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56 代官様と王都に行くよ 2
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二人の兵士は、罪人用の木の食器にスープを入れて、小さな搬入口から罪人たちの前に押し出した。手を使えない彼らは、直接口を持っていくしかない。そんな惨めな姿を俺たちには見せる気はないのだろう。口元に不敵な笑みを浮かべて微動だにしなかった。
「トーマさん、行きましょう。こいつらが食おうが食うまいが、どうでもいいことです」
あはは……なかなか辛辣な兵士さんだ。
確かに、この罪人たちをどうしても生きたまま連れて行かなければならない積極的な理由はない。証拠の文書類は十分揃っているからだ。まあ、早ければ明日の夜には王都に着くので、死体になってもさほど問題ではない。臭いのが嫌だけどね。
翌日、アレス様は先を急ぎたいということで、馬たちの休憩を三時間に一回に減らして、整備された広い街道をひたすら馬車で進んだ。そして、いよいよボイド侯爵領を抜け、王の直轄領に入ろうとしたところで問題は起きた。
『マスター、前方と道の両側に敵が待機しています』
(やはり来たか)
「アレス様、馬車を止めてください。前方と道の両側に伏せ兵です」
「っ! うむ、分かった。馬車を止めよっ!」
俺は馬車から下りると、頭の中で素早く〈索敵〉の情報を分析し、作戦を組み立てた。
(正面に八人、左右に二人ずつか……四、五人ちょっと強そうな奴がいるけど、魔法使いはいないようだな)
「アレス様は、馬車の中にいてください。暗殺者がいるかもしれません。メリンダさんは、アレス様の護衛を。兵隊さんたちは左右の林の中にいる伏せ兵を片付けてください。正面の敵は、俺が引き付けますので、乱戦になったら、迷わずアレス様のもとへ戻ってください」
「当然だわ」
「了解した」
「分かった。トーマ君、無理はするなよ」
「はい。ええっと、言ってませんでしたが、俺は魔法が使えます。いざとなったら、使いますので、驚かないでください」
「ああ、知っていたよ。遠慮なく使ってくれ」
俺たちは行動を開始した。四人の私兵たちは二人ずつに分かれて、左右に散り、林の中に入っていく。俺は正面からゆっくりと走りだした。
相手もこちらの動きに気づき、戦闘体制をとってこちらへ近づいて来た。
「おい、止まれ、小僧」
「そうはいきませんよ。護衛の任務を受けてるんで」
「護衛だと、貴様がか?」
八人の男たちは一斉に笑い声を上げた。
「我々が用があるのは、馬車だ。ケガをしたくなければ、どけっ」
「だから、そうはいかないと言っているじゃないですか」
「うぬ、ならば、自分の愚かさを悔いながら死ねっ!」
先頭の隊長らしき男がサッと片手を上げた。
すると、右手の林の中から一本の矢が俺に向かって……いや、だいぶ狙いがずれて、俺の頭の上を通り過ぎていった。そして、その直後、左右の林の中から人の叫び声と、刃物がぶつかり合う音が聞こえてきたのである。
「くそっ、見つかった、奇襲は失敗だっ」
林の中から声が聞こえ、二人の男たちと兵士さんたちがもつれ合うように飛び出してきた。反対側の林の中でも、怒号と争い合う音が聞こえている。
「ぬうう、こうなったら、我々だけでアレス・パルマーを討ち取るのだ、行けっ」
正面の男たちが一斉に武器を抜いて、馬車に向かって走り出した。
(ん? なんか今、変な事言わなかったか? 「我々だけで」? ということは……)
俺はメイスを構えて迎撃する体制をとりながら、男の言葉の意味を考えた。
『マスター、まだかなり距離はありますが、街道をこちらに向かってくる一団があります』
っ! やっぱり、そうだったのか。こいつらは足止め役で、本隊が後ろから追いかけてきているってことか。よし、ここは一気に突破するしかない。
俺はそう心を決めると、目前に迫った男たちにウィンドカッターを放った。それによってたちまち混乱した男たちに突撃して、メイスで次々に殴って気絶させた。
残りは兵士さんたちと戦っている四人だ。こいつらはどう見ても冒険者だ。
俺は先ず、兵士さんたちが押されている方に向かった。一人はかなり手練れと思われる剣士で、もう一人はがたいが良い盾使いだ。
「おい、俺が相手だ」
俺の声に、二人の男たちは、ちらりと俺の方に目を向けた。そして、道に倒れた八人の雇い主たちを見て、明らかに動揺した。
「っ! な、なんだと? くそっ、ガキだと思って油断したな……」
盾使いの男はそう言うと、さっと後ろに後退して大きな声でこう叫んだ。
「お前ら、仕事は終わりだ。手を引けっ!」
彼の声に、四人の冒険者たちは戦いを止めて道の中央に集まった。
「そういうことで、俺たちは引き上げる。俺たちはそこの奴らに金で雇われただけだ。あんたらには何の恨みもねえ。見逃してくれ」
「俺が答えても良いですか?」
「ああ、トーマ君に任せるよ」
「ありがとうございます。じゃあ、あんたら、ここであったことは一切口外しないでくれ。そうすれば、あんたたちのことをギルドに報告はしないと約束する。あの馬車にはブラストの街の代官様が乗っているんだ。貴族間のごたごたに巻き込まれたくはないだろう?」
「っ! あ、ああ、分かった。そんな事情だとは知らずにすまなかった。じゃあ、俺たちはこれで引き上げる。おい、帰るぞ」
四人の冒険者たちは同じパーティなのだろう、俺たちに一礼するとさっと身をひるがえして走り去っていった。
さて、ぐずぐずはしていられない。俺は、兵士さんたちを促して馬車に戻った。
「アレス様、ここは片付きましたが、後ろから、恐らくボイド侯爵の軍と思われる一団が迫っています。すぐに、出発してください」
「それは、本当か? なぜ、分かったんだね?」
「俺は、索敵のスキルを持っています。かなり遠い範囲まで知ることができるんです」
「……そうか、分かった。よし、出発だ」
俺は、馬車に乗らず、アレス様に言った。
「俺はここで時間稼ぎをやってみます。どうかご無事で」
「なっ、そんなことをさせるわけには……」
「俺一人なら、どうにでもなります。ご心配は無用です。さあ、早く行ってください」
アレス様は、それ以上抵抗しなかった。馬車が動き出すと、最後に窓から顔を出して叫んだ。
「トーマ君、必ず生きて王都に来てくれ。王都に着いたら、すぐに冒険者ギルドのギルマスを訪ねるんだ。約束だよ」
「分かりました。どうぞお気を付けて」
アレス様は、馬車が遠くに見えなくなるまで、窓から顔を出して俺を見ていた。
「さて、もうひと働きするとしますか」
『追手は、約二百メートルの所まで来ています』
「よし、先ずこいつらを逃げられないように、埋めるか」
俺は、道に倒れた八人を横一列に並べた後、土属性魔法でそいつらの足元に穴を作った。そして、穴にそいつらを落とすと、上半身だけ地上に出るように穴を埋めた。
『マスター、来ました。騎馬兵十六騎です』
♢♢♢
「っ! 止まれぇっ!」
先頭を馬で飛ばしていた部隊長の男は、前方の異様な光景に気づいて後続に手を上げて合図した。
彼らの前方の道の真ん中に小さな少年が立っており、その後ろに地面から上半身だけを出して埋められた八人の男たちの姿があった。
部隊長はゆっくりと前進し、少年の五メートル前で止まった。
「やはり、そこに埋まっているのはミラーたちか……おい、小僧、なぜここに立っている?」
「ねえ、おじさんたち、ここでこの人たちを掘り出すなら、俺は邪魔しないよ。でも、この人たちをほったらかして、王都に向かうって言うなら、おじさんたちもここに埋まってもらおうと思うけど、どうする?」
俺の言葉に、騎士たちは驚愕した表情でお互いの顔を見合った。
「我らを埋めるだと? お前は宮廷大魔導士様か何かのつもりか?」
隊長の言葉に後ろの何人かが笑い声を上げた。だが、隊長の目は明らかに警戒し、決して笑ってはいなかった。
「ああ、信じないんだね。じゃあ、ほら……これでいいかな?」
俺は彼らの前の道に魔法で、二メートル×二メートル、深さ一メートルの穴を即座に作って見せた。
「なっ、何だと? き、貴様、何者だ?」
「さあ、見ての通りの子どもだよ。それより、どうするの?」
「わ、分かった。その者たちを掘り出す」
「うん、じゃあ頑張って」
俺は、騎士たちが剣や槍を使って必死に八人の男たちを掘り出す様子を見守った。
(これで、だいぶ時間は稼げたかな……しかし、天下の往来をかなり壊してしまったな。ああ、前にも後ろにも、かなり馬車が並んじゃってるよ。すみませんでした。後でちゃんと元通りにしておきます)
『魔力の放出がスムースになりましたね。もう、中級魔法も使えるはずです』
ナビさん、おれ、必死で現実問題に対処してるんですけど……少しは、有効なアドバイスをお願いしますよ。
『マスターを信頼しています。今の所、私がアドバイスする余地は全くありません』
さ、さいですか、それはどうも……。
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読んでくださって、ありがとうございます。
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「トーマさん、行きましょう。こいつらが食おうが食うまいが、どうでもいいことです」
あはは……なかなか辛辣な兵士さんだ。
確かに、この罪人たちをどうしても生きたまま連れて行かなければならない積極的な理由はない。証拠の文書類は十分揃っているからだ。まあ、早ければ明日の夜には王都に着くので、死体になってもさほど問題ではない。臭いのが嫌だけどね。
翌日、アレス様は先を急ぎたいということで、馬たちの休憩を三時間に一回に減らして、整備された広い街道をひたすら馬車で進んだ。そして、いよいよボイド侯爵領を抜け、王の直轄領に入ろうとしたところで問題は起きた。
『マスター、前方と道の両側に敵が待機しています』
(やはり来たか)
「アレス様、馬車を止めてください。前方と道の両側に伏せ兵です」
「っ! うむ、分かった。馬車を止めよっ!」
俺は馬車から下りると、頭の中で素早く〈索敵〉の情報を分析し、作戦を組み立てた。
(正面に八人、左右に二人ずつか……四、五人ちょっと強そうな奴がいるけど、魔法使いはいないようだな)
「アレス様は、馬車の中にいてください。暗殺者がいるかもしれません。メリンダさんは、アレス様の護衛を。兵隊さんたちは左右の林の中にいる伏せ兵を片付けてください。正面の敵は、俺が引き付けますので、乱戦になったら、迷わずアレス様のもとへ戻ってください」
「当然だわ」
「了解した」
「分かった。トーマ君、無理はするなよ」
「はい。ええっと、言ってませんでしたが、俺は魔法が使えます。いざとなったら、使いますので、驚かないでください」
「ああ、知っていたよ。遠慮なく使ってくれ」
俺たちは行動を開始した。四人の私兵たちは二人ずつに分かれて、左右に散り、林の中に入っていく。俺は正面からゆっくりと走りだした。
相手もこちらの動きに気づき、戦闘体制をとってこちらへ近づいて来た。
「おい、止まれ、小僧」
「そうはいきませんよ。護衛の任務を受けてるんで」
「護衛だと、貴様がか?」
八人の男たちは一斉に笑い声を上げた。
「我々が用があるのは、馬車だ。ケガをしたくなければ、どけっ」
「だから、そうはいかないと言っているじゃないですか」
「うぬ、ならば、自分の愚かさを悔いながら死ねっ!」
先頭の隊長らしき男がサッと片手を上げた。
すると、右手の林の中から一本の矢が俺に向かって……いや、だいぶ狙いがずれて、俺の頭の上を通り過ぎていった。そして、その直後、左右の林の中から人の叫び声と、刃物がぶつかり合う音が聞こえてきたのである。
「くそっ、見つかった、奇襲は失敗だっ」
林の中から声が聞こえ、二人の男たちと兵士さんたちがもつれ合うように飛び出してきた。反対側の林の中でも、怒号と争い合う音が聞こえている。
「ぬうう、こうなったら、我々だけでアレス・パルマーを討ち取るのだ、行けっ」
正面の男たちが一斉に武器を抜いて、馬車に向かって走り出した。
(ん? なんか今、変な事言わなかったか? 「我々だけで」? ということは……)
俺はメイスを構えて迎撃する体制をとりながら、男の言葉の意味を考えた。
『マスター、まだかなり距離はありますが、街道をこちらに向かってくる一団があります』
っ! やっぱり、そうだったのか。こいつらは足止め役で、本隊が後ろから追いかけてきているってことか。よし、ここは一気に突破するしかない。
俺はそう心を決めると、目前に迫った男たちにウィンドカッターを放った。それによってたちまち混乱した男たちに突撃して、メイスで次々に殴って気絶させた。
残りは兵士さんたちと戦っている四人だ。こいつらはどう見ても冒険者だ。
俺は先ず、兵士さんたちが押されている方に向かった。一人はかなり手練れと思われる剣士で、もう一人はがたいが良い盾使いだ。
「おい、俺が相手だ」
俺の声に、二人の男たちは、ちらりと俺の方に目を向けた。そして、道に倒れた八人の雇い主たちを見て、明らかに動揺した。
「っ! な、なんだと? くそっ、ガキだと思って油断したな……」
盾使いの男はそう言うと、さっと後ろに後退して大きな声でこう叫んだ。
「お前ら、仕事は終わりだ。手を引けっ!」
彼の声に、四人の冒険者たちは戦いを止めて道の中央に集まった。
「そういうことで、俺たちは引き上げる。俺たちはそこの奴らに金で雇われただけだ。あんたらには何の恨みもねえ。見逃してくれ」
「俺が答えても良いですか?」
「ああ、トーマ君に任せるよ」
「ありがとうございます。じゃあ、あんたら、ここであったことは一切口外しないでくれ。そうすれば、あんたたちのことをギルドに報告はしないと約束する。あの馬車にはブラストの街の代官様が乗っているんだ。貴族間のごたごたに巻き込まれたくはないだろう?」
「っ! あ、ああ、分かった。そんな事情だとは知らずにすまなかった。じゃあ、俺たちはこれで引き上げる。おい、帰るぞ」
四人の冒険者たちは同じパーティなのだろう、俺たちに一礼するとさっと身をひるがえして走り去っていった。
さて、ぐずぐずはしていられない。俺は、兵士さんたちを促して馬車に戻った。
「アレス様、ここは片付きましたが、後ろから、恐らくボイド侯爵の軍と思われる一団が迫っています。すぐに、出発してください」
「それは、本当か? なぜ、分かったんだね?」
「俺は、索敵のスキルを持っています。かなり遠い範囲まで知ることができるんです」
「……そうか、分かった。よし、出発だ」
俺は、馬車に乗らず、アレス様に言った。
「俺はここで時間稼ぎをやってみます。どうかご無事で」
「なっ、そんなことをさせるわけには……」
「俺一人なら、どうにでもなります。ご心配は無用です。さあ、早く行ってください」
アレス様は、それ以上抵抗しなかった。馬車が動き出すと、最後に窓から顔を出して叫んだ。
「トーマ君、必ず生きて王都に来てくれ。王都に着いたら、すぐに冒険者ギルドのギルマスを訪ねるんだ。約束だよ」
「分かりました。どうぞお気を付けて」
アレス様は、馬車が遠くに見えなくなるまで、窓から顔を出して俺を見ていた。
「さて、もうひと働きするとしますか」
『追手は、約二百メートルの所まで来ています』
「よし、先ずこいつらを逃げられないように、埋めるか」
俺は、道に倒れた八人を横一列に並べた後、土属性魔法でそいつらの足元に穴を作った。そして、穴にそいつらを落とすと、上半身だけ地上に出るように穴を埋めた。
『マスター、来ました。騎馬兵十六騎です』
♢♢♢
「っ! 止まれぇっ!」
先頭を馬で飛ばしていた部隊長の男は、前方の異様な光景に気づいて後続に手を上げて合図した。
彼らの前方の道の真ん中に小さな少年が立っており、その後ろに地面から上半身だけを出して埋められた八人の男たちの姿があった。
部隊長はゆっくりと前進し、少年の五メートル前で止まった。
「やはり、そこに埋まっているのはミラーたちか……おい、小僧、なぜここに立っている?」
「ねえ、おじさんたち、ここでこの人たちを掘り出すなら、俺は邪魔しないよ。でも、この人たちをほったらかして、王都に向かうって言うなら、おじさんたちもここに埋まってもらおうと思うけど、どうする?」
俺の言葉に、騎士たちは驚愕した表情でお互いの顔を見合った。
「我らを埋めるだと? お前は宮廷大魔導士様か何かのつもりか?」
隊長の言葉に後ろの何人かが笑い声を上げた。だが、隊長の目は明らかに警戒し、決して笑ってはいなかった。
「ああ、信じないんだね。じゃあ、ほら……これでいいかな?」
俺は彼らの前の道に魔法で、二メートル×二メートル、深さ一メートルの穴を即座に作って見せた。
「なっ、何だと? き、貴様、何者だ?」
「さあ、見ての通りの子どもだよ。それより、どうするの?」
「わ、分かった。その者たちを掘り出す」
「うん、じゃあ頑張って」
俺は、騎士たちが剣や槍を使って必死に八人の男たちを掘り出す様子を見守った。
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ナビさん、おれ、必死で現実問題に対処してるんですけど……少しは、有効なアドバイスをお願いしますよ。
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