23 / 57
23
しおりを挟む「普通の平原みたいに見えたんですけど。なんかまずかったですか?」
「まずいもなにも、あの平原は天使の楽園っていう名がついているんだ。」
「は、はあ?」
そっか、あの綺麗で美しい平原は天使の楽園っていうのか。知らなかったけど、たいそうな名前がついていたんだな。
死霊の谷を越えた先にある平原の名前が天使の楽園か。隣り合っているのに随分名前が両極端だなぁ。
「リューニャ。天使の楽園ってきいたことないのか!?」
「え、ええ。今、初めて聞きました。」
「マジか・・・。」
師匠はショックを受けたようにその場にうずくまってしまった。
オレ、なんか変なこと言ったか?
ただ、天使の楽園を知らないって言っただけなのに。
冒険者でもないんだから、そこらの地名を知るわけもないのだ。
死霊の谷だって、最初は死霊の谷なんて名前がついていることすら知らなかった。あるとき、親切な冒険者が教えてくれたんだ。ここは死霊の谷だって。
そういえば、あの時の冒険者もなぜか苦笑してたなぁ。
なぜだろう。ま、いっか。過ぎたことだし。
「天使の楽園ですって!?」
「あ、シラネ様お帰りなさい。朝食ができてるよ?」
「あら。いただくわ。って、それより天使の楽園って聞こえたんだけど!!」
師匠がうずくまってしまってからしばらくして、シラネ様が両手に袋を持って帰ってきた。
ってか、シラネ様。ここ、あなたの家じゃなくてオレの家なんだから、入っていいかどうかくらい聞いてよ。
でも、そんなことシラネ様に言えないのでグッとこらえる。それよりも天使の楽園のことが気になるし。
「え、あ、うん。シラネ様。天使の楽園って知ってる?師匠が天使の楽園って聞いたら黙っちゃって・・・。」
「天使の楽園ってあの天使の楽園!?死霊の谷を越えたところにある幻の天使の楽園のこと!?」
おっと。なんだか、変な形容詞がついたぞ。
『幻の』ってどういうことだろうか。
「幻?」
「そうよ!天使の楽園に行くためには条件があるのよ。その条件に当てはまらない人は天使の楽園には絶対に足を踏み入れることができないのよ。あんた、そんなことも知らなかったの?」
「いや。だって、オレ冒険者じゃないから。美味しい食材を探していただけだし・・・。」
「だからって・・・。ん?ちょっと待って。食材を探してってことは、あんた幻の天使の楽園に行ったことがあるの!?」
さっきからシラネ様はキャンキャンと吠えている。小さな犬が吠えているみたいで可愛いんだけど、耳元で吠えられるとちょっと耳が痛いんだよな。
「うん。そこで魔トマトの群生を見つけたんだ。そこのシラネ様に用意した朝食にあるトマトが天使の楽園ってところで採れた魔トマトだよ。」
オレはそう言って、シラネ様用の朝食を指さした。
「こ、これが・・・。ごくっ・・・。」
魔トマトを見たシラネ様は生唾を飲み込んだ。うん。美味しいもんね。魔トマト。
「うん。食べてみて。とっても美味しいから。」
「い、いただくわ。話はそれからよ。」
シラネ様は急に静かになって、魔トマトを口に頬張った。
とたんに、ピタリと動きを止めるシラネ様。
あまりのおいしさにビックリしているのかな。
魔トマトは調理しなくても、そのまま一口大に切って食べるだけでもとっても美味しいのだ。
一部では高価な値段で取引をされるとか。でも、魔トマトの実はもいでから3日のうちに食べないと途端に美味しくなくなってしまうと言われている。
だから、長期保存はできないし、長期の輸送もできない。まあ、加工すれば長期保存も長期の輸送も可能なんだけどね。ただ、生より加工品の方が味が落ちるらしい。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる