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第47話
しおりを挟むほどなくして、ローゼリア嬢が執務室へとやってきた。
「お呼びと聞きましたが。」
ローゼリア嬢が、ドアをノックすると、
「そのままそちらで待っていてください。」
と、ヒースクリフさんが返事をした。そうして、ヒースクリフさんは、侯爵と目配せをする。侯爵はゆっくりと頷くと、執務室のドアを開けた。
侯爵とローゼリア嬢の視線が絡み合う。
「うぅ……っ。」
侯爵はうめき声をあげて、首を横に振る。それから、ドアをガッと開け放ち、ローゼリア嬢に抱きついた。
「きゃっ……。」
「だ、旦那様っ!!」
慌ててヒースクリフさんが、ローゼリア嬢と侯爵を引き離しにかかる。
「あっ……うぅ……。」
侯爵の苦し気な声が聞こえる。精一杯、呪いにあらがおうとしているのだろうか。
「旦那様っ!アンジェリカお嬢様の前でございますっ!どうか、どうか正気を保ってくださいませっ!」
ヒースクリフさんが必死に侯爵を押さえつける。そうして、なんとかローゼリア嬢から侯爵を引き離すことに成功した。
ヒースクリフさんに押さえつけられた侯爵は、右手をローゼリア嬢に向かって伸ばす。左手でヒースクリフさんの拘束を解こうともがきながら、必死に右手でローゼリア嬢を捕まえようとする。
「ローゼリア嬢!早く逃げてちょうだいっ!!」
見ていられなくなって、床に尻餅をついているローゼリア嬢に声をかける。
「あ……あ、あ……。」
ローゼリア嬢も恐怖のためか言葉にならない声をあげ、侯爵から逃げようと後ずさりをするが、なかなか距離が縮まらない。どうやら恐怖で腰が抜けてしまったようだ。
「失礼しますわっ!」
私はローゼリア嬢の背後に回ると、そのままローゼリア嬢の両脇に手をつっこんだ。それからずりずりとローゼリア嬢を後ろに引っ張る。本当は抱き上げて運びたいが、悲しいかな私の力ではローゼリア嬢を引きずることしかできない。
ローゼリア嬢が来ているお仕着せが汚れてしまうが、そんなことには構ってはいられない。早く侯爵とローゼリア嬢を引き離さないとと賢明にローゼリア嬢を引きずる。そうして、執務室の近くの空室にとりあえずローゼリア嬢を避難させた。
「ふぅ……。」
私は額に浮かぶ汗を行儀悪く腕で拭う。それからローゼリア嬢を見たが、ローゼリア嬢は目を大きく見開いて荒い呼吸を繰り返していた。どうやら恐怖で過呼吸になってしまったようだ。
私は、ローゼリア嬢の背中を優しく撫でるようにさする。
「ローゼリア嬢。もう大丈夫だわ。侯爵はもう、ここにはいらっしゃらないわ。安心してちょうだい。」
「あ……。あ…‥。」
ローゼリア嬢は声にならない声を出しながら首を縦に振った。
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