上 下
19 / 92

第19話

しおりを挟む

「はぁ。まさか侯爵様の呪いを解く方法が好きな人とキスをすることだなんて。どうしてそれで私が選ばれたのかしら?」

  昨夜ヒースクリフさんと話した内容が頭の中によみがえる。

  それは、侯爵の呪いに関すること。その呪いの解呪方法が侯爵が好きな相手にキスをすればいいと言うものだった。そんなもの、侯爵という地位を利用すればすぐに解呪することができるだろう。

  それなのに、侯爵は未だに呪いを解呪できずにいる。

「ヘタレなのかしら?それとも、お相手の方が遠くにいるとか?既に他の方に嫁いでしまっているとか?」

  もし、他の人に嫁いでいたとしても、社交界は爛れた噂で持ちきりなのだ。解呪するためのキスくらいなんてことないだろう。

  そうも言っていられないのは侯爵の呪いの内容のせいだろうか。

「まさか、呪いのせいで女性の姿を見たら誰かれ構わず襲いかかってしまうだなんて……。」

  もしかしてこの呪いのせいでお相手の方が怖がってしまって、侯爵に近寄れなくなってしまったのだろうか。

  もし、そうだとするならば侯爵がちょっとだけ可哀想だ。

「アンジェリカ様。侯爵様の呪いを本当に解くお手伝いをなさるのですか?」

  自室のソファに座って侯爵の呪いの解呪方法に思いを馳せていると、ロザリーが紅茶を注ぎながら話しかけてきた。

  ロザリーの顔色はすぐれない。ロザリーは侯爵の呪いを解くことをあまりよく思っていないようだ。

「ええ。そうよ。それによっては、もしかしたら侯爵様と結婚しなくてすむかもしれないもの。国王陛下が言ったそうなのよ。侯爵様の呪いを解くために私と侯爵様を婚約させた、と。それならば、侯爵様の呪いが解ければ私が侯爵様と結婚しなくてすむと思わない?」

「でも、国王陛下が呪いが解ければ侯爵様と結婚しなくてもいいとおっしゃったわけではないのですよね?」

「そ、それはそうだけど……。で、でも、交渉してみる価値はあると思わない?」

「アンジェリカ様は侯爵様とご結婚なさりたくないのですか?」

  ロザリーが遠慮がちに訪ねてくる。私はその問いに勢いよく頷いた。

「ええ。もちろん。侯爵様は他に好きな方がおいでなのよ。そんな方と結婚するのはさけたいわ。それに、昨日少しお話したけど、私を全身で拒絶しているのを感じたわ。私を全身で拒絶しているような人とは結婚できないわ。」

「ですが、国王陛下のご命令に背くわけには……。」

「そうよ。だから、侯爵の呪いを解呪するのよ。」

  ロザリーはどこか浮かない顔だ。まあ、確かに国王陛下とも侯爵とも約束を取り付けたわけじゃないしね。

  もしかすると、侯爵の呪いを解呪できたとしても結婚はまぬがれないかもしれない。

  それでもなにもしないよりもマシだと思う。

「はぁ。アンジェリカお嬢様はかわいいですね。私もアンジェリカお嬢様のお手伝いをさせていただきます。侯爵の初恋の相手を探すのであれば、ヒースクリフ様に直接お相手の方をうかがえばよろしいのではないでしょうか?」

  ロザリーは私の気が変わらないことを察して手伝いを申し出てきた。

  ロザリーは以外と私のわがままに弱いことを知っている。だから、押し通せると思ったのだ。

「ありがとう。ロザリーよろしくね。でもね、ヒースクリフさんはお相手の情報はいっさい教えてくださらなかったの。お相手の情報は侯爵様に訪ねてくださいのいってんばりで。」

「それは、訳ありなのでしょうか?」

「わからないわ。でも、あの侯爵様にどうやって初恋の相手を聞けばいいのかしら。直接聞いても断られそうだし……。」

  ロザリーと私は侯爵様の初恋の相手の情報を誰からどうやって入手すべきか考えはじめた。

  一番は侯爵に尋ねるのが早いとは思うんだけどね。

「にゃぁ~ん。」

 考え込んでいるといつの間に部屋の中まで入ってきたのか、膝の上にクリスがのって来て、私の顔をぎこちなく覗きこんでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...