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しおりを挟む黒い化粧水の蓋を開けると香ばしい匂いがしてきた。
思わず目を閉じてその匂いを嗅いでしまう。
「あ、コーヒーだわ!」
ユキ様の元にも匂いが届いたのかポンッと手を叩いていた。
どうやら匂いの元に思い当たったらしい。
「コーヒー?」
「あ、この世界にはないの?紅茶があったからコーヒーもあるかと思ったんだけど・・・。」
どうやらこの化粧水もユキ様が来た世界の飲み物らしい。
「私は聞いたことがないわ。でも、いい匂いね。なんだかこの化粧水も懐かしい味がするわ。ちょっと苦いけれど。」
ゴクッと飲んで見れば、その真っ黒い見た目とは異なり深いコクと香りが口の中から鼻に抜けていく。
少し苦味があるけれども、どこかクセになるような味だ。
「わぁ!髪が真っ黒になったわね。」
「あら、ほんとうだわ。」
化粧水を飲み終わると、ユキ様がはしゃいだように跳び跳ねた。
鏡をみると、ユキ様と同じような真っ黒な髪の色をしていた。
同じように茶色の化粧水を飲めば瞳の色がヘーゼルナッツのような色に変わった。
これだけ見た目が変わればヤックモーン王国に行ってもライラだとはバレないだろう。
この世界では髪の色を変えたり瞳の色を変える術はないので、まず気づかれないだろうと思う。
「別人みたいね。でも、こうやって並ぶと私たち姉妹みたいだよね。」
ユキ様と並んで鏡にうつると確かに姉妹のように見える。
同じような黒い髪に、真っ白な肌。
初めて会った人なら姉妹で通せそうだ。
「ふふふっ。同じ色合いね。」
「でしょ!あ、そうだ!姉妹って設定でヤックモーン王国に行きましょう!キャティーニャ王国から生き別れの父親を探す旅っていうのは、どう?」
キラキラと輝く瞳でこちらを見つめてはしゃぐユキ様。
よっぽど、姿が変わったことが気に入ったようだ。
ほんとうに、ユキ様は眩しいくらい前向きだ。
「その設定で行きましょう。」
私たちは、ユキ様の部屋から転移の魔法を使ってヤックモーン王国の近くまで飛んだ。
もちろん、誰にも見られないように人気のないところに転移した。
私はヤックモーン王国に行ったことはなかったが、ライラがヤックモーン王国に住んでいたので、どこが人通りがないかということがわかったのだ。
そこは、綺麗な湖が広がっていた。
デジャビュを感じる。
はっきりとは思い出せないが、なぜかここに来たような気がするのだ。
『私はここに倒れていたの。そうして、レイチェルが私の中に入ってきたのよ。』
「ああ、ここだったんだ。」
あのときは意識が混乱しておりあまりよく覚えていなかったが、どうやらここがライラと初めて会った場所だったようだ。
「ここだったんだってなにが?」
ライラの声が聞こえないユキ様が不思議そうに顔を傾げながら聞いてくる。
「ライラが倒れていた場所。そうして、私がライラの身体に入った場所よ。」
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