53 / 72
第53話
しおりを挟むヒューレッドが居た場所を矢が射貫いた。あと数秒しゃがむのが遅ければ、ヒューレッドの心臓は矢に居られていたことだろう。
地面に突き刺さった矢を見て、ヒューレッドは言葉をなくす。
「フワフワちゃんが居てくれてよかったわね。じゃないと、あんた死んでたわよ。」
「感謝するのー。むふーっ。」
マリアは安堵したように呟くと、矢が飛んできた方に視線を移した。フワフワは、誇らしげに胸を張っている。
ヒューレッドもマリアから遅れて矢が飛んできた方角に視線を移した。だが、矢が飛んできた方向には怪しげな人影も気配もなかった。
「……バレた、のか?」
もしかして、聖女マリルリにここにいることがバレたのだろうかと、ヒューレッドは不安になった。あの矢はまっすぐにヒューレッドを狙っていた。マリアではなくヒューレッドを狙っていたのだ。
「わからないわ。ただの偶然なのか、それともマリルリの手の者なのか。どちらにしろ殺気も気配も感じなかったわ。相当なやり手か、それとも……。」
「オレたちの警戒心がなかったってことか。」
「そうよ。……って違うっ!!あんたはどうか知らないけど、少なくとも!少なくとも!!私は警戒を怠ったりしていなかったわよっ!!」
ヒューレッドには自分が魔法を使わなければ聖女マリルリに居場所を悟られることがなく、どこにいても安全だと思っていて油断していたという自覚があった。王宮魔術師として仕事をする時は常に後衛だったため警戒をするということが経験上少なかったこともある。
それに、ヒューレッドは魔法の使い手だ。
危機に陥っても魔法でなんとかできてしまうくらいには、腕に自信があった。そのため、周囲への警戒がおろそかになることが多いのだ。
だが、マリアは違う。マリアはヒューレッドと話している時も常に周囲に警戒をしていた。マリルリの手の者はどこにでもいるのだ。
ヒューレッドかどうかなんて関係ない。マリルリの手の者はマリルリに逆らうものには容赦しない。そう仕込まれている。ゆえに、マリアはずっと周囲を警戒していたのだ。ヒューレッドとの会話だって、防音魔法を使用して周囲に声が聞こえないように配慮していたのだ。
「にゃぁぁぁあああああ~~~~!!ヒュー逃げるっ!!逃げるのぉ!!」
マリアとヒューレッドが周囲を見回していると、フワフワが危険を感じて叫ぶ。
「えっ!?ふわふわっ!?」
「こっち!!こっちなのっ!!はやくなのーーっ!!」
「えっ!?ちょっと!?なにっ!!?」
マリアは周囲を警戒している。先ほどヒューレッドに向かって矢が放たれた時から警戒を強めたのだ。それなのに、マリアはなにも感じることができなかった。だが、フワフワはなにかを感じたのかヒューレッドの危機をうったえている。
自分の警戒網に相手が引っかからなかったということに驚きながらも、マリアはフワフワに従い移動するとヒューレッドもそれに続いた。
ドドーーーーーンッ!!
ヒューレッドとマリアが移動した直後、その場に大きな衝撃が走った。誰かが魔法で火の玉を放ったのだ。
「ファイアーボールッ!?まさかっ!街中でっ!!」
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜
蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。
レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい……
精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~
芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。
案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが
思うのはただ一つ
「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」
そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。
エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず
攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。
そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。
自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する
これは異世界におけるスローライフが出来る?
希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。
だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証?
もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ!
※場所が正道院で女性中心のお話です
※小説家になろう! カクヨムにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる