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第71話
しおりを挟むマリアが眠ってからきっかり二時間後、ヒューレッドは大きく伸びをした。
「できたっ!」
転移の魔法式が完成したのだ。
ヒューレッドは久々に構築した魔法式に興奮を覚えた。
「やっぱり、魔法式を考えるのは楽しいな。」
ヒューレッドは楽しそうに笑みを浮かべる。それから、まだ眠っているマリアとフワフワに声をかけた。
「マリアさん。フワフワ。転移の魔法式ができあがりました。さあ、イーストシティ共和国へ行きましょう。今すぐにでも魔法式を展開したいです。さあ、起きてください。」
ヒューレッドは魔法式を構築したことでテンションがハイになっている。
「んー。あんたなんかいつもと違うわね。悪い物でも食べたの?」
マリアは眠い目をこすりながら、いつもと違うテンションのヒューレッドを不審気に見つめた。
「んー。ヒューが壊れたのぉー。」
フワフワも眠い目をこすりながら、初めて見るハイテンションのヒューレッドを驚いたように見つめる。
マリアもフワフワもハイテンションな状態のヒューレッドを初めて見たのだ。いつもはどちらかというと、ヒューレッドのテンションは低かったのでなおさらだ。
「ふっふっふっ。なんと!イーストシティ共和国へ転移する魔法式が完成したんだよ!さあ、早速出発しようではないか!!」
テンションの高いままヒューレッドは高らかに宣言した。
「……そんなに大きい声だしたら、マリルリの崇拝者に気づかれて報告されるわよ。あちこちにマリルリの目となり耳となる人はいるんだから。」
「フワフワはまだ眠いのー。ヒュー抱っこするのー。」
マリアはため息をついた。
フワフワはまだ眠っていたいらしく目をゆっくりと閉じながらヒューレッドに向かって手を伸ばした。移動するならヒューレッドに抱っこされて移動したいらしい。まあ、眠いから自分では動きたくないというのもあるのかもしれないけれど。
「……フワフワは可愛いな。」
「フワフワちゃんだったら私が抱っこしていくわよ。軽いし、触ってると癒されるもの。」
ヒューレッドはフワフワの仕草にデレッと目尻を下げる。マリアはそんなヒューレッドが面白くないように感じて、フワフワは自分が抱っこして運ぶと宣言した。
「んー?でも、転移する時はオレが触ってないと駄目だから、転移するときはフワフワはオレに預けてくれる?」
「え?あんんたに触んないと転移できないの?」
「そうなんだ。そうじゃないと範囲指定する魔法式を埋め込まなければいけなくなるんだけど、これが難しい。半径何メートルまでとか、そこまで指定しないといけないんだ。だから、余計なものまで一緒に転移させてしまう可能性がある。それなら、僕が触れているモノと指定すれば余計なものまで転移することはなくなるんだ。ああ、でもこれがまた難しくて、僕が触れているものってすると地面があるだろう?そうなると地面まで一緒に転移することになってしまうんだけど、地面ってどこまでだって区別が難しいだろう?だから、地面に関しても魔法式に組み込まないと転移の魔法は失敗するんだ。一つ一つ条件を細かく設定していかないといけないから魔法式の構築って大変なんだよ。」
ヒューレッドは転移の魔法式についてマリアに説明する。しかし、マリアにとっては新しい魔法式の構築は興味がないので「ふーん。」と受け流すだけだった。
「さ、夜が明ける前にさっさと行きましょう。」
マリアはまだ魔法式の素晴らしさと構築の仕方について一人でレクチャーをしているヒューレッドに向かって声をかけた。このままだと夜が明けてもずっと魔法式について語っているのではないかと危惧したのだ。
……ヒューレッドの魔法式の講義が退屈過ぎて寝そうだと言うのはマリアだけの秘密だ。
「むっ。そうだったね。久々に魔法式を構築して気分が高まってしまっていたよ。さあ、イーストシティ共和国に行こうか。あー、フワフワ。フワフワの魔力を貸して欲しいんだ。もうちょっとだけ寝ないでいてくれるかな?」
「んー。眠いのー。あと5分だけなら待つのー。」
フワフワは眠そうに瞼を閉じながら答える。
「えっ!?5分!?時間がないじゃないかっ!?えいっ!もうここで魔法式を展開しても、フワフワの魔力を借りればイーストシティ共和国まで転移できるだろう。うん。大丈夫だろう。フワフワ、ちょっと魔力を借りるよ。」
「わかったのー。」
「えっ!?ここから転移するの!?」
戸惑うマリアを尻目に、ヒューレッドはフワフワから膨大な魔力を借りる。その魔力を練り上げてヒューレッドの魔力と絡ませ合う。一時的にヒューレッドの魔力量は倍となる。
ただ、ヒューレッドの器に収まる魔力量はそのままなので、このままだと魔力が溢れてしまう。溢れないように魔力をコントロールしながら、転移の魔法式に魔力を流し込んでいく。
「すごいわっ……。」
マリアは緻密な魔力の流れを感じて思わずため息をついた。
まさか、ヒューレッドがここまで繊細に魔力を扱うことができるとは思ってもみなかったのだ。
一から魔法式を構築できることといい、緻密な魔力操作ができることといい、今日一日でマリアはヒューレッドを見直したのだ。同時にマリアはヒューレッドのことが頼もしく思えてきた。
「マリアさん、手を……。フワフワを僕にください。」
「ええ。わかったわ。」
マリアはヒューレッドに言われるがまま、ヒューレッドにフワフワを渡し、自分もヒューレッドの手を握る。
その瞬間、ヒューレッドとマリアとフワフワを眩いばかりの光が包み込んだ。
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