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第33話

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  ヒースクリフさんとクリスに見守られながら、朝食を食べ終えた私は、侯爵家の馬車に揺られていた。

「アンジェリカお嬢様。急がせてしまったようで申し訳ございません。」

  ヒースクリフさんはそう言って謝罪してきた。

「いいえ、いいのです。こうして早くクリスに会えたのですから。こちらこそ長時間お待たせしてしまいました。」

「そのようなことは。本来は9時過ぎにお伺いする予定だったのです。ですが、クリス様が……。」

「にゃっ!!」

  ヒースクリフさんが話だすと、私の膝の上で寝ていたクリスが抗議の声をあげる。

「はいはい。わかりましたよ。もう言いません。」

  クリスに怒られたらしい、ヒースクリフさんはやれやれといった表情を浮かべた。

「大丈夫ですよ。私は本当に気にしておりませんから。」

  少しだけ、ヒースクリフさんの気苦労が感じられ、思わず私はヒースクリフさんを慰めるような言葉を口にしていた。

  それに、膝に乗っているクリスの体温がとても気持ちがいいので迷惑だなんて思うわけもなかった。

「それにしても、クリス様はアンジェリカお嬢様に甘えすぎですね。あとで怒られても知りませんよ?」

「にゃー。」

  クリスは誰に怒られるというのだろうか。侯爵にだろうか。

  よくわからないヒースクリフさんとクリスの会話に私は首をかしげた。




☆☆☆



「着きましたね。アンジェリカお嬢様、お手をどうぞ。」

  しばらくして馬車は侯爵家へとたどり着いた。

  ヒースクリフさんが先に馬車から降り、私が馬車から降りるのを助けるように右手を差し出してきた。

「ありがとうございます。」

  私はヒースクリフさんの手を借りて馬車から降りた。

  すると、クリスが足元でヒースクリフさんに対して「フーーーーッ!」と威嚇をしていた。

「まあ、どうしたのクリス?ヒースクリフさんがどうしたの?」

「きっとクリスは私に嫉妬をしているのですよ。アンジェリカお嬢様の手に、私が触れてしまいましたから。」

  ヒースクリフさんはそう言って首をすくめた。

「まあ!クリスったら。これはヒースクリフさんが私が馬車から降りやすいように手を貸してくれただけなのよ。私はヒースクリフさんのことなんてなんとも思っていないわ。私はクリスのことが世界で一番大好きよ。だから、安心してちょうだい。」

「アンジェリカお嬢様。それではヒースクリフ様がかわいそうでございます。なんとも思っていないなどと言わないであげてください。」

「あら、ごめんなさい。そんなつもりは……。」

  ロザリーに言われて私は自分の失態に気づく。クリスを優先するがために、ヒースクリフさんへの気遣いが皆無になってしまった。そして、ヒースクリフさんのことを傷つけるような発言をしてしまった。

「いえ。大丈夫です。わかっておりますから。」

  ヒースクリフさんに謝罪すると、ヒースクリフさんはなんでもないように、首を横に振った。

「それよりも参りましょうか。」

「あ、はい。」

  ヒースクリフさんに促されて侯爵家の中へと足を踏み入れた。

  さて、侯爵の初恋の人の情報は集めなくては。

  私は気合いをいれなおして前を向いた。
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