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「まあ、なぁに?この、真っ黒な猫は?どこから入ってきたのかしら。」

 ロイドとアリスの間にスッと割り込んできた真っ黒で優雅な猫は、アリスの機嫌を降下させた。
 ただでさえ、フォン宰相にロイドとの婚姻を皇帝陛下に告げたが色よい返事を貰えなかったと聞いており、アリスの機嫌は悪い状態だった。
 皇帝陛下が口説き落とせないのならば、ロイドに直接自分を選んでもらえば良いと、アリスはロイドの部屋にあの手この手を使ってやっとのことで乗り込んだのだ。
 それなのに、そのロイドとの逢瀬を真っ黒な猫が邪魔をしてきた。
 アリスとしては気に入らないことこの上ない。
 ロイドの前だというのに、アリスは冷たい視線を真っ黒な猫に向けた。
 
「みゃうっ!」

 真っ黒な猫はアリスの視線に負けないように目を丸く見開いてアリスを睨みつける。
 まるで、それ以上ロイドに近づくなとアリスに言っているようにも見えた。
 
「ここは野良猫が入っていい場所ではないわ。さっさと外に出るといいわ。」

「にゃあう。」

「まあっ!猫の分際で私の邪魔をしようというのかしら?」

 アリスは目を吊り上げて真っ黒な猫を睨みつける。
 
「にゃっ!」

 そんなアリスに応戦するように、真っ黒な猫が腰を高くあげ、尻尾をピンッと大きく膨らませて臨戦態勢をとる。
 
「どきなさいっ!邪魔よっ!」

 パシッ!

 アリスが先に真っ黒な猫に手を出そうとして右手を大きく振り上げた。
 だが、そんなアリスの手をロイドがガシッと捕まえていた。
 
「は、放しなさいよっ!!」

 アリスは頭に血が上っているのか、ロイドに向かってそう叫んだ。
 いつもだったらロイドに気に入られようと御淑やかな態度をとっているのに、だ。
 
「君はこんなにか弱く小さな命に手を出すような女性なのか?それほど君の心は狭いのかな?」

 ロイドは悲し気な目で目の前にいるアリスを見つめる。
 アリスはそこで「はっ」と我に返った。
 アリスの目の前にいるのは、アリスが自分の結婚相手に相応しいとモーションをかけているロイドだったからだ。
 あきらかに猫を打とうとしていたのは誰の目で見てもわかる。アリスにとって取返しのつかない状況だ。

「この黒猫ちゃんがアリス嬢になにか危害をくわえたかい?ただ私たちの間に割って入っただけだろう。こんなに可愛く愛しい存在に君は暴力を奮うというのかい?自分より弱い者にはなにをしても構わないと思っているのかな?」

 ロイドは悲し気な笑みを見せながらもアリスのことを追い詰めていく。
 
「ま、まあ。ロイド様。わ、私はただ、ロイド様との時間を邪魔されたことが……。」

「邪魔をされたからと、それがこんなか弱い存在に暴力を奮うきっかけになり得ると貴女はおっしゃるのですか?」

「どかないのだから仕方がないのですわ。そ、それに私はまだその猫を叩いていませんわ。」

「でも、叩こうとしたんだよね?」

「ち、違いますわっ!!」

「では?この振り上げられた右手はなんでしょうか?」

「こ、これはそ、その……。そ、そうですわっ。ちょっとこの真っ黒な猫を怖がらせようとしただけですのよ。叩こうとしたわけでは……。」

「そうですか。私にはそうは見えませんでしたが。」

「うぅ……。ち、違いますのよ。わ、私は決して……。」

 アリスは必死に言い訳をするがロイドはアリスのことを冷たい視線で見つめた。
 心の中でロイドは真っ黒な猫に感謝をする。
 タイミングの良い時に真っ黒な猫が現れてくれたことで、アリスの本性を垣間見ることができたのだから。
 
「し、失礼いたしますわっ!」

 アリスは分が悪いと思ったのか、ロイドの部屋から逃げ出していった。

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