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「おまえはとても可愛いなぁ。」

 なでなでとロイドは闇のように真っ黒な猫を撫でまわした。
 そのふわふわな手触りにロイドは頬を緩ませた。
 なぜだか触れているとそこから心が癒されていくようだった。
 
「……セレスティナ。」

 不意にロイドの口からセレスティナの名前が零れ落ちる。
 ロイドにとって誰よりも大切な女性の名前だ。
 ロイドの力が足りなかったために、ロイドが浅はかだったためにロイドの手からすり抜けていってしまった女性。それがロイドの最愛のセレスティナだ。
 占いの結果で決められた魔族の花嫁としてセレスティナは行ってしまった。
 必ずセレスティナを取り戻すと心に決めたものの、魔族の集落の場所がわからずにロイドは途方に暮れていた。
 唯一魔族の集落の場所を知っていたと思われる巫女は死んだ。
 それも、巫女は占いの結果を偽ったがために死んだようなのだ。
 誰かがセレスティナをアリスの代わりに魔族の花嫁にするために仕組んだのではないかと考えてしまう。それは仕方のないことだろう。
 現に、セレスティナがいなくなり不在となった皇太子妃の座にアリスをと望む声が多いのはロイドも気づいている。アリスの仕業なのではないかと思っているのも事実だ。
 だが、明確な証拠がない。
 証拠がないままアリスを断罪するには、アリスの味方が多すぎるのだ。
 
「みゃあう。」

 ロイドが考え込んでいると、黒猫がロイドを慰めるようにロイドの右手をそっと舐めた。
 
「……慰めてくれるのか?ありがとう。」

「みゃあう。」

 黒猫は何か言いたげにロイドのことを丸い金色の目で見つめるが、ロイドには黒猫が何を言いたいのかわからなかった。
 ただ、何故だかこの黒猫となら今のこの絶望的な状況を打破できるのではないかと思った。
 
「なあ、セレスティナを取り戻すために協力してくれないか?対価は……安心できる寝床とご飯でどうだ?」

 ロイドは黒猫に問いかける。
 黒猫は首を傾げて戸惑った様子を見せたがすぐに「にゃー。」と鳴いてロイドの言葉に承諾したように想えた。
 こうして、黒猫とロイドはセレスティナ奪還を目的としたバディとなった。
 黒猫の本当の正体も知らずに。


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