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第92話

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「ぐっ……。あ、アンジェリカがそう望むのなら。」

「あら。侯爵のことなのよ?侯爵は呪いを解きたくないのかしら?」

「うぐっ……。」

 侯爵様はローゼリアさんの問いかけに苦悶の表情を浮かべている。
 どうやら侯爵様もクリスの姿を気に入っているようだ。そうよね。とても美しくて素晴らしいものね。クリスは。

「……クリスの姿の方がアンジェリカは気に入っているのだと思う。ならば、私はこのまま、呪いが解けなくても構わない。」

「ふふっ。それは本心かしら?」

「……本心だ。」

「そう。まあ、そういうことにしておきましょう、か。」

 ローゼリアさんはにっこりと含むように笑って私を見た。

「アンジェリカが望むのなら、侯爵は呪いを解かなくてもいいそうよ?それで?アンジェリカもそれでいいわよね?」

 確認するように問いかけてくるローゼリアさん。
 きっと、侯爵様はお優しいから私がクリスのことを気に入っているから、私のためを思って呪いを解かないでおくと言っているのだろう。私が、侯爵様の呪いを解くのを躊躇したから。

「……少し、時間が欲しいわ。」

「ダメよ。私、明日この国を出て行くわ。ちょっととあるお方にお呼ばれしていてね。しばらくはその国にいることになると思うの。だから、明日には旅立つわ。」

 ローゼリアさんの言葉は本当なのだろうか。それとも嘘なのだろうか。それは私にはわからない。

「わかったわ。侯爵様の呪いを解く方法を教えて。」

 呪いを解く方法を今教えてもらっても、すぐに解けるとは限らない。そんなに簡単に解ける呪いであれば、すでに侯爵様の呪いは解けていることだろう。それでも、何年も呪いが解けなかったということは、きっと呪いを解く方法は簡単なものではないはず。
 それに、今ここで呪いを解くことができたとしても、すぐに呪いを解かなくてもいいはず。
 ローゼリアさんからは呪いを解く方法を教えてもらうだけなのだから。今ここで解呪しなければいけないわけではないのだから。

「そう。じゃあ、アンジェリカにだけ教えてあげる。侯爵には貴女の口から教えてあげなさい。あのね、呪いを解く方法は…………。」

「……えっ?」

 侯爵様に聞こえないように、ローゼリアさんは私の耳元で小さく囁いた。呪いの解呪方法を。
 私は、その解呪方法を聞いて動きをピタッと止めた。
 そんな私を見て満足そうにローゼリアさんは微笑むと

「じゃあ。私はもう行くわね。」

 と、来たときと同じようにスッと消えていってしまった。


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