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「えっ?ぴぃちゃんで良いのか?」

 オレが皆の視線にギュッと目を瞑っていると、トリスの困惑したような声が聞こえてきた。
 恐る恐る目を開ける。すると、ぴぃちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねながらオレのもとにやってきた。そして、オレの目の前で立ち止まると「ぴぃ♪」と嬉しそうに一声鳴いて、オレの頭に飛び乗った。

「気に入った……のか?」

 俄に信じられなかったが、どうやらクイーンコカトリスのヒナは「ぴぃちゃん」という名前が気に入ったようだ。
 ぴぃちゃんは名前をつけてもらえたことが嬉しいのか、オレの頭の上で「ぴぃ♪ぴぃ♪」とご機嫌な声をあげている。
 うん。オレのネーミングセンスも捨てたもんじゃないな。

「それにしてもクイーンコカトリスのヒナを名付けるとは……。リューニャは恐ろしい存在だなぁ。どうだろう、料理人兼、冒険者にならないか?」

「え?」

「リューニャが料理人になりたいという話は聞いた。だが、冒険者としての素質もあると思う。なにも一つの職にしかつけないわけではない。冒険者と料理人を兼業してはどうだろうか?」

「でも、オレはまだまだ料理人にはほど遠くて、まだ見習いなんですよ。見習い料理人という中途半端な状態で他の職を兼務するなんて……。」

「構わないと思うが。シラネから聞いたところ、リューニャは自分で採ってきた食材を元に料理を作成しているのだろう?」

「そうですが……。」

「なら、今とかわらん。冒険者として食材を採取し、見習い料理人として料理を作って料理人を目指す。同じだろう?まあ、冒険者となることで魔物を退治したり、採取クエストを受けたりすれば多少の報償はでる。百害あって一利なしだとは思わないか?」

 ギルドマスターはそう言って、オレを冒険者にと真剣に勧誘し始めた。確かにギルドマスターの話を聞く限り悪い話ではないような気がしてきた。魔物を退治することはしないけど、採取しすぎてしまったものを採取クエで提出すればいいだけってことだろう?それで多少の報償が出るなら、更にいい装備が買えたり、もっと遠い場所まで食材を見つけに行くことができる。
 なんだか悪くないような気がしてきた。でも……。

「百害あって一利なしって言葉の使い方、間違えてませんか?それを言うなら二兎を追う者一兎も得ずじゃあ……?」

「リューニャ!それも違う!それだと両方駄目になるじゃないのっ!!それを言うなら漁夫の利よ!!」

「シラネ……それも違うわよ。それは当事者同士が争っている間に、第三者が利益を得るという意味よ。聖女として教育を受け他のなら、もっとちゃんとに勉強なさい。ほんっと私の方が聖女に向いてるわ。今からでも私と交換なさいっ!」

「うっ!じゃあ、ローゼリアはなんて言うかわかってるのよね!さあ、教えなさいよ!!」

「うっ。な、なんだって良いじゃない。でも、漁夫の利でないことは確かよ!!」

 ギルドマスターが言い間違えてから周りがうるさくなってきたな。まあ、オレも間違えちゃったし。おあいこってことで。それにしても、なんだかんだ言いつつ、シラネ様とローゼリアさんは仲が良さそうに見える。もしかして二人ってきっかけさえあれば、気が合うんじゃないだろうか。なあんてことを思った。

「妾の可愛い娘はどこじゃ?」

 わちゃわちゃと言い争っていると、見知らぬ声が聞こえてきた。


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