上 下
5 / 77

5 初めてのオーク討伐

しおりを挟む
(謝罪? どういうことだ?)

『まあ、その辺りの事情はおいおいご説明いたします。今は、とりあえず〝あれ〟を何とかしましょう』

(む……あとでちゃんと説明してもらうからな)
 俺はもやもやした気持ちを抱えながら、今、水を飲み終えて村の方角へ移動を始めたオークたちの方へ近づいていった。

 ッ! プギャッ……、プガギャ、プギャ、プギャ……
 突然、森の方から現れた人間の子供に、オークたちは驚いて、何やらプギャプギャと話していたが、やがていやらしい笑みを浮かべながらゆっくりと近づいて来た。

「ああ、お前ら、美味い餌が向こうからやってきた、とか思っているだろう?」
 俺は愛用の木の杭を肩に、近づいてくるオークたちに言った。
「残念だったな。獲物はお前らのほうだっ!」
 俺は、そう言うなり、一気にダッシュして一番前にいた一匹の喉に、木の杭を突き刺した。

 ブガッ!! グゥゥゥ……

 弱小人間族の子供と侮っていたオークたちは、全く油断しきっていた。俺は最初の一匹を倒すと、そのまま走り抜けて、村と反対の方向へ移動した。
 あっけなく仲間を倒されて呆然としていた残りの三匹のオークたちは、ようやく我に返ると、背後でニヤニヤしている俺を振り返った。

「ほらほら、どうした? ここまで来てみろ」
 俺は手で来い来いと煽ってから、わざと逃げにくい上りの斜面の方へゆっくりと移動した。
 オークたちは興奮した声で喚きながら、地響きを立てて俺に迫って来た。

「おっと……あらよっと……そりゃっ!」
 アジリティーの差というやつは、まったくありがたいものだ。戦いにおいて、最も影響が大きいのは〈敏捷性〉、つまりアジリティーの差だと思う。少なくとも、回避力が高ければ負けることはない。逃げればいいのだから。

 俺とオークたちのアジリティーの差は約二倍だ。彼らの動きが鈍く、とても分かりやすく見える。
 俺は斜面を利用して、一気に近づけないオークたちに確実にダメージを与えていった。特に柔らかい部分を狙って突いていく。俺の武器は木の棒なので、頑丈なオークを叩くと折れる可能性が高い。だから、斧を振り上げた奴の脇や首、目などを徹底して突く。

 やがて、一匹、また一匹と戦意を喪失して地面にうずくまる。
 プギャーアアアッ!
 ついに最後の一匹が、顎の下を突き刺されて倒れ込んだ。

 俺は、倒れてもがくオークに、一匹ずつ確実にとどめを刺していった。

 残酷? ああ、そうだな、残酷だ。だが、その言葉は、ぬるま湯のような世界に生きているからこそ言える言葉だ。俺が転生したこの世界は、生きるか死ぬかの厳しい世界だ。生き残りたいから、容赦なく殺す。そうしなければ、自分が死ぬだけだ。俺はこの世界で天寿を全うしたいから、必要ならばためらいなく殺す、それだけだ。

『初めてのオーク討伐、お疲れ様でした。そしておめでとうございます』

(ああ、ありがとう。さて、後始末をするか)

 四匹のオークから魔石を抜き取ると、死体を一か所にまとめておく。後で自警団に知らせて、処理してもらう予定だ。
 その後、俺は湖の周囲の結界石を見に行った。

『やはり、魔力が枯渇していますね。新しい魔石に取り換えるか、あるいは……』

(だけど、新しい石に換えたら、また魔法を掛け直さないといけないんだろう? 魔法使いを雇うと結構お金がかかるって聞いたぞ)

『はい。それなら、もう一つの方法を試しましょう』

(もう一つの方法?)

『はい。マスターが魔石に魔力を注入すれば良いのです』

(はああ? そ、そんなこと……『できます』)

 俺は半信半疑ながら、ナビの指示に従って結界石に魔力を注ぎ込む実験を始めた。

『……はい、そうです。今、手に感じている抵抗感が、魔石に刻まれた魔法陣の存在を示すものです。その抵抗感がなくなるまで、ご自分の魔力を少しずつ流してなじませてください』

(こんな感じか?……ん、ああ、抵抗が無くなったぞ)

『おお、早いですね。さすがマスターです。それでは、後は満タンになるまで魔力を注ぐだけです。満タンになったら、また抵抗感が現れますので分かるはずです』

(……おお、なるほど。魔力ってやつが何となく分かってきたぞ)
 こうして俺は、四か所の魔石に魔力を流し込んでいった。さすがに最後は魔力切れになりかかって、頭がくらくらしたが、しばらく座り込んで休んでいると、どうにか立って歩けるようになった。

『おめでとうございます、マスター。レベルアップです。しかも2UPですよ』

(よっしゃ。どれどれ……)

***
【名前】 トーマ      Lv 13
【種族】 人族(転生)   【体力】 216
【性別】 ♂        【物理力】132
【年齢】 10        【魔力】 185
【ギフト】ナビゲーション     【知力】 258
     システム           【敏捷性】195
【称号】 異世界異能者   【器用さ】250
               【運】 94
【スキル】            
〈強化系〉身体強化Rnk3 跳躍Rnk3
〈攻撃系〉打撃Rnk1 刺突Rnk3
〈防御系〉物理耐性Rnk1 精神耐性Rnk3 索敵Rnk3
〈その他〉鑑定Rnk4 調合Rnk1


 おお、ステータスがすべて三十ずつ増えている。スキルも、跳躍と刺突と精神耐性が一つずつランクアップだ。このレベルでこの数値は、やはり異常である。ステータスだけなら、レベル30越えの兵士に匹敵するだろう。しかも、兵士は魔力や知力の伸びは小さいから、魔法を習得すれば、俺はそこらへんの兵士や冒険者には楽に勝てるはずだ。

(いよいよ、旅に出る時が来たかな……)
 村への道を歩きながら、俺は決意を新たにするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

異世界の路地裏で育った僕、商会を設立して幸せを届けます

mizuno sei
ファンタジー
《第3巻発売します。全3巻完結しました》  旧題:スラム街の陽だまり ~ 少年は覚醒し、意図しないのに誰かを幸せにする ~  主人公の少年ルートは、奴隷の娼婦として働くミーシャが望まない妊娠の末に産んだ子で、母と同じ境遇の娼婦たちが一緒に住むスラム街のぼろアパートで育った。  実は、彼は神の手違いで寿命以前に死んでしまい、本来の転生先とは違う母親のもとに生まれた転生者であった。  しかし、ルートは母親や周囲の娼婦たちから精いっぱいの愛情を受けて、心優しい少年に育っていった。やがて、10歳の誕生日が来て、ルートは教会で、神から仕事に就くための『技能スキル』を受ける儀式に臨んだ。その儀式の途中で、彼は神に招かれ、転生にいきさつを聞き、忘れていた前世の記憶を取り戻した。  神から、おわびとして特別なスキルを与えられたルートは、大好きな母親のミーシャや隣人の娼婦たちを奴隷から解放し幸せにすることを目標に決め、その大きな夢を実現するために歩み始めるのだった。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...