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「ライラだっけ?なんで貴女にレイチェルの魂が宿るのかしら?」

マコト様がいなくなってからすぐにユキ様が聞いてくる。

その顔は真剣なものではあったが、怒ってはいないようだった。

あくまでも原因を知りたいようにうかがえた。

「レイチェルとなにか繋がりがあったの?」

「私にもわからないのです。気づいたら私の中にレイチェルがいました。」

レイチェルとの繋がりは何一つなかったはずだ。

生身のレイチェルに会ったのは先日、ユキ様の家で寝ている状態が初めてだ。

どうして、レイチェルは私の中にいるのだろうか。これも、女神様とやらの仕業なのだろうか。

でも、なぜ私だったの………?

「レイチェルがライラの中に宿る前まではどんな暮らしをしていたのかしら?」

レイチェルが私の中に宿る前のこと。それは………暗殺者としてヤクモーン王国で人混みに隠れるように過ごしていた。

皇太子妃になるべく過ごしていたレイチェルとの接点などあるはずもない。

綺麗な世界で生きてきたレイチェル。

人を殺めることで生きてきた私。

正反対な人生を歩んできたと思う。

「私はヤクモーン王国で暮らしていました。皇太子妃のレイチェルとは接点のあるはずもない暮らしでした。」

そこまで告げて、本当に?と自問自答する。

レイチェルとの接点は本当になかったのだろうか。

そう言えばエドワード様を暗殺するように依頼を受けたのはいつだっただろうか。

あれは、レイチェルと出会う前だったはず。

まさか、それが接点なの?

でも、私の他にもエドワード様の暗殺を依頼された人は複数人いたはず。

どうして私なの?

どうして私だったの………?

「………私は、ヤクモーン王国で………闇社会で生きてきました。」

「………闇社会?」

ピクリと、ユキ様の眉が上がる。

ユキ様の顔を見ていられなくて、そっと視線を逸らした。

誇れるような生き方ではないからだ。

罪がない人や逆恨みされた人も暗殺してきた人のなかにはいたのではないだろうか。

暗殺してきた人、皆が皆悪い人ではなかったはずだ。

「………スパイとか?」

「………いいえ。………暗殺者として私は育ちました。」

「………っ!?」

ユキ様には嘘をつきたくなかった。

私を信用してくれたマコト様の妹だし、レイチェルもユキ様のことは信頼していたようだし。

私の目から熱い滴がこぼれ落ちる。

人をたくさん暗殺してきた私には泣く権利なんてありはしないのに。

思わず下を向いてしまった私の身体が突然暖かい温もりに包まれた。

驚いて顔を上げれば、間近にユキ様の顔があった。

「ライラも辛い思いをしてきたのね。それしか生きる方法がなかったのね。貴女もレイチェルと一緒ね。きっと心が悲鳴をあげていたのよ。」

優しく抱き締めてくれるユキ様に、私の涙は止まらなくなった。

こんなに暖かく包み込んでくれる人がいるだなんて思いもしなかった。

「ライラはちゃんとに後悔できるのよ。これから、後悔しない人生を歩んでいけばいいのよ。レイチェルもそう。逃げてないでまっすぐ前を向けばいいのよ。」

「ユキ様っ………。」

感極まって、ユキ様の暖かい身体に腕を回してしがみつく。

「なにをしているのかな?君たちは?」

その時、聞き慣れた男の人の声がきこえてきた。
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