婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚

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三章

3ー16

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マリアがどんな術を使ったのか、優花さんも裕太も大人しくマリアに従い村の中心にある村長さんの家まで歩いていった。

ザックさんとリュリュさんはそれぞれの傍らにつき、逃亡しないように見張っている。しかし、二人は逃亡しようとはしなかった。ただ、大人しくザックさんとリュリュさんに従って歩いていた。

先ほどの調子だと、裕太も優花さんも大人しくついてきそうになかったんだけど、マリアってば一体どんな手を使ったのだろうか。

しばらく歩いていると村長さんの家が見えてきた。

ここまでの道中誰も彼も喋らなかったので異様な雰囲気だったことを記載しておく。

村長さんの家の前には色とりどりの花が植えられていた。

その花の片隅に初老の女性が座り込んで庭弄りをしていた。

以前来た時はいなかったからお手伝いさんか何かを雇ったのだろうか。

不思議に思いながらも声をかける。

「こんにちは。村長さんいますか?」

「あら。マユさん王都から帰って来てたんですね。」

初老の女性はにこやかに挨拶をしてきた。

ん?誰かに似ている?

というか知り合いだったっけ?やけに親しい接し方をしてくる初老の女性に首を傾げる。

「うふふ。マユさん。私よ私、ユキですよ。」

悪戯が成功したように笑った女性はユキさんだったようだ。

って、王都に行くまでは10代と言っても可笑しくない見た目だったのに。

あー、化粧水か。そうか、使ったのか。

化粧水の効果だとわかっても短期間で見た目がこんなにも変われば驚くものである。

隣にいるマリアも驚いていた。

しかし、ザックさんとリュリュさんはユキさんに会ったことがないのかキョトンとした顔をしている。

「マユさんに貰った化粧水、あれから毎日少しずつ飲んでいるの。流石に味が醤油だからごくごくとは飲めないからね。今はこんなに歳を取ることができたわ。もう少しでハルジオン様に追いつけるかしら。マユさん、ありがとう。」

そう言ってユキさんは幸せそうに笑った。

見た目が歳を取ることを嫌がる女性も多いだろうに、ユキさんは歳を取れたことに嬉しそうに笑っている。

それだけ、周りと違っていつまでも異世界に来たときと変わらない見た目がコンプレックスだったんだろうなと思った。

「ハルジオン様なら中にいるわ。入ってちょうだい。王都でのお話も聞きたいけど何やら訳ありのようね。王都でのお話は今度ゆっくりと聞かせてちょうだいね。」

ユキさんは私の後ろにいる裕太と優花さんを見て何か悟ったのか、世間話も早々に村長さんのところに案内してくれた。

「あれ?マーニャ、クーニャ、ボーニャ?」

姿が見えないと思ったマーニャたちは既に村長さんのところに来ていたようだ。

村長さんの膝の上でゴロゴロとマーニャが転がっている。

クーニャとボーニャは村長さんの膝を枕にして思い思いに寛いでいた。

どうりで、裕太と優花さんと言い合っている最中に割り込んでこなかったわけだ。

私たちが部屋に入ってきたことで気配を感じたのか、マーニャたちは寝転がった姿勢のまま視線だけをこちらによこしてきた。

「おや、マユ殿。ユキがマユ殿から貰った化粧水をとても嬉しがっていたよ。ありがとう。」

「いえいえ。どういたしまして。」

村長さんからもお礼を言われてしまった。

歳をとる化粧水なのに。

「今日は・・・その二人のことかな?」

村長さんは私の後ろでザックさんとリュリュさんの傍らにいる裕太と優花さんをチラリと見て確認してきた。

「ええ。そうです。二人とも私の知り合いで、異世界からの迷い人なんです。あと、彼らに私の畑の作物を泥棒されまして・・・。」

「マユの知り合いたって、マユのことを振った元婚約者とその元婚約者を寝取った女です。」

穏便に話を進めようとしたのだが、マリアが割って入ってきた。

どうやら相当腹に据えかねているようだ。

「そうかそうか。ふむふむ。まあ、婚約破棄うんぬんはうちのユキも若い頃に馬鹿なことをしでかしたからのぉ。わしからは強く言えないのぉ。だが、泥棒のことに関してはこちらで処理しなければならないかのぉ。」

ふむふむと皺くちゃな顔を上下に軽く振り答える村長さん。

って、ユキさんの婚約破棄騒動ってなんのこと!?ちょっと気になるんだけど。

まあ、裕太との婚約破棄の件はこの村とは何の関わりもないのだし、仕方ないだろう。

「異世界から唐突に来てどうしたらいいかわからずお腹が空いて泥棒してしまったことには、まあ少しの同情はあるがのぉ。しかし、人様の家の敷地内に無断で入ってさらには作物を盗むのは人として理に反しておるのぉ。事情を説明すれば皆、親身になってくれただろうに。」

道徳心って大切だよね。

やっぱり人としては困っている人がいれば助けたい力になりたいとおもってしまう。

だが、ちょっとしたことでも盗むなどの犯罪を起こしてしまえば助けたいという気持ちは薄れるだろう。

困っているから犯罪に走るのではなく、困っているから誰かに手を借りられないか確認すればよかっただけなのだ。

 「まずは泥棒したことによる罰をつげる。」



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