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「今頃ロイド殿下はどうなさっているのかしら。オウルパークの情勢はどうなっているのかしら。……ロイド殿下に新しい妃ができたのかしら。」
ロイド殿下は私のことを迎えに来てくださると言っていたが、生きているか死んでいるかもわからない元皇太子妃なんて探すのが難しいし、周囲が探すことを良しとしないだろう。
代わりにロイド殿下の新しい妃を探す方に周囲は力を入れることだろう。
そうして、妃に一番近いのは、私と皇太子妃の座を競ったアリス侯爵令嬢だ。
年は私と同じだし、容姿端麗で器量よしときた。周囲も最初は私よりもアリス侯爵令嬢をロイド殿下の妃に、と進めていたくらいだ。
私がいなくなったら、きっとアリス侯爵令嬢がロイド殿下の妃に納まるのだろうことは容易く想像ができた。
「知りたいのか?オレとの約束を交わせば夜だけ連れてってやるが?」
誰に言うでもなく呟いた言葉を魔族のカルシファーが地獄耳で拾っていたようだ。
「……あれは約束とは言わないわ。私に祖国を裏切れっていうのかしら?」
カルシファーにお願いすれば私は夜だけ祖国に帰っても良いと言われている。その際、この姿だと目立つため、カルシファーが目立たないように私を変身させてくれるらしい。
まあ、カルシファーからのお願いのことを考えれば私を変身させた方が都合がいいのだろう。
「裏切れとは言っていないが?」
「裏切れと言っているようなものよ。」
「……まあ、仮にそうだったとして、あの国はお前のことを人質として魔族に差し出したのだ。あの国への愛着などないだろう?おまえを捨てたあの国がどうなろうと気にしないだろう?」
カルシファーは整った容姿からは考えられないほどに冷酷な声を出す。流石は魔族だ。
その声だけで私の身体に寒気が走った。
「……確かにそうだけれども、捨てられたとは思っていないわ。」
「そうか。殊勝な心掛けだな。」
「ロイド殿下は私のことを取り戻すとおっしゃっていたもの。」
「ふぅん。魔界の場所もわからないのに、どうやって取り戻そうっていうんだか。」
「巫女様ならご存知のはずだわ。だって、巫女様が私を魔界に送ったのでしょう?」
魔族が私を迎えにきたのではない。私が巫女様の力によって魔界に送られたのだ。
「ふぅん。まあ、そうだな。巫女とやらの力によってお前は魔界に転移させられた、それはあっている。だが、その巫女は死んだぞ?おまえを魔界に転移させたからな。」
「えっ!?どうして!?」
カルシファーの言葉に私は驚きを隠せなかった。
まだ巫女様は年若い女性であったはずだ。
儀式の時に会った巫女様の姿は20代前半に見えた。
寿命で死ぬはずがない。
「さてな。そこまではオレもわからん。ただ、おまえを魔界に転移させた直後にその気配が消えた。つまりは死んだということだ。」
「……どういうこと。巫女様が嘘をついていたというの?」
神の代弁者である巫女様は、神からの言葉を偽ってはならない。偽った場合はその命を散らすことになる。
そう伝え聞いている。
私を魔界に転移させたことで巫女様が亡くなったのだとしたならば、私を魔界に転移させた行為は神の意思ではなかったということ。それは、つまり、私は魔族の花嫁に占いによって選ばれたのではないということ。
巫女様が嘘をついたということ。
「国に帰りたくなっただろう?なら、オレと約束を交わせ。」
「……あなた卑怯ね。」
「魔族だからな。」
カルシファーは私の心の隙をつくようにニヤリと笑った。
私はカルシファーの言いなりになる気はない。祖国を裏切るつもりもない。
でも、巫女様が嘘をついた理由を知りたいと強く願ってしまったのだった。
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