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五章

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「さあ、マユ。この貴重なトマトの種を埋めるのじゃ。そして、大きく大きく育つように念じるのじゃ。」

 イザナギ様はそう言って、私の手にトマトの種を握らせる。

 イザナギ様が何を言っているのか私には理解できないでいた。

 このトマトの種を埋めて何になるのだというのだろうか。トマトの種を植えることで帰れるとでも言うのだろうか。そんなバカな。どうやってトマトの種で帰るというのだろう。

 私はしばらくの間トマトの種を見つめた。

 まさか、種を植えて育った蔦をつたって雲の上に登ったという童話のようなことをしろと、イザナギ様は言うのだろうか。いや。私の考えすぎだよね。だって、あれは私の住んでいた世界のおとぎ話であって、この世界のものではない。イザナギ様が私の世界のおとぎ話を知っているはずがないのだ。

「……埋めてどうするんですか?」

「育てるのじゃ。大きく育てばトマトの蔦を伝って地上に帰ることができるのじゃ。」

「ぶっ!!」

 イザナギ様が声高々に告げる。私はその内容を聞いて思わず吹き出してしまった。

 私が考えていたことと全く同じだったからだ。まあ、私はまさかあり得ないと思ってたんだけど。そのまさかだった。

「なんじゃ。マユ、汚いのじゃ。」

「ご、ごめんなさい。でも、まさかトマトの蔦を伝って降りるだなんていう発想に驚いてしまって……。トマトそんなに成長早くないですよ?きっと数か月もかかっちゃいますよ?」

 トマトの成長はそんなに早くない。種を植えてから目が出るまで数日はかかるのだ。つまり、今、トマトの種を植えたとして目が出るまでに数日かかる。そこから地上に降りれるくらい成長するまで何日かかるのだろうか。下手をしたら数か月単位でかかってしまうのではないか。

 そもそも、トマトの蔦って人が体重を預けることができるくらい頑丈なんだったっけ……?

「ふんっ。数か月かかったとて、帰れるかもしれぬのじゃったら試してみた方がいいのではないかのぉ?」

 イザナギ様はそう言って私から目を逸らす。

 なんだか、イザナギ様の表情が気まずそうに見えるのは私の気のせいだろうか。

 でも、せっかくあれだけ返したくないと言っていたトマトの種を返してくれる気になったのだから、このまま拒否するのも失礼に当たるのだろうか。

「……イザナギ様。でも、せっかくの提案なので、イザナギ様さえよければ、イザナギ様が持っているトマトの種を植えさせていただけませんか?」

「ふんっ!最初から妾の言うことを聞いておけばよいのじゃ。ほれ、大切に埋めるのじゃ。」

 イザナギ様は待ってました!とばかりに目を輝かせて、私にトマトの種を渡してくる。

「ありがとうございます。」

 イザナギ様の態度に思うところはあったが、あえてつっこまずにトマトの種を受け取る。

『穴を掘るのー?』

『クーニャ、穴を掘るの得意なのー!』

『ボーニャだって、マユの役に立ちたいのー。』

「えっと、そんなに深い穴でなくていいのよ。私の指の第一関節くらいの深さでいいの。」

 マーニャたちは私の役に立ちたいと一気に穴を掘りだした。ここに来て退屈していたということもあるのだろう。三匹は静止の声を振り切って張り切って穴を掘っている。

「あの……トマトの種、一個だけだし。そんなに深くなくていいから!ちょっ!?どれだけ掘るの。もう、大丈夫だから!もう、掘らなくて大丈夫だから!!」

 

 

 


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