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第42話
しおりを挟むこの世界には魔法があふれている。小さい子からお年寄りまで誰でも魔法を使うことができる。だが、それはごくごく簡単な魔法のみ。種火を起こすとか一日にコップ一杯分の水を三杯分だけだせるのが精一杯だ。
それ以上の魔法が使えるというのはごくごく一部の限られた人間だけ。
それに、ヒューレッドが金貨を仕舞っていた財布には空間魔法が仕掛けられていた。空間を操る魔法を仕掛けることができるのは更に限られており、この国でも3人しかいない。そして、その3人も貴重な魔法が使えるということもあり国で囲っている。そのため市井で生活はせず、王宮内に部屋を借りて住んでいる。
「えっと……もらったんだよ。うん。もらったんだ。」
「こんな高価なものを?誰から?」
ヒューレッドの財布を盗んだ女性が、ジト目でヒューレッドを見つめる。
「えっと……作成者?」
ヒューレッドは冷や汗を流しながらそっと視線を女性から反らせる。
「嘘ね。あんた本当にわかりやすいわよねぇ-。」
「う、嘘じゃないって……。」
ヒューレッドは慌てて首を横に振る。だが、女性はヒューレッドの言葉を信じようとはしなかった。
「空間魔法の使い手はこの国に3人しかいないのは誰だって知っているわ。その三人が国に守られており住んでるところも王宮内。外に出るときも護衛付き。なら、あなたはどこで空間魔法を使える人に出会ったのかしら?貴族でもそれなりに高位の貴族じゃないと知り合う機会なんてないと思うんだけど?」
「あ、あはは……。」
その王宮に部屋を借りていた宮廷魔術師です。だなんてヒューレッドには口が裂けても言えなかった。そんな特徴的な職業を言ってしまえば目立つ。そして、確実にヒューレッドがメンスフィールドに居るという噂が聖女マリルリにも届いてしまうだろう。
「ふぅん。訳ありってわけね?ねえ、私マリアって言うの。」
「え、あ、オレはヒューレッド……。」
女性は急に名前を名乗り始めた。ヒューレッドは女性が名乗ったのを聞いて、ついつい自分も名乗ってしまう。
「律儀ね。聖女マリルリから逃げているんでしょう?本名なんて名乗ってしまっていいのかしら?」
呆れたようにマリアはため息をついた。
「うっ。な、なんでそれを……。」
「あんたが作ったんでしょう?そのお財布。あんたの態度からバレバレなのよ。そんな貴重な空間魔法の使い手を聖女マリルリが逃がすはずがないわ。絶対に王宮に囲っておくはずよ。それなのに、あんたは何故かここにいる。そこから導き出される答えは二つしかないわ。一つは、聖女マリルリの命令を受けて一人で行動している。でも、これはあり得ないわね。空間魔法の使い手を聖女マリルリが簡単に王宮から出すとは思えないわ。もう一つは、聖女マリルリからの洗脳が解かれて、マリルリのことが怖くなって逃げてきたってことかしら?」
「ううっ……。」
マリアの言うことは当たっている。そんなに自分はわかりやすい態度を取っていたのかとガックリとうなだれる。
「それで?あんた一文無しでこれからどうするつもりだったの?聖女マリルリに追われているんでしょうに、こんなところで暢気にフラフラ歩いていて。」
「いや……偶然にも今日泊めてくれるって人がみつかって……その人との合流時間まで適当に時間を潰しているっているか……。」
「ふぅん。その人、信じられる人なの?今日会ったばかりの人じゃないの?」
「いや……あの……。」
「あ、そう。押し切られたのね。あんた押しに弱そうだもんね。」
「うぅ……。」
どうやらマリアはなんでもお見通しのようである。ヒューレッドは何も言わずに俯いた。
こんなんで聖女マリルリから逃げられるのか……と。
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