少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei

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2 『はずれギフト』の正体

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「『ナビ』? 司教様、それはいったいどんなギフトでしょうか?」
 五歳の《ギフト降授の儀》の日、父は司教に心配そうに尋ねた。

「ふうむ……正直言って分からぬ。この年まで長年《降授の儀》に立ち会ってきたが、初めて見るギフトじゃ。いったい何じゃろうのう?」
 年老いた司教はそう言うと、情けない顔の両親をよそに、ローブの内ポケットからメモ帳と炭筆(木炭と粘土を混ぜてスライムの液で固め、乾燥させた鉛筆のような筆記具)を取り出して、魔道具が映し出したギフト名をメモし始めた。たぶん、珍しいギフトは、国に報告する義務があったのだろう。

 何のギフトか分からない、ということは、つまり『はずれギフト』ということである。両親は落胆し、村の連中から逃げるように俺を引っ張って家に帰った。

 この日、俺の運命は決定した。
 両親が何歳まで養ってくれるか分からないが、そう遠くない将来に、俺はこの家から出て行かなければならない。これは決定事項である。

 それでも、両親は辛抱強く俺を育ててくれた。もしかすると、俺のギフトが農家にとって有用なギフトかもしれない、という期待があったのだろう。三つ年上の兄と二つ年下の妹と何の差別も無く、愛情を注いでくれた。
 俺は心の中で両親に深く感謝し、そして申し訳ない気持ちで日々暮らしていた。
(え? 子供らしくない? そりゃそうだろう。中身は三十直前のおっさんなのだよ)

 なぜ、申し訳ない気持ちになったか、というと、俺は生まれてすぐから『ナビ』が何なのか、知っていたからだ。

『女心というものは、複雑ですね、マスター?』
(は? お前、突然何を言いだすんだ?)

 家に帰る道すがら、俺は頭の中に聞こえてくる声に、頭の中で答えた。
 そう、これが『ナビ』の正体。俺専用の『ナビゲーションシステム』なのだ。なにしろ、こいつは俺が生まれてすぐから、その機能を開始しやがったんだ。

《ナビ再生機能:マスターご生誕の瞬間》

『ご生誕、おめでとうございます、マイマスター』
「ほぎゃっ! ほ、ほぎゃ~、ほぎゃ~~……(え? な、なんだ? 何が起こった?)」
父:「おお、男の子だ。よく頑張ったな、マリア」
母:「はい、あなた……よしよし、さあおいで、愛しい坊や……」
「むぎゃ……んぐ…んぐ……うむぎゃふう……(何?……んぐ…んぐ……そんなことが……まじか?)」
『……はい。そういうわけです。これからマスターのために誠心誠意お仕えしますので、どうぞよろしくお願いします』

 ……と、まあ、こんな感じで……俺は転生したことを知り、同時に俺に与えられたギフトについて理解したわけだ。
 転生前の記憶があって本当に良かったよ。ナビゲーションという言葉もなじみ深いものだったからな。そうでなかったら、生まれてすぐに精神崩壊した赤ん坊が出来上がるところだったぞ。


(それで、女心って、誰の話だ?)
『それはもちろん、ライラさんのことですよ』
(はあ?……あのくそガキの女心? そりゃ分からんわ。複雑? んなわけあるかっ! あいつは単純に俺を馬鹿にしているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない、以上)
『……マスターの恋愛経験の少なさ、ここに極まれり、ですね』
(うるせー、ほっとけ)


「おはよう、トーマ。今日も鍛錬かい?」
 俺が家に帰り着いて、汗を拭くために裏庭の井戸へ向かうと、ちょうど顔を洗い終えた人物が、タオルで水気をふきながらにこやかに声を掛けてきた。
 このさわやかイケメンが、俺の三つ上の兄のリュートだ。薄い色の金髪に碧眼、通った鼻筋……男の俺でも惚れ惚れするようないい男だ。しかも、性格も優しく、真面目で、責任感が強い。うん、主人公だね。物語なら完璧に王子様役だ。ただ、残念なことに、兄のギフトは『品種改良』、完全に農民仕様なのだ。

「ん? 僕の顔に何かついているのか? そんなまじまじと見つめて……」
「あ、ああ、いや。おはよう兄さん。今日もいい男だね」
「な……お、男のお前に言われても、う、うれしくなんかないぞ」
 そう言いながらも、目を逸らして赤くなる兄さん。うん、将来が少し心配だ。

 家族そろっての朝食(いつもの如く、ライ麦パンに野菜スープ)が終わると、全員で今日の仕事に出かける。
 両親と兄は野菜畑で収穫と除草作業だ。我が家では、二アールほどの畑で五種類ほどの野菜を作り、家で消費する以外の余剰分を三日に一度、村の共同市場に卸している。三日以内に売り切れるくらいの量だ。それ以外には、月に一度訪れる商人に必要とされる分だけ売っている。現金収入はその二つの分だけだ。まあ、それでも、一家五人が何とか食べていけるくらいにはある。

 まだ八歳の妹は、畑の側で近所の同じ年頃の女の子たちとおしゃべりしたり、ままごと遊びをやっている。で、俺はというと、村の周囲を巡回しながら、畑に害を与える魔物や害虫の退治が毎日の日課だ。
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