にゃんこによる、にゃんこの為の、にゃんこ講座

３３

「………マオ。マオ。」

誰かが僕を呼ぶ声がする。

僕はゆっくりと目を開けた。

そこには、車に引かれて怪我をしたという靴下さんがいた。

見た目はとても元気そうで、とても怪我をしているように思えない。

「靴下さん。無事だったんだね。よかった。」

「うん。僕は無事だよ。でもね、もうマオにもモモにも会えそうにないんだ。」

「え？何を言っているの？無事だったんでしょ？これからも会えるでしょ？」

靴下さんはもう会えないと言う。

どうして？

靴下さんは、無事だったのに。こんなに元気そうなのに。

靴下さんは、少しだけ悲しそうに下を向いた。

「僕に家族ができたんだ。」

「よかったじゃない！」

家族ができたと、靴下さんははにかんだように告げた。

でも、その顔はどこか寂しそうだった。

「うん。僕を助けてくれた人がね。僕を家族に迎えてくれたんだ。」

「そう。よかった。」

本当によかった。

靴下さんを助けてくれたのは、とても優しそうな看護師さんだったはず。

きっと一生靴下さんのことを大切な家族として扱ってくれるだろう。

「でもね。僕は家から出られないんだ。マオともモモとも違う。僕はもう外には出られない。」

外には出られない？

そう言えば、外の世界は危ないことだらけだからと、ペットの完全室内飼育が推奨されているんだっけ。

外の世界は怖いものばかりだから、家の中なら安心。

でも、外を知っている僕らは外に出れないことがストレスとなる。

「………でも家の中なら安全だよ。車は来ないし、僕らに害意がある人間も他の動物もこないよ。」

「わかってるんだけどね。今まで自由だったから………。」

外は夏は暑いし、冬は寒い。

でも家の中なら夏も冬も快適に過ごせる。

完全室内飼育されている猫の寿命は２０年ほど、でも野良猫は平均4年の命だという。

僕はもうすぐ、死ぬ。

野良猫の平均寿命にも届かないうちに、死ぬ。

僕はもっといきたかった。

もっと長く生きて、ずっとユウの傍にいたかった。

「きっと家の中でも楽しいことみつかるよ。生きていてよかったってこと見つかるから。」

「うん………。ありがとう。」

靴下さんは、納得しきれていないみたいだけど、頷いてくれた。

そして、そのまま靴下さんの姿が僕の目の前から消えていった。

「靴下さんっ！？」

「マオ？どうしたの？大丈夫？」

ユウの声が聴こえてきて、僕は目を開けた。

ああ、そうか。

僕はあのまま寝てしまって靴下さんの夢を見ていたのか。

元気な靴下さんの姿は夢だったみたいだ。

「ユウ………。」

元気な靴下さんに会いたいよ。