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32 ポピィに魔法を覚えさせたら
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「なあ、ポピィ、魔法を覚えてみないか?」
それは、ふと思いついた何気ない提案だった。
「えっ? わ、わたしが魔法を? で、できるでしょうか?」
お、ポピィさん、なかなかやる気です。前のめりになって尋ねてきました。
「うん、まあ、やってみないと分からないが、やり方は難しくないぞ」
「はい、やってみたいですっ!」
「お、おう、じゃあ、やってみようか」
俺は、ポピィを草原の中の岩場に連れて行って座らせ、まず、魔法とはどんなものか、ナビに教えてもらった基本知識の講義から始めた。
ポピィは最初、なかなか理解が追いつかない様子だったが、分からない所は何度も質問を続け、しっかりと理解していった。うん、なかなか理解が早い、頭は良いんだな。
「よし、じゃあ、実際にやってみようか。あ、そうだ、お前の適性属性って何だろう?」
「適性属性?」
「ああ、さっき説明したように、魔法には火、風、水、土、光、闇、そして無の七つの属性がある。その中で、ポピィが使える属性は、一つか二つくらいなんだ」
「そうなんですね。分かりました。う~ん、わたしが使える属性って何だろう?」
(なあ、ナビ、魔法の適性って、やっぱりギルドか教会に行って調べるしかないのか?)
『いいえ、その必要はありません。魔石に魔力を流してみれば分かります』
(は? え、そんな簡単に分かるのか?)
『はい。魔力を流すことで、魔石の色が変化します。火属性は赤、風属性は緑、水属性は青、土属性は茶、光属性は金、闇属性は黒、二属性以上は、色が分かれて現れます。そしてマスターのように全属性の場合は、虹色です』
おお、なんと分かりやすい。俺、虹色……むふふ……かっこよくね?
(しかし、そんな簡単な方法があるのに、何でこの世界の人たちは、もっと魔法を使えるように研究しないのかな?)
『それは、先日説明した通り、最初の段階で、魔法についての基本認識が間違っていますので、偶然の発見以外、段階的な発展ができなかったからです』
(うわぁ……最初に魔法を広めた人が誰かは知らないけれど、その人の責任重いよな)
『(実は、その人も地球から転生した人だったのですが、言わないでおきましょう)』
「トーマ様、どうかしましたか?」
「お、おお、何でもないぞ。よし、ポピィ、お前の属性を調べるぞ」
俺は、そう言うと、麻袋の中から魔石をいくつか取り出した。魔法に使えると思って、売らずにとっておいたものだ。
俺は、その中で比較的透明度の高いゴブリンの魔石を選んだ。小さいくらいが魔力も少なくて済むだろう。
「これに魔力を流し込むんだ。さっき教えた通り、魔力は頭のこの辺りで作られる。そこから魔力をこの魔石に向けて、水を注ぐ感じで……体に力を入れる必要は無いぞ。楽にして、イメージだけしっかりと思い浮かべる、いいな?」
「は、はい、やってみます」
ポピィは、魔石を受け取ると、それを掌に載せてじっと見つめ始める。
「おお、早いな、もう色が変わり始めたぞ」
一分も経たないうちに、魔石の色が次第に濃くなり始めた。
それから、また一分が経過した時、もうそれ以上魔石の色は変化しなくなった。魔石は半分が緑色、もう半分は黒だった。
「よし、もういいぞ。ほら、見た通り、色が着いただろう? その色がポピィの適性属性を表すんだ。ポピィの場合は二つの適性がある。風と闇だ」
「風と……闇……」
「うん、二つも適性があることは、けっこうすごいことなんだぞ。普通は一つしか適性はないからな」
「そ、そうですか……」
ポピィは、あまりうれしくなさそうだ。たぶん、その原因は適性属性に〈闇〉があったからだろう。気持ちは分かる。
(なあ、やっぱり闇属性って、前世で読んだラノベの話みたいに、やばい奴が主に持っている属性なのか?)
『いいえ、そんなことはありません。あくまでも属性の一つですから。ただ、闇属性は、停滞や減少、死といった、生物の持つ負の部分に作用する属性ですから、忌み嫌われるのは仕方無いかもしれません。それと……』
ナビはそこで珍しく言い淀んで、少し間を置いてから続けた。
『……属性はギフトの影響を受けますし、魂にもある程度影響を与えます』
(ふむ……やがて〈闇落ち〉するとか、か?)
『まあ、よほどひどい場合は……。一般的には、死を恐れなくなるとか、嗜虐性が強まるとか、その程度ですが』
(まあ、その程度なら心配ないだろう。俺だって闇属性持ってるし、意志がしっかりしていれば問題ない)
『……マスターの場合は、自己評価の低さという影響が出ていますけれど……確かに、本人の意志でどうにでもなる問題ですね』
「あのう、トーマ様?」
ポピィは、ときどきボーっとなる俺を病気じゃないかと心配しているようだ。大丈夫だぞ、ナビと話をしているだけだからな。
「ああ、なんでもない。じゃあ、魔法の練習をしようか。そうだな、まずは、風属性の初級魔法、ウィンド・カッターを覚えるか」
「はいっ、お願いします」
♢♢♢
「よし、こんどはもっと刃を薄くするイメージでやってみろ」
「はい、分かりました。……行けえっ、風の刃っ!」
シュッ、と風を切る音と共に、ポピィが放った風の初級魔法、ウィンド・カッターは、十メートルほど先の木に向かって、時速百キロ近いスピードで飛んでいった。
ズパンッ! 直径十五センチはある木の幹が、軽い音を立てて見事に切断された。
すげえな……俺より才能あるんじゃねえか?
「やったぁ、切れたっ! やりましたよ、トーマ様」
「あ、ああ、すごいぞ、ポピィ、その調子だ。じゃあ、次は……」
「あ、あの、トーマ様……」
「うん? 何だ?」
「ええっと、その……や、闇属性の魔法も試してみたいかな、と……」
そうだよな。せっかく、二属性の才能を持ってるんだ。やってみたいよな。だが、俺は、さっきのナビの言葉が胸に引っ掛かって、ポピィを闇に触れさせたくないと、心のどこかで思っていた。
「あ、ああ、そうだな。ちょっと待ってろ」
俺は「初級魔法学」の本を取り出して、〈闇属性魔法〉の項目をめくって読んでみた。
(ええっと、初級魔法は、〈睡眠〉、〈麻痺〉、〈ダーク・ボール〉……うわぁ、やっぱりヤバいのが並んでるよ。なになに、この属性の魔法を使うときは、相手の心の中に入り込む感じで、魔力を流し、常に相手をコントロールするイメージを……ヤバっ、いや、ダメだろこれ。
しかし、暗殺者にはうってつけの魔法ばかりなんだよなあ……いや、やっぱりダメだ。これは、俺が覚えればいいんだ、意志がしっかりした俺がな、うん)
『……確かに妥当でしょうね。それにしても、マスター、なんだかポピィさんを自分の娘扱いしてませんか?』
(ん? な、何をたわけたことを言っているのかね、君は……でも、まあ、精神年齢から考えれば、そうかもな。なにせ俺は中身は四十のおっさんだからな)
「よし、ポピィ、〈睡眠〉という魔法を覚えようか」
「睡眠、ですか?」
「ああ、例えば、赤ん坊や泣いている小さな子を寝かせつけるときなんか、便利だぞ」
「なるほどです。分かりました、教えてください」
「やり方は他の魔法と同じだ。ただ、イメージするのが少し難しいぞ。いいか、今、目の前に泣いている子がいると想像するんだ……そしたら、その子の心に語り掛けるように、良い子だから泣かないで、静かに眠りなさい、という思いを、魔力に込めて相手に流し込むんだ」
「わ、分かりました、やってみます。トーマ様にやってみていいですか?」
「あ、いや、そうだったな、よし、実戦でやってみよう」
俺は一瞬ぞっとして、慌てて立ち上がった。眠らされたら最後、目が開きませんでした、なんてしゃれにならないからな。
「森の中に、何匹か魔物がいるようだ、行くぞ」
「はい」
森の中で最初に発見したのは、角ウサギだった。
俺は無言でポピィに頷き、ポピィも頷いて静かに目を閉じた。そして、数秒後目を開いたポピィは、無言でそっと手を前に突き出した。
五メートルほど離れた所で、草を食べていたホーンラビットが、その瞬間、体から力が抜けたように、こてっと地面に倒れた。
うおっ、天才か? ポピィ、お前天才だったのか? 初めての魔法を、いきなりぶっつけ本番で成功させてしまったよ。
「え、え? わ、わたし、できたのですか?」
「ああ、成功だ。すごいな、ポピィは」
ポピィはまだ信じれないといった表情だったが、俺がホーンラビットをぶら下げて持ってくると、ポピィは俺を見上げて満面の笑みを浮かべた。
いやはや、びっくりです。ポピィがもし、裏組織に育てられていたら、とんでもない暗殺者になっていたかもしれません。これは、俺自身も油断するわけにはいかなくなりましたね。彼女のギフトは、絶対に外部の者に知られないようにしないと……。
それは、ふと思いついた何気ない提案だった。
「えっ? わ、わたしが魔法を? で、できるでしょうか?」
お、ポピィさん、なかなかやる気です。前のめりになって尋ねてきました。
「うん、まあ、やってみないと分からないが、やり方は難しくないぞ」
「はい、やってみたいですっ!」
「お、おう、じゃあ、やってみようか」
俺は、ポピィを草原の中の岩場に連れて行って座らせ、まず、魔法とはどんなものか、ナビに教えてもらった基本知識の講義から始めた。
ポピィは最初、なかなか理解が追いつかない様子だったが、分からない所は何度も質問を続け、しっかりと理解していった。うん、なかなか理解が早い、頭は良いんだな。
「よし、じゃあ、実際にやってみようか。あ、そうだ、お前の適性属性って何だろう?」
「適性属性?」
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「そうなんですね。分かりました。う~ん、わたしが使える属性って何だろう?」
(なあ、ナビ、魔法の適性って、やっぱりギルドか教会に行って調べるしかないのか?)
『いいえ、その必要はありません。魔石に魔力を流してみれば分かります』
(は? え、そんな簡単に分かるのか?)
『はい。魔力を流すことで、魔石の色が変化します。火属性は赤、風属性は緑、水属性は青、土属性は茶、光属性は金、闇属性は黒、二属性以上は、色が分かれて現れます。そしてマスターのように全属性の場合は、虹色です』
おお、なんと分かりやすい。俺、虹色……むふふ……かっこよくね?
(しかし、そんな簡単な方法があるのに、何でこの世界の人たちは、もっと魔法を使えるように研究しないのかな?)
『それは、先日説明した通り、最初の段階で、魔法についての基本認識が間違っていますので、偶然の発見以外、段階的な発展ができなかったからです』
(うわぁ……最初に魔法を広めた人が誰かは知らないけれど、その人の責任重いよな)
『(実は、その人も地球から転生した人だったのですが、言わないでおきましょう)』
「トーマ様、どうかしましたか?」
「お、おお、何でもないぞ。よし、ポピィ、お前の属性を調べるぞ」
俺は、そう言うと、麻袋の中から魔石をいくつか取り出した。魔法に使えると思って、売らずにとっておいたものだ。
俺は、その中で比較的透明度の高いゴブリンの魔石を選んだ。小さいくらいが魔力も少なくて済むだろう。
「これに魔力を流し込むんだ。さっき教えた通り、魔力は頭のこの辺りで作られる。そこから魔力をこの魔石に向けて、水を注ぐ感じで……体に力を入れる必要は無いぞ。楽にして、イメージだけしっかりと思い浮かべる、いいな?」
「は、はい、やってみます」
ポピィは、魔石を受け取ると、それを掌に載せてじっと見つめ始める。
「おお、早いな、もう色が変わり始めたぞ」
一分も経たないうちに、魔石の色が次第に濃くなり始めた。
それから、また一分が経過した時、もうそれ以上魔石の色は変化しなくなった。魔石は半分が緑色、もう半分は黒だった。
「よし、もういいぞ。ほら、見た通り、色が着いただろう? その色がポピィの適性属性を表すんだ。ポピィの場合は二つの適性がある。風と闇だ」
「風と……闇……」
「うん、二つも適性があることは、けっこうすごいことなんだぞ。普通は一つしか適性はないからな」
「そ、そうですか……」
ポピィは、あまりうれしくなさそうだ。たぶん、その原因は適性属性に〈闇〉があったからだろう。気持ちは分かる。
(なあ、やっぱり闇属性って、前世で読んだラノベの話みたいに、やばい奴が主に持っている属性なのか?)
『いいえ、そんなことはありません。あくまでも属性の一つですから。ただ、闇属性は、停滞や減少、死といった、生物の持つ負の部分に作用する属性ですから、忌み嫌われるのは仕方無いかもしれません。それと……』
ナビはそこで珍しく言い淀んで、少し間を置いてから続けた。
『……属性はギフトの影響を受けますし、魂にもある程度影響を与えます』
(ふむ……やがて〈闇落ち〉するとか、か?)
『まあ、よほどひどい場合は……。一般的には、死を恐れなくなるとか、嗜虐性が強まるとか、その程度ですが』
(まあ、その程度なら心配ないだろう。俺だって闇属性持ってるし、意志がしっかりしていれば問題ない)
『……マスターの場合は、自己評価の低さという影響が出ていますけれど……確かに、本人の意志でどうにでもなる問題ですね』
「あのう、トーマ様?」
ポピィは、ときどきボーっとなる俺を病気じゃないかと心配しているようだ。大丈夫だぞ、ナビと話をしているだけだからな。
「ああ、なんでもない。じゃあ、魔法の練習をしようか。そうだな、まずは、風属性の初級魔法、ウィンド・カッターを覚えるか」
「はいっ、お願いします」
♢♢♢
「よし、こんどはもっと刃を薄くするイメージでやってみろ」
「はい、分かりました。……行けえっ、風の刃っ!」
シュッ、と風を切る音と共に、ポピィが放った風の初級魔法、ウィンド・カッターは、十メートルほど先の木に向かって、時速百キロ近いスピードで飛んでいった。
ズパンッ! 直径十五センチはある木の幹が、軽い音を立てて見事に切断された。
すげえな……俺より才能あるんじゃねえか?
「やったぁ、切れたっ! やりましたよ、トーマ様」
「あ、ああ、すごいぞ、ポピィ、その調子だ。じゃあ、次は……」
「あ、あの、トーマ様……」
「うん? 何だ?」
「ええっと、その……や、闇属性の魔法も試してみたいかな、と……」
そうだよな。せっかく、二属性の才能を持ってるんだ。やってみたいよな。だが、俺は、さっきのナビの言葉が胸に引っ掛かって、ポピィを闇に触れさせたくないと、心のどこかで思っていた。
「あ、ああ、そうだな。ちょっと待ってろ」
俺は「初級魔法学」の本を取り出して、〈闇属性魔法〉の項目をめくって読んでみた。
(ええっと、初級魔法は、〈睡眠〉、〈麻痺〉、〈ダーク・ボール〉……うわぁ、やっぱりヤバいのが並んでるよ。なになに、この属性の魔法を使うときは、相手の心の中に入り込む感じで、魔力を流し、常に相手をコントロールするイメージを……ヤバっ、いや、ダメだろこれ。
しかし、暗殺者にはうってつけの魔法ばかりなんだよなあ……いや、やっぱりダメだ。これは、俺が覚えればいいんだ、意志がしっかりした俺がな、うん)
『……確かに妥当でしょうね。それにしても、マスター、なんだかポピィさんを自分の娘扱いしてませんか?』
(ん? な、何をたわけたことを言っているのかね、君は……でも、まあ、精神年齢から考えれば、そうかもな。なにせ俺は中身は四十のおっさんだからな)
「よし、ポピィ、〈睡眠〉という魔法を覚えようか」
「睡眠、ですか?」
「ああ、例えば、赤ん坊や泣いている小さな子を寝かせつけるときなんか、便利だぞ」
「なるほどです。分かりました、教えてください」
「やり方は他の魔法と同じだ。ただ、イメージするのが少し難しいぞ。いいか、今、目の前に泣いている子がいると想像するんだ……そしたら、その子の心に語り掛けるように、良い子だから泣かないで、静かに眠りなさい、という思いを、魔力に込めて相手に流し込むんだ」
「わ、分かりました、やってみます。トーマ様にやってみていいですか?」
「あ、いや、そうだったな、よし、実戦でやってみよう」
俺は一瞬ぞっとして、慌てて立ち上がった。眠らされたら最後、目が開きませんでした、なんてしゃれにならないからな。
「森の中に、何匹か魔物がいるようだ、行くぞ」
「はい」
森の中で最初に発見したのは、角ウサギだった。
俺は無言でポピィに頷き、ポピィも頷いて静かに目を閉じた。そして、数秒後目を開いたポピィは、無言でそっと手を前に突き出した。
五メートルほど離れた所で、草を食べていたホーンラビットが、その瞬間、体から力が抜けたように、こてっと地面に倒れた。
うおっ、天才か? ポピィ、お前天才だったのか? 初めての魔法を、いきなりぶっつけ本番で成功させてしまったよ。
「え、え? わ、わたし、できたのですか?」
「ああ、成功だ。すごいな、ポピィは」
ポピィはまだ信じれないといった表情だったが、俺がホーンラビットをぶら下げて持ってくると、ポピィは俺を見上げて満面の笑みを浮かべた。
いやはや、びっくりです。ポピィがもし、裏組織に育てられていたら、とんでもない暗殺者になっていたかもしれません。これは、俺自身も油断するわけにはいかなくなりましたね。彼女のギフトは、絶対に外部の者に知られないようにしないと……。
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