上 下
43 / 77

42 ポピィのお手柄

しおりを挟む
《ポピィ視点》

 トーマ様に、食糧倉庫を調べるように言われました。「隠し扉」があるかもしれないって、それすごいことじゃないですか。なぜ、トーマ様はそんなことが分かったんでしょうか?
 トーマ様は本当に不思議な方です。初めてお会いしたときから、驚かされてばっかりです。

 わたしは、人間の父とノームの母から生まれたハーフノームです。父はとても穏やかで優しい人でした。行商人として、人間の街とノームの村を行き来し、細々と生計を立てていました。母と知り合い、結婚して、ノームの村に住むようになったそうです。
 私たち一家は決して裕福ではありませんでしたが、とても幸せな生活を送っていました。
あの日、わたしの五歳の誕生日が来るまでは……。

 わたしが神様から与えられたギフトは《暗殺者》でした。両親はもちろん、ノームの神官様もとても驚き、戸惑ったそうです。
 それから以後、村の人たちは私たち一家を避けるようになりました。昨日まで仲良く遊んでいた友達が、誰もわたしと遊んでくれなくなりました。わたしは幼心にも、自分のギフトのせいだと気づきましたが、両親は、私のせいじゃないと言って、以前より一層私を愛してくれました。でも、わたしは両親に申しわけない気持ちでいっぱいでした。

 それでも、わたしたち一家は、何とか私が十二歳になるまでは、村で頑張って暮らしていました。でも、とうとう商売も立ち行かなくなり、父は、村を出て他の街で暮らしてと行こうと決心しました。そして、わたしたちはノームの村を出たのです。小さな行商用の馬車に家財道具を積んで……。

 そこから先は、あまり思い出したくありません。心の中から消えることはありませんが、心の一番奥に封印して、両親の最後の願いをかなえるために、わたしは生き抜くのです、何としても……。
 そんなわたしの思いを神様も憐れんでくださったのでしょうか、わたしにトーマ様を引き合わせて下さったのです。ギフトのことでは、正直神様を恨みました。でも、こうしてトーマ様に会わせて下さった神様に、今はただ感謝の気持ちでいっぱいです。

 あ、こんな昔のことを思い出してる場合じゃなかったです。お店の食糧倉庫を捜索する時間を作らないと。
 でも、昼間はなかなか時間が取れません。昼近くまで寝ている従業員のお姉さんたちの汚れ物のお洗濯や、店内の掃除、市場への買い出しのお使いなど、仕事がいっぱいなのです。午後になったら少し時間が取れます。何か良い理由を見つけて、食糧倉庫に入ることにしましょう。

♢ ♢♢

 チャンスです。バーテンダーのロムさんが、夕方まで用事があるそうで、お店に並べるお酒やワインを何種類か、食糧倉庫から出しておくように頼まれました。

 わたしは少しドキドキしながら、食糧倉庫への階段を下りていきました。魔石ランプの発動ボタンに魔力を流し、明かりを灯すと、ひんやりとした広い地下室の中を進んでいきます。
 とりあえず、頼まれたお酒を何本か見つけて籠に入れておきます。さて、隠し扉はどこにあるのでしょうか。

 わたしはふと、ラマータの街のダンジョンのことを思い出しました。あのダンジョンにも罠や隠し扉があったのです。トーマ様は言いました。『罠や隠し扉の中には、魔法が掛けられたものもある。そういうものを見つけるときは、魔力感知を使うんだ』と。
 わたしには、《魔力感知》のスキルがあります。ちょっと使ってみるのです。

 あっ、びっくりです、本当にありました! 倉庫の右奥、ワインの棚の後ろです。ちょっと棚を動かしてみます。おかしいですね、前後にも左右にも動きません。ワインがいっぱい並んでいるので重いからでしょうか? でも、動かすのに大人が何人も必要な隠し扉って、あまり使う意味がないように思えるのですが。う~ん……。

 そうか! 魔力を感知したってことは、魔法が掛けられているはずです。どこかに、魔力を流すスイッチがあるはずなのです。うん、我ながら頭が働きました。これも、日頃からトーマ様と一緒にいるお陰ですね。
 もう一回、魔力感知を使って詳しく辺りを見てみます。あ、怪しい所、発見です。ワイン棚と隣の穀物棚の間の壁に魔力反応があります。わたしは小さいから入っていけます。

 ああ、なるほど、大人が手を伸ばせばやっと届く所に、発動スイッチの金属の板があります。ちょっと魔力を流してみましょう。
 わわっ、ワイン棚が急に動き出したのです。どんな魔法でしょうか? おお、ワイン棚に隠れていた扉が姿を現しました。これも魔法で鍵がかかっているようです。魔力を流すための金属板が扉の横にあります。

 さて、今はこれくらいにしておきましょう。誰かが倉庫に入ってきたらおしまいです。扉の向こうを調べるのは、皆さんが寝静まった夜中がいいでしょう。じゃあ、棚を元に戻して、帰ることにしましょう。


♢♢♢

 夜中です。皆さん寝静まってます。
 ベッドから起きて、〈隠蔽〉を心の中で唱えます。スキルが発動したのが感覚で分かります。トーマ様によると、スキルの発動に必要な魔素を、魔力が体内に取り込むときの感覚だそうです。

 魔石ランプを持って、そっと部屋を出て行きます。階段を降りるときは冷や冷やしましたが、誰にも見つからなかったようです。
 暗がりにも目が慣れてきたので、魔石ランプは地下室に入ってから使うことにしましょう。
 食糧倉庫の入り口のドアは閉まっていますが、かぎは掛かっていません。音を立てないようにそっとドアを開いて中に入ります。魔石ランプを点けて、例の隠し扉の所へ。
 さあ、いよいよ未知の冒険の始まりです。ドキドキ・ワクワクが半分、何があるのか、怖さが半分です。
 ワイン棚がスーッと横に移動し、隠し扉が見えました。ちょうどわたしの背の高さくらいの金属の扉です。魔力を金属板に流します。ズズズッという小さな音を立てて、扉が開きました。緊張しながら、中に入っていきます。

 あれ? 石作りの狭い通路の先から、明るい光が差し込んでいますね。誰かいるのでしょうか? だとしたら、魔石ランプはまずいですね。ここに置いていきましょう。
 こういう時、自分の〈隠蔽〉スキルは本当にありがたいです。見つかる心配をあまりしないで相手に近づけますから。

 っ! 十メートルほどの通路の先には、広い部屋がありました。半分から左の方では、粗末な服を着た男女の大人の人たちが、ざっと三十人ほど、何かの作業をさせられています。なぜ、させられていると分かったのか、それは七、八人ほどの、黒い服を着て武器を持った見張りの男たちが、怒鳴ったり、武器で小突いたりしていたからです。
 半分から右には、鉄の柵で区切られた部屋があります。ここからではよく見えませんが、たぶんあの中には、やはり人がたくさん閉じ込められているのではないでしょうか。
 部屋の突き当りにはドアがありますね。どこにつながっているのでしょうか。とにかく、この部屋の全体像を頭に入れます。思い出して、紙に図が描けるように。

 さあ、見つからないうちにさっさと帰ることにしましょう。今回の報告はきっと、トーマ様もお喜びになるはずです。


《トーマ視点》

 おお、でかしたぞ、ポピィ! 俺は思わず心で叫んで、ガッツポーズをした。
 今、ポピィがゴミ袋に忍ばせたメモの紙を開いて見たところだ。

「地下で麻薬を作らせていたんだな。働かされている人たちは、恐らく奴隷か、どこかから誘拐されてきたんだろう……」

『はい。マスター、ポピィさんのメモには、働かされているのが三十人ほど、牢屋にも同じくらいの数の人が閉じ込められているだろう、と書かれています……』

(うん、それがどうしたんだ?)

『ダルトンさんの説明を思い出してください。彼は、敵の人数を百人足らずと言いました。マスターがボラッド商会で確認した人数が三十人足らず。ポピィさんが見た見張りが七、八人、働かされている人は全部でおよそ六十人、合計すると……』

(あ、そうか! ダルトンさんたちは自白か、何かの情報で地下にいる人たちの人数を知ったんだな)

『はい。そして、恐らく地下室の人たちは、薬漬けにされて働かされ、一方では悪事をさせられているのかもしれません』

(胸糞わっるっ! もういいよな、限界だ。叩き潰す! ボラッド商会、貴様らはもう……)
 ふっ、俺がそんな使い古されたセリフ、言うと思った? やっぱりオリジナルでなくちゃね。
(ボラッド商会っ! 貴様らは、もう……腐った牛乳と腐った卵が混ざった中でおぼれ死ぬゴキブリだ! ……って、ダサっ、自分のセンスのなさが悲しい)
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...