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第3章 「聖教国 - 学園編-」
第18話 引っ越し
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魔王・山本五郎左衛門は妖怪たちの街に帰還していた。辺りは闇に沈み、不知火の明かりだけが灯されていた。魔族との戦いに参戦した妖怪は魔都に残してきている。この街には、他の妖怪たちを魔都へ連れて行くために来ている。
「と、いうことで引越しをするぞ!」
山本は妖怪たちに異世界の魔王・アモンと交わした同盟について説明し、この街から魔都へ引っ越すことを伝えていた。この街は住みやすく良いところなのは確かなのだが、何分狭い。街を拡張しようかと考えていた矢先にアモンからの提案があったのだ。『お前たちさえよければ、魔都に住んでもいいぞ?ボロボロになってしまったが、ライフラインは生きているからな。それに戦力は一箇所に集中していた方が良い。』とのことだった。
「それに、魔都の方は常に夜と同じような状態なのだ。一日中外にいても大丈夫だぞ?」
”おおー!”と妖怪たちから歓声が上がる。上位の妖怪は太陽の光に対して特に影響はないが、それ以外の力の弱い妖怪たちにとって太陽の光は浄化の光であり、害悪なのだ。
「特に反対意見がなければ、すぐにここを出発する!」
(さて、百鬼夜行で歩いて行くのも良いが。やはり、派手に登場したいな。)
山本の視線の先に浮遊する魔王城が映る。
(良いことを思いついたぞ!!)
「反対意見のものはいないようだな。では全員、魔王城の中へ入るのだ。」
魔王城は広い。しかし、限りがあるため半分は魔王の影の中に入ってもらった。
天守閣から山本は顔を出し、魔都のある方へ視線を向ける。
「さあ、いくぞ!!」
そういうやいなや、浮遊していた魔王城が動き出した。
「高度を上げて、速度を出すから飛ばされるなよ?」
雲よりも高く上昇し、時速60kmほどになった魔王城は魔都を目指し夜の闇に消えていった。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
一方そのころ、魔族の王、魔王アモンはというと__
「にしても、酷い有様だ。」
それを聞いていた魔族たちは”あなたが大暴れするからですよ”と言いそうになったが、機嫌を損ねて殺されるのは勘弁なので誰も言わなかった。
「急いで魔王城を立て直すぞ!ちょうど良い、前のよりも派手にしょう!!」
「ま、魔王さま!!あれは!?」
「ああ?んだよ?」
眷属の魔族が指差す先には、巨大な建造物が空を飛んでいた。
アモンは、敵の襲来かと思い魔王のオーラを放つが即座にそれをやめた。見覚えのある顔が見えたからだ。
「随分と派手な登場じゃねーか…」
山本の乗ってきた魔王城が魔都の真上に到達すると、空を飛べる妖怪たちからワラワラと降りてくる。その他の妖怪は山本の作った転移門を使い、地上に現れる。
「待たせたな。これで全員集合だ。」
数万の妖怪が魔都に合流し、手のつけられない戦力になった瞬間である。
数日後。
アモンの住まう魔王城はというと、妖怪と魔族が結託し既に完成していた。以前の城よりも1.5倍ほど大きくなっており、見た目もさらに禍々しいデザインになっている。その魔王城の隣に並ぶように山本の城が鎮座していた。また、魔都の復興も終わっており、これもさらに広く、数万の妖怪が住めるだけの土地を確保していた。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
そんな妖怪と魔族が住む魔都に、アモンから話に聞いていた魔王を討つ事が正義と信じて疑わない勇者一行が現れた。
「あれが…魔都か。」
聖教国から支給されたのであろう純白の鎧と、聖剣を腰に携えた男が勇者である。異世界から魂のみこの地に送られた存在であり、その肉体は人工的に作られたものである。しかし、神の加護を与えられ”チート”と呼ばれる力を持っているため侮れない存在だ。
その勇者の周りには3人の女がいた。大魔導士、大賢者、剣聖というツワモノ揃いの彼女らは勇者という存在に惚れ、行動を共にしていた。誰もが、この勇者が悪しき魔王を倒し、この世界に平穏を取り戻すと信じていた。
「勇者さま…ついにこの時が来たのですね。」
大賢者が手に持っている杖をぎゅっと握りしめながら話す。
「勇者よ、これまでにない激戦が予想される。本当に良いのだな?」
大魔導士が勇者に改めて問いかけた。
「ああ、魔王を倒して英雄になるぞ…!」
「そういってもらわねば困ります。」
微笑を浮かべながら剣聖は言った。
彼らが今の魔都の状況を少しでも知っていれば戦いは挑まなかったであろう。この先に待ち受けているのは百万以上の魔族と妖怪の軍、そして二人の魔王。勝てるはずもない戦力が揃っているのだから。
勇者たちが魔都へ突入するとすぐに異変に気が付いた。
「な、なんだこれ…!なんでこんなに魔族どもが!?」
「まるで…くることが分かっていて軍隊を編成していたようですね…」
「勇者殿…この数は不味い。撤退を!」
「あ、ああ…!」
勇者一行は撤退を余儀なくされ、魔都の外側へと全速力で走る。しかし、その先に信じられないものが待っていた。巨人だ。それもただの巨人ではない。自分が知る巨人族よりもはるかに大きい。腰から上が雲の上に隠れており、下からはその全貌が見えてこないのだ。
「な、なんだあれは…!なぜ今まで気がつかなかった…!?」
「ゆ、勇者さま…」
3人の女たちは一気に顔を青くする。
「貴様らが勇者と呼ばれるものたちか?」
白と黒が混ざった髪に、額からは二本の角が生えた三つ目の男、魔王山本が4人の前に現れた。
「…あなたは?」
勇者は恐る恐る問いかける。
「我は異世界から来た魔王。魔王・山本五郎左衛門だ。」
「「「「魔王…ッ!?」」」」
4人は一斉に声をあげた。自ら大将が目の前に来てくれた。こいつさえ倒せば、一件落着だ。倒したらすぐに逃げれば良いという考えが4人の脳裏に浮かぶ。
「魔王自ら、俺…勇者の目の前に来てくれるなんてな…!!」
今まさに聖剣で斬りかかろうとした時、空から声が聞こえてきた。
「山本!其奴らは俺に会いに来たんだ!!俺によこせ!!!」
大きな二本の角、赤い髪のオールバックで筋肉隆々の男、魔王・アモンが勢いよく地面に着地する。
「勇者だな?俺が魔王アモンだ。本当に定期的にこの地へ来やがるな。勇者ってやつは。」
4人は困惑した。
(魔王が二人…?そんな話はこれまで聞いたことがないし、神や教皇からも聞かされてはいない。そもそもこの状況がおかしい、アイツらは俺のチートがあれば…魔王討伐など容易いと言っていたはず…!!なぜ追い込まれている…??)
「ま、魔王が二人いたとしても俺のステータスがあれば、お前らなんて!!」
聞きなれない言葉に山本は違和感を感じた。
「すてーたす?アモン知ってるか?」
「ん?俺にも詳しくは分からないな…そういえば、勇者は自分や相手の力量を見れるとかいう噂があったな。」
「へー…おい、勇者。我のすてーたすとやらを見てみたらどうだ?」
勇者は今の状況に混乱しており、相手のステータスをみることを忘れていた。すぐにステータスの確認に移った。
「いいだろう…見てやるよ。」
勇者の瞳がぼんやりと青く輝くと、勇者は膝から崩れ落ちた。
「…あ、ああ…あああ」
「勇者さま…!?」
「勇者殿!?」
勇者の仲間たちが彼の元に駆け寄り、大賢者が恐る恐る何を見たのか問いかけた。
「…なにを見たのですか?」
「アモンという魔王のステータスは化け物だ…聞いてた話の約…10倍の数値が見えた…」
「…10倍」
「もう一人の魔王…あいつは…何も見えなかった。」
「え?なにも見えないってことがあるのですか?」
勇者は聖剣を杖のように使い立ち上がる。
「ああ、一度だけ同じように見えなかった奴がいる…この世界に来る前、俺は意識だけだが神と話した。今あるチートやステータス透視の力はその時に貰ったんだ…俺は神のステータスが気になって透視しようとした、しかしそこにいる魔王と同じように見ることができなかった…」
「え…じゃあ、あそこにいるのは…」
「…神かもしれないな」
その話を聞いていた大魔導士は一つ疑問に思ったことを口に出した。
「勇者よ、神は直接この世界に接触はできない。つまり、あの魔王は魔族でありながら神に匹敵、あるいはそれ以上の力を持つ者ということか?」
「魔族なのかですら怪しいがな…」
「それで、我々は勝てるのですか?」
ずっと口を閉じていた剣聖が一言勇者に問いかける。
「…勝てると思うか?アモンですら勝てる気がしない。」
「そんなこと言わないでください!貴方は勇者です!!いつも…いつだってカッコよくて、強くて…どんな強敵でも恐れずに立ち向かった勇者じゃないですか!!」
大賢者の言葉に続くように大魔導士と剣聖からも言葉が発せられる。
「ああ、そうだ!勇者よ!お主は魔王を打ち滅ぼし、この世界の英雄になる男だ!私の惚れた男はその程度でヘタれるのか?」
「勇者殿、貴方は一人ではありません。我らもいます。貴方と一緒に最後まで戦います。どうか、我らをお導きください。」
3人からの言葉を聞いた勇者は覚悟を決めたのか、先ほどとは違う顔立ちになった。
「ああ、さっきの発言は撤回だ。4人で…この世界の英雄になるぞ!」
謎の茶番劇を見せつけられていた魔王二人はというと。
「えーと、そろそろいいか?」
「全く、別にあのクソつまらん茶番に付き合う必要ないだろ?」
「いや…だってほら…戦意喪失した奴と戦ってもつまらないし…」
「ああ、それもそうだな。」
魔王と勇者の戦いが始まろうとしていた時、彼らに悲劇が襲った。
「妾の夫よ!そろそろ昼食の時間じゃぞ~!魔族の作る料理が意外と美味なのじゃ~!…って邪魔だ。どけい、人間。」
勇者たちの後ろから玉藻前が現れ、虫を払いのけるようにして勇者たちを吹き飛ばした。
頑丈な肉体を持つ勇者は辛うじて意識はあったが、激痛に顔を歪めていた。
そして、その他の3人は…上半身と下半身が分断された者、腕や足といったあらゆる部位が向いてはいけない方向へ向いてしまっている者、壁に勢いよくぶつかった衝撃でミンチになっている者と悲惨な状況になっており、それが勇者の視界に入ってきた。
「…みんな?嘘だろ…?…貴様ぁあああああああああ!!!!」
勇者も3人を愛していた。魔王を倒したら結婚も誓っていた。だが、あっけなく誓いは消え去ってしまった。彼女らを殺したコイツらが憎い。
「玉藻前…あれ我らの獲物だったのだが…」
「そうであったか、じゃが…些か弱すぎて妾の夫が戦うまでもないのじゃ。」
「くそがぁあああああ!!殺す!!殺す!!!殺してやるああああああ!!!!」
勇者は全身の骨が折れているのか、ほとんど動けずにいた。
「煩い虫じゃな。」
玉藻前は神通力で狐火を作り出し、勇者に向けて飛ばした。勇者に当たると、非常に強力な火柱になり、勇者は燃え尽き塵となった。
「ささ、昼食に向かうのじゃ~!」
「なあ…山本…お前の嫁怖すぎないか…?」
「嫁じゃないからな。」
玉藻前に腕を引かれながら、ふと肉の塊になった勇者の仲間の方を見ると、キラキラとしたいかにも高そうな封筒を見つけた。
「ん…なんだこれ。」
「お、それ。聖教国の紋章だな。どれどれ、くはははッ…これ聖教国にある学園への入学案内状だぞ!」
この世界では大人になってから学園に所属し、学を積むことは珍しくないらしい。
「なあ、面白いことを考えたのだが」
「と、いうことで引越しをするぞ!」
山本は妖怪たちに異世界の魔王・アモンと交わした同盟について説明し、この街から魔都へ引っ越すことを伝えていた。この街は住みやすく良いところなのは確かなのだが、何分狭い。街を拡張しようかと考えていた矢先にアモンからの提案があったのだ。『お前たちさえよければ、魔都に住んでもいいぞ?ボロボロになってしまったが、ライフラインは生きているからな。それに戦力は一箇所に集中していた方が良い。』とのことだった。
「それに、魔都の方は常に夜と同じような状態なのだ。一日中外にいても大丈夫だぞ?」
”おおー!”と妖怪たちから歓声が上がる。上位の妖怪は太陽の光に対して特に影響はないが、それ以外の力の弱い妖怪たちにとって太陽の光は浄化の光であり、害悪なのだ。
「特に反対意見がなければ、すぐにここを出発する!」
(さて、百鬼夜行で歩いて行くのも良いが。やはり、派手に登場したいな。)
山本の視線の先に浮遊する魔王城が映る。
(良いことを思いついたぞ!!)
「反対意見のものはいないようだな。では全員、魔王城の中へ入るのだ。」
魔王城は広い。しかし、限りがあるため半分は魔王の影の中に入ってもらった。
天守閣から山本は顔を出し、魔都のある方へ視線を向ける。
「さあ、いくぞ!!」
そういうやいなや、浮遊していた魔王城が動き出した。
「高度を上げて、速度を出すから飛ばされるなよ?」
雲よりも高く上昇し、時速60kmほどになった魔王城は魔都を目指し夜の闇に消えていった。
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一方そのころ、魔族の王、魔王アモンはというと__
「にしても、酷い有様だ。」
それを聞いていた魔族たちは”あなたが大暴れするからですよ”と言いそうになったが、機嫌を損ねて殺されるのは勘弁なので誰も言わなかった。
「急いで魔王城を立て直すぞ!ちょうど良い、前のよりも派手にしょう!!」
「ま、魔王さま!!あれは!?」
「ああ?んだよ?」
眷属の魔族が指差す先には、巨大な建造物が空を飛んでいた。
アモンは、敵の襲来かと思い魔王のオーラを放つが即座にそれをやめた。見覚えのある顔が見えたからだ。
「随分と派手な登場じゃねーか…」
山本の乗ってきた魔王城が魔都の真上に到達すると、空を飛べる妖怪たちからワラワラと降りてくる。その他の妖怪は山本の作った転移門を使い、地上に現れる。
「待たせたな。これで全員集合だ。」
数万の妖怪が魔都に合流し、手のつけられない戦力になった瞬間である。
数日後。
アモンの住まう魔王城はというと、妖怪と魔族が結託し既に完成していた。以前の城よりも1.5倍ほど大きくなっており、見た目もさらに禍々しいデザインになっている。その魔王城の隣に並ぶように山本の城が鎮座していた。また、魔都の復興も終わっており、これもさらに広く、数万の妖怪が住めるだけの土地を確保していた。
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そんな妖怪と魔族が住む魔都に、アモンから話に聞いていた魔王を討つ事が正義と信じて疑わない勇者一行が現れた。
「あれが…魔都か。」
聖教国から支給されたのであろう純白の鎧と、聖剣を腰に携えた男が勇者である。異世界から魂のみこの地に送られた存在であり、その肉体は人工的に作られたものである。しかし、神の加護を与えられ”チート”と呼ばれる力を持っているため侮れない存在だ。
その勇者の周りには3人の女がいた。大魔導士、大賢者、剣聖というツワモノ揃いの彼女らは勇者という存在に惚れ、行動を共にしていた。誰もが、この勇者が悪しき魔王を倒し、この世界に平穏を取り戻すと信じていた。
「勇者さま…ついにこの時が来たのですね。」
大賢者が手に持っている杖をぎゅっと握りしめながら話す。
「勇者よ、これまでにない激戦が予想される。本当に良いのだな?」
大魔導士が勇者に改めて問いかけた。
「ああ、魔王を倒して英雄になるぞ…!」
「そういってもらわねば困ります。」
微笑を浮かべながら剣聖は言った。
彼らが今の魔都の状況を少しでも知っていれば戦いは挑まなかったであろう。この先に待ち受けているのは百万以上の魔族と妖怪の軍、そして二人の魔王。勝てるはずもない戦力が揃っているのだから。
勇者たちが魔都へ突入するとすぐに異変に気が付いた。
「な、なんだこれ…!なんでこんなに魔族どもが!?」
「まるで…くることが分かっていて軍隊を編成していたようですね…」
「勇者殿…この数は不味い。撤退を!」
「あ、ああ…!」
勇者一行は撤退を余儀なくされ、魔都の外側へと全速力で走る。しかし、その先に信じられないものが待っていた。巨人だ。それもただの巨人ではない。自分が知る巨人族よりもはるかに大きい。腰から上が雲の上に隠れており、下からはその全貌が見えてこないのだ。
「な、なんだあれは…!なぜ今まで気がつかなかった…!?」
「ゆ、勇者さま…」
3人の女たちは一気に顔を青くする。
「貴様らが勇者と呼ばれるものたちか?」
白と黒が混ざった髪に、額からは二本の角が生えた三つ目の男、魔王山本が4人の前に現れた。
「…あなたは?」
勇者は恐る恐る問いかける。
「我は異世界から来た魔王。魔王・山本五郎左衛門だ。」
「「「「魔王…ッ!?」」」」
4人は一斉に声をあげた。自ら大将が目の前に来てくれた。こいつさえ倒せば、一件落着だ。倒したらすぐに逃げれば良いという考えが4人の脳裏に浮かぶ。
「魔王自ら、俺…勇者の目の前に来てくれるなんてな…!!」
今まさに聖剣で斬りかかろうとした時、空から声が聞こえてきた。
「山本!其奴らは俺に会いに来たんだ!!俺によこせ!!!」
大きな二本の角、赤い髪のオールバックで筋肉隆々の男、魔王・アモンが勢いよく地面に着地する。
「勇者だな?俺が魔王アモンだ。本当に定期的にこの地へ来やがるな。勇者ってやつは。」
4人は困惑した。
(魔王が二人…?そんな話はこれまで聞いたことがないし、神や教皇からも聞かされてはいない。そもそもこの状況がおかしい、アイツらは俺のチートがあれば…魔王討伐など容易いと言っていたはず…!!なぜ追い込まれている…??)
「ま、魔王が二人いたとしても俺のステータスがあれば、お前らなんて!!」
聞きなれない言葉に山本は違和感を感じた。
「すてーたす?アモン知ってるか?」
「ん?俺にも詳しくは分からないな…そういえば、勇者は自分や相手の力量を見れるとかいう噂があったな。」
「へー…おい、勇者。我のすてーたすとやらを見てみたらどうだ?」
勇者は今の状況に混乱しており、相手のステータスをみることを忘れていた。すぐにステータスの確認に移った。
「いいだろう…見てやるよ。」
勇者の瞳がぼんやりと青く輝くと、勇者は膝から崩れ落ちた。
「…あ、ああ…あああ」
「勇者さま…!?」
「勇者殿!?」
勇者の仲間たちが彼の元に駆け寄り、大賢者が恐る恐る何を見たのか問いかけた。
「…なにを見たのですか?」
「アモンという魔王のステータスは化け物だ…聞いてた話の約…10倍の数値が見えた…」
「…10倍」
「もう一人の魔王…あいつは…何も見えなかった。」
「え?なにも見えないってことがあるのですか?」
勇者は聖剣を杖のように使い立ち上がる。
「ああ、一度だけ同じように見えなかった奴がいる…この世界に来る前、俺は意識だけだが神と話した。今あるチートやステータス透視の力はその時に貰ったんだ…俺は神のステータスが気になって透視しようとした、しかしそこにいる魔王と同じように見ることができなかった…」
「え…じゃあ、あそこにいるのは…」
「…神かもしれないな」
その話を聞いていた大魔導士は一つ疑問に思ったことを口に出した。
「勇者よ、神は直接この世界に接触はできない。つまり、あの魔王は魔族でありながら神に匹敵、あるいはそれ以上の力を持つ者ということか?」
「魔族なのかですら怪しいがな…」
「それで、我々は勝てるのですか?」
ずっと口を閉じていた剣聖が一言勇者に問いかける。
「…勝てると思うか?アモンですら勝てる気がしない。」
「そんなこと言わないでください!貴方は勇者です!!いつも…いつだってカッコよくて、強くて…どんな強敵でも恐れずに立ち向かった勇者じゃないですか!!」
大賢者の言葉に続くように大魔導士と剣聖からも言葉が発せられる。
「ああ、そうだ!勇者よ!お主は魔王を打ち滅ぼし、この世界の英雄になる男だ!私の惚れた男はその程度でヘタれるのか?」
「勇者殿、貴方は一人ではありません。我らもいます。貴方と一緒に最後まで戦います。どうか、我らをお導きください。」
3人からの言葉を聞いた勇者は覚悟を決めたのか、先ほどとは違う顔立ちになった。
「ああ、さっきの発言は撤回だ。4人で…この世界の英雄になるぞ!」
謎の茶番劇を見せつけられていた魔王二人はというと。
「えーと、そろそろいいか?」
「全く、別にあのクソつまらん茶番に付き合う必要ないだろ?」
「いや…だってほら…戦意喪失した奴と戦ってもつまらないし…」
「ああ、それもそうだな。」
魔王と勇者の戦いが始まろうとしていた時、彼らに悲劇が襲った。
「妾の夫よ!そろそろ昼食の時間じゃぞ~!魔族の作る料理が意外と美味なのじゃ~!…って邪魔だ。どけい、人間。」
勇者たちの後ろから玉藻前が現れ、虫を払いのけるようにして勇者たちを吹き飛ばした。
頑丈な肉体を持つ勇者は辛うじて意識はあったが、激痛に顔を歪めていた。
そして、その他の3人は…上半身と下半身が分断された者、腕や足といったあらゆる部位が向いてはいけない方向へ向いてしまっている者、壁に勢いよくぶつかった衝撃でミンチになっている者と悲惨な状況になっており、それが勇者の視界に入ってきた。
「…みんな?嘘だろ…?…貴様ぁあああああああああ!!!!」
勇者も3人を愛していた。魔王を倒したら結婚も誓っていた。だが、あっけなく誓いは消え去ってしまった。彼女らを殺したコイツらが憎い。
「玉藻前…あれ我らの獲物だったのだが…」
「そうであったか、じゃが…些か弱すぎて妾の夫が戦うまでもないのじゃ。」
「くそがぁあああああ!!殺す!!殺す!!!殺してやるああああああ!!!!」
勇者は全身の骨が折れているのか、ほとんど動けずにいた。
「煩い虫じゃな。」
玉藻前は神通力で狐火を作り出し、勇者に向けて飛ばした。勇者に当たると、非常に強力な火柱になり、勇者は燃え尽き塵となった。
「ささ、昼食に向かうのじゃ~!」
「なあ…山本…お前の嫁怖すぎないか…?」
「嫁じゃないからな。」
玉藻前に腕を引かれながら、ふと肉の塊になった勇者の仲間の方を見ると、キラキラとしたいかにも高そうな封筒を見つけた。
「ん…なんだこれ。」
「お、それ。聖教国の紋章だな。どれどれ、くはははッ…これ聖教国にある学園への入学案内状だぞ!」
この世界では大人になってから学園に所属し、学を積むことは珍しくないらしい。
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