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「あ、レイチェルだった。」

客間のドアが開き、ユキ様が入ってきた。
ドアをノックするでもなく急に入ってくるから驚きだ。
でも、ユキ様の笑顔を見てしまうとなにも言えなくなってしまう。
嬉しそうに微笑んでいるんだもの。

「隣の部屋だね。よろしくね。それにしてもマコトってば仕事が早いわぁ。」

「あ、よろしくお願いいたします。」

ユキは嬉しそうにニコニコ笑っている。その後ろからシロとクロがひょっこりと顔を出した。

「クロ様にシロ様もよろしくお願いいたしますね。」

「「にゃ。」」

私がクロ様とシロ様に話しかけると、二匹とも返事をするように鳴いた。本当にこの猫様たちは頭がいい。まるで、人間の話す言葉がわかっているようだ。
トコトコトコとシロ様とクロ様が私の足元にやってきて、「よろしくね。」といっているように頭を刷り寄せてくる。
私はその場にしゃがみこみ、クロ様とシロ様の頭を優しく撫でると、嬉しいのか顔をあげてこちらを見上げてきた。
そうして、頭を撫でている私の手をそっと舐める。
ザラザラとした舌の感触がなんとも言えず気持ちがよかった。

「シロもクロもレイチェルのことを気に入っているのね。そうやって舐めてくるのは気を許した相手ってことよ。」

「そうなんですね。可愛いわ。」

クロ様もシロ様もしばらく舐めていたが、急にやめると二匹でもつれあいじゃれあうように取っ組み合いを始めた。

「あら?喧嘩かしら?」

「いいえ。違うわ。ああやって遊んでいるのよ。その証拠に静かでしょ?喧嘩だったらうなり声をあげたりするから、すごくうるさいわよ。」

「そうなんだ。」

遊びにしては動きが激しいし、二匹で取っ組み合ってゴロンゴロンと床に転がり回っているのだけれども。これが、遊びだなんて、なかなかに激しい遊びだ。

「それにしても、レイチェルがここにいるってことはそろそろ準備が整ったということね。」

ユキ様は嬉しそうに笑う。準備っていったいなんのことだろう。
心当たりもなく、首を傾げる。

「ねえ、レイチェルは本当に皇太子妃になって、皇后になりたいの?」

「えっ?」

急に何を言うんだろう、ユキ様は。
私は皇太子様であるエドワード様の婚約者なのだから、いずれ皇太子妃になりエドワード様が帝位を継げば、私は皇后になる。
決められていることなのに、なぜユキ様はそんなことを聞いてくるのだろうか。

「もしかして、皇太子妃になることが当たり前だと思っていたの?それ以外の未来は考えていなかった?」

「・・・はい。」

決められたレールの上だけを走るものだと思っていたので、皇太子妃以外の道は考えたことも想像したこともなかった。
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