106 / 170
105
しおりを挟む「ライラだっけ?なんで貴女にレイチェルの魂が宿るのかしら?」
マコト様がいなくなってからすぐにユキ様が聞いてくる。
その顔は真剣なものではあったが、怒ってはいないようだった。
あくまでも原因を知りたいようにうかがえた。
「レイチェルとなにか繋がりがあったの?」
「私にもわからないのです。気づいたら私の中にレイチェルがいました。」
レイチェルとの繋がりは何一つなかったはずだ。
生身のレイチェルに会ったのは先日、ユキ様の家で寝ている状態が初めてだ。
どうして、レイチェルは私の中にいるのだろうか。これも、女神様とやらの仕業なのだろうか。
でも、なぜ私だったの………?
「レイチェルがライラの中に宿る前まではどんな暮らしをしていたのかしら?」
レイチェルが私の中に宿る前のこと。それは………暗殺者としてヤクモーン王国で人混みに隠れるように過ごしていた。
皇太子妃になるべく過ごしていたレイチェルとの接点などあるはずもない。
綺麗な世界で生きてきたレイチェル。
人を殺めることで生きてきた私。
正反対な人生を歩んできたと思う。
「私はヤクモーン王国で暮らしていました。皇太子妃のレイチェルとは接点のあるはずもない暮らしでした。」
そこまで告げて、本当に?と自問自答する。
レイチェルとの接点は本当になかったのだろうか。
そう言えばエドワード様を暗殺するように依頼を受けたのはいつだっただろうか。
あれは、レイチェルと出会う前だったはず。
まさか、それが接点なの?
でも、私の他にもエドワード様の暗殺を依頼された人は複数人いたはず。
どうして私なの?
どうして私だったの………?
「………私は、ヤクモーン王国で………闇社会で生きてきました。」
「………闇社会?」
ピクリと、ユキ様の眉が上がる。
ユキ様の顔を見ていられなくて、そっと視線を逸らした。
誇れるような生き方ではないからだ。
罪がない人や逆恨みされた人も暗殺してきた人のなかにはいたのではないだろうか。
暗殺してきた人、皆が皆悪い人ではなかったはずだ。
「………スパイとか?」
「………いいえ。………暗殺者として私は育ちました。」
「………っ!?」
ユキ様には嘘をつきたくなかった。
私を信用してくれたマコト様の妹だし、レイチェルもユキ様のことは信頼していたようだし。
私の目から熱い滴がこぼれ落ちる。
人をたくさん暗殺してきた私には泣く権利なんてありはしないのに。
思わず下を向いてしまった私の身体が突然暖かい温もりに包まれた。
驚いて顔を上げれば、間近にユキ様の顔があった。
「ライラも辛い思いをしてきたのね。それしか生きる方法がなかったのね。貴女もレイチェルと一緒ね。きっと心が悲鳴をあげていたのよ。」
優しく抱き締めてくれるユキ様に、私の涙は止まらなくなった。
こんなに暖かく包み込んでくれる人がいるだなんて思いもしなかった。
「ライラはちゃんとに後悔できるのよ。これから、後悔しない人生を歩んでいけばいいのよ。レイチェルもそう。逃げてないでまっすぐ前を向けばいいのよ。」
「ユキ様っ………。」
感極まって、ユキ様の暖かい身体に腕を回してしがみつく。
「なにをしているのかな?君たちは?」
その時、聞き慣れた男の人の声がきこえてきた。
51
お気に入りに追加
7,867
あなたにおすすめの小説
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる