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閑話 トーマが出て行った後の村
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《ダン視点》
俺はダン。ラトス村自警団の副団長をしている。
今日の午後から、自警団本部(と言っても、木造の大きな倉庫兼用の建物だが)で、緊急の会議が開かれる。内容については、俺は前もって知らされている。
昨日、村長の家にレブロン辺境伯様からの使いの兵士が、一通の書状を持ってきた。中身は『領軍兵士緊急招集』の通知だった。
原因は、隣国のローダス王国が不穏な動きを見せているからだ。昔から、ローダス王国は、このアウグスト王国に度々侵攻を繰り返してきた。国境を守る辺境伯としては、少しでも兵力が欲しいところだろう。
「皆、集まってくれてありがとう。今日集まってもらったのは……」
団長のクレイグが、集会の主旨を説明する。
最初、静かに聞いていた団員たちだが、説明を聞くうちに次第にざわめき始めた。当然のことだ。要するに、隣国との戦争に領軍兵士として参戦するかもしれないのだ。
「待ってくれ、それは義務なのか?」
一人の団員の問いに、クレイグは頷いた。
「ああ、そうだ。うちの村と辺境伯家で交わしている契約だからな。辺境伯家が戦に赴くとき、うちの村から自警団を中心とした一部隊を領軍に加える。その見返りとして、村が何らかの理由で危機に陥った時は、伯爵家から援助の兵士と物資が送られる、というものだ」
「そんな話、初めて聞くぞ。いきなり戦争に行けと言われてもなあ」
「だが、本当に戦争になったら、この村も無関係ではいられないぞ。もし、ローダス王国が攻め込んできたら、国境に近いこの村は、ローダス軍の支配下に入るだろう。隣国はこの国より税が重く、兵役の義務もあるらしい。今までより辛い生活になるのは明らかだ。
それに、俺たちがこの村に置いてもらえるのは、戦うからだ。農業も牧畜もできないが、魔物や盗賊と戦うことはできる。それを放棄したら、この村にいる資格はない」
クレイグの言葉は厳しすぎる。だが、一面の真実を突いているのは確かだ。これが、他の団員たちの腹をくくらせた。
「辺境伯領軍ラトス部隊、人員は我々自警団員三十名に加え、あと十人選抜して、総員四十名で明後日出発する。目的地は、要塞都市タナトスだ」
おうっ!!
俺たちは自然に手を突き上げて、クレイグの言葉に反応していた。
「……それにしても、トーマがいないのは返す返すも残念だな」
会議の後、俺とクレイグは本部に残って、選抜する男たちの人選をしていた。
「そうだな。魔法が使える人間が一人でもいたら、かなりの戦力アップだからな。しかし、トーマの奴、俺の前では魔法の魔の字も使える素振りを見せなかったな。まったく、何を考えてるんだか……」
「あいつ、バージェスの監視も振り切ってタナトス方面に姿をくらましたらしい……ったく、困った野郎だ」
「ああ、聞いたよ。斥候のバージェスも気づかれるんだ、捕まえるのは無理だな。トーマの〈索敵〉は、たぶんバージェスを凌駕している……」
俺たちはトーマのことを話しながら、何度もため息を吐くのだった。
《リュート視点》
弟のトーマが家を出てから三か月が過ぎた。お前がいかに僕たち家族の心の支えになっていたか、いなくなって初めてそのことを痛感しているよ。
少しくらい家計が楽になったからって、それが何だと言うんだ。お前がいない空虚感はまるで、家族の心を少しずつ蝕む病のように感じられる。
今日、自警団から、近々ローダス王国軍が、タナトスに攻めてくるかもしれないという情報が公布された。そして、レブロン辺境伯の軍に自警団と選抜された村の男十人が、ラトス部隊として加わることも。
トーマ、僕は選抜の十人に志願しようと思う。何か、やらないといけないという思いが心の中でどんどん大きくなっているんだ。
もし、僕が戦争で死んだら、どうか村に帰って、僕の代わりに家族を支えてやってくれ。
頼むぞ、トーマ……。
《アント視点》
自警団が、ローダス王国との戦争に加わるだって? 冗談じゃない。俺は、まだ十三だぞ、死んだらどうするんだよ。
俺は行かないぞ。何とかして理由を見つけてやる。
よし、いいぞ、親父。うちの親父と何人かの男たちが、村長と自警団に意見をしに行った。自警団が全員抜けたら、この村を魔物から守る者がいなくなる。それに、定期的に来てくれる行商人も、道が危険だと来てくれなくなってしまう。だから、最低限、村を守り、定期的に道を巡回する自警団は残すべきだ、という意見だ。まさに正論じゃないか。
村長と自警団のクレイグも、その意見を無視できなかった。それで、自警団から五人、選抜組から五人が村に残ることになった。当然、俺は下から三番目の年齢だから、村に残ることができた。
クレイグの奴が、一番最初に俺を村に残すと言った時は、少しムカついたけどな。まあ、そんなことはどうでもいい。ひひひ……生き残る者が勝ちなんだよ。
《ライラ視点》
あたし、決めたわ。自警団と一緒に戦場へ行く。もちろん前線で戦うわけじゃないわ。トーマの妹のミーナが、年取ったゴゼット婆さんの代わりに、治癒師として従軍するから、その手伝いということでクレイグさんを説得するわ。ほら、あたしって、結構強くなったし、ミーナを側で守る役目も必要じゃない。
あいつ、トーマはタナトスにいるって聞いたわ。絶対見つけ出して、とっ捕まえて……いや、そうじゃなくて、ちゃんと謝って、村に帰って来るように説得するわ。きっと、あたしの気持ち、あいつに通じるはずよ。だって、こんなに愛しているんだから。
《トーマ視点》
うっ(ブルッ)……何か、今背中に悪寒が走った。風邪でも引いたかな……。
俺はダン。ラトス村自警団の副団長をしている。
今日の午後から、自警団本部(と言っても、木造の大きな倉庫兼用の建物だが)で、緊急の会議が開かれる。内容については、俺は前もって知らされている。
昨日、村長の家にレブロン辺境伯様からの使いの兵士が、一通の書状を持ってきた。中身は『領軍兵士緊急招集』の通知だった。
原因は、隣国のローダス王国が不穏な動きを見せているからだ。昔から、ローダス王国は、このアウグスト王国に度々侵攻を繰り返してきた。国境を守る辺境伯としては、少しでも兵力が欲しいところだろう。
「皆、集まってくれてありがとう。今日集まってもらったのは……」
団長のクレイグが、集会の主旨を説明する。
最初、静かに聞いていた団員たちだが、説明を聞くうちに次第にざわめき始めた。当然のことだ。要するに、隣国との戦争に領軍兵士として参戦するかもしれないのだ。
「待ってくれ、それは義務なのか?」
一人の団員の問いに、クレイグは頷いた。
「ああ、そうだ。うちの村と辺境伯家で交わしている契約だからな。辺境伯家が戦に赴くとき、うちの村から自警団を中心とした一部隊を領軍に加える。その見返りとして、村が何らかの理由で危機に陥った時は、伯爵家から援助の兵士と物資が送られる、というものだ」
「そんな話、初めて聞くぞ。いきなり戦争に行けと言われてもなあ」
「だが、本当に戦争になったら、この村も無関係ではいられないぞ。もし、ローダス王国が攻め込んできたら、国境に近いこの村は、ローダス軍の支配下に入るだろう。隣国はこの国より税が重く、兵役の義務もあるらしい。今までより辛い生活になるのは明らかだ。
それに、俺たちがこの村に置いてもらえるのは、戦うからだ。農業も牧畜もできないが、魔物や盗賊と戦うことはできる。それを放棄したら、この村にいる資格はない」
クレイグの言葉は厳しすぎる。だが、一面の真実を突いているのは確かだ。これが、他の団員たちの腹をくくらせた。
「辺境伯領軍ラトス部隊、人員は我々自警団員三十名に加え、あと十人選抜して、総員四十名で明後日出発する。目的地は、要塞都市タナトスだ」
おうっ!!
俺たちは自然に手を突き上げて、クレイグの言葉に反応していた。
「……それにしても、トーマがいないのは返す返すも残念だな」
会議の後、俺とクレイグは本部に残って、選抜する男たちの人選をしていた。
「そうだな。魔法が使える人間が一人でもいたら、かなりの戦力アップだからな。しかし、トーマの奴、俺の前では魔法の魔の字も使える素振りを見せなかったな。まったく、何を考えてるんだか……」
「あいつ、バージェスの監視も振り切ってタナトス方面に姿をくらましたらしい……ったく、困った野郎だ」
「ああ、聞いたよ。斥候のバージェスも気づかれるんだ、捕まえるのは無理だな。トーマの〈索敵〉は、たぶんバージェスを凌駕している……」
俺たちはトーマのことを話しながら、何度もため息を吐くのだった。
《リュート視点》
弟のトーマが家を出てから三か月が過ぎた。お前がいかに僕たち家族の心の支えになっていたか、いなくなって初めてそのことを痛感しているよ。
少しくらい家計が楽になったからって、それが何だと言うんだ。お前がいない空虚感はまるで、家族の心を少しずつ蝕む病のように感じられる。
今日、自警団から、近々ローダス王国軍が、タナトスに攻めてくるかもしれないという情報が公布された。そして、レブロン辺境伯の軍に自警団と選抜された村の男十人が、ラトス部隊として加わることも。
トーマ、僕は選抜の十人に志願しようと思う。何か、やらないといけないという思いが心の中でどんどん大きくなっているんだ。
もし、僕が戦争で死んだら、どうか村に帰って、僕の代わりに家族を支えてやってくれ。
頼むぞ、トーマ……。
《アント視点》
自警団が、ローダス王国との戦争に加わるだって? 冗談じゃない。俺は、まだ十三だぞ、死んだらどうするんだよ。
俺は行かないぞ。何とかして理由を見つけてやる。
よし、いいぞ、親父。うちの親父と何人かの男たちが、村長と自警団に意見をしに行った。自警団が全員抜けたら、この村を魔物から守る者がいなくなる。それに、定期的に来てくれる行商人も、道が危険だと来てくれなくなってしまう。だから、最低限、村を守り、定期的に道を巡回する自警団は残すべきだ、という意見だ。まさに正論じゃないか。
村長と自警団のクレイグも、その意見を無視できなかった。それで、自警団から五人、選抜組から五人が村に残ることになった。当然、俺は下から三番目の年齢だから、村に残ることができた。
クレイグの奴が、一番最初に俺を村に残すと言った時は、少しムカついたけどな。まあ、そんなことはどうでもいい。ひひひ……生き残る者が勝ちなんだよ。
《ライラ視点》
あたし、決めたわ。自警団と一緒に戦場へ行く。もちろん前線で戦うわけじゃないわ。トーマの妹のミーナが、年取ったゴゼット婆さんの代わりに、治癒師として従軍するから、その手伝いということでクレイグさんを説得するわ。ほら、あたしって、結構強くなったし、ミーナを側で守る役目も必要じゃない。
あいつ、トーマはタナトスにいるって聞いたわ。絶対見つけ出して、とっ捕まえて……いや、そうじゃなくて、ちゃんと謝って、村に帰って来るように説得するわ。きっと、あたしの気持ち、あいつに通じるはずよ。だって、こんなに愛しているんだから。
《トーマ視点》
うっ(ブルッ)……何か、今背中に悪寒が走った。風邪でも引いたかな……。
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