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プロローグ:【波乱に満ちた人生】
しおりを挟む皆様、初めまして。
お初にお目にかかります、梻メギと申します。
初投稿になります。
温かい目でご覧いただけますと幸いです。
どうか。少しでも、お楽しみいただけますように…!
▼▼▼
「あ……もう、駄目だ」
生まれて此の方、波乱に満ちた人生だった。
躾に厳しい親。これだけ聞くと、ちゃんとした親に聞こえるかも知れないがテストで満点を取れないと見向きもされない家庭と言われれば、だいたいお察しといったところだろう。できる弟と比べられ、口下手な僕は学校でも馴染むことができずに何処にも居場所がない幼少時代を過ごした。
息苦しい実家を出てそこそこ名門な大学に進学した僕は一人暮らしを始めたことで、ようやく安寧を手に入れた。子供時代に禁止されていたお菓子を始め漫画やアニメ、ゲームなどの娯楽品。ずっと我慢していたそれらに手を出し、今までの人生で経験することのできなかった自由という名の幸せを噛み締めていた。
しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。
大学を卒業し、就職した先は所謂、ブラック企業だった。終わりのない仕事量に当たり前のように行われる深夜までの残業、横行するパワハラ。僕の精神は疾うに限界を迎えていた。
「お前、頼んでいた資料はちゃんと出来てるのか?」
仕事の続きをしながら食べる為に昼ご飯を買って、急いで戻ろうとしていたところを上司に呼び止められた。
「…え、その資料のことでしたら期限は明日までと仰っていたじゃないですか」
「何を言ってるんだ!?オレは、今日中にやっておけと言っておいただろう!この無能がッ!!」
でた。また部長の言っておいただろうが発言。
これだから、仕事に関する指示は口頭や電話じゃなくて形に残るメールでして欲しいと言っているのに。
オレの手を煩わせるつもりかと言ってやってくれないんだよな…こんな風に言った言わないで揉める事になるんだから、やってくれればいいのに。どうせ面倒臭いだけなんだろうけど。
いつもなら申し訳ございませんでした、と適当に謝って、押し付けられた仕事に取り掛かるのだけれど。
その日の僕は疲れていた。疲れ切っていたんだ。
「朝礼が終わった後に部長が僕のデスクに来て、明日までにって仰ってました!」
いつも逆らわない気弱そうな僕が突然、部長に刃向かったらどうなるか。
回らない頭では思いつかなかったんだ。
「お前如きの人間がっ、このオレに刃向かいやがって…ッ!!」
こんなやりとりをオフィスに戻る道中の非常階段でやるべきではないと、僕は考えつかなかったんだ。
(そういえば、部長って学生時代に野球やってて。会社の上層部に気に入られて、この会社に入ったって言ってたな…)
殴られた力の強さから、どうでもいいことを思い出した。
日々の激務に疲れ切っていた僕は踏ん張ることもできずに、そのまま階段から落ちていく。
落ちてく瞬間が、やけに遅く感じて全てがスローモーションに見えた。
助かる為に手を、伸ばそうとして…やめてしまった。
僕は何の為に今まで頑張ってきたんだろう。
もう何もかもがどうでもよかった。
全てに疲れてしまった。
頭が割れるような衝撃と続いてやってきたフワフワとする霞んだ意識の中、階段をバタバタと駆け上がる足音が聞こえた。
逃げたんだろうな、きっと。
僕は、助からないんだろうな。
諦めの感情が僕の全身を満たしていく。
冷たい床が僕の体温を更に奪っていった。
過酷な労働のせいで弱っていた体は、とてもじゃないけれど起き上がれそうにない。
本当に僕の人生、なんだったんだろう。
「もう、疲れたな…」
声にならない声で呟いて。
どうか、もしも。次の人生があるのなら…
次はもっと自由に生きたい。
温かく家族仲の良い家庭に生まれて、叶うなら今世では一人もできなかった友達をたくさん作りたい。
そんな子供じみたことを思って。
僕はゆっくりと、己の瞼と人生の幕を閉じた。
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