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#17 好感度が上がるとだいたい正解

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 そのときわたしたちは、パティスリー・イザヨイの呪文スイーツを手土産に聖女さまと約束した聖堂を訪れていた。
「ようこそ、いらっしゃいました」
 聖堂はひとびとと聖人さまがお話しをする神殿部分と奥の住居部分からなる建物で、わたしたちが案内されたのは住居部分にある一室だった。ここではヴェルニさま含む、聖堂で働くひとびとや聖人さまを守る騎士などが暮らしている。

「ラアルと双子の、ジャンです」

 わたしたちを迎え、ラアルさまと同じ銀髪黒目の男の子が名乗った。髪の色と揃えたような白銀のアーマーがなんとも神々しく、凛々しい。小柄に見えるのは単純に年齢のためだろう。ラアルさま同様、陶器のような肌にえりすぐったパーツを一分の隙もなく配置したようなまさに神の御業というべき美貌だった。

 曰く、ラアルさまは急用が入りかわりにジャンくんが挨拶に出向いたとのことだった。ラアルさまの喜んだ顔が見たかったわたしはちょっとだけがっかりしたけれど、ジャンくんに呪文スイーツを預けることにする。
「ラアルにかわって厚くお礼申し上げます。ラアルには悪いですが、あなたとお会いできてうれしいです、ジアンナさま」
 ぜひ一緒に食べていってほしい、とジャンくんが言った。もしかしてそのつもりで奥の方に招いてくれたのだろうか。ラアルさまと同じ濡れた黒曜石のようなひとみで見つめられ、わたしは頬に熱がのぼるのを感じる。

「あの」

 ジャンくんに名乗る以外無言だったアレクくんが咳払いをした。
「先にヴェルニさまにお会いしても?」
「もちろん」
 ジャンくんがにっこりと笑う。呪文スイーツを置いてくるとのことで、一度その場を離れた。しずかな回廊を風がそよそよと抜けていく。涼しく感じるのは建物が石造りだからなのかもしれない。青みを帯びた石灰質の壁だった。中庭が近いので、ときおり葉擦れの音が聞こえる。

「……ジアンナさんは」

 まもなく、アレクくんがぼそっと言った。
「ああいう顔が、好みなんですね……」
「顔?」

 顔とは。
 もしかしてジャンくんのことだろうか。問うように首をかしげて見せると、アレクくんがハッとしたようにかぶりを振る。
「な、なんでもないです」
 また敬語になってる。
(もしかして面食いに思われたのかな)
 それは困る。困るけど、ここで否定するのもなにかが違うような気がする。でも、かといって誤解されたままなのも嫌だ。

 ▽「それは違うよ、たしかにジャンくんの顔は好きだけど」と弁解する
 ▽「もちろん、綺麗なものはすきだよ」と肯定する

 思いあぐねるわたしをさらに惑わすかのように、選択肢が出現した。単純なYES・NOじゃなくて「弁解」と「肯定」なのがいやらしいところだ。
 わたしは「弁解」を選択する。消去法だ。「もちろん、綺麗なものはすきだよ」なんて素面で吐けるほどメンタル強くないもん。選択肢のセリフって自分で言わないといけないんだよ、CVキャストボイスつけてください。

 言うてちょっとこそばゆかったりもするよね。だって、たいてい少女漫画とかだとこういう場合、「好きな人」に誤解されたくないからじゃんね。
「その、だから、……えっと、……」
 そんなことを考えてしまったせいか、だんだん顔が熱くなってきてしまった。誤解されまいと言葉を重ねれば重ねるほどさらなる深みにはまるというか自縄自縛になるというか。

 「だからわたしを嫌いにならないで」をひたすら、形をかえてうったえ続ける。わたしはただ人間として彼に軽蔑されたくなかっただけなのに、まるで身の潔白を証明しようと恋人に「説明」を必死に重ねる彼氏みたいになっている。なんだこれ。
 そのうちにくすっと、アレクくんがふきだした。最終的に(恥ずかしさのあまり)その場にしゃがみこむことになったわたしと揃えるように自身もしゃがんで、大丈夫? と言う。わたしの方は大変だ。酸素、酸素が足りない。

「ち、違うから……」
「……」
「その、すばらしい芸術にうっとりするようなものであって、ジャンくんに一目ぼれしたとか、そういう甘酸っぱい話ではないので……」

 やっとそれだけを言うと、アレクくんが「うん」とうなずいた。うなずいたきり、黙ってしまう。空白のような「間」が気になって見てみると、アレクくんはなんとも表現しがたい顔をしていた。困ったような? 怒ったような? 笑うのを我慢しているかのような? 
 とにかく変な顔だ。その胸元でじわっと、金色のふわふわがサイダーの泡のように上昇していくのだった。

「……」

 何かをとりつくろうとするかのように、それからアレクくんが咳払いをする。戻ってきたジャンくんが「何かあったんですか?」と遠慮がちにたずねるくらいには、ちょっとおかしな感じの空気が流れていた。ほらね、だから言ったじゃんね、こそばゆいってさぁ!
「ジャンさま!」
 ぱたぱたと神殿の方から女の子が走ってきた。見とめ、わたしはふとこげくささを嗅ぎ取る。
「ジャンさま、大変です。街に、火が! 聖都が燃えています!」

 どこかで陶器が割れたような音がした。女の子は肩に怪我を負っていて、そのまま、わたしたちには目もくれず、ジャンくんにすがりつくように駆け寄る。
 それは敵襲のしらせだった。



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