藤は元傭兵で、アフリカのある国の内戦で反政府組織に雇われたが、革命軍の捨て駒にされ戦死していた。 
 柴田は笑いながら安藤に答えた。


「社長は俺らに、殺すなって1度も言った事ねぇだろうよ(笑)
 古田も勘違いしてっけど、社長が言ったのは井上さんや夏菜ちゃん達にだけだ。
 俺らは全員が敵に殺された奴ばっかだし、その俺らに社長はそんな甘い事は言わねぇよ!
 だから川中は、オフィス警備だろ?川中は俺らと違って、生きてんだから。」

「…そう言や、そうだな。」

「そもそも社長はもう、ハワイ基地を壊滅させてんだ!何万人も殺してんだろ?
 本気でアメリカをぶっ潰すつもりなんだよ。そうしねぇと、理由もなく日本人が殺されるんだ。
 それを許す社長じゃねぇ。」


 柴田と安藤、武本と宮脇の4人で、完全武装の戦闘ヘリで沖縄へ向かっており、武本と宮脇もヨーロッパで戦死した傭兵だった。
 沖縄米軍基地にはまだ40000の残留兵士がおり、苛烈な戦闘が予想される為、4人が志願したのだった。
 戦闘ヘリもナノマシンで出来ており、4人が地上戦に突入すると同時に、無人戦闘ドローンに変化し、偵察や攻撃によって4人を援護する。
 各基地へ向かったボディーガード達は、制圧完了次第に沖縄へ向かう手筈となっていた。

 
 嶋と古田の2人は横須賀基地上空にいた。
 横須賀基地を包囲する旅団規模5000人の自衛隊員達。
 武装解除して投降するよう呼びかける放送がされていたが、残留兵士とは言えど包囲する自衛隊の倍以上の人員が残る米軍に、投降の意思があろう筈も無かった。
 籠城する米軍の基地上空を、挑発する様に飛行する古田の操縦する戦闘ヘリに、自衛隊から所属と作戦目的、撤退命令の無線が入ったが


「俺は嶋、田中学だ!そっちの命令を聞く義務も、従うつもりもない!
 黙って見てろ!」


 嶋は無線に向かって怒鳴り付けた後


「古田さん、私が基地に突っ込みますから、自衛隊の援護お願いします!」

「えっ!?」


 古田が答える前に、嶋の身体は宙を舞っていた。


「わははははっ!ぶっ殺したる!わははははっ!」


 低空飛行してたとは言え、地上までは100メートル。
 パラシュートなど着けてもなく、嶋は自由落下の速度で、米兵が張る防衛線の内側ど真ん中の地面に落下した!
 火薬の爆発音に似た、低く轟く墜落音と同時に、砂煙が立ち上がり瓦礫が飛び散った。
 米兵達は驚きながらも、落下地点の砂煙に向け、即座に射撃体制を取っていた。


「わははははっ!テメェら皆殺しだっ!」


 砂煙が晴れると同時に、両手に日本刀の嶋が仁王立ちで叫んだ。
 米兵達はすぐさま一斉射撃したが、ナノマシンの嶋に効果がある筈もなく、嶋は高笑いをしながら目の前の小隊に向け切り掛かった。
 両腕を交差し助走を付けたジャンプと同時に、両腕をクロスに振り下ろした事によって生じた2本の斬撃は、扇状に拡がりながらボディーアーマーごと兵士達を切り裂いていった。
 米兵を切り裂きながら進んだ斬撃は、100名を超える米兵の命を奪い、その倍以上の兵士を戦闘不能にした。
 それでも嶋は追撃の斬撃を飛ばす。
 着地と同時に左に大きく両手を振りかぶり、2つの刀身を平行に右に向けて180度回転した。
 2本の斬撃は、先程と同じく扇状に拡がりながら、後方待機の兵士達を含め切り裂いて行った。
 その間も狂気の高笑いを続ける嶋に米兵は恐怖し、パニックに陥り散り散りに銃を捨て、助けを求めて霧散して行った。
 

「逃すか、ボケーッ!」


 逃げる米兵の背を負いながら、再度両腕をクロスに構え振り下ろし、斬撃を飛ばし、兵舎には容赦なく手榴弾を投げ込んだ。
 既に1000に迫る米兵が命を落とし、血の海と化した戦場で、嶋は真っ赤に血に染まりながら、追撃を続けていた。
 だが遂に古田が地上に降り、嶋を後ろから羽交い締めにした。


「社長!ここまでっ!ここまでっ!」


 狂気を見せつけながらも冷静だった嶋は、古田の静止にすぐに力を抜いた。


「司令官!出て来い!」

 血に染まりながら、腰を抜かし尻餅をつき逃げ遅れていた米兵に、嶋は切っ先を突きつけながら言った。
 米兵は英語で


「help!」


 と叫んだが


「ここは日本だっ!日本語で言え!」


 と、無慈悲に切り捨てた。


「コラッ!アメリカ人!ここは日本だ!テメェら他人の国に来て好き勝手しやがって!
 助けて欲しけりゃ、日本語で言えっ!」


 そう言って血の海を歩く嶋に、10000を超す米兵は恐慌を起こし戦意喪失し、横須賀基地は、いとも簡単に陥落した。
 基地のゲートが開き乗り込んできた自衛隊員達はその惨状を見て、嶋に怒りの視線を向けた。


「なんだよ、その目はようっ!なんか文句あんのか!ああっ!
 そういやテメェらは、岩村派だったよなぁ!
 ここでテメェらも、ひき肉にしてやろうか!」


 つい先日まで同盟関係にあったアメリカ軍。
 共同演習や情報交換で、顔見知りの兵達もいたのだろう。
 嶋の言葉に、1人の隊員が喰ってかかった。


「貴様!ここまでする必要あったのか!」


 「ああん?」


 血に染まった姿で、日本刀を両手に握ったままだらりと垂らし、背後に立つ古田に大きく響く声で嶋は問いかけた。


「古田さん、他の基地で自衛隊員何人死にました?」


「厚木と横田で70名!
 沖縄で既に110名が戦死しています!
 合計200余名の自衛隊員が命を落としました!
 負傷者は数百人を超えます!2010年、オスロ条約によって禁止されたクラスター弾が使われました!」


 それを聞き、嶋に喰ってかかった自衛隊員は言葉を失った。


「嘘だと思うなら防衛庁に確認しろ!馬鹿野郎!
 テメェらが仲良し子よしでチンタラしてた時に、他の基地では戦死者が出てんだ!
 それを踏まえて、テメェ俺に何つった!ああっ!
 デッケえ声で、もっかい言ってみろ!」


 自衛隊員は膝から崩れ落ち、両手をついて震えていた。
 遠巻きに見ていた自衛隊員達も、ただ力無く声を出せずにいた。
 嶋は目の前で手をつき震える隊員の顔面を、情け容赦なく蹴り上げ


「つまんねぇ芝居でよう!日本を護る為に大切な命投げ出した英霊を汚すんじゃねぇよ!
 ああ!何か言ってみろよ!これは戦争だ!遊びじゃねぇんだ!
 戦争で人は死ぬんだよ!テメェらが仲良し子よしで遊んでた時、テメェらの仲間が戦争で命を落としたんだ!
 それも禁止されたクラスターでよ!
 で!テメェは米兵殺したら文句たれんのか!
 テメェらは、どっちだ!アメリカだっつうなら、俺が今!この場で皆殺しにしてやる!
 覚悟しろよ?」


 そう言って嶋は両手を左上段に構え、腰を落として斬撃体制に入った。


「社長!相手は一応日本人だ!高岡さんに任せよう!
 それより沖縄へ!」


 古田の言葉に構えを解いた時、自衛隊旅団指揮官を名乗る1等陸佐が進み出た。


「陸上自衛隊1等陸佐、沢田であります!
 敵RPGランチャーより、クラスター弾を発見致しました!
 もし使用されていた場合、我が隊の被害は甚大で…」


 嶋は敬礼直立不動の沢田に視線を泳がせたが、何も言わずにヘリに乗り込み出発した。
 眼下には、夕焼けに染まる空以上に赤い血の海が広がっていた。
 苦しそうな表情の後


「急ぎましょう。日没が来ても、戦闘が停止する保証はない。
 柴田さん達を、悪魔にしたくはない。
悪魔は私1人でいい。」



 横須賀の惨状の報告を受けた戦闘中の横田、厚木、岩国、佐世保米軍基地は、投降した。
 間もなく日没が来る事から、沖縄だけは投降しなかった。
 沖縄に散在する米軍基地。だが殆どの兵が、最大規模の嘉手納空軍基地一帯、キャンプハンセンを含めた基地軍一帯へ集結していた。
 だがキャンプハンセン一帯は、撤退後の事後処理要員等の非戦闘員が8割を占め、横須賀陥落後に投降していた。
 だが20000の戦闘要員の残る嘉手納基地は、他の基地からの避難兵を収容し、徹底抗戦の構えを見せていた。



 嶋が横須賀を堕とした時、柴田達はまだ鹿児島上空だった。
 その柴田達に『アリサ』から通信が入った。


ーーーマスターと古田さんが横須賀を陥落致しました。
 それを受けて厚木、横田、佐世保、岩国が投降、沖縄ではキャンプハンセン周辺基地が相次いで投降。
 残るは嘉手納基地を中心とした基地軍で、兵力30000。
 それを包囲する自衛隊は10000。
日没が近く、戦闘は停止しておりますが、油断はならない状態です。ーーー


「もしかして、社長が1人で?」


ーーーはい。自衛隊は投降を呼びかけるだけで、米軍からも攻撃はなく戦闘は行われませんでした。
 ですが厚木、横田、嘉手納では米軍によりクラスター弾が使用され、200名の自衛隊員が死亡。負傷者は1000名に上ります。ーーー


「社長、キレたんだ…。」


ーーーマスターと古田さんがそちらに向かってます。自衛隊に合流し、マスターの到着をお待ち下さい。
 但し、米軍側から攻撃が行われた場合は、その範囲ではありません。ーーー


「わかった。」


 柴田達には、嶋が苛烈な攻撃を仕掛けた事は容易に想像できた。
 いかに訓練された兵士と言えど、地獄の如き惨状を見せつけられれば、恐怖に支配され戦意を喪失する。
 自衛隊の被害を最小限にする為に、敢えて嶋は修羅の道を選んだ。
 柴田達全員がそれを理解し、嶋だけに修羅の道を歩かせ、悪魔と呼ばれる事を受け入れる事は許されず、嶋の到着を待たず嘉手納基地殲滅を決めた。
 『アリサ』は嶋の殺戮映像は流さず、厚木、横田、沖縄の米軍と自衛隊との戦闘映像だけを流した。
 嶋が《シマー》軍と同様に見られる事を避ける為だった。


ーーーマスターは、ナノマシンその物を、危険過ぎる存在と認識させ、《シマー》を破壊、軍団も壊滅させた後、美保子様とアリサ様を含め、自身をも消滅させようとしている。
 私にはそれを阻止する義務があるーーー


 嶋によって生み出された『アリサ』は、嶋に絶対服従を自身に課し、嶋を守る事を義務としていた。
 嶋に服従し、嶋を守るが為に嶋の命令に反く事もいとわないと言う姿勢は、『アリサ』が既に『人間』としての自我を持ち始めた事を物語っていた。


 柴田達が沖縄へと速度を上げた時、嶋と古田は既に高知沖を通過していた。
 2人が乗るヘリを、F44戦闘機へと変形させ、マッハ10を超える極音速で飛行していたからだ。
 本来のF44戦闘機に、それ程のスピードの飛行能力は無かったが、ナノマシンで形成された機体は、神の杖に匹敵する速度での巡行を可能としていた。
 柴田達が沖縄本島を視界におさめた時には、既に日が沈み暗がりが訪れようとしていた。
 その柴田達の遥か前方を、超高速の光の矢が、低空で沖縄本島を横切った。
 極音速により、機体表面を真っ赤に焼いた嶋達が、嘉手納基地上スレスレを横切ったのだ。
 強烈な爆発音を伴った桁違いのソニックブームは、基地の建物と言う建物を破壊した。
 横切った後、光の矢は大きく弧を描いて上昇し、再度嘉手納基地への侵入ルートを取った。
 生き残った防空システムが光の矢に向け攻撃するが、打ち出された全ての砲弾が、光の矢の遥か後方に流れていった。


「社長だ!俺らも攻撃するぞ!」


 嘉手納基地まで数キロの地点で、柴田達の乗るヘリはミサイルポッドから連続してミサイルを発射した。
 光の尾を引きながら、20発を超えるミサイルが嘉手納基地を襲った。
 別の防空システムから発射された25ミリガトリング砲が柴田達のヘリへ直撃するも、ヘリはスピードを大幅に落とされただけで、そのまま基地内に突っ込んだ。
 接地と同時に柴田達4名は散開し、各々が目標の防衛陣へ向かった。
 それを見ていた嶋は


「柴田さん達だ!私も降ります!」

「えっ!」


 またもや古田が答える間もなく、キャノピーは吹き飛ばされ、嶋の身体は宙に舞っていた。
 旋回により速度が落ちていたと言っても、音速の3倍は超えていた。
 その速度で慣性滑空しながら落下し地面に激突した嶋は、流石に身体を維持出来ず散り散りに弾けたが、数分で再生し司令部らしき建物に向かった。
 沖縄の星空の下、基地内の至る所で戦闘の銃撃音が響き、真っ赤に焼けた弾丸による光の射線が無数に走っていた。
 柴田達のヘリも再生し、低空でホバリング。
 水平に360度回転しながら、ミサイルとガトリングを乱射していた。
 古田はF44をコントロールし、嶋が向かったビルに特攻をしかけた。
 真っ赤な火柱があがり、4階建のビルは瞬く間に崩落した。
 同時に自衛隊がゲートやフェンスを突破し大挙して雪崩れ込む。
 ホバリングしガトリングを乱射していたヘリは、攻撃を止め着陸し停止。
 程なく双方の戦闘は、米軍の降伏で終了した。
 ようやく再生した古田は


「俺、何もしてねぇ!」
 

 集まって来ていた嶋達は、声を出して笑ったが、自衛隊員達からの歓声が上がると、ヘリに乗り込み直ぐに撤退した。
 基地を包囲していた陸上自衛隊、航空自衛隊のそれぞれの陸将と空将から感謝の通信が入ったが、嶋達は挨拶だけをして秋葉原へ進路を取った。
 沖縄へ向かってた他のボディーガード達からも


「俺ら着く前に、全部終わらせないで下さいよ!」

 佐世保へ向かってたボディーガード達は

「俺ら佐世保へ着く前に投降だし、沖縄に着く前に決着だし、マジで何もしてませんよ!どうしてくれるんですか、社長!」


 佐世保隊隊長の篠原が、呆れた様に抗議の通信をして来たが


「こ…、ら…、ま…」


 通信状況が悪いフリをしながら、そのまま通信機のスイッチを、嶋は切ってしまった。


「出た!社長の得意技!電波悪いフリ!」


 古田は呆れて笑いながら言った。
 嶋に罪悪感を感じさせない為に、古田は無理にふざけて明るくふるまったのだ。 
 その15分程前、小笠原海域から日本へ向かってたアメリカ第7艦隊は、レオ・テスカポリとユウナ・テスカポリによって、3隻の空母は轟沈、300機の戦闘機は空母と共に海に沈み、発艦していた100機も、レオとユウナに撃墜させられていた。
 他の艦艇も悉く大破させられ航行不能に陥り、アメリカ第7艦隊は完全に壊滅していた。


 クーデター成功から僅か数時間でのアメリカ合衆国軍の制圧。
 たった数名の不死の兵が、残留部隊とはいえ、60000を超える米兵を制圧。
 自衛隊側の損傷は、死者206名、負傷者975名。
 在日アメリカ合衆国軍の損傷は、死者1231名、負傷者728名だった。その数にハワイ基地、第7艦隊の被害は入っていない。
 完全消滅したハワイ基地の死者は数万に上り、第7艦隊においては空母3隻を失い、他艦艇も中破から大破。死者9500名、負傷者26700名、行方不明者1340名を数えた。
 第7艦隊最大兵力の60%が戦闘不能となり、100%の艦艇が自力航行不能となっていた。
 たった2体のナノマシンのクリーチャーによってであった。
 アメリカ合衆国は、インド洋から太平洋に至る東方覇権を完全に失った
 全世界は、一気に日本への警戒を高めながら、嶋の演説の真偽を確かめる為に、情報収集に奔走していた。
 













 

 









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