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第42話

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「アンジェリカお嬢様。このような早朝に押しかけてしまい申し訳ございません。」

「構わないわ。なにかあったのかしら?」

 クリスのふくふくホッペを人差し指でツンツンしながら、ヒースクリフさんに答える。

「本当はもっと常識的な時間に訪問する予定でした。しかし、クリス様が、待ちきれなかったご様子で……。それでも、早朝にアンジェリカお嬢様の元に行くのは相手の迷惑となると言ったところ、それならキャティエル伯爵家の前でアンジェリカお嬢様が出てくるのを待つときかないものでして……。」

 ヒースクリフさんは申し訳なさそうに言った。

  そっか、クリスがそんなに私に会いたいと思っていてくれただなんて、なんて嬉しいことなのだろう。

  私は嬉しくなって、クリスに頬擦りをした。そして、そのままクリスの頬にちゅっとキスをする。

「にゃぁぁぁん。」

  すると、クリスが甘えたような声を出して、私にすり寄ってきた。どうやらクリスのお気に召したらしい。

  嬉しくなった私は何度もクリスの頬にキスをする。

「アンジェリカお嬢様……。そのくらいにしておいた方がよろしいかと……。でないと後で後悔をすることになるかと思います。」

「あら?なぜ?」

  ヒースクリフさんにクリスの頬へのキスを止められてしまった。私は不思議に思って問いかけるが、ヒースクリフさんはただ「止めた方がいい。それが、アンジェリカお嬢様のためです。」としか言わない。

「仕方ないわね。」

  あまりにもヒースクリフさんが反対するので、私はクリスをそっとソファーにおろした。

「にゃあ。」

  クリスは寂しそうに一声泣いてからヒースクリフさんを睨み付けるかのようにジッと見つめていた。

「アンジェリカお嬢様。お迎えに上がりました。侯爵家に参りましょうか。」

  ヒースクリフさんはクリスからの視線を無視するようにそう私に向かって言った。

「えっと。でも、今日はお約束はなにもしていなかったと思うのですが……。」

  迎えに来たとヒースクリフさんが言うので、意を決して聞いてみた。

「旦那様の呪いを解いてくださるのでしょう?そのことで、旦那様からお話があるそうです。」

「えっ!?」

  まさか、あの侯爵が私に話があるからヒースクリフさんが迎えに来たと言うの!?

  しかも、呪いの解呪のためだという。もしかして、侯爵は私に初恋の人のことを教えてくれるのだろうか。

「もしかして、侯爵様は私に初恋の方が誰か教えてくださるのかしら?」

  私は期待に満ち溢れた表情をしてヒースクリフさんに問いかける。

「ええ。そうです。旦那様がしっかりとアンジェリカお嬢様にお伝えするそうです。」

  ヒースクリフさんはそう言って、にっこりと微笑んだ。その笑顔には嘘くささは全く感じられなかった。

 

 

 

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