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第四章 ジメッとメラッと強化合宿 編
光速おまわりさん
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あれから連日の模擬戦、模擬戦、模擬戦、模擬戦…!みんなよく飽きないな…
一人一人が模擬戦ごとに対策をちゃんと練って全力でくるので、普通に油断したら死ぬ。
今日は機動力が持ち味の突貫娘ことフィエリア。
技数で言えば幅が一番少ない分、3人の中では気が散る攻撃が特化しているため、100を超える俺の刃でも数に限界が見える戦い方を見せてくるようになった。
「【脚力強化】【ミラージュ】」
早速フィールド上を駆け巡り、残像とミラージュを応用した分身数十人分が俺に向けて2丁銃をぶっ放す。
弾幕と呼ぶにはは充分だとは思うが、一人分あたりの弾数はそう多くないし撃ってくる方向から追跡はできるので、焦らず念動クナイで弾きまくる。
ひとまずお得意の機動力を削ごう
俺の足元以外、広範囲の地面が厚みを増す。
「【スティッキーフィールド】」
『そうくることは想定済みデス。フィエリア』
「【エリアクリーン】」
元に戻された。
そりゃ簡単だわな、この魔法の対処は俺が前に見せたもんな…
ならばこっちもそちらの真似をさせてもらおう。
「【ミラージュ】【脚力強化】【光弾】」
俺もフィエリアに化けて駆け回る。
『コレはマタややこしいことヲっ!
でアレばここはワタシのターンデス。
【画面明度超調整】
外向きでベルトに仮固定されたスマホ画面から、絶えず発せられる白、青、緑、赤に光るオーロラような光の帯に触れた分身が誰のものか関係なく消えていく。
oh…また振り出しかよ
『コノ魔法を使っている間はでお互いミラージュは使えまセン。
予定より早いデスが第2フェーズと参りましょうカ』
「うん!」
『【空中足場
これヲ【コピー】【ペースト】【ペースト】~…』
下敷きのような半透明の結界が地面や空中に現れた。その表面に赤色の三角が縦に連なったマークが付いている。
その数80、90、100…まだ増えるか
走り回りながら展開しているから上下左右前後360°を彼女達の縄張りにされた。
いつの間にこんなの仕上げたんだよ…
『こんなモンでショウ。それでハ、思いっきりブチかましちゃって下サイ』
「【ギアブースト】!!」
【ギアブースト】
光速と高速を掛け合わせたフィエリアの得意とするブースト魔法で、身体中に幾つかの高速モーターを模した魔力の渦を作ることで脚力や光弾の連射性を極限まで引き出す。
元々は匠の案で、
「アニメで怪獣から逃げ回るヤツってめっちゃ足グルグルなってるやん、アレちょっと試してみいひん?」
の一言が思いのほかうまくいったものだそうで、参考になればと飛行車の仕組みを見せたところ、メカ好きくんの気に召したらしく魔法の感覚と理論の覚えが段違いによかった。
よーく見ると足の裏から車輪のような魔力の塊が出ているらしく、足を早く回して駆け抜けるというより原動力付きのローラースケートで走っているような状態なんだと。
今では走るだけでは飽き足らず、足元の渦の回転をキックの攻撃力にも使えるように練習している。
パーン!!パアアン!!パアン!!パンっ!
パンパパパパパパパパパパパパパ…!!
連続する叩き尽きるような音とともにフィエリアの気配と魔力反応が追えなくまる。
周りをグルグル回るだけではなく、たまに対角線上も通ってくるので、攻撃の元がどこにいるのか完全に分からなくなった。
早いのは当然として風圧なのか衝撃波なのか分からない圧が四方八方で発生しているのでいるだけでもう辛い。
ブォンッフォンッフォンッフォンッ
「にょいっ!!?」
危険を察知した先にあったのは、伸び縮みするだけなはずの魔法武器。それも電熱線のような光の魔力を帯びて。
間一髪のところで体を捻り、服を掠めて済んだ。
焦ったぁ…
光る回転ライト◯イバーが飛んできたかと思っ! うわ
また飛んできたっ!!
ババババババババババババババババババババババ…!
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ…!
ブォンッフォンッフォンッフォンッ
ブォンッフォンッフォンッフォンッ
弾幕が少なくなり1箇所からの球数が急激に増え始めた、そのたったの一瞬だった。
「そこだぁああああああ!!」
その1箇所である背後から声と気配が急激に近づいて来て
「グベボォオオオオっ!?」
気づいた時には激痛と共に俺の体は宙を舞っていた。
俺の身体は勢いよく壁に激突。その衝撃は真っ赤な鎧を呼び起こすには充分だった。
『チェックメイト!我々の勝利デスね。』
「いったぁぁ…」
「勝った…?僕…勝てたの?夢じゃ…ないよね」
「ああ。文句なしで、俺の負けだよ。」
「やった…やった!やったやったやったああ!!!勝てたぁぁ!!」
喜びの勢いそのままに両手を広げて駆け寄ってくる。
「イッ!!待って…!腰がっ…!」
「ご、ごめんっ」
「ちょっとタンマ」
ポーションの入った瓶を取り出し痛む体にその中身を押し込む。
「では改めて。おめでとうフィエリア。
これで良くか悪くか鋼兵隊こうへいたいの結成条件の3分の1を満たしたわけだけど…本当にいいの?忙しくなるよ」
「もちろんっ。
来月あたりに衛兵隊の人員増やすらしいから動く時は隊長や先輩たちに任せてリョー君やティっ君と一緒に動いた方が役に立てるだろうし」
「あの…役に立てるって、今のフィエリアはこの街最強の衛兵だよ?主戦力だよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。」
「そっか…大丈夫か…」
「リョー君はそんなに嫌なの?」
「俺の性格上思いつくことは実行しないと気にやまないから、毎回やりすぎて引かれるんだ…
画期的なものを作ってるだけなのに他人から危険物を見る目で見られる気持ちがわかる…?」
製薬の依頼の時の薬屋、魔獣大量発生の準備の際の職員さん、仮家を作った時のガドマさん、この間のグレイスさん。
コイツマジかよ…という目線
ええ…という目線
毎度毎度こんな見えない刃の餌食になるのが生産チート持ちとしては1番辛い
すぐ順応してくれた当時のフィリップ、セナさん、ルミさん、ウィルさんが良い方だ。
すごーーい!とか素晴らしい…がほしいのよ俺は
「辛いね…」
「毎回ちょっと傷つく…」
「でもやめる気は?」
「無いっ!」
「だよね」
俺に期待してくれる者には全力で、総力で応える。
それが俺の流儀だ
3人の強化合宿も、俺から卒業証書を渡すことで全ての課程を修了する
『【リクサンお願いしマス】』
地面に発生した陣からアタッシュケースが6つケースがせり上がってくる。
普通サイズが3つと、普通サイズよりひと回り小さめなケース、幅が広めなケース、長さが1メートルほどある物の計6つだ。
小さめなケースと普通サイズ、幅広ケースと普通サイズ、長ーいケースと普通サイズがペアになるように並べてあるなかで、自分の名前が刻んである小さいケースのペアの元に駆け寄る。
開けようとガチャガチャやるも両サイドのパッチンに気付かずなかなか開かない。30秒ほどいじりにいじってようやく開いた。
普通サイズの中身を見て少し固まる。
「僕のと違う…新しい銃?」
「その銃は[マジックシューター]。
魔力弾やに加えて魔法を手軽に打てるようにした物。
メル爺とティー兄含め、みんなある程度銃に適正はあるみたいだったから、みんなのの共通の武器として作ったんだ。」
「何コレ?スマホの形の…ケースかな?」
「そう。銃の一部分がケースがピッタリハマる形になってるんだけど」
ジィーーーーっ…カッチャンッ
「おーーくっついた!」
カッチャンッ ジーィヒュゥン…
「へー、ちゃんと取れるんだ」
オモチャを与えられた子供のように楽しそうに武器を弄っている。
あの~、話聞こえてる?
「あ、ごめん」
「なんでスマホが着くかっていうと…なんでか分かる?」
「スマホと銃を片手にまとめちゃえば、戦いながらでも情報とか指示が送りやすくなる…とか?」
「まぁそれもあるんだけど、1番は」
『ワタシの弱点を補うためデス』
「ケンちゃんの弱点?え、あるの?」
『当然デス。
人間同様、ワタシのような優れたAIにも欠点はありマス。』
優れたって自分で言うかね
でも、それくらいの自信を持ってもらわないと作った側として悲しくなるか…
『スマホの機能上、ワタシの魔法陣を用いた魔法は初級や単発の魔法はともカク、結界ナドの維持するタイプの魔法は遠くともワタシから半径3メートル以上離れれば魔法の精度を維持することが難しくなるのデス。
先程はアナタが走り回ってイタので、広範囲に魔法陣魔法を使用出来たワケですが、ワタシだけではあのような魔法を放つことは不可能。
要救助者ナドに魔法を使おうと思エバ2メートル近くまで寄る以外方法が無いのデス。
賢者を名乗る者とシテ、マタ、皆さんのサポート担当として使えるハズの魔法に制限があるのは癪でシテ、マスターに当初から制作予定だった銃の仕様を変更、マジックシューターの制作を要求したというわけデス。』
「フィエリアの持ってる銃が魔法を使うための物だとしたら、マジックシューターは魔法陣を撃ち出すためのの魔法道具っていう違いがある。
このままいけば少なくともフィエリアは武器を3つ4つも持って戦わなきゃならない。それは非常にめんど~だと。
ならどうすればいいと思う?」
「えーっと…あ、リョー君のことだから銃とニョイ棒足すとか?
あっそれでもう一個のケース!」
ここで忘れ去られたもう一個のアタッシュケースを慌てて開けるが
「え…空っぽ…?」
「ごめん。
今日までに間に合わなかった」
「アレだけ忙しくしてたらそうなるよね。
それよりこの銃、早く試してもいい!?」
『試し撃ちでしたら対人用のセーフティモードにはなりマスがいいデスよ。』
さっき全力で駆け回った事を忘れているかのように元気に立ち上がり、早速スマホを装着。
両手でしっかりと持ち構える。
『少し時間を下サイ。
持ち主の身体をスキャンしマス。…完了。
数点の誤差を確認。修正中……完了。
オールクリア。いつでもドウゾ』
「リョーくーん 的作ってー」
俺もそのやる気に応えていつもの円盤の的、人型の像、人質を取った犯人型の像などシチュエーションごとの的や像を作ってやる。
『ソレデは、実際に撃ちナガら設定を弄りマスので適当な人形を1つお願いしマス。』
ダァン!!
銃口から放たれた無色透明な弾丸は木像の心臓部分を叩いた後に消滅
…ピシピシ…パァァーーーン!
訂正。人形を消しとばした。
「…」「…」『…』
「強くない?」
『魔力弾の威力の設定と使用者の実力のリンクが見合ってないようデスね。』
「大丈夫なの?」
『根本的な間違いがアルようなノデ魔力弾の方は後回しにシマス。
ワタシが用意した捕縛用や支援用の魔法が有りマス、そっちから試しまショ。』
『【キャッチロープ】』
ヒュルヒュルヒュルッギュゥッ…!ビンッ!
『【オートヒール領域設置】』
パァァァァァ…
『【セーフティシールド・ショット】』
ダァン!!ダァン!!
カンッカンッ
分かったこととしてはケンちゃんにしか使えない魔法の魔法陣を撃ち出す銃としてはまずまずではある反面、みんな使えてしまう魔力弾だけは銃本来の性能に持ち主の特性や威力を上乗せしてしまうらしい。
『という訳デ、マジックシューターの方ももう少しダケお時間イタダきたい…デス』
一週間後、衛兵隊の仕事に復帰することになった。
カチャカチャッ
「最後にこれを締めれば…完成!!
あっケンちゃん今何時!?」
『6時過ぎデス。なんとかフィエリアの出勤には間に合いマシタね』
「あ~~~っ!ちかれた~」
『ポーションと気合で3日連続徹夜とはマスターも相当な社畜の才能を持ってマスね』
「自覚があるあたり自分でも恐ろしいよ」
『ン?コレはまずいデスネ。ちょっと止めてきマス』
「え、何を?」
『………』
「おーい」
ケンちゃんの返答と顔を模した表示がなくなり、アプリが落ちた。
他のスマホに映った時はこうなる。
最低でも3人同時にサポートしてもらわないといけないのでここは要改善だな
1分ほどして後、スマホにケンちゃんが戻ってきた。
『戻りマシタ。』
「何ごと?」
『もう14秒ほどで分かるかト。』
「?」
『13、12、11、10、』
カウントダウンに合わせるように2階、階段、1階廊下の順に騒がしくなる。
4、3のところでこの部屋の前に着いたことは音で理解できた
『2、1』
扉の開く音がする。音が弱々しい。
「リョーくーん…」
久々に衛兵隊に顔を出すので緊張しているのか?
部屋の中で運動でもして何か壊したとか?
ウチはガラスまでもが強化済み、壊れるものはほとんどないんだけど。
「どうし、どわぁ!!?どしたのその顔!?」
「ちょっと上手くいかなくて…」
ちょっとどころではない
フィエリアであるはずの顔にはなあにをどう下手に使ったらそうなるのか、白塗り、真っ赤っかのピエロさんが鎮座。
んー…多分使うべき色合いも間違ってるし、何よりしっかり塗る所とうっすらさせるところの加減がお馬鹿さんだな
もっと早くに止めてやれよケンちゃん
『コウいうことデス』
「どうしよう…」
「お、オッケ分かった。そこ座って」
出勤するまであと20分くらい。
創造スキルの器用度補正を使って化粧してやれば幾分かはマシなものにはなるだろう。
ついでに軽くヘアセットもしてやるか
ポフポフポフポフポフポフ…
「?」
「こーらっ、余所見しないっ」
俺のデスク上にある物が気になるご様子。
気になるのも仕方ない。
馴染みのある面影の欠片を感じ取ったらしい。
通常の拳銃であれば一つしかついてないはずのグリップが上下についていて、グリップの先端から木刀くらいの直径の如意棒が生えている。
そう。フィエリアの新しい武器、如意棒銃 通称:如意棒銃だ。
3人の武器に使いたい素材がどれもバジール商会でもすぐに用意できるものではなさそうだということで、先に作れるものから部分的にでも進めているのだ。
それでも強力な魔獣などの素材は待てばいい物なわけがなく、俺自身が直接採りにいかなければならないという結論に至ったのだ
「というわけで来週あたりから素材探しに遠征するようになると思う」
「そうなんだ」
表情が曇る。
そりゃあ普段街から出ようとしない奴が軽くBランク指定の場所に行こうとしてるんだし当然といえば当然か
「やっぱり心配かけちゃう?」
「うん…ちょっと不安かも。
急にいないのもそうだしリョー君がひとりでいくのも」
「あ、目ぇ瞑って
そんな心配?なら…そのまま目を瞑ったまま想像してみて。
フィエリアの周りの人。」
「え?どういうこと?」
「まぁいいからいいから。
まず、今まで十何年間も最強の頑固オヤジを貫き通し続けてた育ての父、ガドマさんと、ガドマさんの下で日々街の平和を守っている先輩の衛兵さん達」
フィエリアの中の思い出のアルバムを引っ張り出すように、俺の頭の中でもその者達の顔を思い浮かべる。
その間に目を開けてる俺は念動で複数の箇所を一気に進める。
「我が家警備隊の寝坊助隊長、陸」
「芸術と孫のことが大好き。土石を操る熟練武人、メル爺」
「多くは語らず自然を愛するプラントソルジャー、ティー兄」
「キッチンは戦場。ソースとマヨネーズを小脇に空飛ぶオカン、匠」
「念動と物作りなら右に出るものはなし。戦う職人ことリョー」
「天候と錬金術を拳に宿した怪力魔法戦士、シルヴィア」
「ビビりと感知はリース1、万能火球のサムライ、ケリー」
言っている間にお顔の方は終わったので、念動で髪の毛1束1束を丁寧に整えてやり、完成するタイミングに合わせて目を開けるように言った後、彼女の視界に鏡面が合うように調整してやる。
「そして最後。
愛と平和のために刃は要らない、光の速さの衛兵、フィエリア。」
「どう?これだけの人が周りにいるんだ。
この街になんかあっても心配いらないでしょ」
「確かに大丈夫だと思うけど…リョー君の方は1人で行く気なんでしょ?そっちの方が不安なんだけど」
「いや1人では行かないよ」
「え?だって今「俺が採りに行かなきゃ」って」
「あー、確かに言ったけどそれは素材の鮮度やら回収とかの話であって、普通に陸と亀ちゃんズの半分は連れて行くよ。」
俺がそんな命知らずなこと出来るわけがない。
そもそも弟子に勝てない師匠がそんな大きい口叩く権利ないって。
なんなら初日は丸一日いないけど、それ以降は陸の転移か飛行車移動だから半日で帰ってくるし。ちょっと冒険者活動に本腰入れる程度のこと。
やばいと判断したらばソッコーで匠やメル爺、ティー兄に助けを求める気満々だ。
「なら大丈夫だね」
「よしっおしまいっ
こんな感じでどう?」
「いい感じだよ、ありがとっ」
元気よく椅子から立ち上がり、ドアに向かって歩いていく背中は活き活きと、それでいてたくましく、とてもあの元気と命知らずの大バカチンだったフィリップとは思えなかった。
ただ、出て行くのに手ぶらなのが減点対象だ。せっかく間に合った武器も調整が済んだマジックシューターも腰にせずに、スマホも机の上。
『ヤレヤレ…何のために今まで修業してきたんデスカ。先が思いやられマス』
右腰にはシューターホルスターを装着させ、左腰には如意棒銃専用の鞘を付けさせた。
これは衛兵隊の支給品の剣に使われる鞘に”デザインを似せただけの物で、内側がグリップ型に、奥は円筒状に空いているので、納めたらパッと見はちゃんと衛兵の剣だ。
横から見比べればなかなかゴッツイのであくまでも“なんちゃって鞘”なのだが、これはフィエリアが剣の持ち方までは抜けきらなかったのでメル爺が第一撃は剣の振りになるように教えたのが元。
警棒でも持ち手があるわけだし、棒術といえばの真ん中を持ってグルグル回すやつはしないそうなので最終的にこの形に落ち着いたのだ。
「フィーや、そろそろ行くぞーっ!支度はまだかー?」
「はーいっ!それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
うぅっ重いぃっ 何コレ?金縛りぃ!?
あれ、温かい?
モフモフしてて、プニプニしてて、まるで犬耳を生やした4歳児のような…
意識の扉がゆっくり開いてくる。
目の前には犬耳と本能的に撫でまわしたくなる弟の寝顔が、俺の胸の動きに合わせ一定のリズムで上下している。
スピーッ スピーッ
スマホに手を伸ばし、タップすると表示された11:30の文字。彼女達が出て5時間も寝てたのか
「マ…マァ…」
ママか…
確か牢の中までは一緒で、どこかに連れて行かれたんだったな。
俺もベスガの強制捜査の時にに短時間だけ立ち合ったが、真新しい獣人の遺骨は出てこなかった。
つまりはどっかの違法な奴隷商の元に渡った可能性が極めて高く、買い手が買い手なら酷い扱いを受けているだろう。だが逆にいえば生きている可能性も充分にある。
探し出して買い戻すか、違法性を示して買い手か奴隷商から没収するような形で助け出すか…
いずれにせよ、奴隷商の尻尾はまだ掴めてない。
「動こうにも八方塞がり…か」
「んっ……?」
ピクっ…とカワイイ物体が揺れ、ゆっくりと動き出していく
「にぃ…ちゃん?」
「あっごめん、起こしちゃった?
もうちょっと寝てていいよ。」
首を横に振り、俺の体を支えに膝の上で対面する形で起きた。聞いて欲しいことがあると顔に書いてある。
「どうした?」
「あのね、ゆめのなかでね、ママとパパにあったの。」
「ママと…パパに?」
「うん」
「そっか~、パパとママに会えたか~
夢の中でパパとママはどういう感じだったか教えてくれないかな?
何か言ってた?」
「とおーいところにママがいてね、ママがすわっててね、おねぇちゃんとぼくのことをずーっとよんでたの。
でねもーっととおーいところにパパがいてね、「ママを助けてあげて」って」
夢に手がかりの少しでも隠れてれば今すぐにでも探しに行けるかもしれないが、そうそうそんな奇跡が起きるわけでがないか…
ひとまず話題をお昼ごはんの話に切り替えお買い物に行くことに。
「ハイ、ありがとねぇ」
「ばいばい」
「はいさようなら。またおいで」
「買う物はこんなものかな」
「おなかすいたー」
「早く帰ってご飯作らなきゃだな」
買い物もあらかた終わり、来た道を辿りながら書い忘れや買い足すストックがないか確認していると、レグの耳がピョコピョコッと動いてある方向を指差す。
「あれ…?ばぁば…ばぁば…」
「おにぃちゃん、あのこ、まいごさんじゃない?」
見たところレグよりひとまわり弱ほど小さい女の子。
レグの言う通りばぁばを探して右往左往している。
レグが駆け寄って行き、俺も繋がれた右手に引っ張られるようについて行く。
おととととっ
子供の相手ならチビ達と遊んでいる間に学んだ。同じ子供であるレグもいるし、まぁ泣かれることはないでしょ。
「だいじょーぶ?」
「どしたの? おばあちゃん見当たらなくなっちゃった?」
「ウン…」
「そっかそっか。
じゃあお兄ちゃん達と一緒にさがす?」
首を縦に振ったのを見て、会話を続けることに。
「今日はおばあちゃんと一緒にお買い物かな?」
首を横に振る少女。
近くにおばあちゃんがいるものだと思ってた俺の頭の上にハテナが浮かぶ
「おつかい…」
「おつかいか、えらいね
ってことはおねえちゃんは1人で来たのかな?」
首を縦に振った。
これはちょっと厄介かも。おばあちゃんが見当たらないだけならケリーに教えた探査の使い方でこの辺りからおばぁちゃんであろう人を絞り出せるが、この辺にいるとは限らなくなってしまった。
捜索範囲にお店や民家を含めて、一軒一軒「この子知りませんか?」って回っていてはキリがない
試しに探査を使ってみるも、薬草を探すように使ってたから個体差・個人差が見分けにくいし、祖父母レベルとなるとそっくりなのかどうかすら分からないひとばっかりなのよ
こういう時のためのお巡りさんが…
あ、いたいた
「おう、どうしたその子、迷子か」
「そうなんです。」
ひとまずこの短時間で分かっているわずかな情報と、探査でこの辺におばあちゃんっぽい反応と場所は絞り込めたものの、全部何かを待っている様子が全くないので当てにならないことを伝えてはみる。
「そいつは困ったなぁ
おっし お嬢ちゃ」「ウギャアアアアアア!!コワァイ!」
さらに困った。おじちゃんの顔が怖いって。
「レグ、ちょっとこの子見ててくれる?」
「い~よ」
「衛兵さん、集合」
「どうすっかなぁ」
「俺がついて回る分にはいいですけど、女性の衛兵さんって」
「産休と体調不良で休みだ。
隊長じゃダメか?」
「多分衛兵さんでダメなら他もダメじゃないですか?
衛兵隊の中でも若い方でしょ」
「そうだなぁ
オレの次っつーとあのボウズら泣かしたあの2人しかいねぇからな」
フィリップともう1人の若い衛兵さんのことを言ってるんだろう。
以前、アム、レグ、ミミ、クララを泣かしてしまい、俺や衛兵隊のなかで女性や子供に対する対応を考えさせられるキッカケをつくった問題児として懸念を常に抱かれているらしく、このメンツに加えるのは躊躇するのも当然か。
でもフィエリアなら、最近は子供達の相手もしてくれてれているのでもう大丈夫だ。
連絡をとってみると街の外れにいるが、周りに迷惑のないスピードで3、4分で着くとのこと。
「あっきたっ」
人混みの上に半透明のプレートができては消え、その上を減速しながら走ってきて、俺たちの近くで軽々と着地してみせた。
「この子?」
「そう。いける?」
「うん。レグ君借りてもいい?」
着目したのはレグの鼻。
少女の匂いや持ち物の匂いでたどるという。
「どう?」
「んーとねぇ、りんごと~おさかなと~はっぱのにおいがある!」
「りんごは青果店か八百屋さん、魚は魚屋さんか釣り人で…あと葉っぱ?レグ君、葉っぱつていうのはお花の匂いかな?」
「んー おはなじゃなくてやくそーかな」
「分かった、ありがと。
ねぇねぇ、ちょっとこの中見てもいいかな」
「ウン」
ご名答。
りんごと干物の魚のお使いで、途中で雑草の中に生える薬草を見つけておばあちゃんにプレゼントしたいんだそうな。
緑の葉の先に赤い斑点、クシャの葉といって風邪の諸症状全般に効く。
そのままお茶にして飲むもよし、他の薬や薬草とも相性がいい。
それを子供が知っているとなるとこのおばあちゃんは薬関係に詳しい仕事。
多分、薬屋だ
街の中に存在するのは全部で4軒。
俺の馴染みなポーション類を売っているシェリルさんの店、病気に効く特効薬の店、あと2軒はどっちつかずの店だが、各店がバラバラの位置にあるという。
パシャッ
「これでよし ちょっと回ってくるね」
「今から行くのかよ!?」
「大丈夫ですよ衛兵さん。今の彼女は他人の何十倍も速いので」
捜査は足で。4軒くらいなら迷うより行っちゃえって。
こういう無鉄砲は相変わらずか。
「【ギアブースト】」
「【ピカピカっグルグルっビュンビュン】!!いってくるね~!」
レグも行っちゃった。
それにしてもレグ速いな…フィエリアと同じスピードで消えてったぞ
「へぇ…おめえんとこってあれが普通か?」
「そうですね ちょっと真似したらああなっちゃいました。我が弟ながら将来が楽しみです」
「将来の進路、衛兵隊…どうだ?」
「さあどうでしょうね 俺は本人達に決めさせますよ」
待つこと十何分。
4軒全部回って見つけたという電話が来た。
ホント、足も仕事も早くなったもんだ
位置情報を送ってもらい、目標の店に到着。
シェリルさんのところとは真反対の方向で、依頼とかは出さずに親子2代で切り盛りしているらしく、孫娘である少女は初めてのおつかいで来たものの、帰り道が分からなくなり、ちょうどレグが気づいたおかげで発見。
結果、少女とおばあちゃん店主は無事再会を果たした。
「ご迷惑をお掛けしてしましてねぇ」
「いえいえ、これも我々の仕事ですので」
「ボクもありがとうねぇ」
「えへへ~」
ピピピッピピピッ
ピピピッピピピッ
2人のスマホが鳴り、慌ててその場を離れる
今度はなんだ
「【主、フィー、そっちに下着ドロが向かったかもしれん
刃物を持っておるらしいぞ、警戒しといてくれい】」
『メルタサンの場所から犯人の逃走経路がこの道に繋がる確率が69%、近くの脇道を含めた場合92%。捜索に向かった方が…』
『その必要も無くなりましたね』
遥か向こうからいかにも怪しそうなのが本当にきた。
さて、レグの腹が咆哮を放つ前にチャチャっと片付けますか
「僕がやるよ」
前に出たのはフィエリアの方。当然か、このためにがんばってきたんだし。
2人で手分けをなんて方が余計なお世話か
「なら魔法は強化のみ、近接一撃のみ、15秒以内で仕留めて。もちろんノンキルで」
「10秒、いや7秒でいいや」
『デハやる事が無イのでその7秒、ワタシがカウントしまショウ。』
『それでは始めマス』
「OK。」
『7』
「【脚力強化】」
『6、5』
下着ドロが2人も衛兵がいることに気付き踵を返すも、
『4』
距離は瞬く間に縮まり
『3』
追いつき
『2』
鮮やかな棒捌きによって足をかけられ、転倒。
『1』
圧倒的な戦力の差に戦意を失ってしまった上で
『0。 上出来デスネ。【キャッチロープ】』
ケンちゃんのトドメの魔法もあり、完全に捕縛された。
日本とは違い、この世界の法律は犯罪者に容赦ない。
当然、人と人同士のケンカや程度では剣を抜くようなことはしないが、盗みを働いた者や危害を与えようとした者がなんらかの原因で死んでしまっても、悪いのは罪を犯した方になる。
盗賊なんてもってのほか。魔獣と同じ扱いとなり、ギルドに討伐依頼がでる。
もちろん生捕りなら多少なり報酬が追加で出るわけだが、その後の人生に人権のじの字もなくなる。
それでもやはり人間、頭がそれに染まりきらなければきっとやり直せる。
一度の小さな失敗で、全てを失うのは違うと思う。
フィエリアは失敗をしていないのに一度ほぼ全てを失った。理不尽に奪われる残酷さを知っているからこそ、その人にはちゃんと生きて罪を償ってほしいと願っている。
その人が、その人の周りの人達が必要以上に奪われないために。
罪を憎んで人を憎まず。
彼女の目指すのはこういう存在だ。
一人一人が模擬戦ごとに対策をちゃんと練って全力でくるので、普通に油断したら死ぬ。
今日は機動力が持ち味の突貫娘ことフィエリア。
技数で言えば幅が一番少ない分、3人の中では気が散る攻撃が特化しているため、100を超える俺の刃でも数に限界が見える戦い方を見せてくるようになった。
「【脚力強化】【ミラージュ】」
早速フィールド上を駆け巡り、残像とミラージュを応用した分身数十人分が俺に向けて2丁銃をぶっ放す。
弾幕と呼ぶにはは充分だとは思うが、一人分あたりの弾数はそう多くないし撃ってくる方向から追跡はできるので、焦らず念動クナイで弾きまくる。
ひとまずお得意の機動力を削ごう
俺の足元以外、広範囲の地面が厚みを増す。
「【スティッキーフィールド】」
『そうくることは想定済みデス。フィエリア』
「【エリアクリーン】」
元に戻された。
そりゃ簡単だわな、この魔法の対処は俺が前に見せたもんな…
ならばこっちもそちらの真似をさせてもらおう。
「【ミラージュ】【脚力強化】【光弾】」
俺もフィエリアに化けて駆け回る。
『コレはマタややこしいことヲっ!
でアレばここはワタシのターンデス。
【画面明度超調整】
外向きでベルトに仮固定されたスマホ画面から、絶えず発せられる白、青、緑、赤に光るオーロラような光の帯に触れた分身が誰のものか関係なく消えていく。
oh…また振り出しかよ
『コノ魔法を使っている間はでお互いミラージュは使えまセン。
予定より早いデスが第2フェーズと参りましょうカ』
「うん!」
『【空中足場
これヲ【コピー】【ペースト】【ペースト】~…』
下敷きのような半透明の結界が地面や空中に現れた。その表面に赤色の三角が縦に連なったマークが付いている。
その数80、90、100…まだ増えるか
走り回りながら展開しているから上下左右前後360°を彼女達の縄張りにされた。
いつの間にこんなの仕上げたんだよ…
『こんなモンでショウ。それでハ、思いっきりブチかましちゃって下サイ』
「【ギアブースト】!!」
【ギアブースト】
光速と高速を掛け合わせたフィエリアの得意とするブースト魔法で、身体中に幾つかの高速モーターを模した魔力の渦を作ることで脚力や光弾の連射性を極限まで引き出す。
元々は匠の案で、
「アニメで怪獣から逃げ回るヤツってめっちゃ足グルグルなってるやん、アレちょっと試してみいひん?」
の一言が思いのほかうまくいったものだそうで、参考になればと飛行車の仕組みを見せたところ、メカ好きくんの気に召したらしく魔法の感覚と理論の覚えが段違いによかった。
よーく見ると足の裏から車輪のような魔力の塊が出ているらしく、足を早く回して駆け抜けるというより原動力付きのローラースケートで走っているような状態なんだと。
今では走るだけでは飽き足らず、足元の渦の回転をキックの攻撃力にも使えるように練習している。
パーン!!パアアン!!パアン!!パンっ!
パンパパパパパパパパパパパパパ…!!
連続する叩き尽きるような音とともにフィエリアの気配と魔力反応が追えなくまる。
周りをグルグル回るだけではなく、たまに対角線上も通ってくるので、攻撃の元がどこにいるのか完全に分からなくなった。
早いのは当然として風圧なのか衝撃波なのか分からない圧が四方八方で発生しているのでいるだけでもう辛い。
ブォンッフォンッフォンッフォンッ
「にょいっ!!?」
危険を察知した先にあったのは、伸び縮みするだけなはずの魔法武器。それも電熱線のような光の魔力を帯びて。
間一髪のところで体を捻り、服を掠めて済んだ。
焦ったぁ…
光る回転ライト◯イバーが飛んできたかと思っ! うわ
また飛んできたっ!!
ババババババババババババババババババババババ…!
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ…!
ブォンッフォンッフォンッフォンッ
ブォンッフォンッフォンッフォンッ
弾幕が少なくなり1箇所からの球数が急激に増え始めた、そのたったの一瞬だった。
「そこだぁああああああ!!」
その1箇所である背後から声と気配が急激に近づいて来て
「グベボォオオオオっ!?」
気づいた時には激痛と共に俺の体は宙を舞っていた。
俺の身体は勢いよく壁に激突。その衝撃は真っ赤な鎧を呼び起こすには充分だった。
『チェックメイト!我々の勝利デスね。』
「いったぁぁ…」
「勝った…?僕…勝てたの?夢じゃ…ないよね」
「ああ。文句なしで、俺の負けだよ。」
「やった…やった!やったやったやったああ!!!勝てたぁぁ!!」
喜びの勢いそのままに両手を広げて駆け寄ってくる。
「イッ!!待って…!腰がっ…!」
「ご、ごめんっ」
「ちょっとタンマ」
ポーションの入った瓶を取り出し痛む体にその中身を押し込む。
「では改めて。おめでとうフィエリア。
これで良くか悪くか鋼兵隊こうへいたいの結成条件の3分の1を満たしたわけだけど…本当にいいの?忙しくなるよ」
「もちろんっ。
来月あたりに衛兵隊の人員増やすらしいから動く時は隊長や先輩たちに任せてリョー君やティっ君と一緒に動いた方が役に立てるだろうし」
「あの…役に立てるって、今のフィエリアはこの街最強の衛兵だよ?主戦力だよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。」
「そっか…大丈夫か…」
「リョー君はそんなに嫌なの?」
「俺の性格上思いつくことは実行しないと気にやまないから、毎回やりすぎて引かれるんだ…
画期的なものを作ってるだけなのに他人から危険物を見る目で見られる気持ちがわかる…?」
製薬の依頼の時の薬屋、魔獣大量発生の準備の際の職員さん、仮家を作った時のガドマさん、この間のグレイスさん。
コイツマジかよ…という目線
ええ…という目線
毎度毎度こんな見えない刃の餌食になるのが生産チート持ちとしては1番辛い
すぐ順応してくれた当時のフィリップ、セナさん、ルミさん、ウィルさんが良い方だ。
すごーーい!とか素晴らしい…がほしいのよ俺は
「辛いね…」
「毎回ちょっと傷つく…」
「でもやめる気は?」
「無いっ!」
「だよね」
俺に期待してくれる者には全力で、総力で応える。
それが俺の流儀だ
3人の強化合宿も、俺から卒業証書を渡すことで全ての課程を修了する
『【リクサンお願いしマス】』
地面に発生した陣からアタッシュケースが6つケースがせり上がってくる。
普通サイズが3つと、普通サイズよりひと回り小さめなケース、幅が広めなケース、長さが1メートルほどある物の計6つだ。
小さめなケースと普通サイズ、幅広ケースと普通サイズ、長ーいケースと普通サイズがペアになるように並べてあるなかで、自分の名前が刻んである小さいケースのペアの元に駆け寄る。
開けようとガチャガチャやるも両サイドのパッチンに気付かずなかなか開かない。30秒ほどいじりにいじってようやく開いた。
普通サイズの中身を見て少し固まる。
「僕のと違う…新しい銃?」
「その銃は[マジックシューター]。
魔力弾やに加えて魔法を手軽に打てるようにした物。
メル爺とティー兄含め、みんなある程度銃に適正はあるみたいだったから、みんなのの共通の武器として作ったんだ。」
「何コレ?スマホの形の…ケースかな?」
「そう。銃の一部分がケースがピッタリハマる形になってるんだけど」
ジィーーーーっ…カッチャンッ
「おーーくっついた!」
カッチャンッ ジーィヒュゥン…
「へー、ちゃんと取れるんだ」
オモチャを与えられた子供のように楽しそうに武器を弄っている。
あの~、話聞こえてる?
「あ、ごめん」
「なんでスマホが着くかっていうと…なんでか分かる?」
「スマホと銃を片手にまとめちゃえば、戦いながらでも情報とか指示が送りやすくなる…とか?」
「まぁそれもあるんだけど、1番は」
『ワタシの弱点を補うためデス』
「ケンちゃんの弱点?え、あるの?」
『当然デス。
人間同様、ワタシのような優れたAIにも欠点はありマス。』
優れたって自分で言うかね
でも、それくらいの自信を持ってもらわないと作った側として悲しくなるか…
『スマホの機能上、ワタシの魔法陣を用いた魔法は初級や単発の魔法はともカク、結界ナドの維持するタイプの魔法は遠くともワタシから半径3メートル以上離れれば魔法の精度を維持することが難しくなるのデス。
先程はアナタが走り回ってイタので、広範囲に魔法陣魔法を使用出来たワケですが、ワタシだけではあのような魔法を放つことは不可能。
要救助者ナドに魔法を使おうと思エバ2メートル近くまで寄る以外方法が無いのデス。
賢者を名乗る者とシテ、マタ、皆さんのサポート担当として使えるハズの魔法に制限があるのは癪でシテ、マスターに当初から制作予定だった銃の仕様を変更、マジックシューターの制作を要求したというわけデス。』
「フィエリアの持ってる銃が魔法を使うための物だとしたら、マジックシューターは魔法陣を撃ち出すためのの魔法道具っていう違いがある。
このままいけば少なくともフィエリアは武器を3つ4つも持って戦わなきゃならない。それは非常にめんど~だと。
ならどうすればいいと思う?」
「えーっと…あ、リョー君のことだから銃とニョイ棒足すとか?
あっそれでもう一個のケース!」
ここで忘れ去られたもう一個のアタッシュケースを慌てて開けるが
「え…空っぽ…?」
「ごめん。
今日までに間に合わなかった」
「アレだけ忙しくしてたらそうなるよね。
それよりこの銃、早く試してもいい!?」
『試し撃ちでしたら対人用のセーフティモードにはなりマスがいいデスよ。』
さっき全力で駆け回った事を忘れているかのように元気に立ち上がり、早速スマホを装着。
両手でしっかりと持ち構える。
『少し時間を下サイ。
持ち主の身体をスキャンしマス。…完了。
数点の誤差を確認。修正中……完了。
オールクリア。いつでもドウゾ』
「リョーくーん 的作ってー」
俺もそのやる気に応えていつもの円盤の的、人型の像、人質を取った犯人型の像などシチュエーションごとの的や像を作ってやる。
『ソレデは、実際に撃ちナガら設定を弄りマスので適当な人形を1つお願いしマス。』
ダァン!!
銃口から放たれた無色透明な弾丸は木像の心臓部分を叩いた後に消滅
…ピシピシ…パァァーーーン!
訂正。人形を消しとばした。
「…」「…」『…』
「強くない?」
『魔力弾の威力の設定と使用者の実力のリンクが見合ってないようデスね。』
「大丈夫なの?」
『根本的な間違いがアルようなノデ魔力弾の方は後回しにシマス。
ワタシが用意した捕縛用や支援用の魔法が有りマス、そっちから試しまショ。』
『【キャッチロープ】』
ヒュルヒュルヒュルッギュゥッ…!ビンッ!
『【オートヒール領域設置】』
パァァァァァ…
『【セーフティシールド・ショット】』
ダァン!!ダァン!!
カンッカンッ
分かったこととしてはケンちゃんにしか使えない魔法の魔法陣を撃ち出す銃としてはまずまずではある反面、みんな使えてしまう魔力弾だけは銃本来の性能に持ち主の特性や威力を上乗せしてしまうらしい。
『という訳デ、マジックシューターの方ももう少しダケお時間イタダきたい…デス』
一週間後、衛兵隊の仕事に復帰することになった。
カチャカチャッ
「最後にこれを締めれば…完成!!
あっケンちゃん今何時!?」
『6時過ぎデス。なんとかフィエリアの出勤には間に合いマシタね』
「あ~~~っ!ちかれた~」
『ポーションと気合で3日連続徹夜とはマスターも相当な社畜の才能を持ってマスね』
「自覚があるあたり自分でも恐ろしいよ」
『ン?コレはまずいデスネ。ちょっと止めてきマス』
「え、何を?」
『………』
「おーい」
ケンちゃんの返答と顔を模した表示がなくなり、アプリが落ちた。
他のスマホに映った時はこうなる。
最低でも3人同時にサポートしてもらわないといけないのでここは要改善だな
1分ほどして後、スマホにケンちゃんが戻ってきた。
『戻りマシタ。』
「何ごと?」
『もう14秒ほどで分かるかト。』
「?」
『13、12、11、10、』
カウントダウンに合わせるように2階、階段、1階廊下の順に騒がしくなる。
4、3のところでこの部屋の前に着いたことは音で理解できた
『2、1』
扉の開く音がする。音が弱々しい。
「リョーくーん…」
久々に衛兵隊に顔を出すので緊張しているのか?
部屋の中で運動でもして何か壊したとか?
ウチはガラスまでもが強化済み、壊れるものはほとんどないんだけど。
「どうし、どわぁ!!?どしたのその顔!?」
「ちょっと上手くいかなくて…」
ちょっとどころではない
フィエリアであるはずの顔にはなあにをどう下手に使ったらそうなるのか、白塗り、真っ赤っかのピエロさんが鎮座。
んー…多分使うべき色合いも間違ってるし、何よりしっかり塗る所とうっすらさせるところの加減がお馬鹿さんだな
もっと早くに止めてやれよケンちゃん
『コウいうことデス』
「どうしよう…」
「お、オッケ分かった。そこ座って」
出勤するまであと20分くらい。
創造スキルの器用度補正を使って化粧してやれば幾分かはマシなものにはなるだろう。
ついでに軽くヘアセットもしてやるか
ポフポフポフポフポフポフ…
「?」
「こーらっ、余所見しないっ」
俺のデスク上にある物が気になるご様子。
気になるのも仕方ない。
馴染みのある面影の欠片を感じ取ったらしい。
通常の拳銃であれば一つしかついてないはずのグリップが上下についていて、グリップの先端から木刀くらいの直径の如意棒が生えている。
そう。フィエリアの新しい武器、如意棒銃 通称:如意棒銃だ。
3人の武器に使いたい素材がどれもバジール商会でもすぐに用意できるものではなさそうだということで、先に作れるものから部分的にでも進めているのだ。
それでも強力な魔獣などの素材は待てばいい物なわけがなく、俺自身が直接採りにいかなければならないという結論に至ったのだ
「というわけで来週あたりから素材探しに遠征するようになると思う」
「そうなんだ」
表情が曇る。
そりゃあ普段街から出ようとしない奴が軽くBランク指定の場所に行こうとしてるんだし当然といえば当然か
「やっぱり心配かけちゃう?」
「うん…ちょっと不安かも。
急にいないのもそうだしリョー君がひとりでいくのも」
「あ、目ぇ瞑って
そんな心配?なら…そのまま目を瞑ったまま想像してみて。
フィエリアの周りの人。」
「え?どういうこと?」
「まぁいいからいいから。
まず、今まで十何年間も最強の頑固オヤジを貫き通し続けてた育ての父、ガドマさんと、ガドマさんの下で日々街の平和を守っている先輩の衛兵さん達」
フィエリアの中の思い出のアルバムを引っ張り出すように、俺の頭の中でもその者達の顔を思い浮かべる。
その間に目を開けてる俺は念動で複数の箇所を一気に進める。
「我が家警備隊の寝坊助隊長、陸」
「芸術と孫のことが大好き。土石を操る熟練武人、メル爺」
「多くは語らず自然を愛するプラントソルジャー、ティー兄」
「キッチンは戦場。ソースとマヨネーズを小脇に空飛ぶオカン、匠」
「念動と物作りなら右に出るものはなし。戦う職人ことリョー」
「天候と錬金術を拳に宿した怪力魔法戦士、シルヴィア」
「ビビりと感知はリース1、万能火球のサムライ、ケリー」
言っている間にお顔の方は終わったので、念動で髪の毛1束1束を丁寧に整えてやり、完成するタイミングに合わせて目を開けるように言った後、彼女の視界に鏡面が合うように調整してやる。
「そして最後。
愛と平和のために刃は要らない、光の速さの衛兵、フィエリア。」
「どう?これだけの人が周りにいるんだ。
この街になんかあっても心配いらないでしょ」
「確かに大丈夫だと思うけど…リョー君の方は1人で行く気なんでしょ?そっちの方が不安なんだけど」
「いや1人では行かないよ」
「え?だって今「俺が採りに行かなきゃ」って」
「あー、確かに言ったけどそれは素材の鮮度やら回収とかの話であって、普通に陸と亀ちゃんズの半分は連れて行くよ。」
俺がそんな命知らずなこと出来るわけがない。
そもそも弟子に勝てない師匠がそんな大きい口叩く権利ないって。
なんなら初日は丸一日いないけど、それ以降は陸の転移か飛行車移動だから半日で帰ってくるし。ちょっと冒険者活動に本腰入れる程度のこと。
やばいと判断したらばソッコーで匠やメル爺、ティー兄に助けを求める気満々だ。
「なら大丈夫だね」
「よしっおしまいっ
こんな感じでどう?」
「いい感じだよ、ありがとっ」
元気よく椅子から立ち上がり、ドアに向かって歩いていく背中は活き活きと、それでいてたくましく、とてもあの元気と命知らずの大バカチンだったフィリップとは思えなかった。
ただ、出て行くのに手ぶらなのが減点対象だ。せっかく間に合った武器も調整が済んだマジックシューターも腰にせずに、スマホも机の上。
『ヤレヤレ…何のために今まで修業してきたんデスカ。先が思いやられマス』
右腰にはシューターホルスターを装着させ、左腰には如意棒銃専用の鞘を付けさせた。
これは衛兵隊の支給品の剣に使われる鞘に”デザインを似せただけの物で、内側がグリップ型に、奥は円筒状に空いているので、納めたらパッと見はちゃんと衛兵の剣だ。
横から見比べればなかなかゴッツイのであくまでも“なんちゃって鞘”なのだが、これはフィエリアが剣の持ち方までは抜けきらなかったのでメル爺が第一撃は剣の振りになるように教えたのが元。
警棒でも持ち手があるわけだし、棒術といえばの真ん中を持ってグルグル回すやつはしないそうなので最終的にこの形に落ち着いたのだ。
「フィーや、そろそろ行くぞーっ!支度はまだかー?」
「はーいっ!それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
うぅっ重いぃっ 何コレ?金縛りぃ!?
あれ、温かい?
モフモフしてて、プニプニしてて、まるで犬耳を生やした4歳児のような…
意識の扉がゆっくり開いてくる。
目の前には犬耳と本能的に撫でまわしたくなる弟の寝顔が、俺の胸の動きに合わせ一定のリズムで上下している。
スピーッ スピーッ
スマホに手を伸ばし、タップすると表示された11:30の文字。彼女達が出て5時間も寝てたのか
「マ…マァ…」
ママか…
確か牢の中までは一緒で、どこかに連れて行かれたんだったな。
俺もベスガの強制捜査の時にに短時間だけ立ち合ったが、真新しい獣人の遺骨は出てこなかった。
つまりはどっかの違法な奴隷商の元に渡った可能性が極めて高く、買い手が買い手なら酷い扱いを受けているだろう。だが逆にいえば生きている可能性も充分にある。
探し出して買い戻すか、違法性を示して買い手か奴隷商から没収するような形で助け出すか…
いずれにせよ、奴隷商の尻尾はまだ掴めてない。
「動こうにも八方塞がり…か」
「んっ……?」
ピクっ…とカワイイ物体が揺れ、ゆっくりと動き出していく
「にぃ…ちゃん?」
「あっごめん、起こしちゃった?
もうちょっと寝てていいよ。」
首を横に振り、俺の体を支えに膝の上で対面する形で起きた。聞いて欲しいことがあると顔に書いてある。
「どうした?」
「あのね、ゆめのなかでね、ママとパパにあったの。」
「ママと…パパに?」
「うん」
「そっか~、パパとママに会えたか~
夢の中でパパとママはどういう感じだったか教えてくれないかな?
何か言ってた?」
「とおーいところにママがいてね、ママがすわっててね、おねぇちゃんとぼくのことをずーっとよんでたの。
でねもーっととおーいところにパパがいてね、「ママを助けてあげて」って」
夢に手がかりの少しでも隠れてれば今すぐにでも探しに行けるかもしれないが、そうそうそんな奇跡が起きるわけでがないか…
ひとまず話題をお昼ごはんの話に切り替えお買い物に行くことに。
「ハイ、ありがとねぇ」
「ばいばい」
「はいさようなら。またおいで」
「買う物はこんなものかな」
「おなかすいたー」
「早く帰ってご飯作らなきゃだな」
買い物もあらかた終わり、来た道を辿りながら書い忘れや買い足すストックがないか確認していると、レグの耳がピョコピョコッと動いてある方向を指差す。
「あれ…?ばぁば…ばぁば…」
「おにぃちゃん、あのこ、まいごさんじゃない?」
見たところレグよりひとまわり弱ほど小さい女の子。
レグの言う通りばぁばを探して右往左往している。
レグが駆け寄って行き、俺も繋がれた右手に引っ張られるようについて行く。
おととととっ
子供の相手ならチビ達と遊んでいる間に学んだ。同じ子供であるレグもいるし、まぁ泣かれることはないでしょ。
「だいじょーぶ?」
「どしたの? おばあちゃん見当たらなくなっちゃった?」
「ウン…」
「そっかそっか。
じゃあお兄ちゃん達と一緒にさがす?」
首を縦に振ったのを見て、会話を続けることに。
「今日はおばあちゃんと一緒にお買い物かな?」
首を横に振る少女。
近くにおばあちゃんがいるものだと思ってた俺の頭の上にハテナが浮かぶ
「おつかい…」
「おつかいか、えらいね
ってことはおねえちゃんは1人で来たのかな?」
首を縦に振った。
これはちょっと厄介かも。おばあちゃんが見当たらないだけならケリーに教えた探査の使い方でこの辺りからおばぁちゃんであろう人を絞り出せるが、この辺にいるとは限らなくなってしまった。
捜索範囲にお店や民家を含めて、一軒一軒「この子知りませんか?」って回っていてはキリがない
試しに探査を使ってみるも、薬草を探すように使ってたから個体差・個人差が見分けにくいし、祖父母レベルとなるとそっくりなのかどうかすら分からないひとばっかりなのよ
こういう時のためのお巡りさんが…
あ、いたいた
「おう、どうしたその子、迷子か」
「そうなんです。」
ひとまずこの短時間で分かっているわずかな情報と、探査でこの辺におばあちゃんっぽい反応と場所は絞り込めたものの、全部何かを待っている様子が全くないので当てにならないことを伝えてはみる。
「そいつは困ったなぁ
おっし お嬢ちゃ」「ウギャアアアアアア!!コワァイ!」
さらに困った。おじちゃんの顔が怖いって。
「レグ、ちょっとこの子見ててくれる?」
「い~よ」
「衛兵さん、集合」
「どうすっかなぁ」
「俺がついて回る分にはいいですけど、女性の衛兵さんって」
「産休と体調不良で休みだ。
隊長じゃダメか?」
「多分衛兵さんでダメなら他もダメじゃないですか?
衛兵隊の中でも若い方でしょ」
「そうだなぁ
オレの次っつーとあのボウズら泣かしたあの2人しかいねぇからな」
フィリップともう1人の若い衛兵さんのことを言ってるんだろう。
以前、アム、レグ、ミミ、クララを泣かしてしまい、俺や衛兵隊のなかで女性や子供に対する対応を考えさせられるキッカケをつくった問題児として懸念を常に抱かれているらしく、このメンツに加えるのは躊躇するのも当然か。
でもフィエリアなら、最近は子供達の相手もしてくれてれているのでもう大丈夫だ。
連絡をとってみると街の外れにいるが、周りに迷惑のないスピードで3、4分で着くとのこと。
「あっきたっ」
人混みの上に半透明のプレートができては消え、その上を減速しながら走ってきて、俺たちの近くで軽々と着地してみせた。
「この子?」
「そう。いける?」
「うん。レグ君借りてもいい?」
着目したのはレグの鼻。
少女の匂いや持ち物の匂いでたどるという。
「どう?」
「んーとねぇ、りんごと~おさかなと~はっぱのにおいがある!」
「りんごは青果店か八百屋さん、魚は魚屋さんか釣り人で…あと葉っぱ?レグ君、葉っぱつていうのはお花の匂いかな?」
「んー おはなじゃなくてやくそーかな」
「分かった、ありがと。
ねぇねぇ、ちょっとこの中見てもいいかな」
「ウン」
ご名答。
りんごと干物の魚のお使いで、途中で雑草の中に生える薬草を見つけておばあちゃんにプレゼントしたいんだそうな。
緑の葉の先に赤い斑点、クシャの葉といって風邪の諸症状全般に効く。
そのままお茶にして飲むもよし、他の薬や薬草とも相性がいい。
それを子供が知っているとなるとこのおばあちゃんは薬関係に詳しい仕事。
多分、薬屋だ
街の中に存在するのは全部で4軒。
俺の馴染みなポーション類を売っているシェリルさんの店、病気に効く特効薬の店、あと2軒はどっちつかずの店だが、各店がバラバラの位置にあるという。
パシャッ
「これでよし ちょっと回ってくるね」
「今から行くのかよ!?」
「大丈夫ですよ衛兵さん。今の彼女は他人の何十倍も速いので」
捜査は足で。4軒くらいなら迷うより行っちゃえって。
こういう無鉄砲は相変わらずか。
「【ギアブースト】」
「【ピカピカっグルグルっビュンビュン】!!いってくるね~!」
レグも行っちゃった。
それにしてもレグ速いな…フィエリアと同じスピードで消えてったぞ
「へぇ…おめえんとこってあれが普通か?」
「そうですね ちょっと真似したらああなっちゃいました。我が弟ながら将来が楽しみです」
「将来の進路、衛兵隊…どうだ?」
「さあどうでしょうね 俺は本人達に決めさせますよ」
待つこと十何分。
4軒全部回って見つけたという電話が来た。
ホント、足も仕事も早くなったもんだ
位置情報を送ってもらい、目標の店に到着。
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「いえいえ、これも我々の仕事ですので」
「ボクもありがとうねぇ」
「えへへ~」
ピピピッピピピッ
ピピピッピピピッ
2人のスマホが鳴り、慌ててその場を離れる
今度はなんだ
「【主、フィー、そっちに下着ドロが向かったかもしれん
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『その必要も無くなりましたね』
遥か向こうからいかにも怪しそうなのが本当にきた。
さて、レグの腹が咆哮を放つ前にチャチャっと片付けますか
「僕がやるよ」
前に出たのはフィエリアの方。当然か、このためにがんばってきたんだし。
2人で手分けをなんて方が余計なお世話か
「なら魔法は強化のみ、近接一撃のみ、15秒以内で仕留めて。もちろんノンキルで」
「10秒、いや7秒でいいや」
『デハやる事が無イのでその7秒、ワタシがカウントしまショウ。』
『それでは始めマス』
「OK。」
『7』
「【脚力強化】」
『6、5』
下着ドロが2人も衛兵がいることに気付き踵を返すも、
『4』
距離は瞬く間に縮まり
『3』
追いつき
『2』
鮮やかな棒捌きによって足をかけられ、転倒。
『1』
圧倒的な戦力の差に戦意を失ってしまった上で
『0。 上出来デスネ。【キャッチロープ】』
ケンちゃんのトドメの魔法もあり、完全に捕縛された。
日本とは違い、この世界の法律は犯罪者に容赦ない。
当然、人と人同士のケンカや程度では剣を抜くようなことはしないが、盗みを働いた者や危害を与えようとした者がなんらかの原因で死んでしまっても、悪いのは罪を犯した方になる。
盗賊なんてもってのほか。魔獣と同じ扱いとなり、ギルドに討伐依頼がでる。
もちろん生捕りなら多少なり報酬が追加で出るわけだが、その後の人生に人権のじの字もなくなる。
それでもやはり人間、頭がそれに染まりきらなければきっとやり直せる。
一度の小さな失敗で、全てを失うのは違うと思う。
フィエリアは失敗をしていないのに一度ほぼ全てを失った。理不尽に奪われる残酷さを知っているからこそ、その人にはちゃんと生きて罪を償ってほしいと願っている。
その人が、その人の周りの人達が必要以上に奪われないために。
罪を憎んで人を憎まず。
彼女の目指すのはこういう存在だ。
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