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HO8.魔法少女(7話)
3.グレートコスモス神林
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話は少し遡る。
「国成さん、その魔法少女さんが目撃されている現場の情報を聞いてもらえませんか?」
テータの言葉に哲夫は頷き、すぐに上司に情報提供を依頼した。
「そう言う通報って、どこに集約されるんですか?」
杏が首を傾げる。
「まあ通報だからほとんど警察なんだろうけど、児童虐待の恐れありで児相に通報が行ってたら厚生労働省。だからあちこちに話を聞かないといけない。でも、この『天啓』騒ぎに絡んでる省庁の奴なら皆『天啓』を疑う筈だ。多分本部にも情報が行ってる」
哲夫のその考えは正しかった。彼の上司からは、すぐに目撃場所と時間帯をまとめたリストのファイルが送られてくる。
「この目撃現場、全部から近い小学校は……」
インターネットの地図上に現場を配置する。蛇行した花火の様な形を作った。それでも、一番近い小学校は変わらない。
「あ、ここって、この前の」
杏は声を上げた。
それは先日、「天啓」の被害者ではないかと目されていた佐藤美貴子に会うために行った小学校だった。彼女は単純に行き過ぎたお節介だったのだが、彼女を調べていて、たまたま友藤陽助と言う「天啓」を受けた被害者に遭遇した、と言う経緯がある。
そして、その友藤が「天啓」側の宇宙人である五百蔵イオタと接触していたために、先日の「天啓を果たす会」の事件に繋がってしまったので、良いのか悪いのかわからない出会いではあった。
さて、過去の話は置いておくとして、ひとまずその少女だ。哲夫は小学校に連絡を取り、事情を説明した。度々で申し訳ないが、また聞き込みをさせて欲しいと。
しかし、窓口である副校長の反応は意外な物だった。
「我々も、国成さんたちに相談したいことがあったんです」
と言うのだ。三人は小学校に急行した。多忙を極めるだろうに、副校長はすぐに応接室に三人を通し、真面目な顔で本題に入った。
「実は、うちの生徒の三年生に小西朝菜と言う生徒がいるのですが……」
副校長が手短に話すにはこうだ。朝菜はいわゆる「不思議ちゃん」で、想像力豊かなタイプ。よくノートに魔法少女番組の主人公を描いたりしているらしい。手持ち無沙汰になるとじっとしていられず、その場で歌って踊ったりすることもあるらしい。落ち着きがないと言えば聞こえは悪いが、明るくて親切でもあり、特に人間関係にも目立った問題はない。少々お節介ではあるが、常識の範囲ではある。
教師や親から見れば不安の種はそこら中にあるのだが、今回、多摩分室に相談したいのはそのことではない。
「昨日、小西さんがね、僕とおしゃべりしているとき、『私は魔法少女になったんだ』と。そう言うんです」
「魔法少女に?」
三人は顔を見合わせた。通報者も同じように形容しているのだ。「魔法少女のようだ」と。
その現場近くの小学校に、「魔法少女になった」と主張する児童がいる。これは偶然とは思えないが、すぐに飛びついてしまうわけにもいかない。
「何でも、夢の中で不思議な力を貰った。最初は全然力を使えなかったけど、最近は力も使えて、羽も生えてくるようになった、と」
「羽……」
恐らく、テータと同じ「翼」のことだろう。
「だから、先生も変な奴に襲われたら言ってね! と、それは誇らしげな笑顔で言っていましてね」
先日、佐藤美貴子を調べるために、他言無用としてこの学校の幹部と呼ばれる教職員には事情を説明している。「天啓」のあらましと、結晶状の腫瘍、そして身体を突き破る触手状のものについて。
「もしかして、子供にはその触手が翼に見えるのではないかと思って……」
副校長は深刻そうな顔で言った。彼の懸念は正しい。実際には、その触手が絡み合って翼の形を作るのだが、そこまで正確に説明する必要はない。
「わかりました。こちらでも発生現場は把握しています」
哲夫はタブレット端末に、現場をマーキングした地図を見せた。道を作るように長く伸び、その先で花が開いたような発生現場の分布。
「これ、恐らくですが、小西さんの通学路とご自宅周辺ではありませんか」
副校長は画面を見ると、断りを入れて退出した。少ししてから戻ってくると、険しい顔で頷く。
「そうです。小西さんの通学路に沿っています。丸いのはおうちの周辺ですね。完全に通学路通りではないのですが……」
「恐らく、『救済』する対象を探して寄り道したんじゃないでしょうか」
テータが言った。杏はなんとなくわかる。
誰かを『救済』したい。でも、ひとまずは平和な日本だ。そこら中で略奪が起こるようなことはない。異世界からの怪物も現れない。それなら、自分から魔法少女にふさわしい暴力事件を探しに行く必要がある。よっぽどアクティブな小学生でなければ、町中を駆け回るなんてことはしないだろう。
そして、家に帰ってからも「救済」の対象を探して駆け回っていたのかもしれない。このご時世、親は共働きだろうし、どちらかが帰ってくるまでに自分も帰宅するようにしていたのだろう。魔法少女になった、と言っても、「天啓」のことを把握してない親は、普段の「不思議ちゃん」的な言動も相まって「また言ってる」くらいの感覚に違いない。
「すごい、本当に、魔法少女みたいだ……」
哲夫は呟いた。あとで聞いた話だが、魔法少女は正体がバレない様に、日常生活をつつがなく送る努力をする、と言う描写されることもあるらしい。
「国成さんも見てるんですか?」
「友達が好きでね」
女児向けアニメを好む成人男性は、特別希有でもないようだ。
「俺も最初は子供向けだから大人が見て面白いのかなって思ってたんだけど、結構面白いよ。シナリオがよくできてる」
映画が好きな哲夫らしい感想だと、杏は思った。
「それで、その小西さんはどちらに?」
「今は体育かな。教室にいるはずです」
「では下校時にでも……」
と言う話をしていたのだが、小西朝菜は魔法少女としての「使命」に燃え、担任教師も気付かない内に教室を飛び出し、学校を出てパトロールに勤しんでいた、と言う訳である。杏たちは、彼女の通学路を把握している。寄り道も多いし、すぐに追いつけるだろうと考えてあとを追ってきたのだ。
案の定、カップルらしき男女と対峙して何か言い合いしている彼女を見つけた。背中から、鈴蘭テープの様なものがぶら下がっていたが、よく見ると細い宇宙人の排熱器官だった。
本当に……テータ以外の人間の背中から、あれが出ている。その事実を目の当たりにして、杏は改めて衝撃を受けた。
「だって嫌がってたじゃない! 私はそう言う人を助けてあげないといけないの! それが魔法少女の『使命』なんだから!」
間違いない。彼女は「天啓」を受けている。
「ああ、やっと見つけましたよ、『救済の魔法少女』さん」
その時のテータの割り込みタイミングの完璧さと言ったらなかった、と後に杏は哲夫に語った。
浪越テータは、θ7354は、背中からあの排熱器官を翼の様に広げて、魔法少女と相対した。
◆◆◆
テータが朝菜の気を引いている間に、哲夫はカップルから簡単に事情を聞き出した。要約すると、喧嘩別れしていたが、男の方がよりを戻そうと女を追ってきたらしい。
「一歩間違えたら通報ものですよ」
哲夫が呆れる。
「だ、だって、あんな別れ方」
「失礼。自分が口を挟むことではありませんでした。あとはこちらで引き受けますので、お帰り頂いて結構です」
念のため連絡先だけ聞き出して、体よく二人を追い払う。
「あ、あなたは……天使?」
「あなたたち地球人は、いつも私のことをそう呼びますね」
テータはくすりと笑う。
「地球人……ってことは、あなたは宇宙人……!? これは、宇宙の力……? 私、コスモスエンジェルになってるってこと?」
「コスモスエンジェル。なるほど、ここではその姿をそう呼ぶのですね。そう思うのも仕方ないのかもしれません。けれど」
そこで、テータは目を伏せた。
「あなたに宿ったその力は不完全です」
「えっ」
「使い魔が来なかったでしょう?」
テータは、小学校までの道のり、タクシーの中で、熱心に魔法少女アニメについて調べていた。通常、魔法少女として目覚める児童の前には、マスコットキャラクター的な使い魔が現れる、と言う。しかし、朝菜は魔法少女でもなんでもないので、そんなものが来ている筈がない。
だから、「使い魔が来なかった」というのは、事情を知る異世界の人間の証明でもなんでもなく、極めて常識的な類推である。
「あなたがその力を得たのは想定外……予定にはないことだったんです」
「そ、そんな……私は、間違って魔法少女になったってこと……?」
「でも、よく頑張りました。普通、なるはずのない人が魔法少女になってしまうと、身体が壊れてしまうことがある。立派に耐えましたね」
「……うん」
朝菜はがっかりしたように肩を落とし、下を向いてしまった。
「私のことはテータと呼んでください、小西朝菜さん」
「じゃあ、私のことも朝菜って呼んで」
「ええ、朝菜。お母さんやお父さん連絡は取れますか?」
テータはにこやかに尋ねた。
「おうちに帰らないと」
聞けば、家に帰ればキッズケータイがあるのだそうである。
「じゃあ、一旦おうちに帰って、親御さんに連絡してくれますか?」
「うん!」
朝菜は元気良く頷いた。
「私、仲間がいてくれたら良いなってずっと思ってた! やっと、やっと会えたんだね!」
どうやら、自分が魔法少女である、と言う設定にどっぷり浸かってしまっているらしい。確かに、この設定にするっと入り込めるあたり、「不思議ちゃん」と呼ばれるのも納得できる振る舞いだ。
杏と朝菜の目が合った。少し、緊張する。
滅びの天啓。それは、この「魔法少女」からなんて言われるのだろうか。
「あなた、は……」
彼女は目を見開く。大きくて、きらきらした子供の目。
「あなたは……地球に遣わされたグレートコスモスの一人? 私にはわかる……」
どうやら、彼女なりに滅びの天啓を説明する設定があるらしい。
今までで、一番好意的な反応に、杏は肩透かしを食らった気分になったのだった。
「国成さん、その魔法少女さんが目撃されている現場の情報を聞いてもらえませんか?」
テータの言葉に哲夫は頷き、すぐに上司に情報提供を依頼した。
「そう言う通報って、どこに集約されるんですか?」
杏が首を傾げる。
「まあ通報だからほとんど警察なんだろうけど、児童虐待の恐れありで児相に通報が行ってたら厚生労働省。だからあちこちに話を聞かないといけない。でも、この『天啓』騒ぎに絡んでる省庁の奴なら皆『天啓』を疑う筈だ。多分本部にも情報が行ってる」
哲夫のその考えは正しかった。彼の上司からは、すぐに目撃場所と時間帯をまとめたリストのファイルが送られてくる。
「この目撃現場、全部から近い小学校は……」
インターネットの地図上に現場を配置する。蛇行した花火の様な形を作った。それでも、一番近い小学校は変わらない。
「あ、ここって、この前の」
杏は声を上げた。
それは先日、「天啓」の被害者ではないかと目されていた佐藤美貴子に会うために行った小学校だった。彼女は単純に行き過ぎたお節介だったのだが、彼女を調べていて、たまたま友藤陽助と言う「天啓」を受けた被害者に遭遇した、と言う経緯がある。
そして、その友藤が「天啓」側の宇宙人である五百蔵イオタと接触していたために、先日の「天啓を果たす会」の事件に繋がってしまったので、良いのか悪いのかわからない出会いではあった。
さて、過去の話は置いておくとして、ひとまずその少女だ。哲夫は小学校に連絡を取り、事情を説明した。度々で申し訳ないが、また聞き込みをさせて欲しいと。
しかし、窓口である副校長の反応は意外な物だった。
「我々も、国成さんたちに相談したいことがあったんです」
と言うのだ。三人は小学校に急行した。多忙を極めるだろうに、副校長はすぐに応接室に三人を通し、真面目な顔で本題に入った。
「実は、うちの生徒の三年生に小西朝菜と言う生徒がいるのですが……」
副校長が手短に話すにはこうだ。朝菜はいわゆる「不思議ちゃん」で、想像力豊かなタイプ。よくノートに魔法少女番組の主人公を描いたりしているらしい。手持ち無沙汰になるとじっとしていられず、その場で歌って踊ったりすることもあるらしい。落ち着きがないと言えば聞こえは悪いが、明るくて親切でもあり、特に人間関係にも目立った問題はない。少々お節介ではあるが、常識の範囲ではある。
教師や親から見れば不安の種はそこら中にあるのだが、今回、多摩分室に相談したいのはそのことではない。
「昨日、小西さんがね、僕とおしゃべりしているとき、『私は魔法少女になったんだ』と。そう言うんです」
「魔法少女に?」
三人は顔を見合わせた。通報者も同じように形容しているのだ。「魔法少女のようだ」と。
その現場近くの小学校に、「魔法少女になった」と主張する児童がいる。これは偶然とは思えないが、すぐに飛びついてしまうわけにもいかない。
「何でも、夢の中で不思議な力を貰った。最初は全然力を使えなかったけど、最近は力も使えて、羽も生えてくるようになった、と」
「羽……」
恐らく、テータと同じ「翼」のことだろう。
「だから、先生も変な奴に襲われたら言ってね! と、それは誇らしげな笑顔で言っていましてね」
先日、佐藤美貴子を調べるために、他言無用としてこの学校の幹部と呼ばれる教職員には事情を説明している。「天啓」のあらましと、結晶状の腫瘍、そして身体を突き破る触手状のものについて。
「もしかして、子供にはその触手が翼に見えるのではないかと思って……」
副校長は深刻そうな顔で言った。彼の懸念は正しい。実際には、その触手が絡み合って翼の形を作るのだが、そこまで正確に説明する必要はない。
「わかりました。こちらでも発生現場は把握しています」
哲夫はタブレット端末に、現場をマーキングした地図を見せた。道を作るように長く伸び、その先で花が開いたような発生現場の分布。
「これ、恐らくですが、小西さんの通学路とご自宅周辺ではありませんか」
副校長は画面を見ると、断りを入れて退出した。少ししてから戻ってくると、険しい顔で頷く。
「そうです。小西さんの通学路に沿っています。丸いのはおうちの周辺ですね。完全に通学路通りではないのですが……」
「恐らく、『救済』する対象を探して寄り道したんじゃないでしょうか」
テータが言った。杏はなんとなくわかる。
誰かを『救済』したい。でも、ひとまずは平和な日本だ。そこら中で略奪が起こるようなことはない。異世界からの怪物も現れない。それなら、自分から魔法少女にふさわしい暴力事件を探しに行く必要がある。よっぽどアクティブな小学生でなければ、町中を駆け回るなんてことはしないだろう。
そして、家に帰ってからも「救済」の対象を探して駆け回っていたのかもしれない。このご時世、親は共働きだろうし、どちらかが帰ってくるまでに自分も帰宅するようにしていたのだろう。魔法少女になった、と言っても、「天啓」のことを把握してない親は、普段の「不思議ちゃん」的な言動も相まって「また言ってる」くらいの感覚に違いない。
「すごい、本当に、魔法少女みたいだ……」
哲夫は呟いた。あとで聞いた話だが、魔法少女は正体がバレない様に、日常生活をつつがなく送る努力をする、と言う描写されることもあるらしい。
「国成さんも見てるんですか?」
「友達が好きでね」
女児向けアニメを好む成人男性は、特別希有でもないようだ。
「俺も最初は子供向けだから大人が見て面白いのかなって思ってたんだけど、結構面白いよ。シナリオがよくできてる」
映画が好きな哲夫らしい感想だと、杏は思った。
「それで、その小西さんはどちらに?」
「今は体育かな。教室にいるはずです」
「では下校時にでも……」
と言う話をしていたのだが、小西朝菜は魔法少女としての「使命」に燃え、担任教師も気付かない内に教室を飛び出し、学校を出てパトロールに勤しんでいた、と言う訳である。杏たちは、彼女の通学路を把握している。寄り道も多いし、すぐに追いつけるだろうと考えてあとを追ってきたのだ。
案の定、カップルらしき男女と対峙して何か言い合いしている彼女を見つけた。背中から、鈴蘭テープの様なものがぶら下がっていたが、よく見ると細い宇宙人の排熱器官だった。
本当に……テータ以外の人間の背中から、あれが出ている。その事実を目の当たりにして、杏は改めて衝撃を受けた。
「だって嫌がってたじゃない! 私はそう言う人を助けてあげないといけないの! それが魔法少女の『使命』なんだから!」
間違いない。彼女は「天啓」を受けている。
「ああ、やっと見つけましたよ、『救済の魔法少女』さん」
その時のテータの割り込みタイミングの完璧さと言ったらなかった、と後に杏は哲夫に語った。
浪越テータは、θ7354は、背中からあの排熱器官を翼の様に広げて、魔法少女と相対した。
◆◆◆
テータが朝菜の気を引いている間に、哲夫はカップルから簡単に事情を聞き出した。要約すると、喧嘩別れしていたが、男の方がよりを戻そうと女を追ってきたらしい。
「一歩間違えたら通報ものですよ」
哲夫が呆れる。
「だ、だって、あんな別れ方」
「失礼。自分が口を挟むことではありませんでした。あとはこちらで引き受けますので、お帰り頂いて結構です」
念のため連絡先だけ聞き出して、体よく二人を追い払う。
「あ、あなたは……天使?」
「あなたたち地球人は、いつも私のことをそう呼びますね」
テータはくすりと笑う。
「地球人……ってことは、あなたは宇宙人……!? これは、宇宙の力……? 私、コスモスエンジェルになってるってこと?」
「コスモスエンジェル。なるほど、ここではその姿をそう呼ぶのですね。そう思うのも仕方ないのかもしれません。けれど」
そこで、テータは目を伏せた。
「あなたに宿ったその力は不完全です」
「えっ」
「使い魔が来なかったでしょう?」
テータは、小学校までの道のり、タクシーの中で、熱心に魔法少女アニメについて調べていた。通常、魔法少女として目覚める児童の前には、マスコットキャラクター的な使い魔が現れる、と言う。しかし、朝菜は魔法少女でもなんでもないので、そんなものが来ている筈がない。
だから、「使い魔が来なかった」というのは、事情を知る異世界の人間の証明でもなんでもなく、極めて常識的な類推である。
「あなたがその力を得たのは想定外……予定にはないことだったんです」
「そ、そんな……私は、間違って魔法少女になったってこと……?」
「でも、よく頑張りました。普通、なるはずのない人が魔法少女になってしまうと、身体が壊れてしまうことがある。立派に耐えましたね」
「……うん」
朝菜はがっかりしたように肩を落とし、下を向いてしまった。
「私のことはテータと呼んでください、小西朝菜さん」
「じゃあ、私のことも朝菜って呼んで」
「ええ、朝菜。お母さんやお父さん連絡は取れますか?」
テータはにこやかに尋ねた。
「おうちに帰らないと」
聞けば、家に帰ればキッズケータイがあるのだそうである。
「じゃあ、一旦おうちに帰って、親御さんに連絡してくれますか?」
「うん!」
朝菜は元気良く頷いた。
「私、仲間がいてくれたら良いなってずっと思ってた! やっと、やっと会えたんだね!」
どうやら、自分が魔法少女である、と言う設定にどっぷり浸かってしまっているらしい。確かに、この設定にするっと入り込めるあたり、「不思議ちゃん」と呼ばれるのも納得できる振る舞いだ。
杏と朝菜の目が合った。少し、緊張する。
滅びの天啓。それは、この「魔法少女」からなんて言われるのだろうか。
「あなた、は……」
彼女は目を見開く。大きくて、きらきらした子供の目。
「あなたは……地球に遣わされたグレートコスモスの一人? 私にはわかる……」
どうやら、彼女なりに滅びの天啓を説明する設定があるらしい。
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