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二章
2ー108
しおりを挟む「マコトさん。お待たせしましたー!」
マコトさんと私の絡まった視線を断ち切るように、食堂の店員さんはマコトさんの前にドドンッとトレイを置いた。
どんぶりが一つだけ置かれている。
湯気が上がっているのだが、見た目がどうみても鰹節。
どんぶりの中に鰹節が詰まっているのだろうか。
ふわっふわの鰹節が湯気と一緒に踊っている様子は見ていて楽しい。
鰹節の良い香りもふわ~と届いてくるのでとても食欲を誘う。
「ねこまんまです。ふふ。ほんとうはこれにお味噌汁をかけたいんですが、生憎味噌はなかなか手にはいらなくてね・・・。」
マコトさん味噌知っているんだね。
王都でもなかなか手に入らないのか、残念。
「ね、ねこまんまですか。美味しそうですね。」
「そうでしょう。そうでしょう。ところで、貴女は異世界からの迷い人のマユさんですか?」
いきなり、そう話を振られるので驚いて思わずマコトさんを凝視してしまった。
「えっ?どうしてそれを・・・。」
驚きで声が掠れてしまう。
「知らない者はいないさ。失礼だが君は自分の立場をもう少し知った方がいいと思うよ。」
マコトさんはそう言ってねこまんまを一口口に運んだ。
「うん、美味しい。」
そう言ってマコトさんは微笑む。
私は何も言えずその場で固まってしまった。
「私の立場・・・?」
「そう、君の立場。まだこちらの世界に来たばかりで理解できていないのかな?理解しているのであればその猫耳も迂闊に生やすことなどないだろうね。」
「あっ!!」
そう言えばまだ猫耳が生えたままだった。慌てて両手で隠す。
「君はとても目立つ存在だ。異世界からの迷い人は国にとって保護の対象であり、とても有用な人材なんだ。異世界からの迷い人ってだけで異世界からの有用な知識を得られる。それに、異世界からの迷い人には不思議な力があり、この世界の人にはできないことを軽々と成し遂げてしまう。国の保護対象にはなっているが、悪人にも目をつけられやすい。特に他国の人間からはね。もう少し気をつけた方がいい。」
この人、まだ20歳そこそこだと思うのにしっかりしている。
まるでマリアみたいだ。
この世界の人たちは早熟なのかな。
私が20歳の頃はこんなしっかりとした考え方を持っていなかったと思う。
それに、今も指摘されるまで気づけなかった。
「ご忠告ありがとうございます。以後、気をつけます。あの・・・どうしてそんなに親切に教えてくださるんですか?」
「あれ?まだ気づかないかな?」
「へ?」
まだ気づかないってどういうこと??
頭の中は疑問符だらけだ。
マコトさんはにこやかに笑っている。
『マコトなのーー!』
『久しぶりなのー。』
『撫でてなのー。』
ご飯を食べ終わったマーニャたちがマコトさんに気づいたようだ。
しかし、このマーニャたちの懐きようはいったいどういうこと!?
マコトさんは飛びついてくるマーニャたちを抱きとめて撫で撫でと頭や背中を撫でている。
マーニャたちも嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしっぱなしだ。
ボーニャに至ってはお腹まで見せ始めた。
「大きくなったね。マーニャ、クーニャ、ボーニャ。」
『当たり前なの。』
『成長期なの。』
『マコトは変わらないの。』
うぅ。なんだか蚊帳の外だよ、私。
マコトさんも嬉しそうに笑っているし。
「この子たちはね。僕がキャティーニャ村の村長さんのところに連れて行ったんだよ。うちで産まれた子たちなんだ。」
「えっ!?」
衝撃の事実を聞いた。
マーニャたちの親はどこにいるんだろうとは内心思っていたが、まさかこの人のところで産まれただなんて。
それでもって、なんでキャティーニャ村の村長さんのところにマーニャたちを連れて行ったんだろうか。
「僕はね50年前にキャティーニャ村の村長さんのところでお世話になってたんだよ。こう言えばわかるかな?」
「えっ!?50年前!もしかして、マコトさんって異世界からの迷い人のマコトさん?でも、見た目が・・・。」
私は王都にマコトさんに会うためにきた。
でも、まさかマコトさんがこんなに若い容姿をしているだなんて思わなかった。
あれ?でも、確かキャティーニャ村にいたユキさんも10代後半にしか見えない容姿だったような。
「異世界からの迷い人は特別なんだ。何年経っても見た目が変わらない。髪だって伸びないし髭だって伸びない。命だって育めないんだ。ユキに会ったかい?ユキは僕の妹なんだ。この50年間ずっとあのままの姿なんだよ。ユキも僕も。」
えっ。ってことはユキさんも異世界からの迷い人なの!?
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