2 / 3
偶然の出逢い 2011
vol.2 【メッセンジャー】
しおりを挟む
一月ほど経った頃にはメルネコではなくメッセンジャーで話をするようになっていた。
メルネコでは文字しか送れないので、写真などを送るにはどうしても他のアプリが必要だったのだ。
アパートの周りには猫が住み着いており、住人が共同で餌をあげていた。
猫も慣れたもので人が変わっても餌が貰えれば割と近くまで近付いてきていた。
そんな猫のことを夏美に話したら「見たい!」と言うので写真を送ることにしたのだ。
季節は12月。
仙台では時折り雪がチラついたりする頃だ。
猫も寒いのではないかと思いベランダに雪避けの箱を用意してみた。
朝起きてそっと覗いて見ると2匹の猫が箱の中で寄り添って寝ていた。
その写真を夏美に送るとすぐに返信が返ってきた。
「寝てる~。可愛いねぇ」
そんなたわいも無いメッセージを見ているだけで、何か嬉しくなる自分がいた。
「昨日さ、成人式の前撮りしてきたんだよ~」
「女の子はそういうのやるんだね~」
「そうだよ~。着物とかこういう時しか着ないからねぇ」
「うんうん。夏美の晴れ着姿見せて」
「え~。やだよ!恥ずかしい」
「何でよ~。見せてよ~」
「じゃあ…交換ならいいよ」
「何と?」
「しぐれサンの写真だよ!」
…しぐれというのはメルネコでの私のハンドルネームだ。
「え~w こんなおっさんの写真見て何が楽しいの?」
「イヤならいいよ~。見せないもん」
「分かったよ!交換しよ」
「…うん。でもちゃんと撮ったやつじゃ無いから変だよ!」
「俺だってちゃんとしてる写真じゃないんだから一緒だよ」
「ん~分かった~。じゃあ先に送って?」
…今更どうにかなるものでも無いが、出来る限り取り繕った写真を送った。
「はい。次は夏美だよ」
「分かった。笑わないでよ!」
送られてきた写真は本当に晴れ着の若い女の子だった。
疑っていた訳では無いが、このメッセージの相手が本当にハタチの女の子なのだと実感した。
「全然変じゃないじゃん。カワイイよ」
「またそんなこと言ってw しぐれサンも言うほどおじさんじゃないよ!」
「そっか。ありがとw」
夏美の写真を見れたことよりも、自分の写真を送って返事が途絶えなかったことに安心した。
…明日からもこのやりとりがずっと続きますように…
そんなやりとりを続けているうちに段々と年末へと近付いていった。
仙台の街中もクリスマス模様へと変わっていた。
クリスマスというイベントは好きなので、この時期はウキウキしてしまうのだが
今年はいつになく心躍る自分がいた。
特に何の約束をしている訳でも無いし、会う訳でも無いのだが…
クリスマスを1週間後に控えた12月18日。
その日も夏美といつものように話していた。
「クリスマスはどうするの?」
「友達とかとパーティーするかぁ~って話してるよ」
「そうか~。楽しく過ごせるといいねぇ」
「うん!そっちは?」
「仕事w 1人じゃ何もすることないしね~w」
「え~。何かしなよ~w」
「じゃあ考えとくよw そろそろ寝る?」
「そうだねぇ…寝たく無いけど寝るか~」
「ふふw おやすみぃ」
「おやすみなさ~い」
次の日もいつも通りの時間に起きて、夏美にメッセージを送った。
「おはよ~」
…だがいつも夏美が起きる時間になっても返信は返ってこなかった。
寝坊でもしてるのかな?
そう思いながらも仕事に向かった。
午前中の仕事を終え、昼休みになっても夏美からの返信は来ていなかった。
「夏美…どうした~?」
朝から返信どころかメッセージが既読になることもなかった…
今までこんなにメッセージが返ってこないことはなかった。
遅くとも1~2時間も経てばいつでも返信は来ていたのだ。
だが、電話番号も知らない私は夏美からの返信を待つしかなかった。
夕方が過ぎても…帰宅しても…夕飯を食べても…風呂から上がっても…
夏美の既読がつくことはなかった。
何か嫌われるようなことを無意識で言ってしまったのだろうか。
そんな事を思って、昨日のメッセージを朝の分から読み返した。
自分の中では気になるようなところは見当たらなかった。
いつも通りのやり取り、変わらないおやすみの挨拶。
時間も何もかもが普段と変わらないメッセージだった。
寝る前に1通だけメッセージを送った。
「何か気に障る事を言ったならゴメン。もう1回話がしたいよ」
もちろん既読になることはなかった…
次の日も、その次の日も夏美からの返信はなく既読もつかなかった。
夏美に何かあったんだろうか…嫌な思いが頭をよぎる。
だが静岡県に住んでいるということしか分からない。
どの街のどこに住んでいるのか手がかりは何も無い。
探しに行くことなんて到底不可能だった。
12月23日。
既読もつかないメッセンジャーに1つのメッセージがきた。
「夏美さんが退室しました」
理由も夏美の安否も何もかもが分からないままその扉は閉じられてしまった。
もうこちらの声は届かない…
メルネコでは文字しか送れないので、写真などを送るにはどうしても他のアプリが必要だったのだ。
アパートの周りには猫が住み着いており、住人が共同で餌をあげていた。
猫も慣れたもので人が変わっても餌が貰えれば割と近くまで近付いてきていた。
そんな猫のことを夏美に話したら「見たい!」と言うので写真を送ることにしたのだ。
季節は12月。
仙台では時折り雪がチラついたりする頃だ。
猫も寒いのではないかと思いベランダに雪避けの箱を用意してみた。
朝起きてそっと覗いて見ると2匹の猫が箱の中で寄り添って寝ていた。
その写真を夏美に送るとすぐに返信が返ってきた。
「寝てる~。可愛いねぇ」
そんなたわいも無いメッセージを見ているだけで、何か嬉しくなる自分がいた。
「昨日さ、成人式の前撮りしてきたんだよ~」
「女の子はそういうのやるんだね~」
「そうだよ~。着物とかこういう時しか着ないからねぇ」
「うんうん。夏美の晴れ着姿見せて」
「え~。やだよ!恥ずかしい」
「何でよ~。見せてよ~」
「じゃあ…交換ならいいよ」
「何と?」
「しぐれサンの写真だよ!」
…しぐれというのはメルネコでの私のハンドルネームだ。
「え~w こんなおっさんの写真見て何が楽しいの?」
「イヤならいいよ~。見せないもん」
「分かったよ!交換しよ」
「…うん。でもちゃんと撮ったやつじゃ無いから変だよ!」
「俺だってちゃんとしてる写真じゃないんだから一緒だよ」
「ん~分かった~。じゃあ先に送って?」
…今更どうにかなるものでも無いが、出来る限り取り繕った写真を送った。
「はい。次は夏美だよ」
「分かった。笑わないでよ!」
送られてきた写真は本当に晴れ着の若い女の子だった。
疑っていた訳では無いが、このメッセージの相手が本当にハタチの女の子なのだと実感した。
「全然変じゃないじゃん。カワイイよ」
「またそんなこと言ってw しぐれサンも言うほどおじさんじゃないよ!」
「そっか。ありがとw」
夏美の写真を見れたことよりも、自分の写真を送って返事が途絶えなかったことに安心した。
…明日からもこのやりとりがずっと続きますように…
そんなやりとりを続けているうちに段々と年末へと近付いていった。
仙台の街中もクリスマス模様へと変わっていた。
クリスマスというイベントは好きなので、この時期はウキウキしてしまうのだが
今年はいつになく心躍る自分がいた。
特に何の約束をしている訳でも無いし、会う訳でも無いのだが…
クリスマスを1週間後に控えた12月18日。
その日も夏美といつものように話していた。
「クリスマスはどうするの?」
「友達とかとパーティーするかぁ~って話してるよ」
「そうか~。楽しく過ごせるといいねぇ」
「うん!そっちは?」
「仕事w 1人じゃ何もすることないしね~w」
「え~。何かしなよ~w」
「じゃあ考えとくよw そろそろ寝る?」
「そうだねぇ…寝たく無いけど寝るか~」
「ふふw おやすみぃ」
「おやすみなさ~い」
次の日もいつも通りの時間に起きて、夏美にメッセージを送った。
「おはよ~」
…だがいつも夏美が起きる時間になっても返信は返ってこなかった。
寝坊でもしてるのかな?
そう思いながらも仕事に向かった。
午前中の仕事を終え、昼休みになっても夏美からの返信は来ていなかった。
「夏美…どうした~?」
朝から返信どころかメッセージが既読になることもなかった…
今までこんなにメッセージが返ってこないことはなかった。
遅くとも1~2時間も経てばいつでも返信は来ていたのだ。
だが、電話番号も知らない私は夏美からの返信を待つしかなかった。
夕方が過ぎても…帰宅しても…夕飯を食べても…風呂から上がっても…
夏美の既読がつくことはなかった。
何か嫌われるようなことを無意識で言ってしまったのだろうか。
そんな事を思って、昨日のメッセージを朝の分から読み返した。
自分の中では気になるようなところは見当たらなかった。
いつも通りのやり取り、変わらないおやすみの挨拶。
時間も何もかもが普段と変わらないメッセージだった。
寝る前に1通だけメッセージを送った。
「何か気に障る事を言ったならゴメン。もう1回話がしたいよ」
もちろん既読になることはなかった…
次の日も、その次の日も夏美からの返信はなく既読もつかなかった。
夏美に何かあったんだろうか…嫌な思いが頭をよぎる。
だが静岡県に住んでいるということしか分からない。
どの街のどこに住んでいるのか手がかりは何も無い。
探しに行くことなんて到底不可能だった。
12月23日。
既読もつかないメッセンジャーに1つのメッセージがきた。
「夏美さんが退室しました」
理由も夏美の安否も何もかもが分からないままその扉は閉じられてしまった。
もうこちらの声は届かない…
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる