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第13話:【しがない使用人には知る由もない】
しおりを挟む「リリィ。ワタシたち…これから、どうなるのかしら」
ルピナス様が眠る寝室で。
ワタシたちは二人で手を動かしつつ、ぽつりぽつりと話をしていた。
ルピナス様が最初に放たれた風魔法で様々なものが倒れ、お部屋の中がぐちゃぐちゃなってしまっていたので、ユーフォリア様がお戻りになるまでお部屋のお掃除をすることにした。
ワタシもリリィも怒涛の一日で疲弊しているが、あの男から敬遠されているルピナス様は不吉な子であるという噂も相まって、この別邸で働く使用人の数がワタシたちを含めて十人と大変少ない。
お部屋が汚れたきっかけが特殊な事情だけに代わってもらうわけにいかないのとワタシたちの使用人としてのプライド的に、自分たちの手でお慕いしているルピナス様のお部屋を綺麗にする必要があった。
別邸では、ワタシたち二人はメイドとしてルピナス様の身の回りのお世話をし、他の使用人たちは厨房担当に別邸の清掃担当や庭担当など、十人それぞれ己の役割を持ってここで働いている。
ここへ就職した最初の頃は、噂を抜きにしても、どうしてあんっっっなにも愛らしいルピナス様に誰も仕えたがらないのか本気で理解ができなかった。
なので、我慢ができなかったワタシは本邸で働いている使用人たちに実際に聞いてみたことがある。
その答えは実にシンプルで別邸では出世の見込みがないから、というものだった。
あの頃はルピナス様が、恐れられたり軽んじられていたりすることが本当に悔しくてならなかった。
だが、どれだけ悔しく思い、ルピナス様の素晴らしいところを一生懸命に布教したところで状況は変わらない。
リリィとワタシは良い意味で諦めることにした。
ワタシたちは周りが何と言おうとルピナス様のお側に誠心誠意お仕えする。他の使用人たちがルピナス様にお仕えすることがない分、ワタシたちだけがルピナス様を独り占めすればいい。
そのように考えることでワタシたちは腐らず、ルピナス様に心からの笑顔でお仕えすることができたのだ。
……でも、そんな日々も、もう時期で終わりを迎えてしまうかもしれない。
「今日は本当にいろんなことがあったわね、リリィ」
そう投げ掛けるとリリィは少し疲れたように笑った。
「そうね。ルピナス様が結界魔法を発動なされて、お命が危ないと教会へ助けを求めに行ったらユーフォリア様に遭遇して」
「リリィとユーフォリア様が転移魔法で突然現れて驚いたわ。エルフ族であり、このブバルディア王国の至宝という、これ以上ない救世主様がいらしたかと思えば…ルピナス様を、運命だと仰って」
「ルピナス様に魔力を分け与える為とはいえ、口付けをなされたかと思ったらエルフの盟約に誓ってルピナス様のお側にいらっしゃると仰られて。あの時は本当にびっくりしたわ……」
げっそりとした様子のリリィにワタシは苦笑して続けた。
「それだけじゃないわ。ルピナス様がお眠りになって少しした後に、ルピナス様のお身体が淡く光出して御髪の色が変化なされたのよ?もう一体、どうなっているんだか。ワタシのような凡人には理解が追いつかないわ」
「…本当にね。でも、これだけは分かるわ。ルピナス様という存在が特別なものであるって」
リリィの視線がルピナス様の方へと向けられた。
「…ええ。その通りね、リリィ」
ワタシとリリィは顔を見合わせて笑った。
「ねぇ、ララン。さっき、アタシたちはこれからどうなるのかって言ったわよね?」
「そうね」
リリィは、こちらを見つめると不敵に笑った。
「アタシたちは、ルピナス様が何者であろうと…何処へ向かわれようと。今までと変わらず誠心誠意、お仕えするだけよ」
その言葉に、ワタシは目の前にある顔と同じように笑った。
「伯爵様は…とんでもない方を敵に回してしまったわね」
先程までいらっしゃった、あのお美しいエルフ様の怒りに染まった顔を思い出す。
王国の至宝であるエルフ様の大切な運命の存在であるルピナス様を傷つけた人間に、一体どのような未来が待っているのか。
ただのしがない使用人になど知る由もなかった。
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