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第12話

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「あ、すまない。驚かせてしまって。オレはヒューレッドという。宮廷魔術師をしていたのだが……。」

 ヒューレッドは少女を驚かせたことを謝罪する。

「いえ。良いのです。私が気がつかなかったことがいけないのです。」

 少女も必要以上に驚いてしまったことをヒューレッドに謝罪した。そのとき、ヒューレッドは気がついた。こちらを見ている少女と視線が微妙に合わないことに。
 だが、そのことをヒューレッドは口には出さなかった。

「それで、ヒューレッド様は、どうしてこちらへ?」

「ああ、そこにいる猫の魔獣に後をついてくるように言われたような気がして後をついてきたんだ。」

「まあ、そうでしたか。クロがヒューレッド様を。クロ?」

 少女はにっこりと微笑んでから、顔をクロに向けた。そんな少女の姿をヒューレッドは見ていたが、やはりクロの方を向いている少女はクロとは視線が合っていないように見えた。

「にゃ、にゃあ。」

 少女に問いかけられたクロは、慌てたように鳴いた。少女はクロがなにを言っているのかわかるのか、クロの視線に合わせるようにしゃがみこむとクロに向かって、細く真っ白な手を伸ばす。

「みゃっ!」

 少女は白い指でクロの額をはじいた。クロはその衝撃からか頭を後ろにのけぞらせた。

「あー。すまない。クロを攻めないでくれ。オレが勝手に解釈してついてきただけだから。」

 ヒューレッドは自分がクロの後をつけてきたから、クロが怒られているのだと思い素直に謝罪した。

「よいのです。クロは猫の魔獣です。その気になれば人一人くらい簡単にまくことができます。」

 クロは猫の魔獣だ。すばしっこくて、隠れるのが得意な猫の魔獣だ。その気になれば、ヒューレッドなど簡単にまくことができただろう。人間と違って、しなやかな身体を持ちその身体の何倍もの跳躍をするのだ。木に登っることもできるし、屋根の上を走ることも可能だろう。人間の頭ほどしかない穴だって通ることができる。そんな猫の魔獣の後をヒューレッドがついていくことなど、本来は無理なのだ。

「それに、クロはお節介を焼いただけのようです。私は一人でも大丈夫なのに……。」

 少女はそう言って寂し気に微笑んだ。

「普段はお客様なんてこないから何もおもてなしできませんが、せっかくクロが連れてきてくれたのです。よろしければお茶を飲んでいきませんか?」

 少女は寂し気に微笑んだ後に、ヒューレッドに中に入るようにと促した。

「しかし……。ここには君だけしか住んでいないのか?そんな家に見ず知らずの男を上げるものではないよ。」

 ヒューレッドは家から人の気配がしないことに気づいて少女がここに一人で暮らしているのではないかと思った。少女が一人暮らししている家に見ず知らずの男を簡単に入れることはあまり良いとは言えない。ヒューレッドは少女にそう説明した。

「そのようなこと気にしなくても大丈夫です。少しお話したいこともありますし。」

 少女はそう言って少し強引にヒューレッドを家の中に案内した。その後ろをクロがとてとてとついていく。少女とヒューレッドに続いてクロが家の中に入っていくと自動ドアでもないのに家のドアがひとりでに閉まった。ドアが閉まったかと思うとドアのあった場所が徐々にぼやけていき、やがてドアは跡形もなくなったのだった。


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