見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)

文字の大きさ
上 下
38 / 57
第五章 目覚めた戦士達の逆転劇 編

ルール不要のミリタリーナイト NEWブレインの覚醒

しおりを挟む
とある薄暗い一室。
妖しいオーラと漆黒のローブに身を包んだ女性、いや、少女と言ってもいい年頃の女の子が何やら球体に呪文を唱えている。


(…クマの拳は涙の味…運命をもブチ破り…厄災の…んん?視えない…!)


パリィィン!!


「キャッ…!!」

ピロンッ!
『どうされマシタ!?』
「ヒッ…!?」
『ワタシでスヨ。驚かセテ申し訳ありマセン。』
「ケンケン…」
「落ち着イテ下サイ、何が起きたのデスか?」
「急に…壊れた」
「失礼…【物体ヲ認識】…水晶玉?占いデスカ」
「…ん。」

【クマの拳は涙の味】

『彼女のコトを知ってイルようデスネ』
「前から知ってる。シルヴィア・ダルセン…学園の先輩。
また…おはなししたかった。」
『敵意は無いト?』
「仮面の向こうからあの魔力を感じた…嬉しかった…。
でもあの時の暗い魔力じゃない…楽しい何かに出会った感じ…。」
『聞かせ得テいただけマセンか?
学園の頃の話ヲ。』





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「だからさ、ちょっと力貸してくれるだけでいいのよ」
「次のテストの問題くらい簡単でしょ?」
「流れ人の末裔まつえいであるボクは頂点に立ち続けなければならないのさ、キミも協力してくれるだろ?」

「非道な情け…英雄のためならず…
占いで出た答え…」

ドン!!

「ッ!」
「そんな意味もない占いしてないで大人しくやりなさいよ!」
「そうよ!運命なんてルーカス様にかかれば変えられるんだから!」
「それはタロットカー…」
「口答えしてんじゃないわよ!」
「出ないものは出ない…」

ガシッ
「貴方、ルーカス様のいうことが聞けないの?」
「!?」
「貴方は分かっていないようね、ルーカス様がいかにして頂点に君臨しているか。
いいわよ…!教えてあげるわ!」



目の前の水晶を奪い取り、その腕を振り下ろそうとする。


ゾクゾクッ!
ゾクッ!!
ゾクゾク!!


「…!」

背後からこの学園の誰もが恐れている人間兵器の気配。
その気配にその場にいる者は息苦しさを覚え、常に一定のストレスにさらされる。


彼女がいじめられているもう一つの原因だが、常日頃無意味にいじめられていた訳ではなく、無意識に漏れている膨大すぎる魔力を利用して、わざといじめているその生徒のヘイトや視線を自分に向けさせていたのだ。


傷つくのは自分だけで済むように。


「チッ 厄災オンナか…!おい、いくぞ」
「「はい、ルーカス様」」




タタタッ

「…せんぱ」
「話しかけないでくださいましっ!」
「…え…」
「わたくしと関わると…ロクな目に遭いませんわ。」
「…あ…で…でも…」
「失礼しますわ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






『シルヴィア…力が使えズトモしっかり英雄じゃないデスカ』
「…あの時のお礼もまだ言えてない…」
『ソレなら心配ありマセン、1ヶ月ほどありマスカら、タイミングを見てワタシがお膳立てしマショウ』
「いい。…自分で伝えたい。」
『余計なお世話デシタね」
「ここなら…わたしのことを覚えてる人はいないから…絶対に先輩とお話しする。」
『先輩で言えばシータサン?学園はドウしたのデスカ?
今のお話ダト、シータサンは在学中デショウ?』
「…疲れちゃった。」
『ソウですカ、大変でシタね。』
「ん…先輩楽しい顔してて羨ましい…
ポーション作れて、仲間もできてて、楽しい顔してる…お面してるけど」
『マスターに出会ったからデス。』
「ドラゴン…職人のリョー?」
『エエ。生マレつき秀でたチカラを誰かのタメに役立て、理不尽には全力で刃を突きタテル。
マスターの周りは自ズと人は集まってきマス。

クマのお面をしたシルヴィア、オオカミお面のフィエリア、キツネのお面のケリーの3名はマスターに出会ったカラコソ、この拠点で各々活躍できてイルのデスカら。』
「いいなぁ…」
『シータサンもマスターと出会ったのデス。
これまでの過去をひっくり返すほどのナニカを作っテくれるカモしれマセンよ。』
「…わたしも…?」
『思いツキでコレまで何人、何百人と救ってきてイマス。

忙しくテモその人の笑顔のタメに総力を尽くす。

マスターはソウいう生き物デス』
「生き物…」
『ヒトマズ割レテしまった水晶玉はワタシが預かりマショウ。
順調にイケバ明日か明後日の午前中、消灯少し前ならマスターの手が空くはずデスカラ、話してみて下サイ。

ワタシの試算にヨレバ、貴方は騎士団の誰よりモ輝けマス』











翌日

「オラオラオラ!もっと来いよ!
こんなんじゃもの足んねぇぞ!!

もっと砕けちれ!

もっと泣き叫べ!

もっとぉ…!


オレ様を楽しませろぉぉ!」




「奥打・千本ノック!!」

グルグルグルグルギュイイイイイイイイイン!!
カキーン!
カキカキカキカキーン!




カキーーーーーーーン!!


ピューーーーーーーーーン…
ドガァァアアーーーーーーーーン

「爽っ快!」







「【聖なる光よ、大盾の手足となれ!
グリッターウォール】
【聖なる壁よ、その身に槍を宿せ!
グリッターランス】

ウォオオオオオオオオオオ!!!」






「【九頭蛇の滅矢ヒュドラ・デスアロー】…」

シャァァァアアアアア!
シャァァァアアアアア!
シャァァァアアアアア!
シャァァァアアアアア!
シャァァァアアアアア!
シャァァァアアアアア!
シャァァァアアアアア!
シャァァァアアアアア!
シャァァァアアアアア!

「殺れ。」










「あーあー…こりゃ騎士の誇りもクソもねえな。
第1小隊(ギルんとこ)もう魔法担当以外止まってんぞ」
「前に出る方が危険すぎますからね。
ん…?他の小隊も…マズイ!」



ズシィ…ズシィ…

「うぁ…あ…ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」


ブォォォォオオオオオオ!!
ボォォォォオオオオオオ!!


「オリャアッ!」

ズバァンッ

「オイ!生きてっか!?」
「あぁ…ぅぅ…」
「急いで戻っ…れそうもねぇか…


迫ってくるのは12体のハイオーク。
1体ですら数人がかりで対峙するところを手負を抱えた1人でなんとかなるはずもない。


【トレバー!援護頼む】」
「【無理です!第5小隊もホブゴブリンが来てるんです!】」
「マジかよ…

チッ…でも、そうじゃねえとせっかくつけてもったこの刃が錆びちまうもんな。

やってやるよ!!クソ豚どもが!!!」


「【炎狐乱舞】!!」


「うぉっ!?」
「大丈夫っすか!」
「狐のボウズ!?」
「第5小隊の方ならイノシシのアニキが向かったっす。あとはこっちに集中っす」
「助かるぜ」
「ハイオークは炎狐たちが引きつけるっす。
その間に怪我人を運ぶっす」
「おっし。」






数分後

「【探査】…ここらのはもういねぇな。」
「間に合ってよかったっす。」
「悪いな、超忙しいのに来てもらっちまって」
「これもおれっち達の仕事のうちっすからね、死人が出るより100倍マシっす。」
「そうだな、急いで運ばねぇとせっかく飛び出たのが本気で無駄になっちまう」

ピッ
「【リクっち、頼むっす】」

「【ハ~~イ】」




「来ましたっ!」
「テーリオさんこちらへ」
「おう」
「足持ちます。せーので寝かせますよ」
「「せーのっ!」」

「回復ポーション」
「はい」
「注射器」
「はい」

プス…
「ぅああ…!!!」
「大丈夫ですわ!!もう少し頑張ってくださいまし!」

「回復魔法で傷口を抑えてくれ」

「【ハイヒール】!!」



















『「…」』


患者の右の二の腕が途中で途切れたものの、医師達の精一杯の処置により綺麗に傷口は塞がった。


ゴブリンほどではないが頭が効き、人間の2倍のパワーを持つオークに押し負け、剣を取られてズバッといかれたとのこと。


「上でこいつを見つけたって聞いた時になんも考えずに飛び出したせいだ…」
「気に病むことはない。ここまでの地獄の中で死者や重症者が1人もいない方がおかしな話だ。
あの状況で生きたまま帰還できただけ運が良かった方だろう。」
「でもよ…」
「テーリオさんはいい判断したわよ、狙撃班でまともに接近戦もこなせるのはあなただけなんでしょ?

それに…腕があってもこれだけ時間が経っていてはポーションではくっつかないのよ…」
「もう…こいつは武器を持てねぇのか…?
コイツは騎士でも戦士でもいれなくなんのか…?
なあ…! 先生よぉ!」
「…無理だ」
「クッソォォォ…」




「「方法はあります」してよ」




『「!?」』

「僕が回復魔法を短時間で重ね掛けしつつ」
「わたくしが新しく腕を錬成すれば再生できますわ」

「そうか、なら早速!!」

『イイエ。2人の魔法を用いての欠損部再生は不可能デス。』

「え…?」
『確かニ、錬金術師、回復魔法使いによる治療の前例は有りマス。
シカシ腕がない以上、腕ヲ構成するための遺伝子データを腕以外カラ復元し直さなけレバなりマセン。
そもソモの話として、術者の基礎知識、練度が不足していマス』
「「そんな…」」
『デスが、着眼点はイイ所ついてマス。』
「そうですわ!ドラゴンさんなら!」
「でも…リョー君は」
「手術中よ」
『そんなニ焦ったトコロで患者の傷はたった今皆サンが適切に処置したところデショウ。

今急ぐベキは遺伝子の元、紛失シタ腕の発見・保護の方デス。

キツネに捜索を頼みマシタが発見には至ってマセン。ワタシも広範囲で本体から切り離さレタ腕の捜索は困難デス。』
「なんだよ…結局無理なら無理ってハッキリ言えよ!!」
『無理だト言った覚えハありマセンよ。このメンバーに残さレタ捜索手段ハあと1ツ。

シータサン』


ピーーンっ!
「……!」
タタタッ



「シータどこに行くの!」
『彼女は占いの道具ヲとりニ行くだけデスよ。』
「バカな…!占いで探せるとでもいうのか!?」
『探し物は無闇に探スヨリ、占ッテ調べた方が発見率は高イ。
ソレを彼女ハできマス。』
「魔法でも足でも見つからないのに見つかるのか?」
『彼女の占いハ本物デス。
見覚えのアル顔だッたとはイエ、“シルヴィア”、”フィエリア“、“ケリー”の正体から過去まで全て占いで調ベテ知ってイマス

力を借りズにいるノハもったいありマセン。』









「【ルック…ラック…チャック…ルック…ラックチャック…ルック…ラック…チャック…】」

「…失せ物…しかばねの山にあり。」

『オークの死体の山デスね!」



『【ケリー、地面では無ク、回収予定のオークの中ニ混ざッテいるヨウでス。】』
「【オークならもうリクっちの中っすよ】」
『【ソレは失礼、ワタシの勘違イで余計な足止めシテしまいマシタ。

捜索はこちらデ可能なようなノデ、引き続きティールズサンと各自で現場サポートをお願いシマス】』
「【了解っす。】」
『【2人トモ、リクサンの中ヲ捜索して下サイ。
患者のパーツハ、その山の中です】』
「「【了解】」」










「先生、ぶっつけ本番ですが大丈夫ですか」
「今さらだ、何があってもやり遂げるんだろ?
もう驚きはしないさ。」
「そうですね。遠慮なく反則技も惜しまずに使います。
号令を。」



「これより禁忌魔法による腕部復元手術を開始する。」




「【物体認識】」


思ったより状態がひどい、本体から切り離された上にこんな複雑骨折ではさすがに回復魔法の適用範囲外だ。


それにこの焼けた足跡、ケリー…炎狐で何回も踏んづけてるよ…


切り口の形状は…当然足りてない。この腕はそのままでは使えない。


「依代(よりしろ)を【物体認識】」


人間とオークは遺伝子の造りが似ているが、魔力の回路の造りは結構違う。

そこらの木がゴムの木に替えられるんだ、人型の動物同士も可能なはずだ。



元の腕に残っている生きている細胞を、オークの腕に移植。オークのモノだった肉、細胞、骨などを材料に急速培養していく。

オーク特有のDNAを人間の遺伝子に置き換え、血管、筋肉、骨格、脂肪、神経、魔力回路などを患者のソレに出来るだけ近づける。



「先生、鑑定をお願いします」
「【鑑定】……成功だが、血が足りてないぞ」
「分かってます。」


新しく作り直した腕は言ってしまえばただの骨つき肉、患者の血液が循環しないとつかいものにならない。




ゴロゴロゴロゴロ…


「もうそろそろくれるはず…ん?」


ゴロゴロゴロゴロ…
何だこの音は


「リョー君お待たせ!」
「オークの血液、抽出完了しましたわ!」


わーーおデッカいドラム缶。

それも怪力少女の小脇にひとつ、玉乗り少女が乗って運んでいるがもう一つ。中には満タンにオークの血液だ。

ダルセン家の人達は液体の加減が下手なのか?


「ナ…ナイスタイミング。」


まぁ…足りないよりマシか。


「先生、この空っぽの方をしっかり抑えてもらっていいですか」
「分かった。」
「【クリエイション】」




腕と同じ原理で血液を人工輸血液(仮)に改造する。

シルヴィアの持ってきた容器から血液が宙を通り、俺の魔法陣を通過。

ほぼ同じ血液型に形を変え、先生が持っている容器に次々ダイブさせていく。

15秒ほどで移動は完了。こちらも鑑定で見極めてもらい

「成功だ」
「よし」


ここからが本番。
問題は仮にも他人定義の腕をくっ付け、拒絶反応なく一生機能させなくてはいけない。

まずは先生に二の腕と新しい腕を、縫い合わせてもらう。

接着剤を使う際に接合面にわざと傷をつける用量で、腕のつなぎ目を中心に肩から手首にかけて血が滲むかどうかほどの浅い傷も点々とつける

あとは手首と肩から同時に先ほどの血液を輸血し、


「【メガヒール】」


肩→二の腕→肘→手首→指先の順に回復魔法をかけてやれば、回復魔法が生きている身体同士だと勘違いを起こし、本体と繋がり馴染んでいく。

ピッ

『診断結果マシタ』


「…復元成功だ」


「はぁ~ お疲れ様でした」
「私は縫合しかしてない。問題は…な。」
「彼のカルテをどう書くかですか?」
「ああ。今の手法は現代の魔法科学で説明がつかないからな。
[回復魔法と錬金術を同時に使ったらなぜかくっつきました。]
では問題があるからな。」
「回復魔法と縫合と上級ポーションで繋げるだけ繋げたことにして、とりあえず抜糸せずに何週間かかけて治したことにします?」
「それが1番自然だが…この患者はどうする?ずっとベッドにいさせるのか?」
「すぐに最前線へどうぞとは言えませんからね、後方支援…物資運びの手伝いをしてもらうか、さっきのテーリオさんのように怪我人の回収を手伝ってもらいます。

現場に出すか出せないかを言っても人手不足は変わらないわけですし。」



























シュルッシュルシュル…ギュゥッ
シュルッシュルシュル…ギュゥッ

鎧をバラバラに分解し、修繕した後新品同様に組み直す。
残りは紐を通し直すだけなのだが、心地いいのは鎧の修繕"だけ"に思える


理由は、何も考えずに直していたら全ての武具が大業物になってしまうから。


ガチガチの魔剣モドキをフルセット揃えることの方が楽だし、ここまできたら比較的容易だ。ただアランさんとは違い、彼らは集団戦闘団体。

防御力はいくら高くても困りはしないが、本気で斬って山ごと逝くような魔剣モドキを持たせて行かせれない。



それでも俺の見通しは甘かった。
今日の腕部再生手術をした患者さんの件、騎士のユニフォームを優先したばっかりに、鎧でカバーしきれない箇所に一生モノのケガを負った人が出たままになるところだった。

こうなったら暗黙の指揮権を使って彼らにガチガチの全身強化スーツでも着せた方が早いような気も…ん?




ジィーーーーーーーーーーーーーッ

ドアの隙間から眼差しがす~ごいな

あのクリッとした目は…


「シータさん、どうかしました?」
「ヒャッ…!」


逃げようとアタフタする女の子を念動でヒョイっと浮かせて回れ右させる。


「別に襲い掛かったりしませんよ」
「…あぅ…」
「どうしたんですか?」
「今…忙しい…?」
「いえ、ちょうど休憩にするところです
よかったらお話聞かせてください。
お茶かジュース、お茶菓子にアップルパイなら出しますよ」
「…スイーツ…!」


陸に頼んで、修繕が終わった物をパパッと転送。

俺の部屋にはパソコン台の前に、作業台用の椅子を持ってきて即席の診察室に。


「コレと…コレ…直せる…?」
「拝見します」


1つはデッカい懐中時計のような見た目をした方位磁針の周りにいろんなマークがついた物、風水羅盤だ。

所狭しとマークや文字のような物が詰め込まれ、目がルーペや虫眼鏡を欲してしまう。
真ん中の方位磁針が消し飛んでいるので調べようが無くなっている。


もう一つ出された包みを開けるとその中にはシータさんの拳と同じくらいの大きさの水晶玉、こちらもバラバラに割れてしまっている。




「占い好きなんでしたね」
「ん。わたしの家族…代々占い好き。
ドラゴン…占い…好き?」
「魔道具を作る時に近いことはしているので、多少は。」
「…魔道具に…占い…?」
「正確には風水なのでこっちの羅針盤の方です。

素材の質や何を使うかはもちろんですが、作りたい物の色や形、大きさ、方角、モチーフ元や柄とかの意味や特徴、使う場所や気温、自然光の反射や透過具合などから得られるパワーの種類、強さを調整して作成するのが魔道具。

俺が得意としているのは魔法陣と魔法付与による魔法道具、魔法装置の方ですけど、ソレにも多少似たようなことはしますよ。」



シルヴィアの腕輪がソレ。

・ダイヤモンドが永遠に続く意志の硬さ
・フワフワ葉っぱ模様が優しさと力強さの象徴
・植物そのものの意味として、穏やかに強く生きる力

…が込められていたり…そうでもなかったり…



「フムフム…!」
「この水晶と羅針盤もそのパワーを調べるための魔道具という定義になるわけですが…

ここに来るまでで壊れてたんですか?」

首を横に振る

「では、どこかにぶつけたり落としたとか?」

また首を横に振る。

「…占った時に壊れた…」
「そうですか…」


「小さき英雄、前途多難…信じる者に救いあり…けっして御心、逆撫でするべからず…
さもなくば破壊と創造の天秤崩れんとす。」


「それはどういう意味なんですか…?」
「お面の人達…この先いっぱい大変。
お面の人達とその周り…信じ合えばどんなことも乗り越えられる。

敵と認められたら一貫の終わり。

黒い災い、蒼炎の獣、死ねない断罪。その他諸々…」


その他諸々ぉ…俺やティー兄、匠、陸が何をしでかすかまで視る途中で砕けたな。



続け様に俺を指差して少し拗ねたように見る。

「ん。…栄光を嫌い、栄光に愛された不幸な英雄…」


続いて工房の壁、方角でいうとサブ棟とシルヴィアの科学室の方を複雑な表情で見る

「”シルヴィア先輩“…"何か"と運命をもブチ破る強い人…」


「要は俺達のことを占って調べようとしたところで壊れたんですね」
「ん…ごめんなさい…」



かわいそうに
神々の使いみたいな存在の俺と、神の鉄槌を具現化したような力の持ち主と、その愉快な仲間たち。

そりゃあいっぺんに占ったらこんな小さな水晶玉と羅針盤は保たないな…




キュル…キュル…キュル…カチャッ…カチャッ…

「…」
「…」

「…直る?」
「大丈夫ですよ。ちょっと待ってください。」







数分後

「【ルック…ラック…チャック…】
【ルック…ラック…チャック…】
【ルック…ラック…チャック…】

フィリップ…フィエリア…ヴィンセント…決戦の時は近い…信じた光を貫き通せ、さもなくば光は闇に呑まれる…」






「【ルック…ラック…チャック…】
【ルック…ラック…チャック…】
【ルック…ラック…チャック…】

ケリー…恐れる心は失うなかれ…己が心に火がつく時、技の真価を発揮する。」


3人の占いはこのまま遠征が無事に終了するわけがないことを物語っていた。


「やっぱりそうでしたか~」
「…?…余裕ありすぎ…」


俺もそこまでバカではないので大体の原因は分かっている。


「占ってもらったお返しに、話しておきますね」
「…ん。」
















「それ…占い…?」
『強いて言ウなら、親心と魔法科学が弾き出したデータデス。』
「…むぅ…」
『勿論、今回のシータさんの占いの結果もワタシ達のデータの信憑性を高める重要な証拠エビデンスになりマスよ』
「…フン…♪」



猫系の獣人である彼女の尻尾に機嫌が素直に現れる。うちの妹達みたいな小動物感が見てて飽きない。


ハム…ハム…♡
「…」


あっ そうだ


カタカタカタカタッ
[水晶玉_占い_サイズ]

[占い_羅針盤]

[包囲磁石_種類]

[コンパス_大航海時代]

[ジンバルコンパス]





よし。とりあえず分かった。

羅針盤の“羅盤”のほうはシータさんの羅針盤に書いてある物を流用するとして…あとは針の動きに水晶玉の重さが干渉しなければいいから…意外といけるんだな。







占いに干渉しない程度の仕掛けを施した半球型の台座を作る。

台座の平面の真ん中に、直径8cmの薄い円形金属板が乗る程度の浅い溝、さらにその中に6.5cmほどの半球が入る凹みを施す。

方角を指す用のドーナツ型の指針板を載せる。台座から浮力を得て若干浮き、ひとりでに北を指す


あとはドーナツ型指針の中心の穴に、魔力を練りに練って作った、手のひらサイズの水晶を入れてやれば…

フワ…フワ…フワ…



ジィーーーーーーーーーーーーーッ…

わーお…真正面からの視線がすーーごいな


「思いつきでやってるだけなので、見なかったことにしてください」
「…やっ。…見る。」
「でも…別々の占いを1つの道具にまとめるとか、変ですし…」
「…コレ、変じゃない。…かして…」



両手でお椀型の魔道具を持ち、彼女が占う時の呪文を唱える。

「【ルック…ラック…チャック…】
【ルック…ラック…チャック…】
【ルック…ラック…チャック…】」


フワンッ フワンッ フワンッ

水晶玉がさらに浮上し、妖しい光を放つ


クルクルクルッ


指針板が回りだし、北ではない方を向く

いや、方位磁針あなたは北向いてないとダメじゃん


フワンッ… フワンッ… フワンッ…


彼女の手からお椀大の半球が離れ、水晶玉との間に魔法陣でできた拡大羅盤を形成、半球そのものが不自然に傾く。


いや、台座おまえは特に浮くなっ!!


「ちょっとこれは失敗かな…」

ピクン!!
「…視えた…! ケンケンの…探し人」
『分かっタんでスカ!?』
「ん。この方角…結構遠い。
“荒ぶる島亀”の甲羅の中…地下?」
『マサか…!…』

カタカタッ カタカタカタカタッ

『アリまシタ!』



拠点から南南東840m程の地図になかった"山そのもの"がクラッシュタートル、それも大量に。

攻防共に鬼クラス。討伐が困難すぎてか、ただの島亀だと思われていたのか、騎士団の方では遠征の計画にこそない大ボスだ。


”騎士団の計画“にはな。


彼女にはソレがしっかり見えたらしい。

『甲羅…山の途中にある凸のひとつが体内のシェルターに繋がる転移罠(ポータル)になってマス。

ドウリで何度生体反応を探しテも適合率が上がら無い訳デスヨ!

生体反応が凶暴な巨大種の体内に有ル上に、探索対策用の妨害魔法が掛けラレテいたのでスカラ!』

「荒ぶるケンケン…」
「相当探してましたからね
まさか占いが妨害魔法の網をすり抜けるとは思ってなかったみたいですけど。
シータさん、超大手柄です」

フフンっ!
「…占いの力は無限…!」

『シータサン、至急いくツか占って頂キたい内容ガ。
報酬はソノ魔道具と新品のタロットカードでどうデショうカ』

「…願ったり叶ったり…さらに叶ったり」









翌々日、騎士団長と直談判したケンちゃんの朝まで続いた大会議・大プレゼンテーションの結果、騎士団の作戦変更…いや


ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ

キュイイイイーーーーーン…

「カーナビケンちゃん将軍!総員配置につきました!!」
『撃ちカタ、進軍開始!!』


AIが指揮をとる臨時の“騎士軍”が発足された。




ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ

ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ

ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ

ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ


『38番!銃口を水平に保ちナサイ!』
「サー!イェッサ!!」

『29番!まだトリガーに指をカケルな!誤射が起キルゾ!』
「サー!イェッサ!」


「カーナビケンちゃん将軍!目標地点に間も無く到着します!」

『了解。撃ちカタ構え』

カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!
カチャ…!


『ミッションスタート!!!』


ズダダダダダダダダダダダッ

ズダダダダダッ ズダダダダダッ


『【アタッチメントボックス展開】』

ウィーーーーーン…ガチャコンッ!

『【発射ファイヤ】』

ヒューーーン…ヒューーーンヒュヒュヒュヒュヒューーーン


ドドドドドドドドオオオオオオォォォォォォォォォォォォン!




俺たちのターゲットに時間を費やすために最高効率で殲滅するって、わざわざシータさんの占いをベースに殲滅のための順路を算出、シータさんの占いで吉と出た54人を地獄の訓練で鍛え上げた。

モニター越しにも分かる。
ケンちゃんの中で占いブーム来たな…


[常識に真っ向から抗うが最大の戦略]


剣の対義語みたいなところあるけど、騎士に魔力式アサルトライフル持たせて迷彩服、ヘルメット、ゴーグル、ガスマスクはもう騎士の面影ないって

シータさんも占い好きとは言ってもそこをノリノリになるのは騎士さんがいろいろかわいそうですって。


ブビャッ!?
ブォッ…!
ブビィッ…?


ギャンっ!
ギェッ!?
グギャアッ…!


あーあー オーバーキル、オーバーキル

もうやめてあげて!魔獣のライフはとっくに0よ!!








「おーい準備できたぞー!」
「あ、はーい!今行きまーーす!」


一方俺はというと、シータさん占いで大いに余った方の騎士達に強化迷彩服を着させ、直径100m程ある池の周りを遠くから取り囲んでいた。




ルチオさんに玉状にしたあるモノを投げ込んでもらう


ピューーーーー…トッポン…!

パァァァァアアアアン!!



「うおおっ!?」
「ぎゃああ!」
「わぁっ!」
「『!!!!!!!』」


水に入った瞬間にソフトボールほどのオークの肉骨粉団子匂いに気付き、何十匹もがその小さな獲物をも仕留めようと同時に衝撃波を放った。

衝撃波は大きな水柱を起こし、減った水かさ分の甲羅が一瞬露出した。

その甲羅は魔法と物理両面にかなり強い防御を発揮する。装備の素材としてかなりの価値はある反面、それだけ討伐が困難なことを物語っていた。



「近づいてもまともに狩れないだと…」
「殲滅なんて不可能だろ」

「大丈夫です。
テーリオさん、お願いします」
「おーう」



グググググググゥ…!
ピュンッ

ポチャンッ

パァーーーン!

ビンッ!


ゴムパチンコ剣に取り付けた、特製リールから高速で釣り針付きの肉骨粉団子が飛び出し、先ほど同様水柱が立つ。

「ハンドルのスイッチを」
「コレだな」

ピッ
ギュリリリリリーーー……!!


「うぉっとととっ
おっしゃ!!いっぽぉん釣りぃ!!」


ザッパーーーーーーン!!


「うおりゃああ!!」


ズバンッ!!


黒い塊から飛び出た黒い塊が斬り離され、地面に落ちる。


「『おおーーーー!!』」

「なるほど…」
「お?なんかあったか?」
「釣り針が口の中で引っかかって開かないところを見るに、顎を閉じる力の反面、開ける力はないみたいです。
ワニの筋肉や骨格の原理と一緒ですね」
「だからなんだよ、開けてりゃ危ねぇんだろ?」
「まぁ要するに、餌食わせたりして口を閉じた後に近づいて首根っこに刃を突き立てれば安全に狩れます。

テーリオさんはデッカい亀釣って、首をぶった斬ってればいいもんだと思って大丈夫です。」
「あいよっ」

「ルチオさんは定期的にさっきみたいに肉骨粉団子エサを投げ込んでもらえますか」
「はいっ!!」

「ドルガンさん、フォンドバーグ団長は万が一に備えて2人の護衛と補助に待機しておいてください。」
「了解した。」
「分かった」

「他の皆さんは池の外部を警戒してください。血の匂いで地上の魔獣が寄ってくるはずです。」
「『応っ!』」

あとは…

ウズウズ…ウズウズ…

「ギルさーーんこちらに!」
「ああ…」

剣を抜いた途端に豹変するバーサーカーを近くに誰もいないところに配置して…



「よし…。ふんっぬぅ!!」

俺が池ごとクラッシュタートルを持ち上げてやれば

「ギルさん!!どうぞ!」




ジャギンジャギン!!

「ヒャッハァァァーーーーーーー!!
くたばれぇぇっ!!!」



30分と経たずに首が上手く切り取られた甲羅の山と、無惨に切り刻まれた死体、食いちぎられた物体、氷漬けにされた死体。

ルールやしがらみに囚われる必要が無くなった赤札隊+1、2名によって綺麗にお掃除完了っと。








その夜

「もう…動けん…」
「グベェ~…」
「zzzzzzZZZZZZZZ」


「オイオイ…コイツら一体何やったんだよ…」
「相当ハイペースで走り回ったらしいですよ。疲れたらポーションで無理やり回復させられて、弱音を吐いたら電撃地獄。」
「ボク…工房の赤札貰って本当によかったです。絶対ついていけなかったですもん」
「私も自分の蛇に喰われた方がマシです。」
「同じく」




「全身疲労に環境の大幅の変化に心身ともに悲鳴を上げてるってさ。

ケンちゃん自身が言ったよね、この先1ヶ月近くこれが続くんだよ、皆さんの精神もたないよ」
『スミマセン…やり過ぎマシタ』
「今日1日はポーションで対応するけど、明日からはもう半分くらいまでにペースを落とそう。」
『ハイ…』


「失礼します」
「はい?」『ハイ?』
「シータ“参謀官”から新たな結果が届いてます」
『見せナサイ!!』





『フムフム…なるヘソ…!』

ソロリ…ソロリ…

『【キャッチロープ】』
「え…」

『マスター!早速騎士団長サンと大会議デス!』







「占いブームはほどほどにしてぇーーーーーー!!」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...