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第35話

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 バンッ!!

「……はあ。……はあ。……はあ。」

「……んぐっ。げほっ。ゴホッゴホッ。」

 フワフワに与えるために、ヒューレッドが干し肉を咀嚼してフワフワでも食べられるように柔らかくしていると、唐突に小部屋のドアが勢いよく開いた。

 大柄で髭もじゃな男の人が息を切らせてヒューレッドの方に近づいてくる。

 ヒューレッドはドアが勢いよく開いた音にびっくりして、干し肉をゴクンッと飲み込んでしまった。衝撃に咽るヒューレッド。フワフワはご飯がなかなかもらえないことで徐々に元気をなくしていく。

「にゃーーーー。(お腹空いたのぉ~。)」

「……はあ。……はあ。ま、待たせたなっ!」

 急いで戻ってきたと思われる職員の男性は荒い息をなんとか整えてフワフワに向かって手に持った小さな茶色い壺を突き出した。もちろん男性職員の視線はフワフワにだけ向けられているので、ヒューレッドが干し肉を喉に詰まらせて咳き込んでいることになど気が付くことはない。

「にゃぁ?(なに、それー?)」

 フワフワは小さな茶色い壺を興味津々に見つめている。壺はしっかりと蓋をされていて、鼻のいいフワフワでも中に何が入っているかは検討がつかなかった。

「ふっふっふっ。気になるだろう?この中身は可愛い君へのプレゼントだよ。」

 職員の男性はにっこり笑いながら小さな壺の封を丁寧に開ける。

「みゃあっ!(うわぁ!!美味しそうな匂いなの~。)」

 壺の封を少し外しただけで、芳醇な匂いがフワフワの鼻に届いた。

「美味しそうだろ~。これは新鮮な山羊のミルクで新鮮な鶏の肉を柔らかくなるまで煮溶かしたものなんだ。子供の離乳食にも使ってるものなんだが、調味料はいっさい入っていないからな。可愛い君みたいな子猫にも安心安全に食べることができるぞ。」

 職員の男性はうんうんと満足そうに頷きながら、壺の中身を皿に注ぐ。そして、フワフワの目の前に皿を置いた。

「にゃにゃにゃ!!(食べていいの~?食べちゃうよ~?」

 フワフワはそう言うが早いか、ヒューレッドの返事を待たずに職員の男性が用意した離乳食に顔を突っ込んだ。

「にゃーにゃにゃにゃ!!(美味しいの~!こんな美味しいの初めてなの~!)」

 フワフワは嬉しそうに鳴いてから、さらに離乳食を食べ進めていく。見ている方が気持ちが良くなるほどの勢いだ。

「いい食べっぷりだな。娘の離乳食を持ってきた甲斐があったよ。こんな嬉しそうな子猫の顔を見れるんだったら妻に怒られるのなんかちっとも怖くないな。うんうん。」

 ヒューレッドは男性職員の言葉を聞いて、ごくりと生唾を飲み込んだ。

(……これは、一波乱起きそうな気がする。)

 

 

 

 

 


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