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第51話
しおりを挟む「すごいっ!すごいわっ!!ねえ、ロザリー凄いわねっ!!」
「あ、アンジェリカお嬢様……。危ないのであまり暴れないようにお願いいたしますぅぅ……。」
凄い凄いと大はしゃぎする私とは対照的に、ロザリーは顔を真っ青にしてヒシッと私にしがみ付いている。そんなにしがみ付かれると苦しいんだけど。
「ふふっ。大丈夫よ。落ちたりしないから。」
私たちの様子を黙ってみていたローゼリア嬢だが、耐え切れなくなったのか笑いだした。
「ローゼリア嬢はすごいわね!魔法が使えるのね!!空を飛ぶのって気持ちいのね。」
「そ、そうですか……。この空に浮いている感じが私には怖いとしか思えません。今にも落ちてしまいそうで……。」
そう私たちは今、ローゼリア嬢の魔法の力を借りて空を飛んでいる。空を飛んで私の家に帰る途中なのだ。徒歩で夜道を帰るよりも、空を飛んでいった方が安全だというローゼリア嬢の提案に乗ったのだ。
それに、なによりも空を飛んでみたいとも思っていたし。
「大丈夫よ。女性3人くらいなら私の魔力でも空を飛べるようにできるわ。そうね……標準的な体系の人なら5人までなら一緒に空を飛べることが出来るかしら。」
ローゼリア嬢は優美に微笑みながらそう教えてくれた。
ローゼリア嬢は簡単そうに言うが、実際空を飛ぶということは奇跡にも近いことだと私は思っている。ローゼリア嬢以外に空を飛べる人間を私は知らない。王宮の魔導士でも数人空を飛べる人物がいるかいないかだろう。それに、自分だけでなく他人までも飛ばすことができるなんて私が知っている限りこの国の伝承に残っている創世の魔女くらいだ。
「ローゼリア嬢。とってもすごいわ。こんなこと王宮の魔導士でもできないのではなくって?いっそのこと、王宮の魔導士になったらどうかしら?ローゼリア嬢だったらすぐにトップに立てるわ。」
私は他意もなく、ただ純粋にローゼリア嬢の力がすごいと思ってそう告げた。けれど、ローゼリア嬢は私の言葉にその綺麗な眉をひそめた。そうして、心底嫌そうに声を出す。
「嫌よ。絶対に嫌。」
先ほどまでの上機嫌はどこへいったのか、絶対零度の微笑みと地の底を這うような声が返って来た。
「そ、そう……。変なことを言ってしまってごめんなさい。でも、ローゼリア嬢のことをすごいと思ったのよ。」
「……わかっているわ。アンジェリカは単純おバカさんだってことは知っているもの。……私ね、王宮の魔導士が嫌いなのよ。昔、嫌なことがあって……。アンジェリカが悪いわけではないわ。王宮の魔導士って言葉に反応してしまったのよ。驚かせてごめんなさいね。」
「え、あ、うん。私の方こそ、ローゼリア嬢が王宮の魔導士を嫌っていることを知らなくてごめんなさい。今度から気を付けるわ。」
「そうね。そうしてちょうだい。じゃないと王宮の魔導士たちの住まいに火を放ってしまいそうだわ。」
「は、はは……。気をつけるわ。」
ローゼリア嬢の言葉は冗談には聞こえなかったので素直に頷いておいた。
過去にローゼリア嬢と王宮の魔導士の間で何があったのだろうか。
私たちは空の旅を楽しんだ。まっすぐに家に向かって飛べば早いけれども、私が空を飛ぶのを気に入ったと知ってローゼリア嬢はしばらく王都の街の上を私を喜ばせるように飛ぶようにしたようだ。
「ほら。街の灯りも上空から見るとキラキラとして綺麗でしょ?」
「ええ。下から見るのと上から見るのとでこんなにも違うのね。それに、ほら。手を伸ばせばお月様にも届きそうだわ。空を飛べるって素敵ね。」
ローゼリア嬢は先ほどのことを気にしているのか、明るく私に話しかけてくる。私もローゼリア嬢の気遣いを感じて素直に感想を告げた。空を飛ぶのが怖いと言って私にしがみついて、ぎゅっと目を瞑っているロザリーには悪いけど。私はしばらく空の旅を楽しむことにしたのだった。
まさか私が空の旅を楽しんでいたその時、私の屋敷でちょっとした騒ぎが発生していたということなんて私にはこれっぽっちも気づくことはなかった。
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