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#26 乙女ゲーなので

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 こんにちは。あのあとさらにもう一回死んだ悪役令嬢です。
 ラアルさまに殺されてしまった。推しに殺されるってある意味ご褒美なのかな? 心がリアルに死んでしばらく復帰できなかった。選択肢間違えると死ぬって乙女ゲーシビアすぎない? せめてバトルで問うくらいの寛大さがほしい。もう帰りたい。

 で、何が原因だったかというと、お店の選択肢だったみたいだね。えーと、セクハラのときの。「頼ってほしい」ってアレクくんが言ってたあれは不正解ってことだったのかもしれない。好感度上がらないと不正解なのかな?
 その好感度は、アレクくんが88でラアルさまが80になっていた。ちなみに上限聞いてくれる? 1000だよ。今が相当序盤だからなのか、それとも何か方法が違ってるのかわからないのが怖い。

 ともかくも最新の進行地点まで戻ってきた。フィブラもちゃんとプレゼントしたよ。喜んでくれた。よかった。
 うん、それはよかったんだけど。
 バッドエンドで聞いたアウスの言葉が、わたしは気になっていた。たしか、「これで全部だ」って言ってたよね。

(やっぱりラアルさまの言ってた通り、宝玉を全部そろえるつもりなんだ)

 ラアルさまはルウイたちの目的について、静暁の魔女を復活させるためなんじゃないかって言っていた。それ以外で宝玉を求める理由が思い浮かばないって。
(でも本当に、なんのために?)

 花村祥子と聖なる獣の化身たちは本来、世界を滅びから守るためにあれこれ模索していくはずだ。こちらの世界では静暁の魔女の復活は世界の破滅を意味するわけで、そのへんの動機がちょっとよくわからない。静暁の魔女を復活させると元の世界に戻れるとかそういうオチだったらどうしよう。それとも、ラアルさまが言うように花村祥子が静暁の魔女にそうやってそそのかされてる?
 わからない。ただ一つはっきりしているのは、わたしが持ってる(?)宝玉を、いずれルウイたちが奪いにくるということだ。

「アレクくん、あのね」

 ぎゅっとわたしは胸元で手を握る。一緒にいればいつかはアレクくんにも話さなきゃいけない日が来るってわかってた。
 ルウイたちのこと、それからわたしがどこから来たのか。ちゃんとアレクくんに話をしよう。

(ラアルさまにも太鼓判押してもらったし)
 大丈夫だ。
 それからわたしは大きく息を吸って、アレクくんの瞳を見上げた。
「聞いてほしいことがあるの」



       *



 その夜は宿屋に泊まって、明朝出発することにした。目指すのは隣国ウフタ・サボエイジだ。第四聖人ジルに会い、ルウイたちのことを伝える。
「聖人であればおそらく父のこともご存知かと思いますが、……何やら、嫌な予感がするのです」
 わたしもアレクくんもラアルさまと同じことを考えていたので賛成した。わたしも化身たちに聞きたいことがある。
 ベッドに入って、けれどわたしはなかなか寝付くことができない。あきらめたわたしはラアルさまを起こさないようにそっとベッドを抜け出した。

「ジアンナさん?」
「ちょっと眠れなくて。ごめんね」

 正直に明かすと、アレクくんが首を横に振る。どうやらわたしが眠くなるまで話し相手になってくれるつもりのようだ。わたしは声が響かないようにアレクくんのそばに寄る。窓を仰ぐような姿勢で腰を落とすと、月あかりの照る空が見えた。この世界では月はパンディオともよばれていて、地上を見守ってくれているという考え方なのだそうだ。
「ごめんね、ずっと話さなくて」
 何がとは言わなかったけど、アレクくんはわかってくれたようだった。どうしてと問われて、わたしは困ってしまう。

「だってずっと一緒にいてくれたのに」
「俺が好きでしたことだよ。俺がきみといたかった。だから、ジアンナさんは何も悪くないんだ」

 心をうがつ罪の杭をさらに深く打つように、アレクくんの声が震えた。苦しげなひとみが今にも泣きだしそうで、わたしはアレクくんがかわいそうになってしまう。
 どうしてそんなふうに、自分を傷つけるんだろう。そんなふうに、どうして自分を罰しようとするの?
 しばらくじっとアレクくんを見、わたしは彼の手に自分のそれを重ねた。

「アレクくんは、わたしに何か言えないことがあるんだね。そして、それをわたしに話せない自分が許せないんだ」

 アレクくんが小さくうなずいた。わたしよりずっと体の大きな彼がしくしくと泣く頼りない子どもに見えて、わたしは背中をそっと撫でてあげたいような気持ちになる。
 彼の懺悔を聞いてあげられたらどんなにかよかっただろうと思った。そうして彼を呪縛する何かをほどいてあげられたらよかった。
 だけどその資格がわたしにはない。なぜか。わたしはアレクくんの友だちでも仲間でもないからだ。

 わたしがそもそもアレクくんに「ジアンナ」サイドの話をすることになったのは、アレクくんと「敵」の情報を共有することが目的だった。話しても彼が自分の敵に回ることはないという利己的な判断があった。仲間だからだとか友だちだからとか、そういうハートフルな動機じゃない、完全な保身のため。
 クロスオーバーした世界で生きていくにはアレクくんの持っている知識が必要だった。ルウイたちから逃げるには彼の助けが必要だった。今後のためにもこちらの事情を知ってもらうことが必要だった。

 それだけ。
 だからね、と思う。
(だからね、アレクくんが苦しむ必要はないんだよ)
 「話せない」自分を責める必要なんかない。
 アレクくんは、何も悪くない。

 そんなことさえ言ってあげられない自分のずるさがくやしくて、わたしは握ったままの手の甲に額を押し当てる。何かできることはないんだろうかと思った。
 いつかアレクくんが呪縛から解放されるとき、アレクくんの背中を押してくれる何かを贈ることはできないんだろうか。「盾くらいにはなれる」なんて悲しい言葉を二度と吐かなくていいように。冷たい雨に傷んでしまった芽を包んでしなやかな再起の力を与えてくれるような、力を。

 強く祈ったときだった。情報タブが勝手に開いて、なにやらページ改装が始まった。
 好感度グラフがなくなって、かわりにスキルレジストリのページにそれぞれのSDキャラが表示される。ちょっとかわいい。
 どうやらSDキャラの状態で現在の好感度がわかる仕組みらしく、めいめいの吹き出しにわたしに対するものらしいひと言が表示されていた。二人ともわたしに親愛を抱いてくれているようだ。

(このキラキラはなんだろう?)

 SDキャラのまわりがピカピカしてるんだよね。カーソルを動かすようにそこへ意識を集中させると、スキルレジストリ全体が呼応するように色づいた。どうやらSDキャラに溜まっているエネルギーをレジストリに振り分けられるようだ。すなわちこれまでオートで習得していたスキルを、目的をもって増やしていけるということを意味する。
 仕様の変更にともなってか、今まではブラインドになっていた文字が読めるようになっていた。興味深くそれらに目を通していきながら、わたしはアレクくんのレジストリを俯瞰する。

 今進めているブロックとは別に、いくつかの未解放ブロックがある。身体能力ボーナスに魔法といったカテゴリを見ていく限り、アレクくんの潜在能力の区域なのだろう。アレクくんが無意識に封印してる領域というか。ちなみにすでに習得済みの『抜刀』や『正眼』のあるブロックはコンボというようだ。

 どうにかしてこれをアレクくんに教えてあげられないだろうかと思った。きみはこんなにすごい力を秘めてるんだよって見せてあげたい。と思うけれど、一回で使えるエネルギー量には上限があるようで、今回は一個分しかスキルを開けることができなかった。
 問題は、このエネルギーがどういうルールで蓄積されているのか、である。

(まさか)

 わたしはニコニコしているSDキャラを見た。
(まさか……好感度?)
 まもなくわたしは自分の予想が正しかったことを知ることになる。




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