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しおりを挟む「闇魔法」、光魔法と同じく使い手がほとんどいない。光魔法の適性を持っている者と同じく、闇魔法の適性を持っている者はとても貴重な存在である。
とても貴重な存在である。
国が把握し、側に置いておきたいと思う存在である。
ただ、光魔法は聖なるイメージが強いが闇魔法は負のイメージが強くもたれているのも事実だ。
「……リリーナ。無事だったのね、リリーナ。あなたが無事で私は嬉しいわ。」
私が使った闇魔法の魔力で蘇ったシスターエーステは何事もなかったかのように微笑んだ。
シスターエーステは自分が一度死んだということを理解していないのだろうか。
「シスターエーステ……わたしは……。」
なんて言ったらいいのかわからず言葉に詰まり私は俯いた。
一度死んだ人を蘇らせる魔法は光魔法ではない。光魔法ではそのような禁忌は起こせない。
闇魔法だけが禁忌をおかすことができる。
「……闇魔法の使い手だったんですね。だから狙われていたのですね。あなたは早急に国が守る必要があります。」
衛兵は私を見てどこか引きつった笑みを浮かべながら手を差し出してきた。
この手をとったらもう二度と孤児院には戻れない。
この手をとったら私という存在は国に管理されてしまうであろうことが理解できた。
闇魔法の使い手は光魔法の使い手と同じく希少価値があるから。
ただ、光魔法の使い手はある程度放置していても、国にとって有害となることはない。でも、闇魔法の使い手は使い方次第で国にとって有害となることがある。
だから、国が管理したいと考えるのも道理だ。
「……わたしは……。どうして……?」
頭の中が混乱している。
なんで、光魔法ではなくて闇魔法を使えるようになってしまったのだろうと。
闇魔法は、悪役令嬢であるマチルダ・メメラーニャ侯爵令嬢の使う魔法だったはずだ。
マチルダ・メメラーニャは闇魔法を使って、光魔法の使い手であるリリーナ・オルトフェンを殺害しようとした。そのことにより王城に幽閉され、のちに処刑されたのだ。
「混乱しているところ大変申し訳ございません。あなたの存在は国にとってとても大切な存在です。私たちと一緒に来ていただきたい。悪いようにはしません。」
衛兵はそう言うと私の手を掴み立ち上がらせる。
私はシスターエーステに助けを求めるように手を伸ばす。
「……シスターエーステ。」
「リリーナ。あなたが無事でよかったわ。……よかったわ。」
シスターエーステは涙を流しながら優しく微笑んだ。
でも、衛兵から私を守ろうとはしてくれなかった。
「シスターエーステ……わたしは……わたしは……。」
「大丈夫よ。リリーナ。あなたのことは国がちゃんとに保護してくれるわ。安心していいのよ。」
シスターエーステは私を包み込むように抱きしめると優しく諭すのであった。
「シスターエーステ……お願い、わたしの側にいて……。」
「ええ。ええ。わかったわ。可愛いリリーナ。」
しばらくして私は、メメラニア王立学園の寮に入ることが決まった。
乙女ゲームと同じように。
違うのは私が光魔法の使い手ではなく、悪役令嬢マチルダと同じ闇魔法の使い手だということ。
☆☆☆☆☆
「リリーナ。そろそろ起きてください。遅刻してしまいますよ。」
リリーナ・オルトフェンは15歳の誕生日を迎えた。今日から、メメラニア王立学園の高等科に通うことになる。
中小科では、リリーナ・オルトフェンという存在はとても浮いていた。
貴族ばかりのメメラニア王立学園に孤児が通っていること自体が浮いていたが、それに付属して闇魔法の使い手であるということもリリーナ・オルトフェンという存在を浮いた存在とさせていた。
これが乙女ゲームと同じく光魔法の使い手だったらもう少し他の生徒となじめたのではないかと思う。実際に、乙女ゲームのリリーナ・オルトフェンは王立学園の生徒たちとの仲は良好のように思えた。
乙女ゲームのリリーナ・オルトフェンにはマリナ・ウェーイという親友という立ち位置のサポートキャラが用意されていたし。
でも、現実のリリーナ・オルトフェンには親友と呼べるような存在はいない。
乙女ゲームと同じ名前で同じ容姿のマリナ・ウェーイという人物は中小科にいたが、私とは距離を置いていた。
私が闇魔法の使い手だからだろう。
「シスターエーステ。あと5分だけ……。」
「ダメですよ。リリーナ、今日から高等科に通うのでしょう?初日から遅刻はいただけません。」
シスターエーステは孤児院を捨て私と一緒にメメラニア王立学園に来た。シスターエーステの役割は私の監視とメメラニア王立学園の寮での私の世話をすることだ。
「……そうね。ただでさえ悪目立ちしているものね。」
今日は外部進学生である王子と出会う日なのだ。そして悪役令嬢であるマチルダから敵意をもたれる日でもある。
「リリーナの闇魔法はとてもすばらしいものです。卑下することはありません。陛下もおっしゃっておりましたではないですか。闇魔法は光魔法と同じく貴重だと。国のために役立ててほしいと。」
「……そうね。」
「リリーナはとても素晴らしいのですわ。だから自信をもっと持ってください。」
「ええ……。」
光魔法持ちのヒロインだったら自信を持てただろう。
でも、私は闇魔法持ちのヒロインなのだ。
悪役令嬢であるマチルダに敵意をもたれたら立ち向かうことが出来ないかもしれない。そんな不安がどうしても頭をよぎる。
「行ってきます……。」
「はい。いってらっしゃい。リリーナの一日が幸せでありますように。」
シスターエーステに見送られて寮の部屋から出る。
今日はこの後、遅刻しそうになったところで王子とぶつかるのだ。それがヒロインであるリリーナと王子の出会い。
……あれ?そう言えば王子の名前ってなんだったっけ?
おかしいな。王子ルートを攻略中だったはずなのに、王子の名前をうっかりと忘れてしまった。
「きゃっ!?」
「あっ……すみませんっ!?」
ボーッと考え事をしながら歩いていたら誰かにぶつかってしまったようだ。
声からすると女性だろうか。
私とぶつかった拍子に尻餅をついてしまった女性を助け起こそうと手を差し伸べる。そして私の表情は固まった。
私がぶつかった相手が王子ではなくて、マチルダ・メメラーニャ侯爵令嬢だったからだ。
「どうしてっ!?」という疑問で頭の中がいっぱいになった。
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